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ポンプの振動値が上がったとき、「何mm/sなら止めるのか」「どこへ振動計を当てるのか」「芯ずれかキャビテーションか」をその場で判断するのは簡単ではありません。振動は、ポンプ本体だけでなく、モータ、軸継手、基礎、配管、取扱液、運転点の影響が重なって現れるからです。
この記事では、主に遠心ポンプを対象に、現場巡回での測定位置、変位・速度・加速度の使い分け、警報値と停止値の決め方、周波数と症状による原因の絞り込み、異常時に残す記録を整理します。
この記事の結論
- 振動は軸受ハウジングなど剛性の高い場所で、水平・垂直・軸方向の3方向を毎回同じ条件で測る
- 「何mm/sで停止」は全ポンプ共通ではなく、メーカー値、適用規格、安定時の基準値から事前に決める
- 警報値は調査開始、停止値は直ちに低減または停止する境界として運転要領に明記する
- 周波数・方向・運転点の変化は原因を絞る手掛かりで、1本のピークだけで原因を断定しない
1. ポンプの振動はどこから来るのか
ポンプ振動の起振源は、大きく水力的要因と機械的要因に分けられます。ただし両者は独立していません。たとえば運転点が小水量側へ外れると水力的な変動力が増え、それが軸受箱や配管を振動させます。配管荷重で芯がずれると、機械的振動だけでなく軸封漏れや軸受温度上昇へ進むことがあります。
| 分類 | 代表例 | 一緒に現れやすい徴候 |
| 回転体 | アンバランス、軸曲がり、羽根車への付着・欠損 | 回転速度と関連する振動、特定方向の増加 |
| 軸系 | 芯ずれ、軸継手異常、軸受摩耗 | 軸方向振動、温度上昇、カップリング側の増加 |
| 流体 | キャビテーション、空気混入、内部再循環、脈動 | ざらつく音、圧力変動、流量不安定 |
| 構造 | 基礎・アンカーボルト・ベースの緩み、共振 | 複数箇所で増幅、回転速度変更で急増 |
| 配管 | 配管荷重、支持不足、圧力脈動、フラッシング配管の振動 | ノズル周辺や配管の大きな動き |
| 外部 | モータ、減速機、隣接機器からの伝達 | ポンプ停止中にも振動、駆動側で大きい |
最初から「ポンプ内部が壊れた」と決めず、「どこで振動が生まれたか(起振源)」「何を伝わってきたか(伝達経路)」「どこで大きく見えるか」を分けて考えます。配管が大きく揺れていても、起振源はポンプ内部の脈動ということがあります。
2. 振動変位・速度・加速度の違い
振動計の表示モードには、主に変位、速度、加速度があります。同じ振動を別の物理量で見ているため、数値の大小を直接比較できません。
| 測定量 | 主に見やすい現象 | 現場での使いどころ |
| 変位 | 低周波側の大きな動き、軸ぶれ、すき間、低速機械 | 軸の動きや低回転域、両振幅で管理する機器 |
| 速度 | 回転機械の広帯域な振動、疲労や振動感の大きさ | ポンプ・モータの日常的なオーバーオール管理 |
| 加速度 | 衝撃、高周波、転がり軸受の傷や潤滑不良 | 軸受異常の早期検出、エンベロープ・周波数分析 |
一般巡回では振動速度のオーバーオール値(測定周波数範囲の全成分をまとめた1つの値)を中心にし、軸受の劣化が疑われるときは加速度を追加します。既設の管理基準が変位や加速度で作られている場合は、別のモードへ置き換えません。

3. 振動の測定位置と3方向
測定点は、診断対象に近く、軸受外輪の振動を伝えやすい軸受ハウジングなどの剛性が高い部分に取ります。薄いカバー、ガード、フィン、配管へ当てると、局部振動を拾って再現性が悪くなります。

横軸ポンプでは、少なくともポンプ軸受箱の駆動側・反駆動側を候補とし、必要に応じてモータ軸受部も測ります。方向は次の3つです。
- H:水平方向。基礎や軸受台の横剛性、アンバランスなどを見やすい
- V:垂直方向。ベース、グラウト、支持剛性の影響を含めて見る
- A:軸方向。芯ずれ、軸方向推力、軸継手側の異常を見つける手掛かりになる
測定点には塗装マークや測定パッドを設け、毎回同じ位置、同じ方向、同じセンサ取付方法で測ります。マグネット、手押し、ねじ固定では高周波特性が異なるため、取付方法も記録します。
4. 同じ条件で測らなければ傾向にならない
振動値を時系列で比べるには、次の条件をそろえます。
- 吐出し量または弁開度が同じ
- 回転速度またはインバータ周波数が同じ
- タンク液面、吸込圧力、液温、液質が近い
- ポンプの暖機状態と運転経過時間が近い
- 測定点、方向、測定量、周波数範囲、センサ取付方法が同じ
- 単独運転・並列運転など運転台数が同じ
インバータ運転では、回転速度が変われば回転周波数と羽根通過周波数も移動します。速度が違うデータを単純に重ねると、正常な変化を異常と誤認します。

同一仕様の予備機と比較するときも、同じ配管系・運転点・測定条件で比べます。個体差はあるため、差があるだけで不良とは決めません。
5. 何mm/sで停止するか
結論から言えば、ポンプを一律の振動速度で停止させることはできません。回転速度、出力、ポンプ形式、軸受、基礎の剛性、配管、測定位置、測定帯域で評価値が変わります。
停止基準は、次の優先順で決めます。
- メーカー取扱説明書、データシート、購入仕様書、工場試験の許容値を確認する
- 適用するJIS・ISO・APIなどの規格と版、対象機械の範囲を確認する
- 現地据付け後の安定運転値を基準値として保存する
- 同じ測定点・方向・運転状態での変化量を評価する
- 機器重要度、漏えい時の危険性、予備機への切換え可否を加えて警報値・停止値を定める
JIS B 0906は非回転部分で測る機械振動の一般的指針です。回転動力ポンプについてはISO 10816-7:2009が現在も公表され、後継のISO 20816-7は作成中です。規格のゾーン値を使う場合も、その規格が対象ポンプ、出力、支持条件、測定位置に適用できるかを確認します。
目安の一例として、外山幸雄『絵とき「ポンプ」基礎のきそ』は、JIS B 8301に参考値として載っている振動基準値を紹介しています。横軸ポンプの軸受中心で測った両振幅で、2極では50Hzでおよそ32μm、60Hzでおよそ28μm、4極では50Hzでおよそ55μm、60Hzでおよそ50μmです。同書はこれを運転の上限とし、さらに上に停止の目安を示しています。両振幅は変位の値なので、振動速度(mm/s)の値とは比べられません。
ISO系の規格は、振動の大きさを評価ゾーンA~Dに分けて判定します。停止値は一般にゾーンCまたはDの中に置かれます。

2026年9月時点。規格番号・版は改正されるため、実際の基準設定時に最新版と購入仕様を確認してください。
6. 基準値・警報値・停止値を分ける
運転管理では、三つの値を混同しないことが重要です。

| 区分 | 意味 | 現場の行動 |
| 基準値 | 据付け後の安定した正常運転値 | 同条件で保存し、経時変化の起点にする |
| 警報値 | 原因調査と改善計画が必要な値 | 再測定、条件照合、周波数分析、監視強化 |
| 停止値 | 継続運転で損傷のおそれがある値 | 直ちに振動を下げる処置、または安全に停止・切換え |
転がり軸受の状態監視では、加速度振動の実効値が初期値の2~3倍で警報、5~6倍で停止とする判定例があります。振動速度の値にそのまま当てはめるものではありません。しかし、基準値が低すぎる場合や測定条件が変わる場合は現実と合わないため、万能な倍率としては使えません。絶対値、基準値からの変化、周波数成分、他のプロセス値を組み合わせます。
停止値未満でも、次のときは数値を待たずに運転要領に従って停止を判断します。
- 振動が短時間で急増している
- 軸封から危険液が漏れている
- 軸受温度が上昇し続ける
- 金属接触音がする
- アンカーボルトや配管が大きく動く
7. 振動が上がったときの初動
まず人身安全と漏えい・火災・機械破損の危険を確認します。危険が差し迫る場合は、原因調査より停止または予備機への切換えを優先します。
危険が差し迫っていない場合は、次の順で確認します。
- 同じ測定点・方向・モードで再測定し、計器や当て方の誤差を除く
- 回転速度、流量、吸込・吐出圧力、電流、液温、タンク液面を記録する
- 異音、軸受温度、軸封漏れ、潤滑油、冷却水、配管・基礎の動きを見る
- 運転点を安全な範囲で変更し、振動がどう変わるか確認する
- ポンプ側、モータ側、軸方向・半径方向の分布を比較する
- 必要に応じて波形・周波数分析、芯出し、締結、配管荷重を調査する
運転点変更で振動が大きく変われば、水力的要因や共振を疑う手掛かりになります。電源を切った瞬間に振動が消えるなら、モータの電磁的な原因を疑います。減速中の特定の回転速度で振動がピークを通るなら、共振を疑います。どちらも安全な試験計画の下で行います。
8. 周波数と方向から原因を絞る
周波数分析では、回転周波数を1Xとして、どの成分が増えたかを見ます。

| 観察結果 | 疑う要因 | 追加確認 |
| 1Xが半径方向で大きい | アンバランス、付着、羽根車欠損、軸曲がり | ポンプ・モータ両側の位相、付着物、釣合い |
| 1X・2Xが大きく軸方向も増える | 芯ずれ、軸継手異常、軸曲がり | 冷態・温態芯出し、配管接続前後、カップリング |
| 多数の高調波、波形の乱れ | 緩み、ガタ、接触 | アンカーボルト、ベース、軸受はめ合い、ガード |
| 羽根通過成分(羽根枚数×回転周波数)が増える | 羽根と舌部、内部再循環、脈動 | 運転点、羽根車、ケーシング、配管圧力波形 |
| 広帯域・ランダム成分とざらつく音 | キャビテーション、空気混入 | NPSHa、ストレーナ、液面、ベント、吸込漏気 |
| 高周波加速度が増える | 転がり軸受の傷、潤滑不良、接触 | エンベロープ処理(軸受の傷が当たる周期を取り出す分析)、軸受温度、給脂量、油の状態 |
実際の異常は複合して現れます。たとえば芯ずれが軸受を傷めると、1X・2Xだけでなく高周波成分も増えます。周波数表は原因候補を減らすために使い、分解前の断定には使いません。
9. 水力的振動と機械的振動の見分け方
水力的振動は、運転点や吸込条件の変更に反応しやすいのが特徴です。機械的振動は回転速度、芯出し、締結、軸受状態に強く関係します。

水力的要因を疑う変化
- 吐出弁開度や流量を変えると振動が大きく変わる
- 小水量運転、過大流量、最高効率点から外れた領域で増える
- 吸込液面低下、ストレーナ差圧上昇、液温上昇と同時に増える
- 圧力・流量が揺れ、砂利を流すような音や気泡音がする
- フラッシング配管や細い分岐配管が大きく振動する
機械的要因を疑う変化
- 同じ運転点でも時間とともに増える
- カップリング側や一方の軸受で顕著に大きい
- 軸方向成分、軸受温度、潤滑状態に変化がある
- 基礎、グラウト、アンカーボルト、配管接続後に変化した
- 特定の回転速度で急増し、速度を外すと下がる
キャビテーションは揚程低下が明瞭になる前から振動・騒音が増える場合があります。圧力計が大きく下がっていないから安全とは判断できません。
剛性を上げて固有振動数を運転周波数から離す対策は有効な場合があります。ただし、起振源がキャビテーション、羽根通過の圧力脈動、芯ずれなら、ベースを固くしても原因は残ります。
細く長いフラッシング配管や支持不足の配管は、流体振動を増幅します。配管振動をポンプ内部の異常と決めず、ポンプ軸受箱と配管の振動分布、圧力波形、支持状態を比べます。
10. 現場用チェックリストと記録する項目
| 場面 | 確認すること | 記録する項目 |
| 通常巡回 | 同じ位置・方向・条件、音、温度、漏れ、圧力、流量 | 測定点・方向・測定量(実効値かピーク値か)、回転速度、流量、吸込・吐出圧力、電流、液温 |
| 警報発生 | 再測定、運転点照合、他方向・他軸受、トレンド、周波数 | 測定周波数範囲、センサ取付方法、波形・スペクトル、基準値との比 |
| 即時判断 | 急増、金属音、危険液漏れ、温度上昇、締結・配管の大きな動き | 停止・切換えの時刻、応急処置 |
| 原因調査 | 芯出し、アンバランス、軸受、基礎、配管荷重、吸込条件、運転点 | 運転操作の前後差、軸受温度、潤滑、軸封漏れ |
| 復旧後 | 同条件で再測定、処置前後比較、再発監視 | 処置前後の値、新しい基準値、再起動条件 |
測定点を設備図へ番号で示し、トレンド表と対応させると、担当者が変わっても同じ位置で測れます。
まとめ
ポンプ振動は、剛性の高い同じ測定点で3方向を同じ運転条件で測り、絶対値と基準値からの変化を合わせて判断します。停止値はメーカー値・適用規格・現地の基準値から事前に決め、異常時は周波数・音・温度・漏れ・圧力・流量・電流を同時に見て原因を絞ります。
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参考文献
- 外山幸雄『絵とき「ポンプ」基礎のきそ』日刊工業新聞社, 6-10「初生キャビテーション」、6-14「振動許容値とポンプの停止」 Amazonで見る
- 松村正夫『入門 新ポンプ技術』丸善出版, 5.5「ポンプの運転と振動」 Amazonで見る
- 外山幸雄『ポンプの選定とトラブル対策』日刊工業新聞社, 第6章「トラブル事例、その原因と対処法」、第7章「ポンプよろず相談」 Amazonで見る
- 化学工学協会関東支部編『プロセス機器構造設計シリーズ6 化学プラント用ポンプ・圧縮機』丸善, 5.3.3「運転中の故障現象と原因」
- 化学工学協会編『安全対策技術3 保安・保全の管理技術 2/2』丸善, 5.1.5「回転機の振動による故障診断」
- 『ファン・コンプレッサーの本』日本プラントメンテナンス協会, 第2章「送風機の種類と構造」
- 日本規格協会「JIS B 0906:1998 機械振動―非回転部分における機械振動の測定と評価―一般的指針」
- ISO, ISO 10816-7:2009, Mechanical vibration — Evaluation of machine vibration by measurements on non-rotating parts — Part 7: Rotodynamic pumps for industrial applications, including measurements on rotating shafts
- ISO, ISO/AWI 20816-7(後継規格、2026年9月時点で作成中)
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