はじめに
ブロワーやファンのトラブルは、単なる機械的な不具合だけでなく、プロセス条件の変化(温度、圧力、抵抗)と密接に関係しています。本記事では、教科書的な操作手順の背後にある工学的根拠と、特に混同しやすい「ターボ型(遠心式)」と「ルーツ型(容積式)」の挙動の違いに重点を置き、現象からの原因特定手順を解説します。
1. 運転開始前の重要確認事項(試運転)
施工後や長期停止後の再稼働において、設備破損を防ぐための技術的チェックポイントです。
1-1. 回転方向確認(インチング)の重要性
「逆回転=風が出ない」だけでなく、設備構造上のリスクを回避するために実施します。
- 強制給油システムの保護: 軸駆動の油ポンプを持つ大型機の場合、逆回転による油圧低下はメタル軸受の損傷に直結します。
- 締結部品の緩み防止: インペラの締結方式によっては、逆回転時のトルクでロックナットが緩み、ケーシングやインペラの接触事故に至る可能性があります。
カップリングを外した状態でモーター単独の回転を確認するのが原則です。
1-2. 起動時の負荷管理とダンパー操作
ブロワーの形式によって、起動時の負荷特性は真逆になります。誤った操作はモーターの焼損や保護装置の作動を招きます。

| 形式 | 起動時のバルブ/ダンパー操作 | 工学的根拠 |
|---|---|---|
| ターボ型(遠心式) | 全閉 スタート | 軸動力 $L$ は風量 $Q$ に比例して増減するため、風量ゼロ(締め切り)状態で始動負荷が最小となります。 |
| ルーツ型(容積式) | 全開 スタート(バイパス弁含む) | 吐出側を閉め切ると内圧が急激に上昇し、過負荷トリップまたは安全弁の作動を引き起こします。 |
2. 現象別トラブルシューティングと原因分析

「風が出ない」「振動する」といった現象に対し、流体力学および機械力学的視点から原因を特定します。
2-1. 風量不足・圧力不足
回転数や回転方向が正常である場合、システム側(配管系)との整合性を疑います。
- システム抵抗の増大: 配管内の粉体堆積、バグフィルターの目詰まり、スクラバー充填物の汚れなどにより、実際の装置抵抗曲線が設計値より高くなっているケース。
- ガス密度の影響: 夏場の外気吸入など、吸気温度が高い場合はガス密度 $\rho$ が低下します。これにより質量流量および静圧が低下し、プロセスに必要な酸素量や撹拌力が不足することがあります。
2-2. 過負荷(過電流・サーマルトリップ)
電流値が高い場合、形式によって疑うべき原因が異なります。
- ターボ型(遠心式):風量の流れすぎ(Over Flow)
- 原因: 点検口の開放やダクト外れなどにより、系内の圧損が極端に低い状態。または、冬場の試運転(低温空気=高密度)による重量流量の増加。
- 対策: ダンパーで抵抗を付加する、またはインバーターで回転数を抑制する。
- ルーツ型(容積式):圧力の上がりすぎ(Over Pressure)
- 原因: 吐出側配管の閉塞、逆止弁の作動不良、後段プロセスの内圧上昇。
- 対策: 閉塞部の除去。バルブを絞っての調整は厳禁です。
2-3. 異常振動の解析
アライメント(芯出し)不良以外に考慮すべき要因です。
- サージング(Surging / ターボ型のみ):
原理上、容積式であるルーツ型では発生しません。ターボ型において、定格風量に対し極端に絞った運転(小風量域)を行うと発生する空力的な自励振動現象です。圧力計の激しいハンチングと配管全体の揺れを伴います。対策として、放風弁(ブロー弁)によるミニマムフロー確保が必要です。
(※ここにサージング領域を示した性能曲線の図解を挿入予定)
※なお、ルーツ型で吐出側を絞った場合は、サージングではなく「2-2. 過負荷」で述べた急激な圧力上昇が発生します。 - ソフトフット(Soft Foot): ベース据付時に脚の一部が浮いた状態でボルトを締め付け、ケーシングに歪みが生じている状態。振動値が下がらない場合、再度の据付調整が必要です。
- 共振(Resonance): インバーター運転時、特定の回転数域で架台や配管系の固有振動数と一致し、振動が増幅する現象。当該周波数を回避する「ジャンプ周波数設定」が有効です。
3. 設備信頼性を高める保全ポイント

- Vベルトの初期管理: 新品交換後は必ず「初期伸び」が発生します。運転開始24〜48時間後に再度テンション調整を行うことで、スリップによる発熱や早期破断を防止できます。
- グリス給脂の適正化: ベアリングへの過剰給脂は、撹拌抵抗による異常発熱の主因となります。排出口からの古グリス排出を確認しながら、規定量を遵守します。
まとめ
ブロワーの運転管理において最も重要なのは、「ターボ型」と「ルーツ型」という根本的な形式の違いを正しく理解することです。両者は、起動方法からトラブル時の挙動、やってはいけない操作まで、多くの点で真逆の特性を持っています。
目の前の現象(過負荷、振動、風量不足)だけに囚われるのではなく、「この形式のブロワーで、現在のプロセス条件下では何が起きうるか」という視点を持つことが、的確なトラブルシューティングと設備の安定稼働につながります。本記事が、現場での判断の一助となれば幸いです。
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