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液体の配管へ少量の気体が混じっただけなら、液単相の圧力損失に少し余裕を加えればよい——そう考えていないでしょうか。
管内に気体と液体、または液体と固体粒子が同時に存在すると、各相は同じ速度・同じ位置で流れません。水平管では気体が上へ、重い粒子が下へ偏ります。流量を変えると相の並び方そのものが変わり、圧力損失、振動、閉塞、摩耗も別の現象へ切り替わります。
この記事では、気液二相流と固液スラリーを「単相式へ補正係数を掛ける対象」ではなく、「最初に流動様式と相分布を決める対象」として説明します。流速の初期候補はPIP-15、液単相の圧力損失はPIP-16、ガス・蒸気の圧縮性はPIP-18、低差圧配管の気溜まり・液封はPIP-19を正本とします。
まず結論:二相流では計算式より先に相の存在理由を確認する
二相流・スラリー配管の設計は、管径や圧力損失の式から始めません。最初に、どの相が、どこで、なぜ生じ、運転中にどれだけ変わるかを確認します。
| 系 | 代表例 | 最初に確認すること | 主な設計リスク |
|---|---|---|---|
| 液単相 | 水、溶剤、油 | 密度、粘度、流量、内径 | 摩擦損失、キャビテーション、侵食 |
| 気液二相 | フラッシュ液、湿り蒸気、凝縮液を含むガス | 気液流量、発生・凝縮位置、流動方向 | スラグ、脈動、相分離、液溜まり、局所負圧 |
| 固液スラリー | 結晶、触媒、鉱物、汚泥を含む液 | 粒径分布、密度差、濃度、沈降性、レオロジー | 沈降、閉塞、摩耗、再起動不能 |
設計の順序は次のとおりです。
- 相の発生源と運転ケースを定義する
- 各相の実流量と物性を現地圧力・温度でそろえる
- 配管方向ごとの流動様式と相分布を予測する
- その流動様式に適用できる圧損・ホールドアップモデルを選ぶ
- スラグによる動的荷重、粒子沈降、摩耗、閉塞を別に評価する
- 起動、停止、低流量、気体吹抜け、停電、洗浄時にも成立させる

単相流の常識が破れる理由は「相間すべり」と「相分布」にある
単相流では、管断面積Aと体積流量Qから平均流速vを求めます。
v = Q/A
気液二相流では、気相と液相を別々に整理します。各相が管断面全体を単独で流れると仮定した速度を見掛け流速または空塔速度と呼びます。
jG = QG/A
jL = QL/A
- jG:気相の見掛け流速
- jL:液相の見掛け流速
- QG、QL:その位置の圧力・温度における気相・液相の実体積流量
- A:配管の全断面積
実際には、気相は管断面の一部AG、液相は残りのALを占めます。さらに気相と液相の速度は同じとは限りません。密度の小さい気相が液相より速く進むこともあれば、水平管の低流量域で上下に分離することもあります。これが相間すべりです。
管内で気相が占める体積割合をボイド率と呼びます。質量流量に占める気相割合であるクオリティとは別の量です。気体は密度が小さいため、質量割合が小さくても大きな管断面を占めることがあります。
したがって、気液二相流では次を一つに決められません。
- 各相が占める断面積
- 各相の実速度
- 混相部の平均密度
- 壁面と接する相
- 圧力損失と相分離の仕方

気液二相流は水平・垂直で流動様式が変わる
気液二相流の流動様式は、気液それぞれの見掛け流速、密度、粘度、表面張力、管径、傾斜、加熱・凝縮の有無などで変わります。水平管では重力が流れ方向と直交するため、気相は管頂側、液相は管底側へ偏ります。
水平管で見られる代表的な状態は次のとおりです。
気泡流・プラグ流
液相が連続し、気体が気泡または細長い気体プラグとして流れます。水平管では気泡と気体プラグが管頂側へ偏ります。
成層流・波状流
気相と液相が上下に分離します。流量が小さいと界面は比較的平滑ですが、気相流速が上がると界面が波打ちます。計器取出し、分岐、サンプリング位置によって採取する相が変わる状態です。
スラグ流
波が管頂へ達し、液体スラグが一時的に管断面を塞ぎます。気体ポケットと重い液体スラグが交互に流れるため、圧力と運動量が周期的に変動します。
環状流
中心部を気相が流れ、壁面に液膜が形成されます。水平管では重力のため管底側の液膜が厚く、管頂側が薄くなります。液膜切れ、液滴同伴、侵食、伝熱悪化の評価が必要です。
垂直上昇流では、気泡流、スラグ流、チャーン流、環状流が代表的です。同じ気液流量でも、水平部、立上り、立下り、傾斜部を通るたびに流動様式が変わり得ます。一本の配管系を一つの流動様式で代表させないことが重要です。

スラグ流は平均圧力損失より動的荷重が問題になる
スラグ流では、密度の小さい気体プラグと、管断面を満たす重い液体スラグが交互に通過します。直管では圧力・流量の周期変動となり、エルボやティーでは流れ方向を変える運動量も周期的に変わります。
平均流量と平均圧力損失が許容範囲でも、次の問題が起こり得ます。
- エルボ、分岐、閉止弁、機器ノズルへの繰返し荷重
- サポートのがた、配管振動、疲労き裂
- 流量計、差圧計、調節弁の指示・制御の周期変動
- セパレータや受入槽への液の間欠流入
- ガスライン下流機器への液キャリーオーバー
確認したいのは「スラグ流か否か」だけではありません。液体スラグの長さ、速度、頻度、液密度、エルボでの方向変化、支持剛性、ノズル許容荷重を組み合わせます。
現場で一定周期の振動が見えるときは、回転機械の回転数だけでなく、流量・圧力・液位の周期と配管振動の位相を同時に記録します。配管を手で押さえる、支持を無計画に追加する、弁を急に操作する行為は別の損傷や圧力変動を作るため、原因を確認してから対策します。

気液二相流の圧力損失は3つの成分に分ける
気液二相流の圧力変化は、概念的に次の3成分へ分けます。
Δp_total = Δp_static + Δp_acceleration + Δp_friction
静水頭成分
配管の高さ方向の変化と、管内の平均的な混相密度で決まります。混相密度は気液の流量比だけでなく、ボイド率と相間すべりに依存します。垂直・傾斜配管では大きな割合を占めます。
加速成分
減圧による気体膨張、液のフラッシュ、蒸発、凝縮などで密度と速度が変わると生じます。蒸発する配管で下流ほど気相量が増える場合、入口状態だけでは全長を代表できません。
摩擦成分
壁面摩擦に加え、気液界面のせん断、液膜、液滴、流動様式が影響します。単相のDarcy-Weisbach式で各相を別々に計算して足すだけでは、相分布と相互作用が抜けます。
初期検討では、目的と条件に応じて次のモデルを使い分けます。
| モデル | 考え方 | 向く用途 | 主な限界 |
|---|---|---|---|
| 均質流モデル | 気液が同じ速度で混ざると仮定 | 早い概算、すべりが小さい条件 | 成層・スラグ・大きな密度差を表しにくい |
| 分離流モデル | 気相と液相を別に扱い、相関で摩擦増加を求める | 適用範囲内の圧損予測 | 流動様式・物性・管径への適用条件がある |
| 機構論モデル・専用ソフト | 流動様式、ホールドアップ、相速度を連立して求める | 長距離、傾斜、スラグ、相変化を含む設計 | 入力品質とモデル選択、実績照合が必要 |
詳細計算では、使用する相関式またはソフト名、版、適用できる流体・管径・傾斜・圧力範囲、流動様式、入口条件、物性モデルを計算書へ残します。

スラリーは流速低下で浮遊から堆積へ状態が変わる
スラリーは、液体中に固体粒子が分散した固液二相流です。細かい粒子が高濃度で分散し、見掛け粘度や降伏応力を持つ均質系もあれば、粗い粒子が重力で沈降する不均質系もあります。
水平管内の沈降性スラリーでは、流速低下に伴って代表的に次の状態へ移ります。
- 不均一浮遊流:粒子は輸送されるが、管底側の濃度が高い
- 摺動層:管底の粒子層が流れながら、その上を浮遊粒子が通る
- 移動層:厚い粒子層が管底をゆっくり移動し、有効流路が狭くなる
- 静止堆積:管底の粒子が止まり、その上だけ液が流れる
静止層ができると、圧力損失が上がるだけでなく、有効断面が小さくなって局所流速が上がり、堆積と摩耗が同時に進むことがあります。差圧が上がったから単純に弁を開けると、狭くなった流路で粒子を高速衝突させる可能性があります。
一方、鉛直上昇流では粒子を持ち上げる速度、鉛直下降流では粒子の沈降速度との相対関係が支配します。水平、立上り、立下り、曲がりを同じ平均流速だけで判断しません。

最低輸送速度は固定値ではなく運転窓の下端である
粒子が管底へ沈積し続けないために必要な流速を、最低輸送速度または堆積限界速度として扱います。ただし、あらゆるスラリーへ使える一つの値はありません。
少なくとも次の条件が効きます。
- 粒子径と粒径分布
- 粒子密度と液密度の差
- 固体の体積濃度・質量濃度
- 液粘度とスラリーのレオロジー
- 管内径
- 粒子形状と沈降速度
- 水平・傾斜・鉛直、曲率半径
- 最小流量、通常流量、最大流量
低速側だけを見て流速を上げると、粒子衝突による管底・エルボ・縮径部・弁の摩耗、圧力損失、ポンプ動力が増えます。したがって、設計流速は「沈降しない下限」と「摩耗・動力を許容できる上限」の間に置きます。
PIP-15の標準流速は仮口径を決める入口です。PIP-20では、対象スラリーの試験データ、類似実績、粒径分布、適用範囲が明確な相関式または専用解析で最低輸送速度を確認します。高濃度・微粒子で非ニュートン性が強い場合は、見掛け粘度を一つ置くのではなく、せん断速度に対する流動曲線を使います。

ルート・機器・保全方法まで一つの系として設計する
二相流・スラリー配管は、圧力損失計算だけを終えても成立しません。相分離、沈降、洗浄、分解を配管ルートへ落とします。
ルート
- 不要な高点・低点・アップダウン・行き止まりを減らす
- 沈降性流体は、停止後に排出できる連続勾配を検討する
- 急な短径エルボを避け、長径エルボや交換可能な摩耗部を比較する
- 気液二相流の水平部、立上り、立下りの遷移を解析区間として分ける
- 分岐で気相・液相・粒子が偏ることを前提に取出し方向を決める
バルブ・計器・機器
- 粒子を噛み込みにくく、滞留空間の少ない弁構造を選ぶ
- 差圧取出し、流量計、サンプリング口が代表相を測れる位置か確認する
- ポンプ、調節弁、熱交換器、ストレーナの最小流路と通過粒径を確認する
- セパレータ、ノックアウトドラム、ドレン設備で相を分ける位置を決める
洗浄・停止・保全
- 洗浄水・パージの接続点、流れ方向、必要流量、排出先を決める
- 停電・緊急停止後に粒子が沈降した配管をどう再起動するか決める
- 低点ドレン、洗浄口、清掃口、分解フランジ、区分テスト範囲を設ける
- エルボ、管底、弁下流などの摩耗部を点検・交換できるようにする

設計計算は定常点だけでなく相が変わるケースを並べる
二相流・スラリー配管の設計は、次の順で進めます。
- 気体混入、フラッシュ、蒸発、凝縮、粒子析出、外部混入の発生源を特定する
- 最小・通常・最大流量、圧力、温度、各相の物性と組成をそろえる
- 気液では見掛け流速、固液では粒径分布・濃度・沈降性・レオロジーを整理する
- 水平、傾斜、立上り、立下り、分岐ごとに流動様式を予測する
- 適用可能なモデルで圧損、ホールドアップ、相速度、出口状態を求める
- スラグ頻度・力、粒子堆積、摩耗、液膜切れ、相分離を評価する
- 管径、ルート、セパレータ、弁、計器、支持、摩耗代・交換部を決める
- 起動、停止、低流量、閉塞、停電、洗浄、気体吹抜けを別ケースで確認する
計算書には入力値だけでなく、採用モデルの適用範囲と、どの区間をどの流動様式として扱ったかを残します。専用ソフトの結果も、圧力分布、ホールドアップ、流動様式、速度、温度のプロフィールを配管ルートと重ね、物理的に説明できるか確認します。

製造・保全で異常を切り分ける
二相流・スラリー配管の異常は、平均値だけを見ると見逃します。圧力、差圧、流量、液位、振動を同じ時間軸で確認します。
| 現象 | 疑う状態 | 確認すること |
|---|---|---|
| 圧力・流量・振動が一定周期で変動 | スラグ流、液封の吹抜け | 周期の一致、低点液位、上流液位、ガス量、エルボ振動 |
| 差圧が時間とともに増える | 粒子堆積、ストレーナ閉塞、固化 | 最小流量、温度、停止時間、洗浄前後差圧、排出物 |
| 起動直後だけ流れない | 沈降層、液封、ベント不良 | 停止時排出、呼び液、パージ、弁順序、再懸濁方法 |
| エルボや管底の減肉が速い | 粒子・液滴衝突、局所高速 | 流速、粒径、流れ方向、曲率半径、減肉分布 |
| 流量計だけ不安定 | 相分離、気泡、粒子偏り | 計器方式、取付姿勢、上流直管、満管、サンプリング状態 |
| 下流機器へ液や粒子が周期的に入る | 気液スラグ、セパレータ容量不足 | 上流流動様式、分離器液位、ドレン能力、ガス吹抜け |
運転条件を変えて原因を探る場合は、圧力限界、振動、摩耗、反応・相変化、安全弁放出先を確認したうえで、小さい変更幅と監視項目を決めます。流速を上げる、弁を絞る、ベントするという操作は、別の場所でフラッシュ、スラグ、摩耗、可燃性放出を起こす可能性があります。
よくある間違い
平均密度を入れれば液単相のDarcy式で計算できる
平均密度だけでは、相間すべり、ホールドアップ、相界面摩擦、流動様式の変化を表せません。均質流モデルを使う場合も、同一速度の仮定が成立する範囲を明記します。
気相質量割合が小さいから影響も小さい
気体は密度が小さいため、質量割合が小さくても大きな体積と管断面を占めます。現地圧力・温度の体積流量とボイド率を確認します。
流動様式線図の一点で配管全長を代表する
圧力低下、温度、蒸発・凝縮、管径、傾斜が変われば、見掛け流速と流動様式も変わります。ルートを区間分割します。
平均圧力損失が許容ならスラグ流でも問題ない
スラグ流は周期的な運動量変動を生みます。エルボ、支持、ノズルの動的荷重と疲労を別に評価します。
スラリーは流速を上げれば閉塞しない
沈降は減っても、摩耗、動力、ポンプ・弁の損傷が増えます。最低輸送速度と許容上限の間で選びます。
通常流量で流れれば停止後も再起動できる
停電や長時間停止で粒子が堆積すると、通常運転時より大きな力が必要です。停止時排出、洗浄、再懸濁、バイパスを運転手順まで含めて決めます。
設計レビューで確認したい8項目
- 気体・液体・固体が、どこで発生・消滅・分離するかをP&IDとラインリストへ反映したか
- 各相流量は現地圧力・温度の実流量か。最小・通常・最大ケースをそろえたか
- 水平、傾斜、立上り、立下り、分岐ごとに流動様式を確認したか
- 圧損モデルの適用範囲、ホールドアップ、相間すべり、物性モデルを記録したか
- スラグ流の周期荷重をエルボ、支持、機器ノズルで確認したか
- スラリーの最低輸送速度と最大許容流速を対象粒子・濃度・管径で確認したか
- 停止後の排出、洗浄、再起動、清掃、分解、摩耗部交換ができるか
- 計器・調節弁・ポンプ・熱交換器・セパレータが二相・粒子条件へ適合するか
まとめ
- 二相流・スラリー配管は、計算式より先に相の発生源と流動様式を確認する
- 気液二相流では、見掛け流速、ボイド率、相速度、相間すべりを区別する
- 水平管と垂直管では重力の作用が異なり、同じ流量でも流動様式が変わる
- スラグ流は平均圧損だけでなく、エルボ・支持・ノズルへの周期的な動的荷重を評価する
- 気液二相の圧力変化は、静水頭、加速、摩擦の3成分に分ける
- 水平スラリーは流速低下で不均一浮遊、摺動層、移動層、静止堆積へ移る
- 最低輸送速度は固定値ではなく、粒径、密度差、濃度、粘度、管径等で変わる
- スラリー流速は沈降下限と摩耗・動力上限の間に置く
- ルート、長径エルボ、ベント・ドレン、洗浄、清掃、分解、再起動まで一つの系として設計する
単相流では一本の抵抗曲線で整理できた配管も、複数相になると流量変化に伴って管内の状態そのものが変わります。平均値を精密に計算する前に、相がどこに存在し、どちらが連続相で、どの異常が時間変動として現れるかを描くことが、二相流・スラリー配管設計の出発点です。
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参考文献
- 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』第2分冊 PDF p.99-105(紙面p.270-276、固液混相流、最低輸送速度、気液二相流の流動様式・圧力損失・ボイド率。Amazonリンク先は改訂七版) Amazonで見る
- 日本機械学会『伝熱工学』PDF p.155-156(紙面p.141-142、垂直上昇流・水平流の気液二相流動様式) Amazonで見る
- 西野悠司『絵とき「配管技術」基礎のきそ』PDF p.112(紙面p.106、スラグ流・プラグ流による運動量変動と配管振動) Amazonで見る
- 化学工学会編『プロセス機器構造設計シリーズ3 配管』PDF p.156(紙面p.145、スラリー配管の勾配・長径エルボ・分解・洗浄・清掃性)
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