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FTAが問うのは「なぜ起きるか」でした。ETAが問うのは、その先です。
「起きてしまったあと、どう分かれていくのか」。
同じ配管から同じ量が漏れても、結末はジェット火災にも、蒸気雲爆発にも、何も起きずに拡散して終わる場合にもなります。その分かれ道を、順番に並べて確率を振るのがETA(イベントツリー解析)です。
この記事の要点
- ETAは起因事象から先へ、時間順に分岐を並べる
- 出てくるのは「結末ごとの頻度」。1つの数字ではない
- 分岐の並び順は、時間順にする。因果が逆転すると壊れる
- 全結末を足すと、起因事象の頻度に戻る。これが検算になる
- FTAとETAをつなぐとBow-Tieになる
1. FTAとETAは、背中合わせ
| FTA | ETA | |
| 向き | 事象から過去へ | 事象から未来へ |
| 問い | なぜ起きるか | 起きたら、どうなるか |
| 基点 | 頂上事象 | 起因事象 |
| 出力 | カットセットと発生頻度 | 結末ごとの頻度 |
| 論理 | AND / OR | 成功 / 失敗の二分岐 |
FTAの頂上事象と、ETAの起因事象を同じものにすると、2つの木が背中合わせにつながります。
これがBow-Tie(蝶ネクタイ)です。左がFTA、右がETA、真ん中が事象。
2. 実は、すでにETAを見たことがある
可燃性物質が漏れたとき、現象がどう分かれるか――この分岐図は、プロセス安全を学ぶと必ず出てきます。
あれが、ETAそのものです。
違うのは、分岐に確率を振るかどうかだけです。現象を理解するために描けば現象マップになり、頻度を出すために描けばETAになります。
3. 例:可燃性液体の漏えい
実際に組み立ててみます。
起因事象:配管からの漏えい 1×10⁻³回/年
分岐は、時間の順に並べます。
| 順 | 分岐 | 確率 |
| 1 | 即時着火するか | する 0.1/しない 0.9 |
| 2 | (しない場合)遅延着火するか | する 0.1/しない 0.9 |
| 3 | (着火した場合)閉塞・障害物があるか | ある 0.3/ない 0.7 |
掛け算していくと、結末ごとの頻度が出ます。
| 結末 | 経路 | 頻度(回/年) |
| ジェット火災 | 即時着火 | 1.0×10⁻⁴ |
| 蒸気雲爆発(UVCE) | 遅延着火・閉塞あり | 2.7×10⁻⁵ |
| フラッシュ火災 | 遅延着火・閉塞なし | 6.3×10⁻⁵ |
| 着火せず拡散 | 着火なし | 8.1×10⁻⁴ |
| 合計 | ― | 1.0×10⁻³ |
合計が起因事象の頻度に戻ることを、必ず確かめてください。戻らなければ、分岐の確率が足して1になっていないか、経路を数え落としています。ETAで唯一、機械的にできる検算です。
この表から何が読めるか
頻度がいちばん高いのは「着火せず拡散」です。8割はそうなります。
けれども、被害が最大になるのは頻度が最も低いUVCEです。頻度の順と、被害の順は一致しません。
だからETAは、必ず「各結末の被害の大きさ」とセットで使います。頻度×被害でリスクを比べて、初めて対策の優先順位が決まります。
4. 分岐の作り方 ― ここで失敗する
① 分岐は時間順に並べる
ETAの分岐は「先に決まることから順に」置きます。即時着火の可否より先に遅延着火を置いてしまうと、意味が通らなくなります。
迷ったら、「現場で時計を見ていたら、どちらが先に分かるか」で判断してください。
② 前の分岐に依存する確率は、値を変える
分岐確率を全経路で同じ値にしてしまう――これがよくある間違いです。
たとえば着火確率は、漏えい量が増えれば上がります。小漏えいと大漏えいで木を分けているなら、着火確率も分けなければ意味がありません。
③ 「防護が効くか」の分岐は、独立性を疑う
分岐に「緊急遮断が働くか」「散水が起動するか」といった防護を入れることがあります。
このとき確認すべきは、その防護が起因事象そのものの影響を受けないかです。漏えいで停電したり、火災で計装ケーブルが焼けたりすれば、防護は起因事象と一緒に失われます。
FTAではANDゲート、ETAでは分岐。形は違っても、問題は同じです。
どちらも、「独立だと仮定して掛け算していないか」が精度を決めます。
④ 分岐を増やしすぎない
分岐は1つ増えるごとに経路が倍になります。6分岐で64経路。そのすべてに根拠のある確率を割り当てられますか。
目安として4〜5分岐。それ以上必要なら、木を分けたほうが読めます。
5. 分岐確率は、どこから持ってくるか
| 分岐 | 出どころ |
| 着火確率 | 公開されている統計的な相関(漏えい量・物質の種類で変わる) |
| 閉塞の有無 | 自社のプラント配置から判断する。統計値ではない |
| 防護が働く確率 | 機器の信頼性データ、またはFTAで内訳から積み上げる |
| 人の対応が成功する確率 | 人的信頼性の評価手法。最も不確かさが大きい |
ここで大事なのは、「閉塞の有無」は統計から持ってくるものではないという点です。自分のプラントに障害物や閉塞空間があるかどうかは、図面と現場を見れば分かります。
逆に言えば、ETAの分岐の中で、自分たちが設計で変えられるのはここです。
6. ETAをどこで使うか
| 場面 | 使い方 |
| QRA | 結末ごとの頻度を出し、影響評価と組み合わせてリスクを算定する |
| 防護の効果を比べる | 分岐確率を変えて、どの対策がどの結末を減らすかを見る |
| 緊急時対応計画 | 起こりうる結末を全部並べることで、想定漏れを防ぐ |
| 設備配置の検討 | 閉塞の有無を変えると、UVCEの頻度がどれだけ動くかを見る |
3つ目は、数字を出さなくても価値があります。「この物質が漏れたとき、何が起こりうるか」を結末として書き出すだけで、対応計画の抜けが見えます。
そして2つ目――対策の効き方が結末ごとに違うことが、ETAを描くとはっきりします。
| 対策 | どこに効くか |
| 着火源の管理 | 着火分岐。火災も爆発も両方減る |
| 閉塞空間をなくす | 閉塞分岐のみ。UVCEは減るが、フラッシュ火災は増える |
| 早期検知・緊急遮断 | 起因事象の規模を小さくする(分岐より手前) |
| 離隔距離 | 頻度は変わらない。被害だけを小さくする |
2行目は、直感に反するかもしれません。閉塞をなくしても事故は減らず、爆発が火災に変わるだけです。それでも被害は大幅に下がるので、対策としては有効です。
「頻度を減らす対策」と「結末を変える対策」と「被害を減らす対策」は、別物だということです。
7. 実務での落とし穴
| 落とし穴 | どうなるか |
| 結末の定義が曖昧 | 「火災」で1つにまとめると、被害評価ができない |
| 分岐が時間順でない | 確率の意味が定まらなくなる |
| 分岐確率を全経路で共通にする | 大漏えいと小漏えいの違いが消える |
| 合計の検算をしない | 経路の数え落としに気づけない |
| 頻度だけで優先順位をつける | 被害最大の結末を見落とす |
| 不確かさを書かない | 10⁻⁵という値が、確定値として一人歩きする |
分岐確率には、数倍から一桁の不確かさがあると考えておくのが安全です。特に人の対応が入る分岐は、条件によって大きく動きます。
8. 自分の職場で確かめる6つのこと
- 主要な漏えいシナリオについて、起こりうる結末を全部書き出せますか。
- 緊急時対応計画は、その結末を全部カバーしていますか。
- 閉塞空間・障害物の有無を、図面と現場で確認しましたか。
- 分岐に入れた防護は、起因事象の影響を受けませんか。
- 結末の頻度を足すと、起因事象の頻度に戻りますか。
- 対策を「頻度/結末/被害」のどれに効くもので分類していますか。
まとめ
- ETAは起因事象から先を、時間順の分岐で追う
- 出るのは結末ごとの頻度。1つの数字にまとめない
- 頻度の順と被害の順は一致しない。必ず影響評価とセットで使う
- 合計が起因事象の頻度に戻るかが、唯一の機械的な検算
- 対策は頻度・結末・被害のどれに効くかで分けて考える
FTAで「なぜ」を掘り、ETAで「どうなるか」を追う。この2つを1枚につなげたのがBow-Tie分析です。次はそこを扱います。
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プロセス安全の全体地図
この記事は「プロセス安全・防災」カテゴリの1本です。約100本を6つの領域に整理した地図と、立場・目的別の読む順は、こちらにまとめています。
参考文献
- 安全工学会 監修、新井充・佐藤吉信・高木伸夫・野口和彦・若倉正英 編『実践・安全工学シリーズ2「プロセス安全の基礎」』化学工業日報社、2012年
Amazonで見る - 総務省消防庁「石油コンビナートの防災アセスメント指針」(2013年、PDF) ETA・FTAの概念図と役割分担
- 高圧ガス保安協会「リスクアセスメント・ガイドライン Ver.2」(2016年、PDF) 安全・防災設備の作動要求時失敗確率の例
- 経済産業省 高圧ガス保安室「高圧ガス保安法におけるリスクアセスメント」(2018年、PDF)
※本記事中の頻度・分岐確率は、手法の考え方を説明するための仮の値です。実際の評価では、対象設備の条件に適合したデータを用い、不確かさを併記してください。
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