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高圧ガス甲種化学のガス各論②|ハロゲン・特殊材料ガス25種と本番で効く横断整理

前の記事では水素からSF₆までの24ガスを整理しました。今回は残りの25ガス(ハロゲン・ハロゲン化合物系11、特殊材料ガス系14)と、本番でいちばん効く「横断整理」です。

  • ハロゲン系の要は塩素の3点セット(乾燥塩素×鋼/湿潤塩素×チタン/乾燥塩素×チタン)
  • 特殊材料ガスは「自然発火性・加水分解性・猛毒性」の3属性で仕分ける
  • 失点するのは「知らないガス」ではなく「似ているガス」。横断整理で先に潰す
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ハロゲン系 ── 塩素は乾湿で材料の○×が入れ替わる

塩素の材料は乾湿で○×が入れ替わる:乾燥塩素は常温なら鋼が使えるがチタンは発火燃焼し、湿潤塩素は鋼を激しく腐食するがチタンには耐食性がある

乾燥塩素×鋼=OK/湿潤塩素×チタン=OK/乾燥塩素×チタン=発火厳禁。 最頻出の材料問題です。乾燥剤が濃硫酸である点も問われます。

塩素(Cl₂)|毒性・支燃性

  • 黄緑色・激しい刺激臭。水素と等体積混合した「塩素爆鳴気」は日光・紫外線で爆発的に反応
  • 湿潤塩素はチタンを除くほぼ全金属を激しく腐食。完全乾燥塩素は常温で鉄を腐食せず鋼製設備が使用可能。チタンは乾燥塩素と急激に反応して発火燃焼(四塩化チタン生成)
  • 製法:食塩水の電気分解(イオン交換膜法。陽イオン交換膜はペルフルオロスルホン酸樹脂等)。陽極で塩素、陰極で水酸化ナトリウムと水素
    NaCl + H₂O → NaOH + 1/2Cl₂ + 1/2H₂
  • 湿潤塩素ガスは濃硫酸との向流接触で脱水乾燥し、圧縮液化する
  • 用途:ポリ塩化ビニル、ポリウレタン等の原料、チタン製錬、水道水殺菌

塩化水素(HCl)・ホスゲン(COCl₂)|不燃性

  • 塩化水素:それ自体は不燃だが、水分共存下で金属を侵し可燃性の水素ガスを発生(Fe + 2HCl → FeCl₂ + H₂)。製法は①合成塩酸(不浸透黒鉛製燃焼炉で水素と塩素を直接燃焼)②副生塩酸(塩ビ等の製造の副生物から回収。国内主流)
  • ホスゲン:青草臭(刈り草のにおい)。許容濃度0.1ppmの窒息性ガス。可燃性でも支燃性でもない
  • ホスゲンは完全乾燥状態では炭素鋼を腐食しないが、水分があると加水分解して激しく腐食(COCl₂ + H₂O → CO₂ + 2HCl)
  • ホスゲンの製法:活性炭触媒の多管式反応器、50〜150℃でCOと塩素を直接化合(CO + Cl₂ → COCl₂)。用途はTDI等のジイソシアナート合成(→ポリウレタン)

ホスゲンの除害はアルカリ吸収です(保安管理技術の防災設備)。

塩化メチル(CH₃Cl)・塩化エチル(C₂H₅Cl)|可燃性

  • 塩化メチル:塩素化パラフィン中で熱的に最も安定(乾燥・無空気なら400℃でも分解しない)。シリコーン樹脂の直接合成原料で、Cu触媒、250〜350℃で金属Siと反応(2CH₃Cl + Si → (CH₃)₂SiCl₂)
  • 塩化エチル:400℃以上(触媒下では300℃程度)でエチレンと塩化水素に熱分解

塩化ビニル(CH₂=CHCl)|オキシ塩素化法(バランスプロセス)

熱・光・ラジカルで容易に発熱重合するので、重合防止剤を添加し不活性雰囲気で貯蔵します。乾燥状態では炭素鋼を腐食しませんが、水があると微量の塩酸を生成し腐食します。

  1. 直接塩素化:塩化鉄(III)触媒・液相でエチレン+塩素→EDC、これを気相熱分解して塩化ビニル+HCl
    CH₂=CH₂ + Cl₂ → ClCH₂CH₂Cl
    ClCH₂CH₂Cl → CH₂=CHCl + HCl
  2. オキシ塩素化:副生HClをエチレン・酸素とともに塩化銅触媒(250〜350℃)で反応させ再びEDCを合成し、HClをリサイクル
    2CH₂=CH₂ + 4HCl + O₂ → 2C₂H₄Cl₂ + 2H₂O

学識論述では「副生HClを捨てずに回す」物質収支の考え方まで書けると強い。

臭化水素(HBr)・臭化メチル(CH₃Br)

  • 臭化水素:不燃性・毒性。塩酸より熱分解しやすく、分解すると赤褐色の臭素を遊離して着色。水分共存下で常温でも鉄等を著しく腐食
  • 臭化メチル:可燃性だが爆発範囲は極めて狭い。強力なオゾン層破壊物質のため、検疫くん蒸等の不可欠用途を除き2005年末で原則製造全廃

法令の「液化ブロムメチル」が臭化メチルです。液化シアン化水素・液化酸化エチレンと並んで、35℃で0Paを超えるだけで高圧ガスになる3種のひとつ(→ 法令の高圧ガスの定義)。

フッ素(F₂)・フッ化水素(HF)

  • フッ素:支燃性・猛毒。全元素中最大の酸化力。水素とは冷暗所でも接触即爆発。貴ガス(Xe・Kr)とも直接反応する
  • フッ素でもAl・Mg・Ni・Cu・Feは表面に強固なフッ化物不動態皮膜を形成し内部腐食が抑制される(「フッ素は何にでも使えない」は誤り)
  • フッ素の製法:融解塩電解法(KF・HF系)。陽極は炭素、陰極は鉄またはニッケル。水の混入は厳禁
  • フッ化水素:沸点19.5℃。気相でも水素結合により会合(2〜6分子の会合体の平衡混合物)。SiO₂と反応してガラスを溶かす
  • フッ化水素の製法:蛍石濃硫酸法(ロータリーキルンで加熱、吸熱)
    CaF₂ + H₂SO₄ → CaSO₄ + 2HF

フルオロカーボン類(CFC・HCFC・HFC・HFO)

世代塩素オゾン層破壊(ODP)規制
CFCあり大全廃
HCFCありあり全廃進行中
HFCなし0温暖化物質として規制
HFOなし0二重結合で大気寿命が極短、超低GWP
  • 基本的に無毒(一部微燃性)で極めて安定。ただし火災等の高温下で熱分解し、猛毒のフッ化水素(および塩化水素)を発生
  • HCFC-22は熱分解でテトラフルオロエチレン(PTFEの原料)になる
  • 製法:塩素化炭化水素を原料に、Sb・Cr等の金属フッ化物触媒下でHFと塩素フッ素交換反応(例:CH₂Cl₂ + 2HF → CH₂F₂(HFC-32)+ 2HCl)

特殊材料ガス ── 自然発火性・加水分解性・猛毒性で仕分ける

特殊材料ガスを3属性で仕分ける:水素化物は可燃性でモノシラン・ジシラン・ホスフィンは自然発火性、ハロゲン化物は湿気で加水分解し、猛毒はアルシン・ホスフィン・ジボラン・セレン化水素の4つ
ガス区分試験のツボ
モノシラン(SiH₄)可燃性・毒性・自然発火性遅延発火爆発(最頻出)
ジシラン(Si₂H₆)可燃性・毒性・自然発火性300℃付近から熱分解
ジクロロシラン/トリクロロシラン可燃性・毒性自然発火温度が低い。乾燥なら炭素鋼OK
四塩化ケイ素/四フッ化ケイ素不燃性・毒性湿気で加水分解(HCl・HF)
アルシン(AsH₃)可燃性・猛毒(0.005ppm)溶血作用、燃焼生成物も猛毒
五フッ化ヒ素/三塩化ヒ素不燃性・毒性加水分解して白煙
ホスフィン(PH₃)可燃性・猛毒(0.05ppm)・自然発火性腐魚臭、穀物くん蒸剤
五フッ化リン/三塩化リン/塩化ホスホリル不燃性・毒性加水分解。POCl₃はリン拡散用液状ソース
ジボラン(B₂H₆)可燃性・猛毒(0.1ppm)出流れ現象
三フッ化ホウ素/三塩化ホウ素不燃性・毒性加水分解して白煙、ほぼ全金属を腐食
ゲルマン(GeH₄)可燃性・毒性・分解爆発性吸熱化合物、分解爆発下限圧力が低い
セレン化水素(H₂Se)可燃性・猛毒(0.05ppm)強烈な腐卵臭、毒性は最強クラス
三フッ化窒素(NF₃)支燃性常温安定・高温で豹変
四フッ化硫黄(SF₄)不燃性・毒性SF₆との対比(引っかけの定番)

数は多く見えますが、「自然発火性」「加水分解性」「猛毒性」のどれに当てはまるかを押さえれば十分です。

表の許容濃度は米国ACGIHのTLV-TWA(8時間時間加重平均)です。日本産業衛生学会「許容濃度等の勧告(2025年度)」では、ジボランが0.01ppm、アルシンが0.1ppm・ホスフィンが0.3ppm(この2つは最大許容濃度)と値が違います。どの基準の数値かを確かめて使ってください。

表だけでは足りない要点

  • モノシラン:常温で空気と接触するだけで激しく燃焼(SiO₂白色微粉と水を生成)。高速流出時は即発火せず、拡散混合後にわずかな火源で大爆発する「遅延発火爆発」が最重要リスク
  • ジクロロシラン/トリクロロシラン:自然発火温度がそれぞれ44℃、182℃。完全乾燥状態なら200℃以下で普通炭素鋼が使用可能。トリクロロシランは高純度シリコン多結晶の製造原料
  • SiCl₄:常温で発煙性液体(沸点57.6℃)。光ファイバー母材の主原料
  • アルシン:にら様の不快臭。ヘモグロビンと結合し激しい溶血作用→急性腎不全。燃焼すると猛毒の三酸化二ヒ素(As₂O₃)白煙を生成
  • ホスフィン:室温の空気中で容易に自然発火。吸入で肺水腫・昏睡
  • ジボラン:常温で徐々に分解して水素と高級ボランを生成し、これが減圧弁弁座に噛み込むと「出流れ現象(二次側圧力の異常上昇)」を誘発。常温付近では発火しないが、80℃付近で自然発火する。p形ドーピングの代表格
  • ゲルマン:標準生成エンタルピーが正(+90.8 kJ/mol)の吸熱化合物で、自己加速的な分解爆発を起こす。分解爆発下限圧力0.013MPa(絶対圧。大気圧の約8分の1)と極めて低圧で、充填容器の爆発破裂事故が国内でも発生。空気中では約85℃で自然発火する。強烈な溶血作用
  • セレン化水素:硫化水素に酷似した強烈な腐卵臭。高濃度吸入で即死
  • 三フッ化窒素:常温では比較的安定。高温下ではフッ素を放出して極めて強力な酸化剤となり、水素と混合着火で激爆(2NF₃ + 3H₂ → 6HF + N₂)。CO₂の17,200倍の温室効果。最大用途はCVDチャンバーのクリーニングガス
  • 四フッ化硫黄:水分と接触すると猛毒のHFを生成し、金属・ガラスを激しく腐食。SF₆(極めて安定・無毒)とはFが2個違うだけで正反対

横断整理 ── 似ているガスを切り口で仕分ける

支燃性ガスは「燃やす側」:酸素・塩素・フッ素・亜酸化窒素・NO・NO₂・三フッ化窒素は自分は燃えずに相手を燃やし、塩素は水素と日光で爆発的に反応するので「塩素は可燃性」は誤り
切り口該当するガス
可燃性+毒性の両方CO、アンモニア、シアン化水素、硫化水素、メチルアミン、塩化ビニル、酸化エチレン、アルシン、ホスフィン、ジボラン、ゲルマン、セレン化水素
支燃性(自分は燃えない)酸素、塩素、フッ素、亜酸化窒素、NO、NO₂、三フッ化窒素
自然発火性モノシラン・ジシラン(常温)、ジクロロシラン(44℃)、ホスフィン(室温)、ジボラン(80℃付近)、ゲルマン(約85℃)
乾燥ならOK・湿潤はNG塩素(乾燥なら鋼OK)、塩化水素、ホスゲン、塩化ビニル、ジクロロシラン類
水分・アルカリで重合爆発 → 酸で安定化シアン化水素(硫酸・リン酸添加)
酸素と反応して過酸化物 → 重合暴走ブタジエン(TBC等の重合防止剤+低温貯蔵)
熱・光で発熱重合塩化ビニル(重合防止剤+不活性雰囲気)
溶血作用アルシン、ゲルマン
強力な温暖化ガスSF₆(CO₂の22,800倍)、NF₃(17,200倍)

「塩素は可燃性」と誤答させる選択肢が定番です。乾湿ではチタンだけ逆(湿潤塩素にOK・乾燥塩素にNG)で、この逆転が最強の引っかけです。

銅がNGのガス理由
アンモニア銅・銅合金を激しく腐食
アセチレン爆発性アセチリドを生成(銅62%超の合金は厳禁)

銅NGは理由が違う点まで区別すること。

においガス
青草臭(刈り草)ホスゲン
アーモンド臭(杏仁臭)シアン化水素
腐卵臭硫化水素、セレン化水素
にら臭アルシン
腐魚臭ホスフィン
魚臭メチルアミン類
無色・無臭一酸化炭素(気づけないのが最大の危険)

→ 自然発火と酸化発熱/暴走反応はなぜ止まらないのか

分解爆発 ── 吸熱化合物は酸素なしで爆発する

分解爆発するガスは単体より上にいる:アセチレン、オゾン、モノゲルマン、亜酸化窒素、エチレンは標準生成エンタルピーが正で、酸化エチレンだけ負の例外

アセチレン・(高圧の)エチレン・亜酸化窒素・ゲルマンは「標準生成エンタルピーが正の吸熱化合物」という共通の理由で分解爆発します。学識の論述で説明できるようにしてください。

  • 代表例:アセチレン、酸化エチレン、(高圧の)エチレン、亜酸化窒素、ゲルマン
  • 講習テキスト『高圧ガス保安技術』の分類では、ほかに一酸化窒素、二酸化窒素、オゾン、メチルアセチレンなども分解爆発性ガスに挙がっている
  • 酸化エチレンは標準生成エンタルピーが負で、吸熱化合物という理由には当てはまらない

上限界が100%になる意味は爆発範囲(LEL・UEL)の読み方に書いています。

上に溜まる・下に溜まる ── 検知器の高さが決まる

空気の29を境に上と下に分かれる(目安):モル質量が空気の約29より小さい水素2・メタン16は天井近くに、大きいプロパン44・ブタン58・塩素71は床やピットにたまりやすい
  • 上方滞留:水素、メタン
  • 低所・ピット滞留:LPガス(プロパン・ブタン)、塩素

ガス漏えい検知器の設置位置(床面近くか天井近くか)と直結します。→ ガス拡散と滞留|検知器は、ガスが来る高さに付いていますか

本番前の確認 ── 横断整理を○×で回す

出そうな記述正誤
塩素は可燃性ガスである×(支燃性)
乾燥した塩素にはチタン配管が使える×(発火する)
シアン化水素はアルカリを加えて安定化する×(無機酸)
アセチレンは酸素がなければ爆発しない×(吸熱化合物なので単独で分解爆発)
臭化水素は刺激臭のある可燃性ガスである×(不燃性)
SF₆もSF₄も、化学的に安定で無毒である×(SF₄は活性が高く有毒)

保安管理技術の誤り選択肢は、ほぼこの形でしか作られていません。各論を1周したら、次はこの横断整理を回す。順番を逆にしないでください。

学識論述の定番は塩化ビニルのバランスプロセスです。受験ルートと学習の順番は高圧ガス甲種化学の勉強法 完全ガイドにまとめています。

科目別に戻る場合はこちらへ。法令/保安管理技術/学識の出題マップ/計算の10の型/ガス各論①

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