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腐食、老朽化、RBI、予知保全。個別の技術としては、どれもよく語られます。
その一方で、「うちの設備のうち、どれを、どの仕組みで守るのか」という割り付けが決まっていない工場は、少なくありません。
この記事は、個々の技術ではなくその割り付けの地図を扱います。
この記事の要点
- 設備健全性は「壊れないこと」ではなく「機能し続けること」
- 対象は圧力保持機器だけではない。受動的なバリアが最も抜ける
- 重要度は「それが効かないと、どのシナリオが防げなくなるか」で決まる
- 保全方式は機器単位ではなく、故障モード単位で割り付ける
- 法定検査は最低ライン。その上に自社の計画を積む
1. 設備健全性とは、何を指すか
定義を、あえて機能の側から書きます。
設備が、要求される機能を、要求される期間、果たし続けること。
「壊れないこと」ではありません。壊れていなくても、機能しなければ健全ではないからです。
| 状態 | 健全か |
| 配管に穴が開いている | 健全でない(分かりやすい) |
| 安全弁は健全だが、5年テストしていない | 健全と言えない(機能が確認できていない) |
| インターロックは正常だが、バイパス中 | 健全でない(機能していない) |
| 防液堤に亀裂はないが、排水弁が開いている | 健全でない |
下3行は、いずれも設備の劣化ではなく、運用の問題です。それでも、機能していないという点では同じです。
2. まず、対象を仕分ける
設備健全性の議論は、たいてい圧力容器と配管に集中します。板厚があり、検査手法が確立していて、法定検査の対象でもあるからです。
けれども、守るべきものはそれだけではありません。
| 役割 | 例 | 守り方 |
| 圧力を保持する | 容器、配管、熱交換器、タンク | 肉厚管理、非破壊検査、RBI |
| 危険を止める | 安全弁、破裂板、インターロック、緊急遮断弁 | プルーフテスト、SIL検証 |
| 危険を局限する | 防液堤、防火壁、除害設備、散水設備 | 受動的。点検の対象から外れやすい |
| 動かす | ポンプ、圧縮機、調節弁 | 状態監視、予防保全 |
| 支える | 架構、配管サポート、基礎、ブレース | 目視、耐震評価 |
3行目と5行目が、最も抜けます。理由ははっきりしていて、動かないからです。動く機器は不調が分かりますが、防液堤や支持構造は壊れていても何も起きません。次に起きるのは、必要になった瞬間です。
5行目については、東日本大震災でのLPG球形タンク倒壊が具体例になります。破断したのは支柱の鋼管ブレースでした。
3. 重要度は、どう決めるか
全部の設備を、同じ強度で守ることはできません。優先順位が要ります。
ここで、決め方を間違えないでください。
| 決め方 | 評価 |
| 高価な設備から | × 資産価値であって、安全ではない |
| 大きい設備から | × |
| 止まると生産影響が大きいものから | △ 重要だが、安全とは別軸 |
| それが機能しないと、どのシナリオが防げなくなるか | ◎ |
4行目の情報は、すでに手元にあります。HAZOPとLOPAで洗い出した防護層のリストがそれです。
そこに載っている機器が、安全上重要な設備です。ここを起点にすれば、重要度の議論は感覚論になりません。
逆に言うと――防護層のリストがない工場では、設備健全性の優先順位を決める根拠がありません。そこから始めることになります。
4. 保全方式は、故障モード単位で割り付ける
「このポンプは予防保全」という決め方をしていませんか。粒度が粗すぎます。
| 方式 | 適する故障モード |
| 事後保全 | 壊れても影響が小さく、すぐ直せる |
| 時間基準(TBM) | 摩耗など、時間とともに確実に進むもの |
| 状態基準(CBM) | 兆候が出るもの(振動、温度、腐食速度) |
| リスク基準(RBI) | 静機器の劣化。限られた検査資源をどこに配るか |
| 機能試験 | 普段動かないもの(安全弁、インターロック) |
同じポンプでも、軸受は状態基準、メカニカルシールは時間基準、インペラは事後保全――というように、故障モードごとに答えが変わります。
この割り付けを機械的に行う道具が、FMEAです。
5行目にも注意してください。普段動かないものは、動かしてみないと健全性が分かりません。安全弁もインターロックも、書類上は「設置済み」ですが、それは機能の証明ではありません。
5. 検査計画が持つべきもの
RBIやFFSの具体的な進め方は、別記事で詳しく扱っています。ここでは計画として何が揃っているべきかだけを挙げます。
| 項目 | 確認 |
| どこを測るか | その測定点は、その回路を代表していますか |
| いつ測るか | 次回までに判定基準を割り込まない周期ですか |
| どの方法で測るか | その損傷機構を検出できる手法ですか |
| どの基準で判定するか | その基準は、誰がどう決めましたか |
| 見つけたものを、どう追跡するか | 臨時に見つけた薄い箇所が、恒久的な測定点になっていますか |
1行目と5行目は、シェブロン・リッチモンドの事故がそのまま教材になります。
- 検査点はエルボに置かれていたが、破裂したのは検査点のない直管部だった
- 2002年に薄肉化を見つけていたが、検査点として登録されず、二度と測られなかった
- 判定に使う最小肉厚を、複数名のレビューなしに引き下げていた
4行目を強調しておきます。判定基準の変更は、設備を何も触らずに安全余裕を削る行為です。図面にも現れず、現場からも見えません。変更管理の対象にすべきものだと考えています。
6. 法定検査との関係
| 種類 | 位置づけ |
| 保安検査(法定) | 最低ライン。法令が定めた範囲・周期 |
| 定期自主検査(法定) | 同上 |
| 自社の検査計画(RBI等) | その上に積むもの。リスクに応じて配分する |
ここで意識しておきたいのが、認定制度です。認定を受けると、行政等が行う検査を自ら実施できたり、検査の間隔を延ばせたりします。
メリットは大きい。ただし外から見てもらう機会が減るということでもあります。
自主保安の質が、そのまま設備健全性の質になります。
7. 健全性が崩れていくサイン
| サイン | 意味 |
| 検査・テストの先送りが常態化している | 計画が実力に合っていない、または優先度が下がっている |
| 「暫定補修」が何年も続いている | 恒久対策の予算・計画がない |
| 受動的なバリアを、誰も見ていない | 防液堤、防火壁、排水弁 |
| 予備品がない/調達に数か月かかる | 壊れたら止まる。暫定運転の動機になる |
| 図面と現物が違う | 健全性の判断根拠そのものが崩れている |
| 肉厚データが更新されていない設備がある | そもそも対象から漏れている |
5行目は、プロセス知識管理の問題と直結します。健全性の評価は、図面が正しいことを前提にしています。
そして4行目。予備品がないことは、安全の問題として扱われにくいのですが、実際には「壊れたまま運転する」「暫定で凌ぐ」という判断の入口になります。
8. 腐食を、どこまで掘るか
設備健全性の中で、化学プラントが最も多く向き合うのが腐食です。
ここは範囲が広いので、別シリーズで扱っています。メカニズムの分類、耐食材料の選定、環境制御と防食エンジニアリング、モニタリング技術まで、6本に分けています。
老朽化設備そのものの捉え方については、こちらです。
9. 自分の職場で確かめる8つのこと
- 安全上重要な設備の一覧がありますか。それは防護層のリストと対応していますか
- 防液堤・防火壁・散水設備を、誰がいつ点検していますか。
- 配管サポートや架構の点検は、計画に入っていますか。
- 保全方式は、機器単位ではなく故障モード単位で決まっていますか。
- 測定点は、その回路を代表していますか。継手にだけ偏っていませんか
- 臨時に見つけた薄い箇所が、恒久的な測定点になっていますか。
- 判定基準を変更するとき、複数名のレビューがありますか。
- いま「暫定補修」のまま運転しているものは、何件ありますか。
まとめ
- 健全性は「機能し続けること」。バイパス中の装置は健全ではない
- 受動的なバリアと支持構造が、いちばん抜ける。動かないから
- 重要度は防護層のリストから決める。感覚で決めない
- 保全方式は故障モード単位で割り付ける
- 判定基準の引き下げは、設備に触れずに安全余裕を削る行為
設備健全性は、地味で、成果が見えにくい仕事です。効いているときは、何も起きません。だからこそ、仕組みとして回す設計が要ります。
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プロセス安全の全体地図
この記事は「プロセス安全・防災」カテゴリの1本です。約100本を6つの領域に整理した地図と、立場・目的別の読む順は、こちらにまとめています。
参考文献
- 石油学会 編『化学プラントの老朽化 ―設備を長く安全に使うために―』丸善出版、2019年
Amazonで見る - 総務省消防庁「腐食・疲労等のモニタリング技術・診断技術等に関する調査(中間報告)」(PDF)
- 総務省消防庁「危険物施設の保安検査及び定期点検の制度概要」(PDF)
- 高圧ガス保安協会「検査・認定等」
化学プラント大全 
