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熱交換器で起きる事故って、どんなものがある?
運転中は安全なら大丈夫?
そんな悩みを解決します。
・熱交換器で事故が起きる5つの場面
・運転中より危ないのは「止めてから」だという話
・2014年 三菱マテリアル四日市の事故が示したこと

私の仕事は化学プラントの設計です。
熱交換器を、性能ではなく安全の側から見直します。
熱交換器の事故というと、チューブが破れて高圧側の流体が噴き出す場面を思い浮かべるかもしれません。それも確かにありますが、実際に人が亡くなっている事故の多くは、機器を止めて、開けているときに起きています。
運転中は流体が動き、温度が管理され、計器が監視しています。ところが止めた瞬間、それらがすべてなくなります。残っているのは、設計者が意図していなかった堆積物と、逃げ場を失った液です。
・熱交換器の事故は運転中・停止操作中・開放洗浄中・保全中・再起動時の5場面で起きます。
・運転中のリスク(チューブ破損・液封・冷却喪失)は設計で手を打てます。
・開放洗浄中が最も見落とされます。装置内には設計時に想定していない物質が溜まっています。
・2014年の三菱マテリアル四日市の事故は、無害化処理そのものが、より危険な物質を作った事例です。
・「安全処理をした」ことと「安全になった」ことは別です。
熱交換器で事故が起きる5つの場面
| 場面 | 起きること | 主な原因 |
|---|---|---|
| 運転中 | チューブ破損、内部漏れ、冷却喪失 | 腐食・エロージョン・振動、用役の停止 |
| 停止操作中 | 液封による過圧 | 弁で閉じ込めた液が外部から加熱される |
| 開放・洗浄中 | 堆積物の爆発・発火、有害ガスの放出 | 設計時に想定していない副生成物 |
| 保全作業中 | 酸欠、有害ガス曝露、落下 | 窒素置換、残留物、管束の吊り上げ |
| 再起動時 | 熱衝撃、水撃、暴走反応 | 急な昇温、残留水、除熱不足 |
運転中のリスクは設計で手を打てる
運転中の3つは、設計段階で対策を織り込めます。詳細は別記事に譲り、ここでは要点だけ整理します。
| リスク | 起きること | 設計での手当て |
|---|---|---|
| チューブ破損 | 高圧側の流体が低圧側へ流入し、低圧側を過圧させる | 低圧側の設計圧力を高圧側の10/13以上にする、または逃がし装置 |
| 液封(熱膨張) | 弁で閉じ込められた液が温まり、圧力が急上昇する | サーマルリリーフ弁。閉じ込め空間をP&IDで洗い出す |
| 冷却喪失 | 除熱が止まり、反応暴走や塔の過圧に至る | 独立した防護層(高温インターロック、緊急冷却、緊急脱圧) |
| 内部漏れ | 両流体が混ざる。環境汚染または製品汚染 | 材質選定、渦流探傷、導電率などの監視 |
ここまでは「設計の話」です。問題はこの先です。
2014年 三菱マテリアル四日市 ― 洗浄のために外した熱交換器が爆発した
2014年1月9日、三菱マテリアル四日市工場で、洗浄のために取り外した熱交換器が開放作業中に爆発しました。死者5名、負傷者13名。
重要なのは、運転中の設備ではなかったことです。ラインから切り離し、1か月以上かけて安全処理をしたうえで、蓋を開けている最中の事故でした。
何が溜まっていたのか
この工場は高純度多結晶シリコンを製造しています。約1,000℃の反応で目的物を得る過程で、クロロシランポリマー類という副生成物ができます。これがガスとともに流れ、下流の熱交換器の中に溜まっていきます。
ここが第一の教訓です。装置の中に溜まるのは、設計者が意図した物質ではありません。プロセスフローに書かれていない物質が、時間をかけて蓄積していきます。
無害化処理が、より危険な物質を作った
クロロシランポリマーは水と反応させて加水分解し、無害化する方針が取られました。考え方としては正しい処理です。実際に行われた順序は次のとおりです。
| 時期 | 作業 |
|---|---|
| 2013年11月27日 | 熱交換器を製造ラインから切り離し、搬出 |
| 11月28日〜12月2日 | ドライ窒素ブロー |
| 12月3日〜12月27日(20日間) | 加湿窒素ブロー(表面を加水分解する処理) |
| 2014年1月6日〜8日(3日間) | 乾燥(ドライ窒素ブロー) |
| 1月9日 | 開放作業 → 爆発 |
問題は、この加水分解が途中で止まると何が残るかでした。生成した加水分解物は、元のポリマーより打撃感度が大幅に高い物質だったのです。そのうえ最後の3日間の乾燥で水分が失われ、より鋭敏な状態になっていました。
深部までは水分が届いておらず、処理は表面にとどまっていた。つまり「20日もかけて無害化した」という事実は、中身が安全になったことを意味していませんでした。
この事故が熱交換器の設計者に突きつけるもの
① 「何が溜まるか」を設計段階で考える
プロセス設計では、目的物と主要な副生成物までは検討します。しかし微量でも時間をかけて蓄積する物質は、物質収支の桁に埋もれて見えなくなります。
熱交換器は温度が下がる場所であり、そうした物質が集まる場所です。「この機器の中に、10年運転したら何が溜まっているか」を、設計時に一度は問うべきです。
② 洗浄方法まで含めて設計する
機器の形式を選ぶ時点で、清掃方法は決まってしまいます。U字管を選べばチューブ内の機械清掃は永久にできません。シェル側は管束を引き抜いても管と管の隙間には手が入りません。
「化学洗浄で済むのか、機械清掃が必要なのか」を、堆積物の性質とあわせて設計段階で決めておく必要があります。
③ 処理でできる物質を調べる
無害化処理、中和、置換、パージ。いずれも化学反応です。反応である以上、生成物があります。
その生成物が元の物質より危険でないことを、SDSや文献ではなく実際の生成物について確認する必要があります。四日市の事故では、加水分解物の打撃感度が調べられていませんでした。
④ 「処理をした」と「安全になった」を分ける
処理の実施記録は「作業をした証拠」であって「安全である証拠」ではありません。深部まで届いたか、反応が完結したか、副生成物は何か。これらが確認できて初めて、開放してよいと判断できます。
保全・開放作業での他のリスク
窒素置換が酸欠空間を作る
可燃性ガスの置換に窒素を使うのは正しい判断ですが、その結果できるのは酸素のない空間です。大型の熱交換器のシェル内やチャンネル内は限定空間にあたります。
無臭・無色で、数呼吸で意識を失います。「危険なガスは追い出した」という認識が、かえって油断を生みます。
隔離が不十分なまま開ける
「弁を閉めた」は隔離ではありません。弁は漏れます。開放作業では、閉止板(ブラインド)による物理的な隔離が要ります。作業許可とLOTOの手続きが機能しているかが問われる場面です。
管束の吊り上げ
管束は重量物です。引き抜きには機器長と同等のスペースとクレーンが要ります。重量とクレーン能力の確認、吊り荷の下への立入禁止といった基本が、定修の混雑した現場では崩れがちです。
残留物の自然発火
硫黄分を含む流体を扱った機器では、内面に硫化鉄が生成していることがあります。これが開放によって空気に触れると酸化発熱し、自然発火に至ることがあります。
開放後に湿潤状態を保つ、速やかに除去するといった対応が要ります。
再起動時のリスク
・熱衝撃 蒸気の急投入や冷却水の急停止で、チューブと管板に大きな熱応力がかかる
・残留水 洗浄後の水が残ったまま高温流体を入れると、急激な蒸発で水撃や過圧が起きる
・除熱不足 熱交換器を戻す前に反応を始めてしまうと、除熱が追いつかない
起動・停止は定常運転と条件が違います。手順書に温度上昇率や確認項目まで書かれているか、確認してください。
設計者にできること
設計段階
・この機器に何が溜まるかを問う(微量でも蓄積するもの)
・堆積物の性質に合う清掃方法を決め、それができる形式・型式を選ぶ
・管束引抜きスペースとクレーン能力を確保する
・液封になる箇所を洗い出し、サーマルリリーフ弁を設ける
・低圧側の設計圧力を高圧側の10/13以上にする
運用に引き継ぐこと
・何が溜まる想定か、その物質の危険性
・想定している洗浄方法と、その処理でできる物質
・開放前に確認すべきこと(隔離、酸素濃度、残留物)
まとめ
・熱交換器の事故は運転中・停止操作中・開放洗浄中・保全中・再起動時の5場面で起きます。
・設計の教科書が扱うのは運転中ですが、死亡事故が多いのは開放洗浄中と保全中です。
・熱交換器は温度が下がる場所であり、設計者が意図していない物質が集まる場所でもあります。
・2014年 三菱マテリアル四日市の事故は、無害化処理が元より危険な物質を作り、最後の乾燥がそれを鋭敏にした事例です。
・「処理をした」ことと「安全になった」ことは別です。処理でできる物質の性質を確認してください。
・設計者が知っている「何が溜まるか」を、開ける人に届く形で残すことが対策の要です。
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