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トルエンという1つの物質に、いくつもの「分類」がついています。
消防法では第4類・第1石油類。GHSでは引火性液体。輸送では国連番号1294、クラス3。
なぜ、こんなにバラバラなのか。それぞれの体系が、違う目的で作られているからです。
この記事の要点
- 分類体系が複数あるのは、目的(貯蔵・伝達・輸送・労働)が違うから
- 体系どうしはおおむね対応するが、一対一ではない
- 消防法の危険物は第1類〜第6類。可燃性ガスは含まれない
- 規制は「量」で切り替わる。指定数量を超えると許可が要る
- 濃度や原料を変えると、分類が変わる。変更管理で漏れやすい
1. 分類体系の全体像
| 体系 | 何のためにあるか |
| GHS (JIS Z 7252/7253) | 危険有害性を分類し、伝えるため。ラベルとSDSの中身を決める |
| 消防法 危険物 (第1類〜第6類) | 貯蔵・取扱いを規制するため。製造所等の許可、設備基準 |
| 高圧ガス保安法 | 高い圧力の状態にあるガスの製造・貯蔵・移動を規制する |
| 労働安全衛生法 | 働く人を守るため。表示・通知義務、リスクアセスメント義務 |
| 国連番号・UNクラス | 国際輸送のため。容器、標識、積載の可否 |
| 毒物及び劇物取締法 | 毒物・劇物の販売・保管・表示を規制する |
| 化管法(PRTR/SDS) | 環境への排出量を把握し、届け出る |
ここを押さえると、混乱がかなり減ります。「消防法の危険物に該当しない=安全」ではありません。消防法が見ているのは火災の危険性と、貯蔵・取扱いの規制であって、毒性も環境影響も対象外だからです。
2. 消防法の危険物 ― 第1類から第6類
| 類 | 性質 | 例 |
| 第1類 | 酸化性固体 | 塩素酸塩類、過塩素酸塩類、硝酸塩類、過マンガン酸塩類 |
| 第2類 | 可燃性固体 | 硫黄、赤リン、金属粉、マグネシウム |
| 第3類 | 自然発火性物質 および禁水性物質 | ナトリウム、カリウム、黄リン、アルキルアルミニウム |
| 第4類 | 引火性液体 | ガソリン、トルエン、アセトン、灯油、重油 |
| 第5類 | 自己反応性物質 | 有機過酸化物、硝酸エステル類、ニトロ化合物、アゾ化合物 |
| 第6類 | 酸化性液体 | 過酸化水素、硝酸、過塩素酸 |
並べてみると、「燃えるもの」と「燃やすもの」が分かれているのが見えます。第1類・第6類は酸化性、第2類〜第5類は可燃性側です。
この構造そのものが、混触危険の警告になっています。
可燃性ガスは、消防法の危険物ではない
意外に思われるところですが、水素・メタン・プロパンといった可燃性ガスは、消防法の危険物に含まれません。
これらは高圧ガス保安法や、液化石油ガス法、ガス事業法といった別の体系で扱われます。危険物の6分類は、あくまで固体と液体を対象にした枠組みです。
第4類は、引火点で切られている
化学プラントで最もよく出会うのが第4類です。中の区分は、引火点で機械的に分けられています。
| 品名 | おおよその基準 | 例 |
| 特殊引火物 | 発火点100℃以下、または引火点−20℃以下かつ沸点40℃以下 | ジエチルエーテル、二硫化炭素 |
| 第1石油類 | 引火点 21℃未満 | ガソリン、トルエン、アセトン |
| アルコール類 | 炭素数1〜3の飽和1価アルコール | メタノール、エタノール |
| 第2石油類 | 引火点 21℃以上70℃未満 | 灯油、軽油、キシレン |
| 第3石油類 | 引火点 70℃以上200℃未満 | 重油、グリセリン |
| 第4石油類 | 引火点 200℃以上250℃未満 | ギヤー油、シリンダー油 |
| 動植物油類 | 引火点 250℃未満 | アマニ油、なたね油 |
数字を覚える必要はありません。「引火点という1つの物性値で線を引いている」という構造を理解しておけば、必要なときに調べられます。
ただし、引火点が高い=安全ではありません。
第4石油類でも、加熱して引火点を超えて使えば、第1石油類と同じように燃えます。分類は常温での扱いやすさを表しているだけで、運転条件は見ていません。
動植物油類と、自然発火
表の最下段にある動植物油類は、引火点で見れば最も安全側です。しかし乾性油は、しみ込ませて積んでおくと自然発火します。
危険物の分類が捉えているのは危険性の一面だけだという、分かりやすい例です。
3. 規制は「量」で切り替わる
消防法で実務上いちばん効いてくるのが、指定数量です。
物質ごとに定められた数量があり、それを超えて貯蔵・取扱いをするには、製造所等としての許可が要ります。設備の基準、保安距離、危険物取扱者の配置といった義務が一式ついてきます。
| 量 | 扱い |
| 指定数量以上 | 消防法の許可対象(製造所・貯蔵所・取扱所) |
| 指定数量の1/5以上〜未満 | 少量危険物として、市町村条例で規制される |
| 1/5未満 | 条例の一般的な規定による |
また、複数の危険物を扱う場合は、それぞれの「指定数量の倍数」を足し合わせて判定します。1つひとつは少なくても、合計で超えることがあります。
「量で規制が切り替わる」構造は、他の法律でも共通です。高圧ガス保安法の処理能力、化管法の取扱量、労働安全衛生法の裾切り値。物質を変えなくても、量を増やしただけで義務が発生することがあります。
4. GHS ― 伝えるための分類
GHSは国連が作った、化学品の危険有害性を分類し、ラベルとSDSで伝えるための共通ルールです。国内ではJIS Z 7252(分類)とJIS Z 7253(表示・SDS)に取り込まれています。
| グループ | 中身(例) |
| 物理化学的危険性 | 爆発物、可燃性ガス、引火性液体、自己反応性化学品、自然発火性、水反応可燃性、酸化性、有機過酸化物、金属腐食性 など |
| 健康有害性 | 急性毒性、皮膚腐食性・刺激性、発がん性、生殖毒性、特定標的臓器毒性、誤えん有害性 など |
| 環境有害性 | 水生環境有害性、オゾン層への有害性 |
各危険性クラスの中が「区分1」「区分2」…に分かれます。多くの場合、区分1が最も危険性が高い側です。
GHSは、規制そのものではありません。
「分類して、伝える」ための枠組みです。ただし国内法(労働安全衛生法、化管法)がGHS分類を引用しているため、結果として義務に直結します。
5. 国連番号とUNクラス ― 輸送のための分類
ローリーやコンテナに貼られている4桁の数字が国連番号(UN番号)、ひし形の標識がUNクラスです。
| クラス | 中身 |
| 1 | 火薬類 |
| 2 | ガス(2.1 可燃性/2.2 非可燃性・非毒性/2.3 毒性) |
| 3 | 引火性液体 |
| 4.1/4.2/4.3 | 可燃性固体・自己反応性/自然発火性/水反応可燃性 |
| 5.1/5.2 | 酸化性物質/有機過酸化物 |
| 6.1/6.2 | 毒物/病毒をうつしやすい物質 |
| 7/8/9 | 放射性物質/腐食性物質/その他の有害性物質 |
UN番号は物質または物質群に振られた識別番号です。事故が起きたとき、消防はこの番号から物質を特定し、対応方法を調べます。
構内を走るローリーの標識を読めるようになっておくと、緊急時の初動が変わります。
6. 体系どうしの、ざっくりした対応
| 危険性 | GHS | 消防法 | UNクラス |
| 引火性の液体 | 引火性液体 | 第4類 | 3 |
| 燃えやすい固体 | 可燃性固体 | 第2類 | 4.1 |
| 空気で発火する | 自然発火性液体/固体 | 第3類 | 4.2 |
| 水と反応する | 水反応可燃性化学品 | 第3類 | 4.3 |
| 酸化性(固体) | 酸化性固体 | 第1類 | 5.1 |
| 酸化性(液体) | 酸化性液体 | 第6類 | 5.1 |
| 自己反応性 | 自己反応性化学品/有機過酸化物 | 第5類 | 4.1/5.2 |
| 可燃性のガス | 可燃性ガス | 対象外(高圧ガス保安法など) | 2.1 |
| 毒性 | 急性毒性ほか | 対象外(毒劇法・安衛法) | 6.1 |
この表は「だいたい対応する」という目安です。判定基準(試験方法、しきい値)は体系ごとに違うため、一方に該当して他方に該当しないケースがあります。実際の判定は、必ず各法令の基準と、所轄の消防・行政への確認で行ってください。
7. 実務で漏れやすいところ
① 濃度が変わると、分類が変わる
過酸化水素は、消防法の第6類に該当するのは一定濃度以上のものです。希薄なものは該当しません。
つまり――同じ物質でも、濃度を上げただけで規制対象になることがあります。濃縮工程の追加、原料グレードの変更、こうしたときに見落とされます。
② 混合物は、単純に足せない
混合物の分類は、成分の分類をそのまま引き継ぐわけではありません。引火点は混合で変わり、GHSの健康有害性には成分ごとの濃度限界があります。
配合を変えたら、混合物としてもう一度分類し直す必要があります。
③ 分類は改訂される
GHSは国連勧告が数年ごとに改訂され、JISもそれに追随します。労働安全衛生法の表示・通知対象物質は大幅な拡大が進んでいます。
「昔は対象外だった」は、今の答えではありません。
④ 変更管理から漏れる
①〜③に共通するのは、「変えたときに、法規制の該当を見直したか」です。
原料の変更、濃度の変更、貯蔵量の増加、新しい溶剤の導入。設備をいじらない変更ほど、変更管理の網から外れがちです。
変更管理のチェック項目に、「法規制の該当が変わらないか」を入れておく。
これだけで、後から発覚する無許可貯蔵や届出漏れの多くを防げます。
8. 自分の職場で確かめる7つのこと
- 扱っている物質の一覧に、法規制の該当欄がありますか。
- 指定数量の倍数は、現在の在庫で計算されていますか。設計時のままではありませんか
- 「消防法の危険物ではない」物質の危険性を、別の軸で評価していますか。
- 混合物のSDSは、配合を変えたときに作り直していますか。
- 変更管理の様式に、法規制該当性の確認欄がありますか。
- 構内に入るローリーの国連番号を、緊急時に読める人がいますか。
- 安衛法の表示・通知対象物質の拡大に、追随できていますか。
まとめ
- 分類体系が複数あるのは、目的が違うから。優劣ではない
- 消防法の危険物は固体と液体の6分類。可燃性ガスも毒性も対象外
- GHSは伝えるための分類だが、国内法が引用するので義務に直結する
- UN番号は緊急時に消防が使う識別子。読めるようにしておく
- 濃度・配合・量を変えたら、該当を見直す。変更管理に組み込む
分類は、「誰かがすでに危険性を評価してくれた結果」です。ただし、その評価がどの角度から行われたものかを知らないと、使い方を誤ります。
次は、この分類が実際に書き込まれているSDSの読み方を扱います。
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参考文献
- 安全工学会 監修、新井充・佐藤吉信・高木伸夫・野口和彦・若倉正英 編『実践・安全工学シリーズ1「物質安全の基礎」』化学工業日報社、2012年
Amazonで見る - 消防法(e-Gov法令検索)/危険物の規制に関する政令
- 高圧ガス保安法(e-Gov法令検索)/労働安全衛生法
- 経済産業省「GHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)」
- 総務省消防庁/NITE 化学物質総合情報提供システム(GHS分類結果)
※本記事は各法令の全体像を理解するための概説です。数値基準や該当・非該当の判定は法令の改正により変わります。実際の判定・届出にあたっては、必ず最新の法令原文と、所轄の消防本部・都道府県等の行政窓口にご確認ください。
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