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ヒューマンファクターとエラー対策|「不注意」は原因ではなく、結果

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事故報告書の原因欄に「作業員の不注意」と書かれているとき、その調査はそこで止まっています。

ヒューマンエラーは、調査の終点ではなく出発点です。

そして――エラーには型があり、型によって効く対策がまったく違います。「教育を徹底する」で全部を片付けようとすると、たいてい外れます。

この記事の要点

  • エラーはスリップ・ラプス・ミステイク・違反に分かれ、対策が異なる
  • スリップは熟練者に起きる。「よく確認しろ」では減らない
  • 違反を規律の問題にしない。なぜ合理的に見えたかを問う
  • 同じ人でも、条件が変わればエラーする
  • ダブルチェックの効果は、思われているほど高くない

1. エラーには、4つの型がある

何が起きたか効く対策の方向
スリップやろうとしたことと、違う動作をした
(隣の弁を触った、手が滑った)
設計で防ぐ。区別しやすくする、物理的に触れなくする
ラプスやるべきことを、忘れた
(手順を1つ飛ばした、戻し忘れた)
チェックリスト、位置表示、員数照合
ミステイク意図そのものが間違っていた
(状況を誤認し、正しいと思って別のことをした)
知識、情報の見せ方、判断の支援
違反正しい手順を知っていて、別のことをしたなぜそれが合理的に見えたかを問う

この4つを区別しないまま「ヒューマンエラー対策」を議論すると、すべてが「教育」と「注意喚起」に落ちます。

けれども表を見れば分かるとおり、教育が効くのはミステイクだけです。

スリップとミステイクは、起きる人が逆

スリップ・ラプスミステイク
誰に起きやすいか熟練者経験の浅い人
なぜ動作が自動化されているから。考えずにできる知識・経験が足りず、状況を読み違える
「よく確認しろ」ほとんど効かないやや効く
効くもの設計、表示、チェックリスト教育、情報提供、相談できる相手

ここが実務でいちばん誤解されるところです。ベテランがやった単純な操作ミスに対して「気の緩み」「慣れ」と評価しがちですが、動作が自動化されるのは熟練の当然の帰結です。責めても、次のスリップは減りません。隣り合う弁の見分けがつくか、色や札で区別できるか――対策はそちら側にあります。

2. 違反を、規律の問題にしない

「知っていたのに、やらなかった」。これがいちばん扱いが難しい型です。

ただし、違反にも種類があります。

種類中身本当の問題
日常的違反みんなが、いつもそうしている手順が実態に合っていない
状況的違反時間・人手・工具がなく、守れなかった資源の配分。手順どおりにできない条件
例外的違反想定外の状況で、その場で判断したその状況が手順に想定されていない
意図的な逸脱悪意、あるいは無謀ここだけは、懲戒の対象になりうる

実務で圧倒的に多いのは、上の2つです。そしてこの2つは、個人ではなく仕組みの問題です。

日常的違反が見つかったときは、叱る前に問いを1つ立ててください。

「なぜ、そのやり方のほうが合理的に見えたのか。」

たいてい、答えがあります。手順どおりだと時間が足りない、順序が物理的に無理、指定の工具が置いていない。その答えが、手順書を直すための情報です。

3. 同じ人でも、条件が変われば間違える

エラーの起きやすさは、その人の能力だけでは決まりません。置かれた条件で大きく変わります。

条件典型的な現れ方
時間の圧力確認を飛ばす、並行してやる
人手不足2人作業を1人でやる、監視が付かない
夜間・連続勤務・疲労判断が鈍る、読み間違いが増える
情報の見にくさ警報が多すぎる、画面が重なっている、表示が小さい
機器の使いにくさ似た弁が並ぶ、ラベルがない、操作方向が直感と逆
中断・割り込みどこまでやったか分からなくなる
初めての作業/久しぶりの作業手順書に頼るしかないのに、手順書が薄い

「警報が多すぎる」「画面が重なっている」は、バンスフィールドの事故でも指摘されています。制御室のATG表示画面は1面のみで、問題のタンクの表示は他のウィンドウの背面かその近くにありました。

6行目の中断も見逃せません。作業が途中で止まったとき、どこから再開するかが決まっていなければ、ラプスは構造的に起きます。

4. 「人・設備・手順・環境・組織」で構造化する

エラーの型と条件が見えたら、次はどこで不適合が起きたかを整理します。

その道具がM-SHELモデルです。要素そのものではなく要素どうしの境目(インターフェース)を見るのが要点で、詳しくは別記事で扱っています。

実際の事例に当てはめた例は、こちらです。

5. 人に頼らない方へ、対策を寄せる

対策には強さの順序があります。これは設備の安全対策と同じ考え方です。

強さ対策
強い物理的にできなくする誤接続防止の継手形状、キー干渉、鍵がないと操作できない
間違えたら分かる色分け、形状の違い、位置の分離、フェイルセーフ
気づけるラベル、表示、警報の優先度整理
手順・チェックリスト読み合わせ、実施サイン
弱い注意喚起・教育・掛け声掲示、朝礼での注意

ここで大事なのは、「隣り合った弁を間違えた」への対策として、下2段しか出てこないなら、まだ検討が浅いということです。

色を変える、離す、札をつける、形を変える。上の段は、たいてい安価です。

ダブルチェックは、思われているほど効かない

「2人で確認する」は、最も安易に採用される対策です。しかし、効果には限界があります。

限界理由
同じ情報を、同じ前提で見る1人目が見落としたものは、2人目も見落としやすい
責任が分散する「相手が見ているはず」が両方に働く
形骸化しやすいあとから追認のサインを書くだけになる
人手を2倍使う他の作業の監視が手薄になる

効かせるなら、「同じ見方をしない」工夫が要ります。1人目は現物、2人目は記録から。あるいは、順序を逆から辿る。

そして――ダブルチェックを「独立した2つの防護層」として数えないことです。FTAで言えば、共通原因が入っています。

6. KY・指差呼称が形骸化するとき

日々の活動が空回りしているサインは、はっきりしています。

  • 毎日、ほとんど同じ内容が挙がる
  • 「注意する」「気をつける」で終わっていて、行動になっていない
  • その日の作業に固有の話が、1つも出てこない
  • 時間が短すぎて、発言するのは決まった人だけ

効かせ方は、1つに絞るのが現実的だと思っています。

「今日、いつもと違うことは何か」を1つだけ挙げる。

初めての人がいる、機器が仮設になっている、隣で工事をしている、天候が違う、前回と手順が変わった。変化点は、そのまま今日のリスクです。

7. 調査のときに、気をつけること

人がからむ事象を調べるときに、避けたい落とし穴を挙げます。

落とし穴中身
後知恵で判断する結果を知ってから見ると、当時の選択が不合理に見える。当人にはそう見えていなかった
「なぜ気づかなかったのか」と問う問うべきは「何が見えていたか」
個人の特性に帰す「注意力散漫」「経験不足」で止まる
対策が本人への指導だけ他の人には何も変わっていない

判断の目安として使えるのが、次の問いです。

「同じ状況に置かれた、同じ経験を持つ別の人が、同じことをしたか。」

「するだろう」なら、それは仕組みの問題です。

8. 自分の職場で確かめる7つのこと

  • 直近のエラーは、4つの型のどれでしたか。区別して記録していますか
  • ベテランのスリップに、「慣れ」「気の緩み」と書いていませんか。
  • 日常的違反を見つけたとき、手順書を直しましたか。
  • 隣り合う似た機器を、色・形・位置で区別できますか。
  • ダブルチェックを、独立した2つの防護層として数えていませんか。
  • KYで「今日いつもと違うこと」が出ていますか。
  • 対策が、当事者への指導だけで終わっていませんか。

まとめ

  • スリップ・ラプス・ミステイク・違反。型が違えば、効く対策も違う
  • スリップは熟練者に起きる。設計と表示で防ぐ
  • 日常的違反は、手順書を直すための情報
  • 対策は、物理的にできなくする方へ寄せる
  • ダブルチェックは、独立した2層ではない

人は間違えます。それは前提です。問うべきは「間違えても事故にならない設計になっているか」のほうです。

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