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等温・定圧・定容・断熱の式が多すぎて、どれがどれだか覚えられない。
ΔU と ΔH の使い分けが、いつもあいまいなまま。
そんな悩みを解決します。
覚えるのは ΔU = Q − W と「何がゼロか」の4行だけ
ΔU = nCvΔT はどの変化でも成り立つ ── 定容専用ではない
閉じた系と開いた系で使う量が違う(ΔU か ΔH か)
断熱圧縮で温度が上がる ── 現場の事故に直結する話

圧縮機、膨張弁、安全弁の吹出、断熱圧縮による発火。プロセスの温度変化はここから説明できます。
現場で、この法則はどこに出てくるか
| 場面 | 起きている状態変化 |
|---|---|
| 圧縮機の吐出温度が上がる | 断熱圧縮(Q ≒ 0) |
| 膨張弁の下流が冷える | 絞り膨張(等エンタルピー) |
| 安全弁の吹出で配管が凍る | 急速な断熱膨張 |
| ボンベを急速充填すると熱くなる | 断熱圧縮+流入エネルギー |
| 反応器の除熱 | 定圧下での熱収支 |
| 密閉容器の加熱で圧力が上がる | 定容変化 |
この見分けができれば、現場で何が起きるか予測できます。
第一法則と、覚えるべき4行
ΔU = Q − W
ΔU:内部エネルギーの変化
Q:系が受け取った熱
W:系がした仕事
4つの状態変化 ── 何がゼロになるか
| 変化 | 固定されるもの | ゼロになるもの | 結果 |
|---|---|---|---|
| 等温 | T | ΔU = 0(ΔH = 0) | Q = W |
| 定圧 | p | ── | Q = ΔH |
| 定容 | V | W = 0 | Q = ΔU |
| 断熱 | (熱の出入り) | Q = 0 | ΔU = −W |
この表がすべてです。 個別の式を16個覚える必要はありません。
なぜ等温で ΔU = 0 なのか
理想気体の内部エネルギーは温度だけで決まるからです。
内部エネルギー = 分子の運動エネルギーの総和
理想気体は分子間力がないので、位置エネルギーの項がない
運動エネルギーは温度だけで決まる
→ 体積が変わっても内部エネルギーは変わらない
これがジュール・トムソン効果の正体です(後述)。
いつでも成り立つ2つの式
ΔU = nCvΔT(どの変化でも)
ΔH = nCpΔT(どの変化でも)
ΔU も ΔH も状態量なので、始点と終点の温度だけで決まります。途中の経路は関係ありません。
熱容量そのものは比熱・マイヤーの関係・比熱比を参照してください。
4つの変化の計算式
| 変化 | W(系がした仕事) | Q | ΔU | ΔH |
|---|---|---|---|---|
| 等温 | nRT ln(V₂/V₁) | =W | 0 | 0 |
| 定圧 | pΔV = nRΔT | nCpΔT | nCvΔT | =Q |
| 定容 | 0 | nCvΔT | =Q | nCpΔT |
| 断熱 | −nCvΔT | 0 | nCvΔT | nCpΔT |
可逆断熱変化(ポアソンの式)
pV^γ = 一定
TV^(γ−1) = 一定
T p^((1−γ)/γ) = 一定
γ = Cp/Cv(比熱比)
| 与えられているもの | 使う形 |
|---|---|
| 圧力と体積 | pV^γ = 一定 |
| 温度と体積 | TV^(γ−1) = 一定 |
| 温度と圧力 | T p^((1−γ)/γ) = 一定(実務で最も使う) |
γ の値:単原子 1.67/二原子(空気・N₂・O₂)1.40/多原子 1.3前後
実務では圧縮機の吐出温度計算に、3つ目の形を使います。
数値で確かめる
例1:圧縮機の吐出温度
空気(γ=1.40)を 0.1 MPaA・20℃ から 0.8 MPaA まで断熱圧縮する。吐出温度は?
〔解答〕
T₂/T₁ = (p₂/p₁)^((γ−1)/γ) = 8^(0.4/1.4) = 8^0.2857
log 8^0.2857 = 0.2857 × 0.903 = 0.258
10^0.258 = 1.812
T₂ = 293.15 × 1.812 = 531 K = 258℃
潤滑油の引火点は200〜250℃程度です。だから吐出温度は監視項目になっています。
例2:密閉容器の加熱(定容変化)
密閉容器に窒素が 0.5 MPaA・20℃ で入っている。火災で 500℃ まで加熱されたら圧力は?
〔解答〕
定容なので p/T = 一定
p₂ = 0.5 × 773.15 / 293.15 = 1.32 MPaA
→ ゲージ圧で 1.22 MPaG
これが火災時に容器が破裂する理由の1つです。液化ガスならもっと激しく、BLEVEにつながります。
W = 0 なので、加えた熱がすべて内部エネルギー(=温度上昇)になります。 逃げ場がない。
例3:等温膨張と断熱膨張の比較
窒素1 mol を 1.0 MPaA・300 K から 0.1 MPaA まで膨張させる。
①等温の場合 ②可逆断熱の場合、それぞれ温度と仕事は?
〔① 等温〕
温度:300 K のまま
W = nRT ln(V₂/V₁) = nRT ln(p₁/p₂) = 1 × 8.314 × 300 × ln 10
= 2,494 × 2.303 = 5,744 J
Q = W = 5,744 J(外部から熱を受け取り続ける)
〔② 可逆断熱〕
T₂ = 300 × (0.1/1.0)^(0.4/1.4) = 300 × 10^(−0.2857)
10^(−0.2857) = 0.518
T₂ = 155 K(−118℃)
W = −ΔU = −nCvΔT = −1 × 20.8 × (155 − 300) = 3,016 J
等温のほうが多くの仕事を取り出せます。 熱をもらい続けられるからです。
そして断熱膨張の温度低下が、深冷分離(空気分離装置)の原理です。膨張タービンで空気を冷やして液化させます。
閉じた系と開いた系 ── ΔU か ΔH か
ここが実務で最も重要な区別です。
| 閉じた系 | 開いた系(定常流動系) | |
|---|---|---|
| 例 | 密閉容器、シリンダ | 配管・熱交換器・圧縮機・タービン |
| 物質の出入り | なし | あり |
| 第一法則 | ΔU = Q − W | ΔH = Q − W_s |
| 使う量 | 内部エネルギー U | エンタルピー H |
なぜ開いた系ではエンタルピーを使うのか
流体を押し込む仕事・押し出す仕事(流動仕事 pV)が加わるからです。
H = U + pV
→ 内部エネルギーに流動仕事を最初から含めた量
| 機器 | 式 | 意味 |
|---|---|---|
| 熱交換器(W_s = 0) | Q = ΔH | 交換熱量=エンタルピー変化 |
| 圧縮機(Q ≒ 0) | W_s = −ΔH | 軸動力=エンタルピー上昇 |
| タービン(Q ≒ 0) | W_s = −ΔH | 取り出せる仕事=エンタルピー低下 |
| 膨張弁(Q=0、W_s=0) | ΔH = 0 | 等エンタルピー |
| ノズル | ΔH = −Δ(u²/2) | エンタルピーが運動エネルギーに |
熱交換器の熱量を「Q = mCpΔT」で計算するのは、Q = ΔH = mCpΔT だからです。
膨張弁で温度が下がる理由 ── ジュール・トムソン効果
膨張弁は等エンタルピー(ΔH = 0)です。
理想気体なら ΔH = nCpΔT = 0 なので、温度は変わらないはずです。
膨張すると分子どうしの距離が広がる
分子間の引力に逆らって離れるのでエネルギーが要る
そのエネルギーは運動エネルギー(=温度)から供給される
→ 温度が下がる
これがジュール・トムソン効果です。 冷凍サイクルの膨張弁、LNGの製造、空気の液化 ── すべてこれを使っています。
ただし常に下がるわけではない
逆転温度より低いときは膨張で冷える
逆転温度より高いときは膨張で温まる
| ガス | 逆転温度 | 常温で膨張させると |
|---|---|---|
| N₂・O₂・空気・CO₂ | 常温よりはるか上 | 冷える |
| H₂ | 約−73℃ | 温まる |
| He | 約−230℃ | 温まる |
これは安全上も重要です。 高圧水素が漏えいすると、断熱膨張で温度が上がり、自然発火することがあります(→ 水素の性質)。
実務では、水素配管のリークが着火源なしで発火した事例が報告されています。
実務での失敗例
失敗例①:安全弁吹出で配管が凍って閉塞
安全弁が作動 → 急速な断熱膨張 → 下流温度が急低下
配管内の水分が凍る、あるいはハイドレートが生成
→ 吹出経路が閉塞
→ 安全弁が機能しなくなる
設計では吹出時の到達温度を計算し、材料と保温を決めます。
失敗例②:急速充填で容器が過熱
空のボンベに高圧ガスを一気に充填すると、内部が高温になります。
① 断熱圧縮:容器内のガスが押し縮められる
② 流入エネルギー:流れ込むガスが持つエンタルピーが内部エネルギーになる
→ 理想気体の理論では T₂ = γT₁ まで上がりうる
だから充填には速度制限があります。 水素ステーションの充填では、プレクール(−40℃冷却)まで行っています。
失敗例③:定容と定圧を取り違えて熱量を見誤る
定容:Q = nCvΔT
定圧:Q = nCpΔT
空気なら Cp/Cv = 1.4 ── 4割違う
加熱器の設計で定容の値を使うと、能力不足になります。
プラントの配管系はほぼ定圧です。密閉容器を加熱するときだけ定容。
甲種化学ではこう出ます
学識の型4にあたります。令和2〜6年度の60大問中5回が主として、さらに3回が従として登場しました(計8回)。
| 年度・問 | 内容 |
|---|---|
| R3 国試 問2 | 可逆断熱変化 pV^1.4 = 一定 |
| R3 検定 問2 | 定容加熱・可逆断熱膨張 |
| R5 検定 問2 | エントロピーの定義・等エントロピー膨張 |
| R4 検定 問6(2) | 閉じた系と熱力学第一法則(記述) |
解き方と過去問の詳細は学識・型4|熱力学の状態変化にまとめています。
エントロピーとカルノーサイクルはエントロピーとカルノーサイクルへ。
まとめ
- 覚えるのは ΔU = Q − W と「何がゼロか」の4行だけ
- 等温 ΔU=0/定圧 Q=ΔH/定容 W=0/断熱 Q=0
- ΔU = nCvΔT はどの変化でも成り立つ(定容専用ではない)
- 閉じた系は ΔU、開いた系は ΔH。プラントの機器はほぼ開いた系
- 膨張弁は等エンタルピー。それでも温度が下がるのはジュール・トムソン効果
- 水素とヘリウムは膨張で温度が上がる(逆転温度が低い)
- 断熱圧縮の温度上昇は T₂ = T₁(p₂/p₁)^((γ−1)/γ)
- 定容加熱は逃げ場がない。加えた熱がすべて温度と圧力になる
- Cp と Cv で4割違う(空気)。加熱器の設計で取り違えない
次はエントロピーとカルノーサイクルです。→ エントロピーとカルノーサイクル|T-S線図の読み方
熱容量の詳細は比熱・マイヤーの関係・比熱比、圧縮機への応用は圧縮機の理論動力へ。
化学プラント大全 
