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粉じん爆発の基礎|本当に怖いのは、積もった粉が舞い上がる二次爆発

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1982年、ダイセル堺工場。最初の爆発は、それほど大きなものではありませんでした。

問題はそのあとです。爆風で、建屋に積もっていた粉じんが一斉に舞い上がりました。そして、それが燃えた。死者6名。

粉じん爆発の恐ろしさは、ここにあります。本当の被害を出すのは、一次爆発ではなく二次爆発です。

この記事の要点

  • 粉じん爆発には5つの条件が要る。気体より2つ多い
  • 被害を決めるのは二次爆発。積もった粉が舞い上がって燃える
  • だから清掃(ハウスキーピング)が、最大の対策になる
  • 粉の危険性はKst値爆発等級(St1〜St3)で表す
  • 粒径が細かいほど危険。同じ物質でも工程で危険性が変わる

1. 粉じん爆発には、5つの条件が要る

気体の燃焼には、3つの条件が要ります。可燃物・酸素・着火源。いわゆる燃焼の三角形です。

粉じん爆発では、これに2つ加わります。

条件意味
① 可燃性の粉じん金属、樹脂、食品、医薬、木材など
② 酸素(空気)
③ 着火源静電気、摩擦、機械的火花、高温面
④ 分散(粉じん雲)空気中に舞い上がっていること
⑤ 閉塞容器や建屋の中で、圧力が逃げられないこと

④が、粉じん爆発の性格を決めています。床に積もった粉は、そのままでは燃え広がりません。表面しか空気に触れていないからです。舞い上がって初めて、粒の全表面が酸素と接し、一気に燃えます。

逆に言えば、「積もっている粉」は爆発の燃料が待機している状態です。着火源より先に、舞い上がるきっかけが要る。

2. 二次爆発が、本体である

ここが、この記事で最も伝えたいことです。

粉じん爆発の典型的な進み方は、こうなります。

段階起きること規模
一次爆発装置内(集じん機、乾燥機、サイロなど)で粉じん雲に着火比較的小さい
その爆風が、建屋に積もっていた粉を舞い上げる
二次爆発建屋全体が粉じん雲になり、そこへ火炎が到達桁違いに大きい

装置の中の粉じんの量より、建屋に積もっている粉じんの量のほうが、はるかに多い。

梁の上、配管の上、機器の裏、天井裏。普段は誰も見ない場所に、何年分もの粉が積もっています。それがすべて燃料です。

1982年のダイセル堺では、まさにこの連鎖が起きました。初期爆発の風圧で堆積粉じんが舞い上がり、二次爆発へ発展。死者6名という被害になっています。

だから、粉じん爆発の対策で最も費用対効果が高いのは清掃です。地味ですが、これに勝るものはありません。

「粉が積もる高さは、目線より上」という点に注意してください。床は掃除されていても、梁や配管の上は見られていないことがあります。脚立に乗って、上から見てください。

そして清掃の方法も重要です。圧縮空気で吹き飛ばすのは、粉じん雲を作る行為です。掃除機(防爆仕様)や湿式清掃を使います。

3. 粉の危険性は、どう測るか

粉じんの爆発危険性は、試験で測ります。設計に使う主な指標です。

指標意味何に使うか
Pmax密閉容器内での最大爆発圧力耐圧設計、放爆設計
Kst
(爆発指数)
圧力上昇の速さを表す指標
[bar·m/s]
放爆口の面積計算
最小着火エネルギー(MIE)着火に必要な最小のエネルギー静電気対策の要否
最小爆発濃度(MEC)爆発する下限の濃度換気設計、濃度管理
限界酸素濃度(LOC)これ以下なら爆発しない酸素濃度不活性化の目標値
発火温度雲の状態/堆積状態それぞれで測る高温面の管理

Kst値と爆発等級

Kst値は、粉じんの「爆発の激しさ」を表します。この値で爆発等級が決まります。

等級Kst値[bar·m/s]代表例(目安)
St 10 を超え 200 以下多くの有機粉体、食品、木粉
St 2200 を超え 300 以下一部の樹脂粉、有機顔料など
St 3300 を超えるアルミニウム、マグネシウムなどの金属粉

St3の金属粉は、放爆や抑制といった一般的な防護手段が成立しにくいほど激しく、扱いには特別な配慮が要ります。

これらの値は、物質名だけでは決まりません。同じ材料でも、粒径・水分・組成が違えば値が変わります。だから、実際に使う粉のサンプルで試験するのが原則です。「文献値がある」と「自社の粉の値を知っている」は別のことです。

粒径が効く

粉じん爆発の危険性は、粒径が細かいほど高くなります。理由は単純で、同じ質量なら細かいほど表面積が大きく、速く燃えるからです。

ここに、実務上の落とし穴があります。

  • 製品としては粗い粉でも、工程のどこかで微粉が発生する
  • 搬送・粉砕・乾燥のなかで、粒が壊れて細かくなる
  • 集じん機には、その微粉が集まる

だから集じん機は、粉じん爆発が最も起きやすい設備のひとつです。工程で最も細かい粉が、最も高い濃度で、密閉空間に集まっているからです。

4. 着火源は、火気だけではない

着火源どこで起きるか
静電気粉体の搬送・充填。粉は流れるだけで帯電する
機械的火花異物の噛み込み、金属同士の衝突
摩擦・過熱ベアリングの焼き付き、ベルトのスリップ
高温面乾燥機、加熱器。堆積した粉は低い温度でも発火する
自然発熱堆積した粉の内部で酸化熱がこもる
火気作業溶接・切断。粉じんのある場所での火気は要注意

最上段の静電気が、実務では最も厄介です。粉体は搬送されるだけで帯電します。そして粉じんのMIEは気体より高いとはいえ、人体や機器に溜まった静電気で着火し得る水準です。

そして「高温面」の行に書いた点は重要です。堆積した粉は、雲の状態より低い温度で発火します。乾燥機の壁や配管の保温内で粉が堆積すると、そこが発火点になり得ます。

5. 対策は4層で考える

粉じん爆発の対策は、起こさない → 大きくしない → 広げないの順に考えます。

対策
① 粉じん雲を作らない設備の密閉、局所排気、搬送速度の抑制、清掃
② 着火源をなくす接地・ボンディング、防爆機器、異物除去(磁選機・篩)、軸受の温度監視
③ 燃えない雰囲気にする不活性化(酸素濃度をLOC以下に)
④ 起きても被害を抑える放爆(ベント)/抑制(サプレッション)/隔離(アイソレーション)

④の3つを区別する

  • 放爆(ベント)――圧力を安全な方向へ逃がす。放出先に人や設備がないことが前提
  • 抑制(サプレッション)――爆発を検知し、消火剤を瞬時に噴射して消す
  • 隔離(アイソレーション)――高速の遮断弁などで、他の設備へ火炎を伝えない

③の隔離が、二次爆発を止める要です。粉体設備は、搬送配管でつながっています。集じん機で起きた爆発が、そのまま乾燥機やサイロへ伝わる。配管でつながっている限り、1つの装置で起きた爆発は系全体の問題です。

この構図は、配管内の爆燃・爆轟と同じです。

放爆口の向きに注意

放爆口は、圧力と火炎を外へ出します。その先に何があるかを確認してください。

  • 人が通る通路に向いていないか
  • 他の設備に向いていないか
  • 屋内に設置された装置なら、ダクトで屋外へ導いているか

この「放出先の設計」という論点は、安全弁や破裂板とまったく同じです。

6. 自分の職場で確かめる8つのこと

  • 扱っている粉のKst値とMIEを、知っていますか。文献値ではなく、自社の粉の値を
  • 梁や配管の上に、粉は積もっていませんか。脚立に乗って上から見ましたか
  • 清掃に圧縮空気を使っていませんか。それは粉じん雲を作る行為です
  • 集じん機の防護はどうなっていますか。最も細かい粉が集まる設備です
  • 粉体設備は、搬送配管でどこまでつながっていますか。隔離はできますか
  • 放爆口の向きの先に、人や設備はありませんか。
  • 接地は効いていますか。塗装やサビで導通が切れていませんか
  • 粉じんのある場所で、火気作業をしていませんか。その周囲を清掃しましたか

2番目が、いますぐできる最も効く点検です。床がきれいでも、上に積もっていることがあります。

まとめ

  • 粉じん爆発には可燃物・酸素・着火源+分散+閉塞の5条件が要る
  • 被害を決めるのは二次爆発。建屋に積もった粉が舞い上がって燃える
  • だから清掃が最大の対策。ただし圧縮空気での吹き飛ばしは逆効果
  • 危険性はKst値と爆発等級(St1〜3)。値は粒径・水分で変わるので自社の粉で測る
  • 装置間の隔離が、系全体への波及を止める

粉じん爆発は、「掃除」という最も原始的な作業が、最も効く対策であるという珍しい分野です。設備投資より先に、脚立を持って上を見るところから始まります。

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参考文献

※爆発等級の区分値は広く用いられている分類ですが、試験条件や規格の版によって扱いが異なる場合があります。また代表例として挙げた物質は目安であり、実際の値は粒径・水分・組成によって変わります。設計にあたっては、実際に取り扱う粉体のサンプルで試験を行ってください。