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ヒヤリハット・インシデント報告制度|「安全弁が吹いた」は上がってきますか

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ヒヤリハット報告制度がない工場は、ほとんどないと思います。

問題は、そこにプロセス安全のヒヤリハットが上がってきているかです。

「階段で滑りそうになった」は上がってくる。「安全弁が吹いた」「インターロックが作動した」は上がってこない。――多くの工場が、この状態にあります。

この記事の要点

  • 労働安全のヒヤリハットと、プロセス安全のヒヤリハットは別物
  • 「防護層が働いた」は、報告されにくい。守られたように見えるから
  • 集まらない最大の理由は「報告しても何も変わらない」
  • 件数を目標にしてはいけない。数合わせが始まる
  • 件数が減ったとき、良くなったのか報告されなくなったのかを見分ける

1. 三角形の話を、そのまま持ち込まない

「1件の重大災害の背後に29件の軽微な災害、300件のヒヤリハットがある」――よく引用される考え方です。

ヒヤリハットを拾う動機づけとしては有効です。ただし、これは労働災害の統計から出た話であって、プロセス安全の重大事故が同じ比率で予兆を出すという保証はありません。

2005年のBPテキサスシティ製油所の爆発は、この点を突きつけました。

この製油所の労働災害指標は良好でした。転倒や切創は減っていた。にもかかわらず、プロセス安全の側では重大な兆候が積み上がっていました。

三角形の底辺を数えていたが、数えていた底辺が違ったということです。

だから最初にやるべきは、「プロセス安全のヒヤリハットとは何か」を自分たちの言葉で定義することです。

2. 何を報告してほしいのか、を定義する

分類具体例
防護層が働いた安全弁の作動、インターロックの作動、緊急停止、破裂板の作動
防護層が使えなかった長期バイパス、プルーフテスト未実施、警報の無効化・消音
前兆小漏えい、異音・異臭、計器どうしの不一致、シールからのにじみ
逸脱手順どおりでない作業、運転範囲を外れた、想定外の組成
気づき「これは危ないのでは」という指摘(事象が起きていなくてよい)

1行目が、いちばん報告されません。安全弁が吹いた=設計どおりに守られた、と受け止められるからです。しかし安全弁が吹いたということは、そこまで圧力が上がったということです。次に何かがもう1つ狂えば、安全弁だけでは足りないかもしれません。

2行目も同じ構図です。バイパス中は何も起きません。何も起きないから、報告する理由が見当たらない。けれども、その間は防護層が1枚ありません。

3. 報告が集まらない5つの理由

理由対処
責められる/評価に響く非懲罰の範囲を、文書で明示する
報告しても何も変わらないフィードバックを返す(これが最重要)
報告が面倒1分で出せる様式にする。詳細は後から聞く
何を報告すべきか分からない上の分類表と、実例を配る
忙しい報告を業務として認める(時間を取る)

この5つのうち1・2・5は、制度ではなく組織の風土の問題です。そちらは安全文化の記事で扱っているので、本記事では制度としてどう設計するかに絞ります。

設計でいちばん効くのは、フィードバック

制度が死ぬときの流れは、だいたい決まっています。報告する → 何も返ってこない → もう出さない。

ここは仕組みで手当てできます。返すべきものは、大きなものでなくて構いません。

  • 受け取ったこと(自動返信でもよい)
  • どう判断したか(対策する/しない、どちらでも)
  • 「しない」と決めたなら、その理由
  • いつまでに、誰がやるか

3つ目が、意外と大事です。「対策しない」と返ってくること自体は、多くの人が受け入れます。受け入れられないのは、何も返ってこないことです。

非懲罰の範囲を、先に決めておく

「報告したら怒られた」は、一度あるだけで制度を壊します。かといって、何でも不問というわけにもいきません。

扱い対象
非懲罰うっかりミス、判断の誤り、手順の不備によるもの
要検討リスクを取る判断(意図的だが、悪意はない)
対象外意図的な違反、隠ぺい、無謀な行為

大切なのは、この線引きを事前に決めて公表しておくことです。事故のあとに決めると、結論ありきになります。

4. 件数を目標にすると、制度が壊れる

「1人あたり年3件」。目標として設定している工場は少なくないと思います。

気持ちは分かります。数がなければ始まらないのも事実です。ただ、件数を評価に結びつけると、こうなります。

起きること結果
期末に数合わせの報告が並ぶ読む側の負荷が増え、重要なものが埋もれる
当たり障りのない内容になる本当に危ないことほど書かれない
「件数が多い=安全活動が活発」と評価される質が問われなくなる

件数の代わりに見るなら、こちらのほうが実態に近づきます。

見る指標何が分かるか
プロセス安全に関する報告の割合労働安全ばかりになっていないか
フィードバックまでの日数制度が生きているか
対策の完了率と、遅延件数受けたあと、動いているか
同種事象の再発件数対策が効いているか
報告者の分布特定の人・班に偏っていないか

最後の行は、地味ですが有効です。報告が特定の班からしか出ていないなら、他の班では出せない何かがあるということです。

5. 受けたあと、どう捌くか

全部を同じ深さで調べることはできません。仕分けが要ります。

区分判定の目安扱い
重大あと1つ狂えば重大事故だった事故と同じ深さで調査する
防護層が1枚使われた担当部署で原因を確認し、対策
前兆・気づき記録し、傾向を見る

判定の軸は「実際に何が起きたか」ではなく「あと何枚残っていたか」です。結果的に何も起きなかったとしても、残りが1枚だったなら重大です。

この考え方は、多重防護(IPL)の数え方そのものです。

6. 件数が減ったとき、どう読むか

報告件数が減ったとき、可能性は2つしかありません。実際に異常が減ったのか、報告されなくなったのか。

ここまでは、よく言われることです。問題はその2つを、どうやって見分けるか。件数だけを見ていても区別はつきません。一緒に動く別の数字を見ます。

見るところ「報告されなくなった」のサイン
重大区分の割合減っていない、むしろ増えている
報告者の分布出す人が減り、特定の人に偏る
フィードバック日数その直前から延びていた
他の指標設備トラブル件数や警報件数は減っていない
直前の出来事報告者が責められた事案があった

3行目は、原因と結果がつながっています。返事が遅くなると、報告は静かに止まります。制度が壊れるのは、宣言によってではなく、この形です。

7. 自分の職場で確かめる7つのこと

  • 直近1年の報告のうち、プロセス安全に関するものは何件ですか。
  • 安全弁の作動やインターロックの作動は、報告対象になっていますか。
  • 報告してから返事が返るまで、平均何日ですか。
  • 「対策しない」と決めた場合、その理由は報告者に返っていますか。
  • 非懲罰の範囲は、文書になっていますか。
  • 件数を目標や評価にしていませんか。
  • 報告者は、特定の班に偏っていませんか。

まとめ

  • 労働安全の三角形を、そのままプロセス安全に当てはめない
  • 「防護層が働いた」「防護層が使えなかった」を報告対象に入れる
  • フィードバックが制度の生死を決める。「対策しない」でもよい、返すこと
  • 件数は目標にしない。割合・日数・完了率・分布を見る
  • 判定の軸は「あと何枚残っていたか」

報告が上がり、原因が分かり、対策が決まった。その対策の多くは、最終的に手順書に書き込まれます。次は、その手順書そのものを扱います。

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