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制御ループは DCS の中でどう動いているか|機能ブロック・制御周期・入出力モジュール・冗長化

制御ループは DCS の中でどう動いているかのアイキャッチ

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DCS の中の制御ループは、「入力」「PID」「出力」の3つの機能ブロックを線でつないだものです。コントローラはこのつながりを、決まった周期ごとに1回ずつ、決まった順番で計算し直しています。

だから、画面で SV(設定値)を変えても、弁はその瞬間には動きません。次の周期で PID ブロックが新しい SV を読み、出力を計算し直し、出力モジュールが 4〜20 mA に変えて弁へ送ったときに、初めて弁が動き始めます。

この記事では、設定値を変えてから弁が動くまでにコントローラの中で何が起きているかを、機能ブロック・制御周期・入出力モジュール・冗長化の順に、製品名を使わずに説明します。

この記事の結論

  • 1つの制御ループは、入力ブロック → PID ブロック → 出力ブロックをつないだもの。つなぎ方は P&ID の計装フローとほぼ同じ形
  • コントローラは各ブロックを 1周期に1回、決まった順番で計算する。SV を変えても、反映は次の周期の計算から
  • 周期はループの速さに合わせて選ぶ。目安は 流量 1 秒、液面・圧力 5 秒、温度・成分 20 秒(ISA のガイドライン)
  • デジタルの調節計は、出力を 「前回の出力+今回の修正分」 で計算する。自動・手動の切替で出力が跳ばないのはこのため
  • コントローラの二重化は、2つの演算結果を毎周期照合し、食い違いや停止を見つけたら待機側へ切り替える
  • 稼働中でもロジックやパラメータは変えられるが、変えた瞬間にプロセスへ効く。変更は手順と記録を伴う作業

1. 1つのループは3つの機能ブロックをつないだもの

DCS のコントローラの中では、制御の中身を機能ブロック(制御の計算を1つずつ受け持つ部品)で組み立てます。ある DCS の技術資料は、機能ブロックを「制御演算を実行する最小単位」とし、連続制御・演算・シーケンス制御のブロックを結合すると「計装フローに似た形式で」制御機能を記述できる、と説明しています。

1つのループは3つの機能ブロック
1つのループは3つの機能ブロック

流量制御のループ FIC-101 なら、中身は次の3つです。

ブロック入ってくるものやること出ていくもの
入力ブロック入力モジュールが読んだ流量の値単位の換算、開平、警報の判定PV(測定値)
PID ブロックPV と SV偏差から出力を計算するMV(操作量)
出力ブロックMV出力モジュールへ渡す4〜20 mA の信号

画面に出るフェースプレートは、この PID ブロックの中身(PV・SV・MV・モード)をそのまま見せたものです。カスケード制御なら、一次側の PID ブロックの出力を、二次側の PID ブロックの SV につなぎます。

DCS の歴史を書いた技術解説は、この変化を「ハードワイヤリングではなくソフトワイヤリングになった」と表現しています。計器盤の時代は調節計と調節計を電線でつないでいましたが、DCS では同じつなぎ方をソフトウェアの上で行います。配線を引き直さずに制御の形を変えられる反面、画面の上では変更の跡が見えにくいことも覚えておきます。

2. SV を変えてから弁が動くまで

運転員が画面で SV を 50.0 から 52.0 m³/h に変えたとします。コントローラの中では、次の順に処理が進みます。

SV を変えてから弁が動くまで
SV を変えてから弁が動くまで
  1. HMI から SV を書き込む:新しい SV が制御ネットワークを通ってコントローラに届き、PID ブロックの設定値が書き換わる
  2. 次の周期を待つ:PID ブロックは周期ごとに1回しか計算しないので、次の計算の番が来るまで待つ
  3. PID ブロックが計算する:新しい SV と最新の PV から偏差を求め、MV を計算し直す
  4. 出力ブロックと出力モジュール:MV を 4〜20 mA の電流に変えて現場へ送る
  5. 弁が動く:ポジショナが電流を受けて、弁の開度を変える
  6. 流量が変わり、伝送器が測る:入力モジュールが新しい値を読み、次の周期の PID の計算に使われる

弁が動き出すまでの遅れは、ほとんどが 「次の周期までの待ち」と「弁が動き切るまでの時間」 です。流量のループなら周期は1秒程度なので、運転員が感じる遅れはたいてい弁とプロセスの側にあります。弁が指令に遅れて動く理由はポジショナの役割と調整で説明しています。SV を変えたあと数秒は弁が動かないように見えても、慌てて操作を重ねないことが大切です。

3. 制御周期|コントローラは決まった間隔で計算し直す

コントローラが各ブロックを計算し直す間隔を、制御周期(スキャン周期)と呼びます。化学装置便覧は、デジタル制御ではプロセスの値を一定の時間間隔で取り込む必要があり、周期はプロセスの時定数や想定される外乱の周期より十分短くなければならない、と説明しています(時定数はプロセスの特性)。そのうえで、ISA のガイドラインによる周期を示しています。

ループの速さで周期を選ぶ
ループの速さで周期を選ぶ
ループ周期の目安
流量制御1 秒
液面制御5 秒
圧力制御5 秒
温度制御20 秒
成分制御20 秒

流量は速く変わるので短い周期、温度や成分はゆっくり変わるので長い周期で足ります。実際の DCS では、基本の周期(たとえば1秒)に加えて、速いループのためにもっと短い周期を選べる作りが一般的です。

計算の順番も決まっています。ある DCS の技術資料では、各機能ブロックは1周期に1回だけ実行され、同じ周期のブロックは定義した順番に実行される、短い周期のブロックは長い周期のブロックより優先して実行される、と説明されています。入力 → PID → 出力の順に並んでいれば、その周期の最新の PV で計算した MV がすぐに出ていきます。

4. 入出力モジュール|4〜20 mA と数字の橋渡し

入出力モジュールは、現場の電気信号とコントローラの中の数字をつなぐ部品です。入力側では 4〜20 mA をデジタルの数字に変え、出力側では数字を 4〜20 mA に戻します。

アナログをデジタルに変えると、細かさに限りが出ます。化学装置便覧は、8 bit なら 1/256 でフルスパンの 0.4%、10 bit で約 0.1%、12 bit で約 0.02% の誤差になると示しています。ビット数が多いほど細かくなりますが、画面の数字にも「変換の細かさ」という限界があることは知っておきます。

変換した数字は、入力ブロックで m³/h や ℃ のような工学単位の値に直されます。DCS の技術解説によれば、DCS が扱うデータは、昔の 0〜100% の値から、実際の単位の値へと変わってきました。PID の計算そのものは 0〜100% でも合理的ですが、複数のループを組み合わせる演算やシーケンスでは、実際の単位で扱えるほうが圧倒的に便利だからです。

伝送器の断線などで入力が 4〜20 mA の範囲を大きく外れると、DCS は入力異常を表示します(4 mA から始まる理由は4〜20 mA の記事)。そのとき調節計をどう振る舞わせるか(手動に切り替える、出力を保持するなど)は、システムと設定で決まっています。自分の担当ループの設定は、計装の担当者に確かめておきます。

5. 出力は「前回の出力+今回の修正分」で計算する

デジタルの調節計は、出力を毎回ゼロから計算するのではなく、前回の出力に今回の修正分を足して求めるのが普通です。化学装置便覧はこれを速度形と呼び、次の式で表しています。

Mn = Mn−1 + ΔMn

Mn が今回の出力、Mn−1 が前回の出力、ΔMn が今回の周期で PID が計算した修正分です。たとえば前回の出力が 42.0%、今回の修正分が+0.5% なら、今回の出力は 42.5% になります。

便覧は、デジタル制御で通常この形が採用される理由を2つ挙げています。

  • 自動と手動の切り替えがバンプレスにしやすい:手動のあいだに運転員が決めた出力が「前回の出力」になるので、自動に戻した瞬間は、そこから修正分を足すだけになる(自動/手動の記事)
  • 制御装置が故障したときの影響が少ない:出力側では前回の出力が保持されているので、修正分の計算が止まっても出力は直前の値から大きく飛ばない

6. 止まらない・止めない|二重化の照合とオンライン変更

コントローラは直接プロセスを制御しているので、止まるとプラントが止まります。二重化の考え方はDCS とはの記事で説明しましたが、コントローラの中では、毎周期の計算そのものが見張られています。

ある DCS の技術資料では、1つのプロセッサの中に演算装置を2つ持ち、同じ制御演算を行って、演算結果を演算周期ごとに照合します。一致すれば正しいとみなして出力し、一致しなければ「演算異常」として待機側のプロセッサに制御を渡します。待機側も同期して同じ計算をしているので、切り替えても出力は途切れません。さらにウォッチドッグタイマ(プログラムが定期的に応答しないと異常と判断する見張り役)で、制御機能が止まっていないかも見ています。別の DCS では、3つの CPU が同期して演算し、多数決(2 out of 3)で出力する方式をとっています(計装の信頼性と二重化)。

もう1つの「止めない」工夫が、稼働中の変更です。同じ技術資料は、制御機能を動かしたまま、変更部分以外に影響を与えずにアプリケーションを変更できる、としています。ただし電源の二重化の設定、短い周期の設定、アラームの重要度などは、稼働中には変えられない項目として挙げられています。

稼働中に変えられるということは、変えた瞬間にプロセスへ効くということです。PID のパラメータ、警報の設定値、ブロックのつなぎ方の変更は、計装担当と運転の双方が内容を確認し、変更前の値を記録してから行います。変更管理とバックアップはDCS の保守と更新で説明しています。実機を使わずに変更を事前に試せるシミュレーションの機能を持つ DCS もあります。

7. 現場で見る場所

  1. SV を変えたあとの数秒:弁がすぐ動かなくても、次の周期を待っているだけのことがある。操作を重ねる前に、MV と弁の開度計が追いつくのを待つ
  2. 入力異常の表示:PV の横に異常の印が出ていたら、その値で制御させない。モードが手動に落ちていないかも見る
  3. フェースプレートとブロックのつながり:カスケードや演算を含むループは、画面の1枚の裏で複数のブロックがつながっている。どのブロックが何を受け取っているかを、計装の担当者に図で見せてもらう
  4. システム状態の画面:コントローラの片系異常や演算異常の切り替えが記録されていないか。片系のまま運転を続けない
  5. 変更の記録:パラメータやロジックを稼働中に変えた記録。いつ・誰が・何を変えたかが追えるか

8. 先輩に聞かれたら答えられる3問

  1. 画面で SV を変えたとき、弁が動き出すまでにコントローラの中で何を待っていますか。
  2. 流量制御と温度制御で、制御周期の目安はそれぞれどれくらいですか。
  3. デジタルの調節計が出力を「前回の出力+修正分」で計算すると、何がよいのですか。

答えは順に、PID ブロックが次の周期で計算する番を待っている/ISA のガイドラインで流量 1 秒、温度 20 秒/自動と手動の切り替えがバンプレスにしやすく、制御装置が故障したときの影響も少ない、です。

まとめ

DCS の中の制御ループは、入力・PID・出力の機能ブロックを計装フローと同じ形でつないだもので、コントローラはそれを決まった周期ごとに1回ずつ、決まった順番で計算し直しています。SV を変えても反映は次の周期からで、周期はループの速さに合わせて流量なら1秒、温度なら20秒程度が目安です。

入出力モジュールが 4〜20 mA と数字を橋渡しし、出力は前回の値に修正分を足す形で計算されます。コントローラは毎周期の演算結果を照合して異常を見張り、稼働中の変更もできますが、変えた瞬間にプロセスへ効くことを忘れずに、手順と記録を伴って行います。

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参考文献

  • 化学工学協会編『化学装置便覧 改訂二版 7/8』丸善, 21・2・4「ディジタル制御」(信号変換誤差、サンプリング周期 表21・5、PID 制御アルゴリズム)  Amazonで見る
  • 川村貞夫・石川洋次郎『メーカーの技術者が書いた やさしく計装がわかる 工業計測と制御の基礎』工業技術社, 5.1.2「ディジタル式調節計」、5.2「分散形制御システム」  Amazonで見る
  • 中原正俊「進化するDCS、その歴史と将来」紙パ技協誌, 第61巻第3号 (2007)
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