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DCS は二重化で「止まらない」ように作られていますが、放っておけば部品の寿命は必ず来ます。保守の中身は、有寿命部品を年数で替えること、ソフトを復元できる形で持つこと、予備品と保守体制を切らさないことの3つです。
そして稼働から 10 年を過ぎたら、更新の計画を立て始めます。更新には計画・予算・工事の準備が要り、その間にも部品の入手や修理は難しくなっていくからです。
この記事では、DCS の保守で何をするか、有寿命部品の交換年数の目安、バックアップと予備品、更新をいつ・どう考えるか、そしてアクセス制限と操作記録というサイバーセキュリティの入口を、製品名を使わずに説明します。
この記事の結論
- DCS の保守は 有寿命部品の年数交換・バックアップ・予備品と保守体制 の3本柱。故障してから直す保全だけでは、二重化の片側が壊れたまま運転することになる
- 蓄電池・ヒューズ・電解コンデンサ・ハードディスク・液晶のバックライトは 寿命が決まっている部品。取扱説明書の年数で交換する
- 周囲温度が 10℃ 上がると電子部品の故障率は約2倍。計器室の空調とフィルタの管理も保守のうち
- バックアップは取るだけでなく、その手順で本当に復元できることを確かめておく
- 稼働 10 年を過ぎたら更新計画の検討を始める。保全・設計・運転の部門で、現場の不便も含めて洗い出す
- 部品取りや中古品での延命は信頼性を下げる。置き換えも「変更」なので、変更管理の手順で進める
1. DCS の保守は何をするのか
DCS が故障すると、影響する範囲が広く、原因もハード・基本ソフト・アプリケーション・誤操作・ノイズ・外部機器・電源と多岐にわたります。計装の教科書は、どこに原因があるかを切り分けるには専門的な知識が要り、代わりの部品を手に入れるにも時間と費用がかかるので、機会損失を小さくするにはメーカーとの年間保守契約による保守が有利だとしています。
保守のやり方は、次のように移り変わってきました。
| やり方 | 中身 |
| 事後保全 | 壊れてから直す |
| 予防保全(時間基準) | 決めた年数・時間で部品を交換する |
| 予防保全(状態基準) | 状態を診断して、悪くなったら手を入れる |
| 改良保全・保全予防 | 同じ故障が起きないよう設備を直す。設計段階から保守しやすくする |
DCS では、この全部を組み合わせます。寿命が決まっている部品は時間基準で交換し、コントローラの温度、冷却ファンの異常、演算結果の異常、二重化した CPU の診断記録などは状態基準で見張ります。教科書は、こうしたデータをメーカーが遠隔で監視・診断するサービスも紹介しています。
二重化しているからといって、事後保全に頼ってはいけません。片側が壊れても運転は続くので気づきにくく、そのまま次の故障が重なるとプラントが止まります(DCS とは)。二重化が効く条件は計装の信頼性と二重化で説明しています。
2. 有寿命部品は年数で交換する
DCS やその周りの機器には、使っていれば必ず劣化する部品があります。計装の教科書は、交換の目安を次のようにまとめています(連続使用時の目安で、実際の年数は機器の取扱説明書に書かれています)。

| 部品 | 交換の目安 | 備考 |
| 液晶パネルのバックライト | 2〜3 年 | 画面が暗くなる |
| ヒューズ | 3 年 | 電流による加熱で劣化が進む |
| ハードディスク | 3〜5 年 | アクセスの頻度による |
| 蓄電池(無停電電源装置用) | 5〜10 年 | 劣化診断ができる |
| フォトカプラ | 5〜10 年 | 使用環境による |
| アルミ電解コンデンサ | 7 年 | 劣化診断ができる |
| メモリ保護用の電池 | 1〜10 年 | 機器によって大きく違う |
さらに教科書は、DCS の制御ユニットの基板について、10 年以上使った基板は状態を調べて洗浄・コーティングし、15 年以上使った基板のフォトカプラ・電解コンデンサ・ヒューズ・リレー・DC/DC コンバータ・ブレーカは、条件によらず交換することを推奨しています。
寿命を縮める一番の要因は温度です。周囲温度が 10℃ 上がると電子部品の故障率は約2倍になることが経験的に知られています。粉じんや腐食性ガスも故障の原因になるので、盤にフィルタと押込みファンを付けて内圧を少し高くし、ほこりやガスを入れない工夫をします。フィルタの働きを保つには、定期的な交換と清掃が要ります。
3. バックアップは「復元できる」まで確かめる
DCS の画面やエンジニアリングの端末には、パソコンと同じくハードディスクが使われています。計装の教科書は、ハードディスクの故障はいつ起きるか分からないので、システムを復元する手順を作り、その手順で本当に復元できることを確認しておくよう勧めています。
バックアップの対象は、次のようなものです。
- 制御ロジック・パラメータ・画面・アラーム設定などのアプリケーション
- 基本ソフトのインストール媒体と、その版(リリース)の記録
- 修理・改造の履歴を反映した図面・ループ図・設定表
教科書は、修理や改造の履歴と内容が図面や資料に正しく反映されているか、ソフトのバックアップ媒体の保存と版の管理も「無視できない」と書いています。稼働中にパラメータを変えられる DCS では、変更のたびに最新のバックアップを取り直さないと、復元したとたんに古い設定へ戻ってしまいます。オンラインでの変更のしくみは制御ループは DCS の中でどう動いているかで扱います。
4. 予備品と保守の体制
保守を続けるための準備として、教科書は次の項目を挙げています。
- 予備機・保守部品の準備と、その保管状況
- 保守部品が今も手に入るか、納期と価格
- 予防保全を含む保守マニュアルの整備と、要員の教育
- メーカーとの保守契約・支援体制
予備品は、棚にあるだけでは足りません。教科書は、長く保管する機器は結露による絶縁劣化やさびを防ぐため、密封して内部を乾燥状態に保つ工夫が大切だとしています。また、冷たい場所に置いていた機器を暖かい場所へ移したときは、一時的に結露するので、周囲の温度になじませてから電源を入れるよう注意しています。
5. いつ更新するか|10 年を過ぎたら計画を始める
計装の教科書は、設備が稼働して 10 年以上たったら、計装設備の更新計画の検討も必要だとしています。進め方のポイントは次のとおりです。

- 保全・設計・運転の部門が連携し、情報を共有する
- 投資額と期待効果を、できるだけ数字で示す
- 更新計画を関係部署に公開し、現場とスタッフが不便を我慢して運転している部分を洗い出して、解決策を計画に折り込む
計画段階で要望を出し切っておくと、実施段階での途中変更が減り、更新がスムーズに進みます。更新で得られる効果として、教科書は複数の計器室の統合による相互支援と省人化、保守の容易さ・省電力・省スペース、運転データの活用などを挙げています。また、企画書・工事計画・運転員教育・操作マニュアルを作る作業そのものが後継者の育成に役立ち、たとえ更新できなくても部分的な改善で信頼性を保てるとしています。
化学プラントの老朽化を扱った本は、更新を検討すべき状態として、予想寿命に近いか超えている、修理費が更新した場合の生涯費用を上回る、修理しても性能が戻らない、交換部品が高いか手に入らず直せる技術者も見つからない、セキュリティや安全上の許容できないリスクがある、などを挙げています。
同じ本は、延命に頼った失敗例も紹介しています。メーカーのサポートが終わった古い空気式の制御システムを、部品取りと複製部品で動かし続けた排水処理設備では、制御の信頼性が落ちて排水濃度の規制値超えが頻繁に起きました。一方で、「新しく改良された部品」も、寸法・単位・材質・ソフト・環境への感度などで元の機器と違うことがあり、必ずしも解決にはなりません。置き換えは「変更」であり、変更管理の手順で影響を確かめてから行います。
6. サイバーセキュリティの入口
今の DCS は、画面やエンジニアリングの端末に一般的なコンピュータ技術を使い、工場内外のネットワークともつながっています。老朽化を扱った本は、コンピュータのウイルス感染を、警告なしに突然現れるシステム障害の1つとして挙げています。
運転員や若手エンジニアが最初に押さえるのは、次の3つです。
- 認証と権限:限られた人だけがログインでき、役割に応じて操作できる範囲を決める。計装の教科書はユーザー名・パスワードと役割に応じたアクセス権限を、DCS のベンダー資料もオペレータの認証・操作監視範囲の制限・操作の制限を挙げている
- 操作記録:誰が・いつ・どう設定を変えたかを追跡できるように、操作の記録(ログ)を残す
- 持ち込みと接続のルール:記録媒体や端末の持ち込み、外部ネットワークへの接続は職場のルールに従う
パスワードの共有や、便利だからと権限の広い共通アカウントを使うことは、操作記録を意味のないものにします。
7. 現場で見る場所
- システム状態画面:コントローラ・電源・ネットワークの片系故障、ファン異常、温度異常の表示が出ていないか
- 計器室・電気室の温度と盤のフィルタ:空調が止まっていないか、フィルタが詰まっていないか
- 無停電電源の蓄電池:交換年月の表示と、劣化診断の結果(無停電電源のしくみは計装用空気と計装電源)
- バックアップの日付:最後にパラメータやロジックを変えた日より新しいか
- 時刻:DCS の記録の時刻が、ほかの装置(PLC・分析計など)の記録と合っているか。ずれていると、アラームの順番を読み違える
- 予備品の棚:品目・数量・保管状態が台帳と合っているか
8. 先輩に聞かれたら答えられる3問
- 二重化している DCS で、事後保全だけでは困るのはなぜですか。
- 計器室の空調が止まったまま運転を続けると、DCS にどんな影響がありますか。
- 稼働 12 年目の DCS について、今年始めるべきことは何ですか。
答えは順に、片側が壊れても運転が続くので気づきにくく、次の故障が重なると止まるから/周囲温度が 10℃ 上がるごとに電子部品の故障率が約2倍になり、寿命が縮む/基板の点検と、保全・設計・運転の部門による更新計画の検討、です。
まとめ
DCS の保守は、有寿命部品を年数で交換し、ソフトを復元できる形でバックアップし、予備品と保守体制を切らさないことが柱です。周囲温度は寿命に直結するので、計器室の空調と盤のフィルタも保守の対象です。
稼働 10 年を過ぎたら、保全・設計・運転の部門で更新計画の検討を始め、15 年を超えた基板は部品の交換を考えます。部品取りでの延命は信頼性を下げ、置き換えも変更の一種なので、変更管理の手順で進めます。サイバーセキュリティは、認証と権限、操作記録、持ち込みと接続のルールから始めます。
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参考文献
- 川村貞夫・石川洋次郎『メーカーの技術者が書いた やさしく計装がわかる 工業計測と制御の基礎』工業技術社, 7.1.2「動作信頼性」、7.1.4「環境条件」、7.1.5「有寿命部品」【解説】分散形制御システムの推奨交換部品、第9章「計装機器の保守」(9.1 保守の考え方、9.3 パネル計器の保守、9.4 システム機器の保守)、7章のデータ保存・ドキュメントの保存とその他の対策 Amazonで見る
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