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学識・型8|熱化学|ヘスの法則と、総発熱量と真発熱量の差はどこから来るか【甲種化学】

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困っている人
困っている人

生成エンタルピーから燃焼熱を出すとき、符号でいつも混乱する。

総発熱量と真発熱量、どちらが大きいのか説明できない。

そんな悩みを解決します。

この記事の内容

単独の大問にはならない。ただし10回中6回で下位工程として出る

計算は Σ生成物 − Σ反応物 の1本だけ

総発熱量と真発熱量の差 = 水の蒸発潜熱(記述で2回出た)

H₂O が (g) か (l) かで答えが変わる ── 最頻出の失点

型9(燃焼・爆発)とセットで練習する型です。単体で出ないので、ここだけ対策する必要はありません。

この型には、はっきりした特徴があります。

令和2〜6年度の60大問で、型8が主役になった回はゼロ。

しかし従として6回登場しています。すべて型9(燃焼・爆発)の中で、「まず反応熱を出す」という最初の一手として現れました。

だから型8だけを切り出して練習するより、型9とセットでやるほうが実戦的です。

型9は型9|燃焼・爆発の計算、型別の全体像は計算10の型を参照してください。

従として6回、記述として2回

年度・ルート・問どこで使われたか
R2 国試 問5硝酸エチルの爆発熱(ベンソン法)→ TNT換算
R4 国試 問5プロパン・ブタンの燃焼熱 → 断熱火炎温度
R6 国試 問5プロパンの燃焼熱 → バージェス・ホイーラー
R2 検定 問3反応の ΔH → アレニウス
R3 検定 問4アセトアルデヒドの爆発熱 → TNT換算
R4 検定 問4プロパン・ブタンの燃焼熱 → 断熱火炎温度
R6 国試 問6(2)総発熱量と真発熱量の違い(記述)
R6 検定 問6(3)真発熱量と総発熱量(記述)

計算の入口としてが6回、記述としてが2回。 出題頻度は決して低くありません。

使う式は3つ

① 反応エンタルピー(ヘスの法則)

ΔH = Σ(生成物のΔHf°) − Σ(反応物のΔHf°)

単体の ΔHf° は 0(O₂・N₂・H₂・C(黒鉛) など)

② 燃焼熱と反応エンタルピー

燃焼熱 Qc = −ΔH(発熱反応の ΔH は負)

③ 総発熱量と真発熱量

総発熱量(高位)= 真発熱量(低位)+ 水の蒸発潜熱

これだけです。 型8は覚える量が最も少ない型です。

ヘスの法則 ── 経路によらない

法則の内容

反応熱は、始めの状態と終わりの状態だけで決まる

→ 途中の経路(どんな中間段階を通ったか)に依存しない

エンタルピーが状態量だからです。位置エネルギーが経路によらないのと同じ。

だから生成エンタルピーから計算できる

すべての化合物について「単体から作るときの熱」を測っておけば、任意の反応の熱が計算できます。

考え方

反応物 → いったん単体に戻す(−Σ反応物のΔHf)

単体 → 生成物を作る(+Σ生成物のΔHf)

合計 = Σ生成物 − Σ反応物

「生成物マイナス反応物」の順番は、この経路から来ています。 丸暗記ではなく、遠回りの経路として理解すると符号を間違えません。

令和6年度 国家試験 問5(1) で確認する

プロパンの燃焼熱を求めよ。標準生成エンタルピーは
プロパン −104.7、CO₂ −393.5、H₂O(g) −241.8[kJ/mol]

手順1:反応式を書く

C₃H₈ + 5 O₂ → 3 CO₂ + 4 H₂O

手順2:Σ生成物 − Σ反応物

ΔH = [3×(−393.5) + 4×(−241.8)] − [(−104.7) + 5×0]

= [−1,180.5 − 967.2] + 104.7

= −2,147.7 + 104.7 = −2,043 kJ/mol

手順3:燃焼熱に直す

Qc = 2,043 kJ/mol

O₂ の項が 5×0 = 0 です。単体だから。ここを書き落としても答えは合いますが、答案には 「単体のΔHf°は0」 と明記しておくと減点されません。

符号のチェック:燃焼は必ず発熱なので ΔH は負、Qc は正。 ここが逆になったら計算ミスです。

反応式の係数合わせ

ここで間違えると全部間違えます。 手順を固定してください。

  1. C を合わせる(CO₂ の係数が決まる)
  2. H を合わせる(H₂O の係数が決まる)
  3. O を数えて O₂ の係数を決める
物質反応式
メタン CH₄CH₄ + 2 O₂ → CO₂ + 2 H₂O
エタン C₂H₆C₂H₆ + 3.5 O₂ → 2 CO₂ + 3 H₂O
プロパン C₃H₈C₃H₈ + 5 O₂ → 3 CO₂ + 4 H₂O
ブタン C₄H₁₀C₄H₁₀ + 6.5 O₂ → 4 CO₂ + 5 H₂O
水素 H₂H₂ + 0.5 O₂ → H₂O
メタノール CH₃OHCH₃OH + 1.5 O₂ → CO₂ + 2 H₂O

分数の係数を怖がらないでください。 1 mol あたりの燃焼熱を出すには、燃料の係数を1にしておくほうが速い。

メタノールで O₂ が1.5 なのは、分子内にすでに O が1つあるからです。含酸素化合物は要注意。

総発熱量と真発熱量 ── 記述で2回出た

定義

総発熱量(高位発熱量、HHV):生成した水が液体になるまでの熱量

真発熱量(低位発熱量、LHV):生成した水が気体のままの熱量

差 = 水の蒸発潜熱

どちらが大きいか

総発熱量のほうが大きい。

水蒸気が凝縮するとき、潜熱が放出されます。その分だけ総発熱量が上乗せになります。

式で書くと

HHV = LHV + n_H₂O × ΔH_vap

水の蒸発潜熱 ΔH_vap ≒ 44 kJ/mol(25℃)

プロパンで計算してみる

プロパン1 molを燃やすと H₂O が4 mol できる。
H₂O(g)基準の燃焼熱が2,043 kJ/mol のとき、H₂O(l)基準では?

〔解答〕

HHV = 2,043 + 4 × 44 = 2,043 + 176 = 2,219 kJ/mol

差は約8.6%

1割近く違います。 どちらの値を使うかで答えが変わるので、問題文の H₂O(g)/(l) は必ず確認してください。

生成エンタルピーの値でも確認できる

物質ΔHf°[kJ/mol]
H₂O(g)−241.8──
H₂O(l)−285.844.0

この44.0が蒸発潜熱そのものです。問題文で与えられた値がどちらかを見れば、答えの基準が分かります。

実務ではどちらを使うか

通常は真発熱量(LHV)です。

実際の燃焼装置では、排ガスは水蒸気のまま煙突から出ていきます。凝縮潜熱は回収できません。

潜熱まで回収する装置が「潜熱回収型(エコキュート・エコジョーズ等)」です。効率が100%を超えて見えるのは、LHV基準で表示しているから。

記述の答案例

「総発熱量と真発熱量の違いを説明せよ」への解答例

燃料の燃焼により生成した水が液体として存在する状態を基準とした発熱量を総発熱量(高位発熱量)気体(水蒸気)のまま存在する状態を基準とした発熱量を真発熱量(低位発熱量)という。

両者の差は生成した水の蒸発潜熱に等しく、総発熱量のほうが大きい。

実際の燃焼設備では排ガス中の水は水蒸気のまま排出され潜熱を回収できないため、熱効率の評価には通常真発熱量が用いられる。

「蒸発潜熱」という語を必ず入れてください。 ここが採点の核です。

詳しくはヘスの法則と生成エンタルピーで扱います。

ベンソン法による推算 ── 10回中1回(R2国試問5)

生成エンタルピーが与えられていない物質について、分子構造から推算する方法です。

考え方

分子を原子団(基)に分解する

各基の寄与を足し合わせる

ΔHf° = Σ(各基の寄与)

寄与の値は問題文に与えられます。 やることは足し算だけです。

硝酸エチル(C₂H₅ONO₂)のような、表に載っていない物質の爆発熱を出すために使われました。

試験での問われ方

  1. 与えられた基の寄与から ΔHf° を求めよ
  2. そこから爆発熱(または燃焼熱)を求めよ
  3. TNT換算して影響を評価せよ

①は足し算だけなので、確実に取れます。

その先の TNT換算は型9|燃焼・爆発の計算TNT換算とホプキンソンの三乗根法則を参照してください。

この型の練習のしかた

  1. 6物質の反応式を書く(メタン・エタン・プロパン・ブタン・水素・メタノール)
  2. Σ生成物 − Σ反応物 で燃焼熱を出す(プロパンで1回やれば十分)
  3. H₂O(g) と (l) で答えがどれだけ違うかを1回計算する
  4. 総発熱量と真発熱量の説明を、150字程度で書いてみる

①に10分、あとは型9の練習の中で自然に身につきます。 単独で時間を使う型ではありません。

よくある失点

失点対策
H₂O が (g) か (l) かを確認しない問題文の記号を丸で囲む
単体の ΔHf° を0でないと思うO₂・N₂・H₂・C(黒鉛) はすべて0
生成物と反応物を逆にする「単体に戻してから作る」経路で覚える
符号を間違える燃焼は発熱 → ΔH は負、Qc は正
反応式の係数を間違えるC → H → O の順で合わせる
含酸素化合物で O₂ を数え間違える分子内の O も勘定に入れる

暗記カードにするならこれだけ

計算(1本だけ)

ΔH = Σ(生成物ΔHf°) − Σ(反応物ΔHf°)

単体の ΔHf° = 0

燃焼熱 Qc = −ΔH(燃焼は発熱なので Qc は正)

反応式(暗算できるように)

CH₄ + 2O₂ → CO₂ + 2H₂O

C₂H₆ + 3.5O₂ → 2CO₂ + 3H₂O

C₃H₈ + 5O₂ → 3CO₂ + 4H₂O

C₄H₁₀ + 6.5O₂ → 4CO₂ + 5H₂O

CH₃OH + 1.5O₂ → CO₂ + 2H₂O(分子内のOに注意)

総発熱量と真発熱量

総(高位・HHV)= 水が液体

真(低位・LHV)= 水が気体

差 = 水の蒸発潜熱(約44 kJ/mol)

総 > 真。実務では通常真発熱量を使う

H₂O(g) −241.8 / H₂O(l) −285.8 差が44.0

ベンソン法

分子を原子団に分解して足すだけ

表にない物質の ΔHf° を推算するために使う

まとめ

  • 型8は単独の大問にならない(60大問中0回)
  • しかし従として6回、すべて型9の入口として出ている
  • 計算は Σ生成物 − Σ反応物 の1本だけ
  • 単体の ΔHf° は 0
  • H₂O が (g) か (l) かで答えが約1割変わる
  • 総発熱量 − 真発熱量 = 水の蒸発潜熱(記述で2回出た)
  • 実務では真発熱量(LHV)を使う
  • 対策は型9とセットで。単独で時間を使わない

燃焼・爆発の本体は型9|燃焼・爆発の計算へ。

次は型10(流動・伝熱・材料力学)です。5年間で出題ゼロという結果でしたが、理由も含めて扱います。→ 型10|流動・伝熱・材料力学

型の全体像は計算10の型、学識全体の攻略は学識の出題マップへ。

出典:高圧ガス保安協会『甲種化学・機械 試験問題集 令和7年度版』甲種化学編。集計は令和2〜6年度の国家試験5回・技術検定5回、計60大問を筆者が型に仕分けして独自に行ったものです。設問の要約と解法の解説にとどめ、問題文そのものの転載は行っていません。