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ガス拡散と滞留|検知器は、ガスが来る高さに付いていますか

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ガス検知器を、天井に付けるべきか。床に近い高さに付けるべきか。

答えは、扱っている物質で決まります。そして間違えると、その検知器は一生鳴りません。

この記事では、漏れたガスがどう動くのかと、検知器をどこに置くべきかを整理します。

この記事の要点

  • ほとんどの溶剤蒸気は空気より重い。地面を這い、低所に溜まる
  • 軽いガスでも、低温で放出されれば重く振る舞う
  • 無風・弱風のほうが危ない。拡散せずに濃度を保ったまま流れる
  • 検知器は比重で高さを、滞留場所で位置を決める
  • ボパールで被害が拡大したのは、重いガス・深夜・就寝中が重なったから

1. 漏れたガスは、上へ行くか下へ行くか

まず基本です。ガスの動きは空気に対する比重で決まります。

物質蒸気比重
(空気=1)
挙動
水素約 0.07上昇する
天井・屋根の下に溜まる
メタン(都市ガス)約 0.55
アンモニア約 0.6
プロパン約 1.5沈降する
地面を這い、低所に溜まる
ブタン約 2.0
アセトン約 2.0
塩素約 2.5
トルエン約 3.1

表を見て気づくことがあります。化学プラントで扱う可燃性物質の多くは、空気より重いということです。

「ガスは上に行く」という直感は、家庭用の都市ガス(メタン)の話です。プロパンボンベの警報器が床近くに付いているのは、プロパンが重いから。プラントの溶剤蒸気は、ほぼすべて後者です。

温度でひっくり返る

もうひとつ、重要な例外があります。

低温で放出されたガスは、分子量が小さくても重く振る舞います。冷たい気体は密度が高いからです。

  • 液化天然ガス(LNG)の蒸発ガスは、本来ならメタンで軽い。しかし放出直後は極低温なので、地面を這う
  • 加圧液化ガスがフラッシュすると、気化熱で周囲が冷える。ミストを含んだ低温の雲になる
  • 周囲の空気と混ざって温まると、そこで初めて浮き上がる

つまり、「軽いガスだから上へ行く」と決めつけられないということです。放出の条件まで見る必要があります。

2. 重いガスは、薄まらずに遠くへ行く

比重の差は、単に「上か下か」だけの問題ではありません。薄まり方が違います。

軽いガス重いガス
動き上昇する地表を這う
混ざり方上昇しながら周囲の空気と混ざる層になって流れ、混ざりにくい
到達距離比較的短い長い。数百m先まで届き得る
溜まる場所屋内の天井、屋根の下ピット、窪地、堤の内側、建屋の床
人への影響屋内では危険。屋外では薄まりやすい屋外でも人の高さに留まる

重いガスが遠くまで届くのは、上下に混ざらないからです。薄い層になって地表を流れていく。これを重ガス挙動と呼びます。

だから、可燃性の重いガスは蒸気雲爆発になりやすい。

薄まらずに広がるということは、爆発範囲の濃度を保ったまま雲が育つということです。そして地表には、機器や構造物という障害物があります。

3. 拡散を決める条件

同じ量が漏れても、条件によって影響範囲は大きく変わります。

風は、強いほうが安全

直感に反するかもしれませんが、風が強いほど、ガスは早く薄まります。

危ないのは無風・弱風です。ガスは薄まらず、濃いまま、ゆっくり広がっていきます。

夜は、拡散しにくい

大気の「安定度」という概念があります。

  • 晴れた日中――地面が温まり、上昇気流が起きる。よく混ざる(不安定)
  • 晴れた夜間――地面が冷え、上に暖かい空気の層ができる。混ざらない(安定)

安定な大気では、ガスは上へ逃げられません。地表付近に留まったまま、遠くへ流れます。

「晴れて風のない夜」が、最悪の条件です。そして、そういう夜は静かで、当直の人数も少ない。影響評価では、この気象条件を想定ケースに含めます。

地形と建屋が滞留を作る

重いガスが集まる場所は、決まっています。

  • ピット、地下ピット、マンホール
  • 防液堤の内側(堤が滞留を作る)
  • 建屋の床、階段の下、機器の裏
  • 風の当たらない場所(建屋の風下、壁際)

ここで、被害局限化との緊張関係が出ます。防液堤は液を留めるためのものですが、同時にガスの滞留も作ります。

4. ボパールで起きていたこと

1984年のボパールは、この記事の内容がすべて重なった事例です。

条件効いた向き
MICの蒸気は空気より重い上へ逃げず、地表を這って広がった
深夜だった大気が安定し、拡散しにくかった
住民が就寝中だった寝ている人の高さは、ガスが溜まる高さ
工場の隣が住宅地だった希釈される距離がなかった
何が漏れたか知らされていなかったどちらへ逃げるべきか判断できなかった

ガスの物性、時間帯、人の姿勢、立地、情報。そのすべてが悪い方向に揃いました。

ここから、緊急時対応の原則がひとつ出てきます。重いガスの漏えいでは、「風上へ逃げる」だけでなく「高いところへ逃げる」ことが有効です。逆に、低い場所へ避難するのは危険です。

5. 検知器を、どこに置くか

ここまでを踏まえて、実務の話に入ります。

高さは、比重で決める

対象ガス設置高さ
空気より重い(多くの溶剤、LPG、塩素)床面に近い低い位置
空気より軽い(水素、メタン、アンモニア)天井付近
低温で放出される低い位置(放出直後は重く振る舞う)
複数種類を扱う高さを変えて複数設置

位置は、3つの観点で決める

  • 漏えい源の近く――フランジ、シール部、サンプリング点、ポンプのメカニカルシール
  • 滞留する場所――ピット、堤の内側、建屋の低所、風の当たらない隅
  • 人がいる場所の手前――そこへ到達する前に鳴る位置

3番目が、目的から言えば最も重要です。検知器は「漏れたことを知る」ためだけでなく、「人が巻き込まれる前に知らせる」ために置きます。

加えて、忘れられがちな設置場所があります。

  • 建屋の換気の吸込み口――外のガスを建屋内へ引き込んでしまう経路
  • 制御室・詰所の給気口――人が守られているはずの場所を汚染する経路

検知器は「数」ではなく「配置」で決まります。10台を均等に並べるより、滞留する3か所と人がいる場所の手前に置くほうが効きます。風向は変わるので、風下側だけに置く設計は成立しません。

入槽作業でも同じ

容器の中で測るときも、原理は変わりません。上・中・下の3点で測るのは、比重による偏りがあるからです。

6. 換気で薄める

屋内では、換気が主要な対策になります。ここでも比重が効きます。

  • 重いガス――低い位置から排気する。天井の換気扇では床の層が抜けない
  • 軽いガス――高い位置から排気する
  • 給気と排気の位置関係で、建屋内に流れを作る。ショートサーキットさせない

そして確認すべきことがひとつ。停電したら、換気は止まります。換気を防護層として数えるなら、その動力が非常用電源に入っているかを見る必要があります。

7. 自分の職場で確かめる7つのこと

  • 扱っている物質の蒸気比重を、言えますか。重いですか、軽いですか
  • 検知器の高さは、その比重に合っていますか。
  • ピットや窪地に、検知器はありますか。そこは人が入る場所ですか
  • 制御室・詰所の給気口の近くに、検知器はありますか。
  • 換気の排気口は、比重に合った高さにありますか。
  • 停電したとき、換気は動きますか。
  • 避難の際、「高いところへ」という指示は手順にありますか。重いガスを扱うなら

1番目は、その場で試せます。SDSの第9項(物理的及び化学的性質)に、蒸気密度が書いてあります。

まとめ

  • プラントで扱う可燃性物質の多くは、空気より重い。地面を這い、低所に溜まる
  • 軽いガスでも、低温で放出されれば重く振る舞う
  • 重いガスは薄まらずに遠くへ行く。だから蒸気雲爆発にもなりやすい
  • 晴れて風のない夜が最も拡散しにくい
  • 検知器は比重で高さを、滞留場所と人の手前で位置を決める

ガス検知器は、付いているだけでは防護層になりません。ガスが来る場所に、ガスが来る高さで付いていて、初めて意味を持ちます。

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火災・爆発の型を全体として見分ける地図は、こちらにまとめています。

参考文献

  • 安全工学会 監修、新井充・佐藤吉信・高木伸夫・野口和彦・若倉正英 編『実践・安全工学シリーズ1「物質安全の基礎」』化学工業日報社、2012年
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  • 安全工学会 監修『実践・安全工学シリーズ2「プロセス安全の基礎」』化学工業日報社、2012年、第4章「安全性解析手法」
     Amazonで見る
  • 各物質の蒸気密度・比重は、SDSの第9項および信頼できる物性データベースで確認してください

※本記事の蒸気比重は代表的な概数です。実際の値は温度・圧力によって変わり、混合物では組成にも依存します。検知器の設置位置・数量の決定には、対象物質のSDSと、該当する法令・指針を確認してください。