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断熱火炎温度の計算|発熱がすべて排ガスの昇温に使われるとしたら何度になるか

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困っている人
困っている人

火炎温度の計算をしたら、実測より数百度も高い値が出た。どこを間違えたのか。

空気比を変えると温度がどう変わるのか、感覚では分かるが数字にできない。

そんな悩みを解決します。

この記事の内容

窒素を数え忘れる ── これが最頻出の失敗。桁が変わる

計算値が実測より高いのは放熱と解離を無視しているから

空気比を上げると温度が下がる理由を数字で示す

耐火材の選定、NOx、フレアの輻射熱 ── 実務での使い道

バーナーの設計、耐火材の選定、NOx対策、フレアスタックの高さ決定。すべてこの温度が出発点です。

現場で、この温度はどこに効くか

場面何を決めるか
加熱炉・ボイラの耐火材使用温度に耐える材質と厚み
バーナーの設計火炎の到達温度、チューブへの輻射
NOx の発生量火炎温度が高いほどサーマルNOxが増える
フレアスタックの高さ地上への輻射熱の計算
爆発時の圧力上昇密閉空間での爆発圧力
材料の許容温度チューブ・炉壁の設計

NOx対策は「火炎温度を下げる」ことに尽きます。 排ガス再循環も段階燃焼も、目的は同じ。

だから断熱火炎温度が計算できると、NOx対策の効果が事前に見積もれます。

考え方と式

断熱火炎温度とは

燃焼で発生した熱がすべて排ガスの昇温に使われるとしたときの温度

外部への熱損失をゼロと仮定した理論上の最高温度

Qc = Σ(nᵢ × Cp,ᵢ) × (T − T₀)

T = T₀ + Qc / Σ(nᵢ Cp,ᵢ)

Qc:燃焼熱、nᵢ:排ガス各成分の物質量、Cp,ᵢ:平均モル熱容量

手順は4ステップ

  1. 反応式を書く(過剰空気があれば余った O₂ と N₂ も右辺に残す)
  2. 燃焼熱 Qc を出す(生成エンタルピーから)
  3. 排ガスの物質量 nᵢ を数える ── CO₂・H₂O・N₂・余剰O₂
  4. Σ(nᵢCp,ᵢ) で割る

落とすとしたらステップ3です。 窒素を数え忘れる人がとても多い。

燃焼熱の計算はヘスの法則と生成エンタルピーを参照してください。

窒素を忘れてはいけない ── 排ガスの7割は窒素

空気で燃やす場合、O₂ 1 mol に対して N₂ が 3.76 mol付いてきます(79/21 ≒ 3.76)。

プロパンを理論空気量で完全燃焼させると

C₃H₈ + 5 O₂ + 18.8 N₂ → 3 CO₂ + 4 H₂O + 18.8 N₂

排ガス合計 = 3 + 4 + 18.8 = 25.8 mol

うち窒素が 73%

窒素を落とすと分母が7 molになり、温度が3.7倍に跳ね上がります。 桁で間違えるので必ず気づけます。

窒素は反応しないのに温められる

これが空気燃焼の宿命です。燃焼に関与しない窒素を、一緒に高温まで加熱している。

だから純酸素燃焼は温度が高い

窒素がないので、同じ熱量を少ない物質量で受け止める

→ 温度が大幅に上がる

燃焼方式プロパンの断熱火炎温度(概算)
空気燃焼2,160℃
純酸素燃焼2,900℃

酸素バーナー・酸素富化燃焼が高温を出せるのはこれです。ガラス溶解炉などで使われます。

逆に、窒素は温度を下げる働きをしているとも言えます。これが希釈による消火の原理でもあります。

不活性ガス希釈で爆発を防げる理由

数値で確かめる

例1:プロパンの断熱火炎温度(理論空気量)

プロパン1 mol を理論空気量で完全燃焼させる。初期温度25℃。
Qc = 2,043 kJ/mol(H₂O は気体)
平均モル熱容量:CO₂ 55、H₂O 43、N₂ 33[J/(mol·K)]

〔解答〕

反応式:C₃H₈ + 5 O₂ + 18.8 N₂ → 3 CO₂ + 4 H₂O + 18.8 N₂

Σ(nᵢCp,ᵢ) = 3×55 + 4×43 + 18.8×33

 = 165 + 172 + 620957 J/K

ΔT = 2,043×10³ / 957 = 2,135 K

T = 25 + 2,135 = 約2,160℃

窒素の寄与が620。全体の65%です。ここを落とすと答えが3倍以上になります。

例2:空気比を上げるとどうなるか

同じプロパンを空気比1.3(30%過剰空気)で燃焼させると?

〔解答〕

供給O₂ = 5 × 1.3 = 6.5 mol(うち5 molが反応、1.5 mol が余る

供給N₂ = 6.5 × 3.76 = 24.4 mol

排ガス:CO₂ 3、H₂O 4、O₂ 1.5、N₂ 24.4

Σ(nᵢCp,ᵢ) = 3×55 + 4×43 + 1.5×35 + 24.4×33

 = 165 + 172 + 53 + 805 = 1,195 J/K

ΔT = 2,043×10³ / 1,195 = 1,710 K

T = 約1,735℃

空気比排ガス合計[mol]断熱火炎温度
1.0(理論)25.8約2,160℃
1.127.7約2,040℃
1.332.9約1,735℃
1.538.1約1,510℃
2.051.0約1,150℃

空気比を1.0から1.3にするだけで425℃下がります。

これがNOx低減の基本手法です。ただし過剰空気は排ガス損失を増やすので、効率とのトレードオフになります。

例3:排ガス再循環(EGR)の効果

排ガスの20%を燃焼用空気に混ぜて再循環させたら?

何が起きるか

排ガス(CO₂・H₂O・N₂)が加わる → Σ(nᵢCp,ᵢ) が増える

火炎温度が下がる

しかも CO₂ と H₂O は N₂ より熱容量が大きい(55、43 vs 33)

同じ量の窒素より効果が大きい

CO₂ の熱容量は N₂ の1.7倍です。だから排ガス再循環は少量でも効きます。

これが不活性ガスとして CO₂ が N₂ より優れている理由でもあります。消火にも同じ理屈が働きます。

なぜ計算値は実測より高いのか

燃料断熱火炎温度(計算)実測の最高火炎温度
メタン約2,050℃約1,950℃100℃
プロパン約2,160℃約1,980℃180℃
アセチレン約2,600℃約2,400℃200℃
水素約2,250℃約2,050℃200℃

差の原因は3つ

① 放熱(輻射・対流)

火炎から周囲へ熱が逃げる

断熱の仮定が成り立たない

② 解離(最大の要因)

高温では CO₂ ⇄ CO + ½O₂H₂O ⇄ H₂ + ½O₂ が起きる

これらは吸熱反応

発生した熱の一部が解離に使われる

③ 熱容量の温度依存

Cp は高温ほど大きくなる

常温の値を使うと温度を高く見積もる

2,000℃を超えると解離の影響が支配的になります。だから高温ほど計算値と実測の差が広がる。

実務では、断熱火炎温度は「上限値」として使います。 実際はこれより低い、という前提で材料を選ぶ。

解離が起きると何が問題か

CO が生成します。 完全燃焼のはずが、高温部で CO ができる。

対策

滞留時間を長くする(温度が下がる過程で再結合させる)

急冷しない(高温のまま急冷すると CO が固定される)

「3T」(Temperature・Time・Turbulence)という燃焼の設計原則は、ここから来ています。

実務での使いどころと、失敗例

使いどころ①:耐火材の選定

温度域材質の例
〜1,200℃断熱れんが・セラミックファイバー
1,200〜1,500℃高アルミナ質れんが
1,500〜1,800℃高純度アルミナ・ジルコニア
1,800℃〜特殊材(高価)

断熱火炎温度で選ぶと過剰設計になります。 実際の炉内温度は火炎温度よりずっと低い。

火炎が直接当たる部分だけ高温対応にする、というのが実務の判断です。

使いどころ②:NOx の予測

サーマルNOx(ゼルドビッチ機構)

高温で N₂ + O → NO + N が進む

活性化エネルギーが大きいので、温度に指数関数的に依存

1,500℃を超えると急増する

火炎温度サーマルNOx の相対量
1,400℃1
1,600℃10
1,800℃60
2,000℃250

200℃の違いで10倍変わります。だから火炎温度の管理がそのままNOx対策になる。

NOx低減の手法(すべて火炎温度を下げる)

排ガス再循環(EGR):熱容量を増やす

段階燃焼(二段燃焼):局所的な高温部を作らない

低NOxバーナー:火炎を長く薄くして温度ピークを下げる

水・蒸気噴射:潜熱と熱容量で下げる

使いどころ③:フレアの輻射熱

地上への輻射熱

q = τ F Q / (4πR²)

Q:燃焼熱量、F:輻射率(0.1〜0.3程度)、R:距離、τ:大気透過率

火炎温度が高いほど輻射率が上がります。 スート(すす)が多い火炎は輻射が大きい。

許容輻射熱:作業者が数秒耐えられるのは 4.7 kW/m²、常時作業は 1.6 kW/m² 程度。

この制約からフレアスタックの高さが決まります。

緊急放出設備(フレア)被害局限措置

失敗例①:窒素を数え忘れる

前述のとおり、温度が3倍以上になります。

チェック方法

排ガスの70%前後が窒素になっているか確認

空気比1.0のプロパンなら、25.8 mol 中18.8 mol

この比率から大きく外れていたら計算ミス

失敗例②:常温のCpを使う

2,000℃での Cp は常温の1.3〜1.5倍です。

物質Cp(25℃)Cp(2,000℃)
CO₂3760
H₂O3452
N₂2936
O₂2938

常温の値を使うと、温度を3〜4割高く見積もります。 上の計算例で使った値(55・43・33)は、高温域の平均値です。

実務では、温度範囲での平均Cpを使うか、反復計算します。

反復計算の手順

① 仮の温度で Cp を選ぶ

② T を計算する

③ その T に対応する Cp を選び直す

④ 収束するまで繰り返す(通常2〜3回)

失敗例③:H₂O の (g)/(l) を取り違える

燃焼ガスは高温なので、必ず H₂O(g) 基準(真発熱量)を使います。

総発熱量(HHV)を使うと、存在しない凝縮潜熱を加えてしまうことになります。

総発熱量と真発熱量

甲種化学ではこう出ます

学識の型9(燃焼・爆発)の一形態です。令和2〜6年度の60大問中3回出ました。

年度・問内容
R4 国試 問5プロパン・ブタン混合ガスの断熱火炎温度
R4 検定 問4プロパン・ブタンの断熱火炎温度
R5 検定 問4水素・エタンの断熱火炎温度

3回とも混合ガスです。各成分の反応式を書いてから足し合わせます。

試験での手順

① 各燃料の反応式を書く

② モル比に応じて必要酸素量を合計

窒素を 3.76倍 で加える

④ 燃焼熱をモル比で加重平均

⑤ Σ(nᵢCp,ᵢ) で割る

問題文で Cp の値が与えられます。 温度依存を気にする必要はありません。

解き方と過去問は学識・型9|燃焼・爆発の計算、燃焼熱の計算は学識・型8|熱化学を参照してください。

まとめ

  • T = T₀ + Qc / Σ(nᵢCp,ᵢ)
  • O₂ 1 mol に N₂ 3.76 mol。排ガスの約70%が窒素
  • 窒素を落とすと温度が3倍以上になる。最頻出の失敗
  • 計算値が実測より高いのは放熱・解離・Cpの温度依存のため
  • 2,000℃超では解離が支配的(CO₂→CO、H₂O→H₂)
  • 空気比を1.0→1.3にすると425℃下がる
  • CO₂ の熱容量は N₂ の1.7倍。だからEGRは少量でも効く
  • 火炎温度200℃の差でサーマルNOxは10倍変わる
  • 実務では常温Cpではなく高温域の平均値を使う(3〜4割違う)
  • 燃焼ガスは必ずH₂O(g) 基準=真発熱量

燃焼熱の計算はヘスの法則と生成エンタルピー、熱容量は比熱・マイヤーの関係へ。

爆発の影響評価はTNT換算とホプキンソンの三乗根法則、燃焼・爆発の全体像は学識・型9を参照してください。