動画解説はこちら|YouTube

PID 制御とは|P・I・D の役割を1つずつ、比例帯とゲインは逆向き、なぜ I が要るか

PID 制御とはのアイキャッチ

※本記事の参考文献には、Amazonアソシエイトのリンク(アフィリエイト広告)を含みます。

PID 制御は、偏差(設定値と測定値の差)に対して3つの計算をして、それを足し合わせて出力を決める方法です。P は「今の差の大きさ」、I は「差が続いている時間」、D は「差の変わる速さ」に反応します。

P だけでは目標に少し届かない「オフセット」が残り、I がそれを消し、D は遅いプロセスで先回りします。この3つの役割が分かれば、調節計のパラメータ画面にある比例帯・積分時間・微分時間の意味が読めます。

この記事では、P・I・D を1つずつ言葉と数値例で説明し、比例帯とゲインが逆向きであること、積分時間と微分時間の「大きい・小さい」がどちらに効くか、そしてプロセスごとにどの組み合わせを使うかをまとめます。

この記事の結論

  • P(比例)は今の偏差に比例した出力、I(積分)は偏差が続くあいだ出力を増やし続ける、D(微分)は偏差の変化速度に反応する
  • P だけでは オフセット(設定値に届かない残り) が必ず残る。それを消すのが I
  • 比例帯(%)=100÷比例ゲイン。比例帯を小さくするほど強く効き、0% はオンオフ動作
  • 積分時間は短いほど強く、微分時間は長いほど強く効く。向きが逆なので混同しやすい
  • 効かせすぎると振動(ハンチング)。P・I・D のどれを強くしすぎても起きる
  • 目安は 流量・圧力・液面=PI、温度=PID。D は流量のように雑音の多い信号には使わない

1. オンオフ制御から始める

いちばん単純な制御は、目標より低ければヒータをオン、高ければオフにする「オンオフ動作」です。出力は 100% か 0% しかないので、温度は目標を中心に上がったり下がったりを繰り返します。炉のように熱容量が大きければ振れ幅は小さく、実用になります。

しかし、弁の開度のように「途中」がある操作では、オンオフでは荒すぎます。偏差の大きさに応じて出力を「途中」で止める、それが比例動作です。

2. P(比例動作)|今の偏差に比例して動かす

比例動作は、偏差の大きさに比例して出力を変えます。計装の教科書の数値例はこうです。

比例帯が小さいほど強く効く
比例帯が小さいほど強く効く

偏差が +10% 変わったとき、出力を 50% から 60% に変えるなら、比例ゲインは 10%÷10% = 1。

このゲイン 1 を、調節計では比例帯 100% と表します。比例帯とは「出力を 0 から 100% まで振るのに必要な偏差の幅」で、次の関係があります。

比例帯(%) = 100 ÷ 比例ゲイン

比例帯比例ゲイン偏差 10% に対する出力変化性質
200%0.55%弱い。安定だが目標に届きにくい
100%110%基準
50%220%強い。速いが振れやすい
0%∞オンオフ最も強い。常に振動

比例帯とゲインは逆向きです。「比例帯を大きくする」は「弱くする」ことです。調節計の画面がどちらの表記かを最初に確認してください。

3. P だけでは「オフセット」が残る

比例動作だけの制御には、避けられない欠点があります。定常状態で、設定値と測定値のあいだに差(オフセット、残留偏差)が残るのです。

P だけだと液面は Δ だけ上で止まる
P だけだと液面は Δ だけ上で止まる

理由は簡単です。比例動作は「偏差があるから出力が出る」仕組みなので、偏差がゼロになると出力が元に戻ってしまいます。負荷が変わって新しい弁開度が必要になったとき、その開度を保つには偏差が残っていなければなりません。

プロセス設計の教科書は、タンクの液面制御で流入が 50 t/h から 70 t/h に増えた例を挙げています。弁をその分だけ開くには、液面が基準から Δ だけ上がったところで釣り合うしかない、というのがオフセットです。

比例帯を小さくすればオフセットは小さくなりますが、振動しやすくなります。オフセットをゼロにするには、別の動作が要ります。

4. I(積分動作)|偏差が続くあいだ出力を増やし続ける

積分動作は、偏差がある限り出力を少しずつ増やし(または減らし)続けます。偏差がゼロになるまで修正をやめないので、オフセットを自動的に消します。教科書は「オートリセット」とも呼ぶと書いています。

P・PI・PIDの応答
P・PI・PIDの応答

強さは「積分時間」で決めます。積分時間とは、偏差に対して積分動作の出力が比例動作と同じ大きさになるまでの時間です。

  • 積分時間が短い(0 に近い)ほど、積分は強く効く。強すぎると振動する
  • 積分時間が長いほど弱く、オフセットが消えるまで長時間かかる

比例と積分を組み合わせた PI 調節計が、プラントで最も多く使われる形です。

5. D(微分動作)|偏差の変化速度で先回りする

温度のように応答が遅く、二次遅れやむだ時間を含むプロセスでは、PI だけでは安定するまで時間がかかります。そこで、偏差の「変わる速さ」に応じて出力を加えるのが微分動作です。温度が急に上がり始めたら、まだ設定値を超えていなくても、上昇速度に応じて先に冷やす方向へ出力を出します。

偏差が一定のときの P・I・D
偏差が一定のときの P・I・D
  • 微分時間が長いほど、微分は強く効く。効かせすぎると振動する
  • 微分時間 0 で、微分動作は効かない

積分時間と微分時間は「強くする向き」が逆です。表にまとめます。

パラメータ強くするには効かせすぎると
比例帯小さくする振動
積分時間短くする振動(ゆっくりした揺れ)
微分時間長くする振動(速い揺れ)、雑音を拾う

微分は変化速度に反応するので、流量のように信号が細かく揺れているプロセスでは、雑音に反応して出力が暴れます。D は単独では使わず、雑音の多い流量には使わないのが原則です。

6. どのプロセスに何を使うか

化学装置便覧は、プロセスの特性と制御動作の組み合わせを表にしています。要点は次のとおりです。

制御対象プロセスの性質よく使う動作
流量遅れ小、むだ時間小、雑音多いP、PI
液面1容量、遅れ小〜中オンオフ、P、PI
圧力1容量、遅れ極小オンオフ、P、PI
温度2容量以上、遅れ中〜大オンオフ、P、PI、PD、PID

プロセス設計の教科書も「温度制御は PID、それ以外(圧力・流量・レベル)は PI」を経験則として挙げています。温度だけ D を使うと覚えておけば、まず外れません。

7. 設定値を急に変えたときの工夫

DCS の調節計には、「微分先行型」「比例先行型」という選択があります。設定値をステップ状に変えたとき、通常の PID では微分動作が急変に反応して出力が跳ねます。微分先行型は微分を測定値だけに効かせ、比例先行型は比例も測定値だけに効かせて、設定値を変えても出力が急変しないようにしたものです。

運転員が画面から設定値を数字で変えるループでは、比例先行型が多く使われます。「SV を変えたのに弁が急に動かない」のはこの型のためで、故障ではありません。

8. 現場で見る場所

  1. パラメータ画面の表記:比例帯か比例ゲインか。単位は % か倍か
  2. 積分・微分の単位:秒か分か。1 と 60 では 60 倍違う
  3. D が入っているか:流量ループに微分時間が入っていたら、出力が暴れる原因かもしれない
  4. PID の型:微分先行型か比例先行型か。設定値変更時の挙動が変わる

9. 先輩に聞かれたら答えられる3問

  1. P だけの制御で、設定値に届かない差が残るのはなぜですか。
  2. 積分時間を短くすると、積分動作は強くなりますか、弱くなりますか。
  3. 流量制御に微分動作を使わないのはなぜですか。

答えは順に、偏差がゼロになると出力が元に戻るので、新しい弁開度を保つには偏差が残る必要があるから/強くなる/流量信号は雑音が多く、微分が雑音に反応して出力が暴れるから、です。

まとめ

PID の P は今の偏差の大きさ、I は偏差が続いている時間、D は偏差の変化速度に反応します。P だけではオフセットが残り、I がそれを消し、D は温度のような遅いプロセスで先回りします。比例帯はゲインの逆数で、小さいほど強く効きます。積分時間は短いほど、微分時間は長いほど強く効き、どれも効かせすぎると振動します。

流量・圧力・液面は PI、温度は PID が目安です。パラメータ画面では、比例帯かゲインか、秒か分か、D が入っているかを最初に確認してください。パラメータの決め方は次の記事で扱います。

関連記事

この章(プロセス制御)の記事 カテゴリの一覧

あわせて読みたい

参考文献

  • 川村貞夫・石川洋次郎『メーカーの技術者が書いた やさしく計装がわかる 工業計測と制御の基礎』工業技術社, 6.2「制御動作」、【解説】微分先行型と比例先行型PID制御の使い分け  Amazonで見る
  • 化学工学協会編『化学装置便覧 改訂二版 7/8』丸善, 21・2・3「プロセスの特性と制御動作」表21・4  Amazonで見る
  • 化学工学協会編『プロセス設計シリーズ7 プロセスの制御と計算機制御』丸善, 2・1・1「PID動作」
化学プラントニュース―週報と事故速報をわかりやすく紹介するnoteマガジン PLANT NEWS ON NOTE 化学プラントニュース 化学・石油プラントの重要ニュースを、毎週の週報と事故速報でお届けします。現場で押さえたい動きを、わかりやすく整理します。 noteで最新ニュースを読む