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BLEVEと火球|安全弁が吹いていても、タンクは破裂する

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LPGタンクが火に炙られています。安全弁は正常に吹いています。圧力は設計圧を超えていません。

それでも、そのタンクは破裂します。

そして破裂した瞬間、中の液体が一瞬で沸騰し、爆発的に膨張します。可燃性なら、直径100mを超える火の玉になります。

これがBLEVE(ブレビー)です。

この記事の要点

  • BLEVEは加圧液化ガスの容器が破裂したときに起きる
  • 壊れるのは液面より上の壁。液に触れていないので冷やされない
  • 安全弁ではBLEVEを防げない。圧力は抑えても、金属温度は下げられない
  • 10トンの放出で、火球は直径約125m・約10秒という規模になる
  • 最も効く対策は耐火被覆緊急脱圧。そして在庫を減らすこと

1. BLEVEとは何が起きる現象か

BLEVE は Boiling Liquid Expanding Vapour Explosion の略で、「沸騰液膨張蒸気爆発」と訳されます。

起きる相手は、加圧して液化したガスです。

  • LPG(プロパン、ブタン)
  • 液化アンモニア、塩素
  • 塩化ビニルモノマー、エチレンオキサイドなど

共通するのは、常温では気体になりたい物質を、圧力で液体に押し込めていることです。

容器が破れた瞬間、その圧力がなくなります。

沸点をはるかに超えた温度の液体が、いきなり大気圧に晒される。液の大部分が、一瞬で沸騰します(フラッシュ蒸発)。

液体が気体になると、体積はおよそ数百倍になります。それがミリ秒単位で起きる。これが爆発的な膨張の正体です。

ここで重要なのは、BLEVE自体は「燃焼」ではないことです。物理的な相変化による爆発なので、可燃性でない物質でも起こります。液化アンモニアや塩素のBLEVEなら、火球にはなりませんが、大量の毒性ガスが一瞬で放出されます。

2. なぜ、安全弁が吹いているのに破裂するのか

ここが、この記事で最も伝えたい部分です。順を追います。

段階起きること
タンクの外側で火災が起きる。壁が加熱される
中の液が温まり、蒸気圧が上がる。安全弁が吹く
吹いた分、中身が減る。液面が下がっていく
液面より上の壁は、液に触れていない
液に触れている壁は、液が沸騰することで熱を奪われ、比較的低温に保たれる。気相部の壁には、その冷却がない
気相部の壁の金属温度が上がり、材料の強度が落ちる
設計圧以下でも、その壁は耐えられなくなり破断する
圧力が瞬時に失われ、過熱状態の液が一気にフラッシュ

③〜⑤の連鎖に、この現象の意地の悪さがあります。

安全弁が吹くほど、液面は下がる。液面が下がるほど、冷やされない壁が増える。

圧力を守るための動作が、金属温度の問題を悪化させます。

だから、安全弁の設計だけではBLEVEを防げません。安全弁は圧力を抑える装置であって、金属を冷やす装置ではないからです。

3. 火球はどれくらいの大きさになるか

可燃性物質のBLEVEでは、放出された蒸気とミストが着火し、ファイヤーボール(火球)になります。

火球の大きさと継続時間は、放出質量から推算できます。広く引用されている経験式のひとつが、次の形です。

火球の直径 D ≒ 5.8 × M1/3 [m]

継続時間  t ≒ 0.45 × M1/3 [s]

M:放出された可燃物の質量[kg]

実際に計算してみます。

放出質量火球の直径継続時間
1 t(1,000 kg)約 58 m約 4.5 秒
5 t約 99 m約 7.7 秒
10 t約 125 m約 9.7 秒
30 t約 180 m約 14 秒

10トンのタンク1基で、直径125mの火の玉が約10秒。直感より、はるかに大きいはずです。そして火球は上昇しながら広がるので、離れた場所にいても、上から輻射熱を浴びます。

この規模感が、離隔距離を考えるときの出発点になります。輻射熱による影響距離の見積りは、別記事で扱います。

4. 破片が飛ぶ

BLEVEでもうひとつ怖いのが、容器の破片が飛ぶことです。

とくに円筒タンクは、端部の鏡板がロケットのように飛びます。飛距離は数百mに達することがあり、飛んだ先で別の設備を壊し、二次災害の起点になります。

この「飛来物」という被害形態は、輻射熱や過圧と違って距離で単純に減衰しません。影響評価では扱いにくく、だからこそ見落とされます。

2014年の三菱マテリアル四日市では、爆発した熱交換器の上部チャンネルカバーが飛翔し、作業者に衝突して4名が亡くなりました。BLEVEとは現象が異なりますが、「飛ぶものが人を殺す」という点は共通しています。

5. 何で防ぐか

BLEVEの連鎖は「火災 → 壁の加熱 → 強度低下 → 破断」でした。どこを切るかで、対策が決まります。

切る場所対策効き方
そもそも量在庫を減らす最も本質的。火球の大きさは質量で決まる
火災の発生漏えい防止、着火源管理連鎖の起点を断つ
火災がタンクに届く離隔距離、防火壁、傾斜と排液漏れた液をタンクの下に溜めない
壁の加熱耐火被覆最も効く。金属の昇温を遅らせ、時間を稼ぐ
壁の加熱散水・水噴霧気相部の壁を冷やす。水が確実に届くかが課題
圧力緊急脱圧金属が弱っても持ちこたえられる圧力まで下げる
被害人と建屋の配置火球と飛来物の影響範囲から離す

実務では、耐火被覆と緊急脱圧の組み合わせが中心になります。耐火被覆で昇温を遅らせているあいだに、脱圧で圧力を下げきる。時間の勝負に、両側から手を打つ形です。

傾斜と排液を軽視しない

見落とされやすいのが、「漏れた液がタンクの真下に溜まる」構造です。

プール火災がタンクを直接炙り続ければ、耐火被覆があっても時間の問題になります。地面に傾斜をつけ、漏れた液をタンクから離れた集液ピットへ導く。これは安価で、確実に効く設計です。

6. 火災がなくても起こり得る

BLEVEは火災に伴う現象として語られることが多いのですが、成立条件は「加圧液化した内容物」と「容器の破断」だけです。

  • 外力による損傷――衝突、飛来物、落下物
  • 腐食・減肉による強度低下
  • 低温脆性による脆性破壊
  • 過充填――液で満たされた容器は、温度上昇で急激に圧力が上がる

過充填は、地味ですが現実的なリスクです。液化ガスを容器いっぱいに入れると、気相の緩衝がなくなります。そこから温度が上がれば、液の熱膨張だけで圧力が急上昇します。だから充填率には上限が定められています。

7. 自分の職場で確かめる7つのこと

  • 加圧液化ガスを、どれだけ持っていますか。1基あたりの最大量は
  • その容器に耐火被覆はありますか。支持脚まで施工されていますか
  • 緊急脱圧の手段はありますか。火災現場へ行かずに操作できますか
  • 散水設備の水は、気相部の壁まで届きますか。風があっても届きますか
  • 漏れた液は、タンクの真下に溜まりませんか。傾斜と集液ピットはありますか
  • 火球の直径を計算したことがありますか。その範囲に何がありますか
  • 充填率の管理はできていますか。過充填を検知する仕組みはありますか

2番目の「支持脚まで」は、実務でよく指摘される点です。胴体に耐火被覆をしても、脚が焼けて倒れれば配管が破断します。

まとめ

  • BLEVEは、加圧液化ガスの容器が破裂し、中身が一瞬でフラッシュする現象
  • 壊れるのは液面より上の壁。液の沸騰による冷却が届かない
  • 安全弁が吹くほど液面は下がり、冷やされない壁が増えるという意地の悪さがある
  • 10トンの放出で、火球は直径約125m・約10秒。破片は数百m飛び得る
  • 対策の中心は耐火被覆と緊急脱圧。そして在庫を減らすこと

BLEVEが教えるのは、「圧力を守っていれば容器は守れる」わけではないということです。守るべきは圧力ではなく、圧力と金属強度の関係です。

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火災・爆発の型を全体として見分ける地図は、こちらにまとめています。

参考文献

  • 安全工学会 監修、新井充・佐藤吉信・高木伸夫・野口和彦・若倉正英 編『実践・安全工学シリーズ1「物質安全の基礎」』化学工業日報社、2012年
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  • 安全工学会 監修『実践・安全工学シリーズ2「プロセス安全の基礎」』化学工業日報社、2012年、第3章「プロセス安全設計の基礎」
     Amazonで見る
  • API Standard 521「Pressure-relieving and Depressuring Systems」 ※火災曝露時の脱圧・耐火被覆の考え方

※本記事の火球の推算式は、広く引用されている経験式のひとつです。係数は文献によって異なり、放出質量のうち火球に寄与する割合の見方でも結果は変わります。示した数値は現象の規模を把握するための目安であり、設計値ではありません。実際の影響評価では、該当する指針と最新の相関式を確認してください。