メーカーへの引合仕様書。
前任者のデータをコピー&ペーストして、日付だけ変えて提出していませんか?
ブロワ選定において、ガス性状や温度は単なる物性値の入力項目ではありません。
これらは、試運転時や季節変動時に発生する「能力不足」または「過負荷トリップ」の引き金そのものです。
今回は、中堅エンジニアが設計段階で織り込むべき、ブロワ仕様決定における「3つの落とし穴」と、その回避策について深掘りします。
この記事でわかること
- ガス分子量の変動が「ターボ型」に与える致命的な影響
- 「夏場基準」だけではNGな理由(冬場の過電流トリップ)
- 法規(局所排気)における風量選定の実務的アプローチ
1. ガス性状:分子量の変動を見落とすな

空気(Air)以外のガス、特に反応プロセスガスや焼却炉排ガスなどを扱う場合、運転条件による平均分子量(MW)の変化は極めて重要です。
ターボ型(遠心式)における「軽さ」の恐怖
ルーツブロワ等の「容積式」は、一回転で吐き出す体積が決まっているため、分子量が多少変わっても風量は維持されます。
しかし、ターボ型(遠心ブロワ・ファン)は「流体にエネルギー(ヘッド:m)を与える機械」です。
吐出圧力(P)は以下の物理則に支配されます。
P = ρ × g × H
- P:吐出圧力 (Pa)
- ρ:ガス密度 (kg/m³) ※分子量に比例
- H:ヘッド (m) ※インペラ形状と回転数で決まる
つまり、同じ回転数(同じヘッドH)で運転していても、ガスが軽くなれば圧力は下がります。
【ケーススタディ】分子量が変動すると何が起きるか?
| 変動パターン | 現象 | リスク |
|---|---|---|
| 分子量が小さくなる (軽くなる) | 所定の吐出圧力が出ない | 圧送先にガスが届かない 逆流(Back Flow)の危険性 |
| 分子量が大きくなる (重くなる) | 圧力上昇 & 軸動力増大 | モータの過負荷(Overload) インバータ等の保護がない場合トリップ |
💡 設計の指針(Philosophy)
ガス組成に幅がある場合は、以下の2点でスペックを決めます。
- 最小分子量で「所要圧力」を満たせるか確認する(能力不足防止)
- 最大分子量で「モータ出力」を選定する(過負荷防止)
2. 温度:夏と冬、どちらで設計すべきか?

「とりあえず一番条件が厳しい夏場(高い温度)で設計しておけば安全」と考えていませんか?
それは半分正解で、半分間違いです。
「何を目的とするブロワか」によって正解は逆転します。
質量流量(kg/h)が必要なプロセスの場合
燃焼用空気や反応用ガスなど、化学反応に必要なのは体積(m³)ではなく分子数、つまり質量(kg)です。
- 夏場(吸込温度が高い=密度が小さい):
同じ質量(kg)を送るためには、より大きな体積流量(m³)が必要になります。
→ 容量(インペラサイズ)は最高温度(夏場)で決定します。 - 冬場(吸込温度が低い=密度が大きい):
夏場仕様の大きな体積流量をそのまま冬場に吸い込むと、質量流量が増えすぎ、軸動力が跳ね上がります。
→ モータ出力(kW)は最低温度(冬場)で決定します。
現場でよくある「冬場の朝一トリップ」
夏場仕様(35℃)ギリギリで選定したモータが、冬場の朝一(0℃)の試運転で過電流トリップを起こす事例は後を絶ちません。
絶対温度比で考えると、(273 + 0) / (273 + 35) ≈ 0.88
つまり、密度が約12%アップし、軸動力もそれに比例して増えることを見落とした典型例です。
データシートへの記載推奨事項
- Case 1 (Capacity Design): Max Temperature (e.g., 40℃)
- Case 2 (Mechanical Design): Min Temperature (e.g., -5℃)
この2つのケースを明記することで、メーカー側も適切なモータマージンを見込むことができます。
3. 適用法規:局所排気の「制御風速」という縛り

ドラフトチャンバーや反応釜マンホール開放時の局所排気。
ここでは労働安全衛生法(有機則・特化則など)が設計の根拠となりますが、法規は「ブロワのスペック(風量Q・静圧P)」までは教えてくれません。
決めるのは「フードの面風速(制御風速)」です。
法規からスペックへの変換フロー
- 対象物質の特定:
有機溶剤か、特定化学物質か?(例:ガス状なら0.4~0.5 m/sなど、要求される制御風速が決まる) - フード形状の選定:
囲い式か、外付け式か?(形状係数により、制御風速を維持するための必要風量Qが算出される) - 圧力損失の積み上げ:
ΔP(total) = ΔP(hood) + ΔP(duct) + ΔP(scrubber)
特にスクラバー(除害塔)がある場合、充填層の汚れ(Fouling)を見込んで余裕を持たせる必要があります。
「吸いすぎ」もまたリスクである
法規を満たすのは「最低条件」ですが、安全率を掛けすぎて過剰な風速になると、以下の弊害を生みます。
- 溶剤の揮発促進: 必要以上に吸うと、プロセスの溶剤ロス(=コスト増)につながる。
- 騒音・振動: ダクト流速が速すぎると、笛吹き音や振動が発生する。
したがって、局所排気用ブロワ選定では、ダンパやインバータによる「調整余地(Turn Down)」を持たせた選定が必須です。
まとめ:数字の裏にある「物理」を読む
ブロワの仕様決定は、単なる数値合わせではありません。
以下の3要素のバランスを調整するエンジニアリングそのものです。
- 分子量: ターボ型のヘッド変動と、軸動力リスク(軽負荷・過負荷)の予測。
- 温度: 容量決定(夏)と動力決定(冬)の使い分け。
- 法規: 制御風速からの逆算と、過剰排気の防止。
これらを考慮せず「カタログの標準仕様」を選ぶと、現場で「吸わない」「止まる」「うるさい」というトラブルに直結します。
メーカー任せにせず、自らの意図を込めたデータシートを作成することが、トラブルのない安定運転への最短ルートです。
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