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沸騰伝熱とリボイラ【温度差を上げすぎてはいけない理由】

沸騰伝熱とリボイラ【温度差を上げすぎてはいけない理由】

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リボイラってどう選ぶの?

ケトル型とサーモサイフォンの違いは?

そんな悩みを解決します。

この記事の内容

・沸騰曲線と、設計を核沸騰域に留める理由

・ケトル型・サーモサイフォン・強制循環の使い分け

・限界熱流束(バーンアウト)と設計熱流束の目安

私の仕事は化学プラントの設計です。
蒸留塔のリボイラを念頭に、形式選定の判断基準を整理します。

リボイラは蒸留塔の心臓部です。塔底液を加熱して蒸気を発生させ、それが塔内を上昇して分離を駆動します。ここが止まれば塔は止まります。

沸騰を伴うため、設計には顕熱の熱交換にはない制約が加わります。最大の違いは、温度差を大きくしすぎると性能が急落するという点です。

この記事の結論

・沸騰には核沸騰膜沸騰があり、その境界が限界熱流束(バーンアウト点)です。

・限界熱流束を超えると蒸気膜が伝熱面を覆い、熱伝達率が1桁落ちて壁温が急上昇します。

・設計は核沸騰域に十分な余裕を持って留めます。有機液の設計熱流束は20〜40 kW/m2が目安です。

・形式はケトル型・サーモサイフォン・強制循環の3つ。汚れやすさ、真空度、熱に対する敏感さで選びます。

・サーモサイフォンは自然循環なので圧力損失をほとんど許容できません

沸騰曲線 ― 温度差を上げすぎてはいけない

伝熱面と液の温度差を少しずつ上げていくと、熱流束は次のように変化します。

領域温度差 ΔT の目安(水・常圧)起きていること熱流束
自然対流〜 5 K気泡が生じない。液の自然対流のみ小さい
核沸騰5 〜 30 K伝熱面から気泡が次々に発生し離脱する急激に増える
遷移沸騰30 〜 120 K気泡が合体し、部分的に蒸気膜ができる減っていく
膜沸騰120 K 〜伝熱面全体が蒸気膜で覆われる再び増えるが低い水準

核沸騰がなぜ高性能なのか

核沸騰では、伝熱面の微小なくぼみ(発泡核)から気泡が発生し、成長して離脱します。気泡が離れた跡には周囲の液が勢いよく流れ込みます。

この気泡の生成と離脱による激しい撹拌が、伝熱面近傍の境界層を絶えず壊します。だから熱伝達率が数千〜数万 W/(m2・K) という高い値になります。

限界熱流束(バーンアウト)

温度差を上げ続けると、気泡の発生が激しくなりすぎて隣り合う気泡が合体し始めます。やがて伝熱面が連続した蒸気膜で覆われます。

蒸気は液に比べて熱伝導率が2桁小さいため、この膜は強力な断熱層になります。熱流束が最大となる点が限界熱流束(CHF:Critical Heat Flux)です。

危険なのはここから先です。加熱側が蒸気や電気ヒータのように熱流束を維持しようとする場合、伝熱が悪化した分だけ壁温が急上昇します。材料の許容温度を超えれば破損に至ります。これがバーンアウトです。

蒸気加熱のリボイラでは、蒸気側の温度が一定なので壁温の暴走は起きにくいのですが、それでも能力が落ちて塔が運転できなくなるという形で問題が出ます。

設計熱流束の目安

限界熱流束は流体と圧力で大きく変わります。実務では、限界熱流束に対して十分な余裕を取った設計熱流束を使います。

流体限界熱流束の目安設計熱流束の目安
水(常圧)800 〜 1,100 kW/m230 〜 60 kW/m2
軽質有機液(常圧)200 〜 350 kW/m220 〜 40 kW/m2
重質有機液・高粘度150 〜 250 kW/m210 〜 25 kW/m2
減圧下低下するさらに低く取る

設計熱流束が限界熱流束よりずっと低いのは、安全余裕だけが理由ではありません。汚れによる伝熱面の劣化や、局所的な熱流束の偏りを見込む必要があるためです。管束の一部だけ熱流束が高くなれば、そこが局所的にバーンアウトします。

温度差でいうと

設計熱流束を守るということは、加熱媒体と塔底液の温度差を制限するということです。有機液のリボイラでは、温度差を20〜40 K程度に抑えるのが一般的です。

「もっと高圧の蒸気を使えば能力が上がる」というのは、リボイラでは成り立ちません。温度差を上げすぎると、かえって能力が落ちます。

能力を上げたいなら、温度差ではなく伝熱面積を増やします。

このツールで確かめる

設計熱流束が目安に収まっているかは、熱負荷と伝熱面積が分かればすぐ確認できます。限界熱流束(バーンアウト)に対してどの位置にいるかも同時に出します。

リボイラの設計熱流束チェック

熱負荷と伝熱面積から熱流束を出し、設計目安と限界熱流束(バーンアウト)に対してどの位置にいるかを判定します。

熱負荷

流体と運転条件

熱流束の位置

緑が設計目安。オレンジから先は余裕が乏しい領域。赤の限界熱流束を超えると蒸気膜が伝熱面を覆い、性能が急落する。

熱負荷 Q
熱流束 q = Q/A
設計目安
限界熱流束の目安
限界に対する比
目安に収める面積
流体・条件設計熱流束の目安限界熱流束の目安

ここでの値は桁を掴むための目安です。実際の限界熱流束は圧力・組成・伝熱面の状態・液面高さで変わります。最終的な保証はメーカーの計算に委ねてください。

設計熱流束が限界熱流束よりずっと低いのは、安全余裕だけが理由ではありません。汚れによる劣化管束内での熱流束の偏りを見込む必要があるためです。一部だけ熱流束が高ければ、そこが局所的にバーンアウトします。

能力を上げたいときは温度差ではなく伝熱面積を増やします。高圧蒸気に変えて温度差を広げると、限界熱流束を超えてかえって能力が落ちます。

伝熱面積を小さくしていくと、緑の設計目安を超え、やがて赤の限界熱流束に入ります。限界を超えると蒸気膜が伝熱面を覆い、性能が急落します。能力を上げたいときに温度差ではなく面積を増やす理由が、この帯の位置関係で分かると思います。

3つの形式と使い分け

ケトル型リボイラ(TEMA K形)

構造:シェル径を拡大し、液を溜めた中に管束を沈める。上部の空間で気液分離する

長所:構造が単純で運転が安定。気液分離が確実。高い蒸発率が取れる(100%蒸発も可)

長所:塔と独立しているため、塔側の条件に左右されにくい

短所:シェルが大きく高価。保有液量が多い。液が長く滞留するため熱に弱い液には不向き

短所:シェル側の汚れに弱い(機械清掃が困難)

最も広く使われる標準形式です。「迷ったらケトル」で大きな失敗はありませんが、保有液量が多いことが安全上の弱点になる場合があります(危険物の量が増える)。

サーモサイフォンリボイラ

構造:塔底液を自然循環させながら部分的に蒸発させる。縦型と横型がある

駆動力:塔底の液柱と、蒸発して軽くなった気液混合物との密度差だけ

長所:ポンプ不要。保有液量が少ない。滞留時間が短く熱に弱い液に向く

長所:コンパクトで安価

短所圧力損失をほとんど許容できない。設計が繊細

短所:塔底液面の高さに性能が依存する。運転範囲が狭い

最大の注意点が圧力損失です。循環の駆動力が密度差しかないため、配管やリボイラ内の圧力損失が大きいと循環が止まります

循環が止まると伝熱面が蒸気で覆われ、能力が急落します。しかも、いったん止まると自然には回復しにくい。

サーモサイフォンでは、配管の口径・長さ・曲がりの数まで性能に効きます。据付高さも設計条件です。「配管は現場で決める」という進め方はできません。

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蒸発率(循環する液のうち蒸発する割合)は10〜30%程度に抑えます。蒸発率を上げすぎると、伝熱面が乾いて(ドライアウト)性能が落ちます。

強制循環リボイラ

構造:ポンプで液を強制的に循環させる

長所:流速を任意に設定できる。汚れやすい液・高粘度液・スラリーに対応できる

長所:圧力損失の制約から解放される。運転範囲が広い

長所:加圧により伝熱面での沸騰を抑え、下流で減圧沸騰させることもできる(析出防止)

短所:ポンプの初期費用と動力費。ポンプが故障すれば止まる

汚れやすい液、固形分を含む液、あるいは高粘度で自然循環が成立しない液では、強制循環が唯一の選択肢になります。

選定の早見表

条件第1候補理由
標準的な液、高い蒸発率が必要ケトル型構造が単純で安定
熱に弱い液(重合・分解しやすい)サーモサイフォン滞留時間が短い
保有液量を減らしたい(危険物)サーモサイフォン保有量が少ない
汚れやすい液・スラリー強制循環流速を確保できる
高粘度液強制循環自然循環が成立しない
真空蒸留強制循環またはケトルサーモサイフォンは圧損の制約が厳しい
コンパクトさ・安価サーモサイフォン

実務上の注意点

汚れは沸騰側で加速する

沸騰では、液が蒸発して溶質が濃縮されます。伝熱面のすぐ近くで溶解度を超えれば、そこに析出します。

つまり沸騰側は本質的に汚れやすい環境です。しかも汚れて伝熱が悪化すると、同じ熱量を通すのに壁温が上がり、汚れがさらに加速します。

塔底に高沸点成分や重合物が濃縮する蒸留塔では、リボイラの汚れが運転周期を決めることがよくあります。清掃できる構造(管束が引き抜けるか、チューブ内が直管か)を必ず確認してください。

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減圧下では沸騰が起きにくい

圧力が下がると、気泡が発生するために必要な過熱度が大きくなります。真空蒸留では、設計どおりの温度差でも沸騰が始まらない、ということが起こり得ます。

また減圧下では蒸気の体積が大きくなり、気液分離とシェル側の圧力損失が問題になります。

多成分系では温度が一定でない

純物質なら沸騰中の温度は一定ですが、沸点範囲を持つ多成分系では、軽質分から蒸発するため液の温度が上がっていきます

有効温度差が場所によって変わるため、ゾーン分割した計算が必要になります。凝縮器と同じ考え方です。

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まとめ

・沸騰は核沸騰域で最も高性能です。温度差を上げすぎると限界熱流束を超え、蒸気膜が伝熱面を覆って性能が急落します。

・設計熱流束の目安は、水で30〜60 kW/m2、有機液で20〜40 kW/m2。局所的な偏りと汚れを見込んだ値です。

・能力を上げたいときは温度差ではなく伝熱面積を増やします。高圧蒸気に変えても解決しません。

・ケトル型は安定で標準的。サーモサイフォンは滞留時間が短く熱に弱い液向き。強制循環は汚れ・高粘度に対応できます。

・サーモサイフォンは圧力損失をほとんど許容できません。配管の口径・長さ・据付高さまでが設計条件です。

・沸騰側は溶質が濃縮するため本質的に汚れやすい。清掃できる構造かを必ず確認します。

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参考文献

  • 尾花英朗『熱交換器設計ハンドブック(増訂版)』工学図書、1974年(1994年 2版6刷)、第2部 伝熱概論 第8章「対流伝熱」8・2 相変化を伴う対流伝熱(沸騰)、第4部 第16章「液膜式熱交換器の設計法」 Amazonで見る
  • 日本機械学会『伝熱工学(JSMEテキストシリーズ)』日本機械学会、2023年、第5章「相変化を伴う伝熱」(沸騰曲線・限界熱流束) Amazonで見る
  • 相原利雄『伝熱工学(機械工学選書)』裳華房、1994年、第5章「相変化を伴う熱伝達」 Amazonで見る
  • 吉田邦夫・吉田英生 監修『熱交換器ハンドブック』省エネルギーセンター、2005年、II編5「充填層・流動層熱交換器」、V編13(蒸発装置関連) Amazonで見る