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気液反応と反応係数β|液を濃くしても頭打ちになる濃度がある

液を濃くしても頭打ちになる

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ガスを液に吸わせるとき、液の中で反応させると吸収が速くなります。

溶けた分子が反応で消えるので、いつまでも濃度差が残る。だから吸い続けられる。反応は「吸収の邪魔」ではなく「吸収の道具」です。

この記事は反応器シリーズ「その他の不均一系と特殊反応器」の1本です。全体像は反応器と反応工学の全体像にまとめています。

この記事の結論

  • 反応を伴う吸収速度は、物理吸収のβ 倍になる。この β を反応係数という
  • 反応が速いほど反応面が気液界面へ近づく
  • 界面に達すると、そこから先はガス側の抵抗だけになる
  • だから液を濃くしても頭打ちになる濃度がある

吸収そのものの基礎はガス吸収の記事で扱いました。ここではそこに反応が加わると何が変わるかを見ます。

1. 反応係数 β|何倍速くなったか

反応が無い場合(物理吸収)、液境膜を通る吸収速度は溶けた分子の濃度差で決まります。

ところが液の中に反応相手Bがいると、溶けたAは液本体に届く前に消費されます。結果として界面付近の濃度勾配が急になり、吸収が速くなる。

この促進の度合いを表すのが反応係数 β(enhancement factor)です。文献の定義はこうです——反応を伴うときの吸収速度は物理吸収速度の β(>1)倍になっている。この β は反応による吸収速度の促進の度合を表わす係数である。

使い方は素直です。物理吸収で計算しておいて、最後に β を掛ける。β = 10 なら、同じ塔で10倍吸える——あるいは塔を1/10にできるということです。

アミン水溶液によるCO2回収、アルカリによる酸性ガスの除去、亜硫酸ガスの吸収——工業的な吸収の多くが化学吸収なのは、この倍率が効くからです。

2. 反応面はどこにあるか

液膜のどこで反応するか

β の大きさを決めているのは「反応がどこで起きているか」です。反応の速さによって場所が動きます。

反応の速さ反応が起きる場所β
遅いAは液膜を通り抜け、液本体で反応する1に近い
中くらい液膜の中で反応する1より大きい
速い(瞬間反応)気液界面のすぐそばで反応する大きい

反応が速いほど、Aは奥まで行けずに手前で消される。反応面が界面に向かって前進してくるわけです。

ここで未反応核モデルを思い出してください。あちらは反応面が内側へ後退していきました。気液反応では界面へ前進してくる。向きは逆ですが、「反応面がどこにあるかで律速が決まる」という構図は同じです。

3. 液成分を濃くしていくと何が起きるか

反応面を界面に近づけるには、液の反応成分Bを濃くするのが手っ取り早い。Bが濃いほどAはすぐ捕まるからです。

文献はこの極限を式で押さえています。液成分Bの濃度が高いとき、反応界面は気液界面に接近して、x = 0 において気・液両成分の濃度は0になる。

反応面が界面そのものに張り付いた状態です。ここまで来ると、液側にはもう抵抗が残っていません。

それ以上濃くしても意味がない

そして重要な結論が出てきます。この状態になる液濃度を (CBL)c とすると、

(CBL)c = (b·DA·kG / DB·kL)·pA

そして——液濃度が (CBL)c 以上に高くなってもガス境膜内の成分Aの濃度分布は不変である、と。

吸収速度が頭打ちになります。液をどれだけ濃くしても、それ以上は速くならない。ガス側の抵抗だけが残っているからです。

これは設計上、非常に実際的な結論です。

  • 吸収液の濃度を上げる投資には上限がある。(CBL)c を越えたら薬品代の無駄
  • それ以上速くしたければガス側を触る——ガス流速、界面積、充填物
  • 逆に言えば、ガス側律速の系では液を薄くしても性能が落ちない。薬品を減らせる

式の形も読めます。(CBL)ckG/kL に比例する。ガス側が速い装置ほど、液を濃くする意味が大きいということです。

4. 総括で見ると

ガス側と液側をまとめると、ガス側基準の総括物質移動係数 KG

1/KG = 1/kG + HA/kL

で定義されます。抵抗の直列——伝熱の総括係数とまったく同じ形です。

ここで HA はヘンリー定数です。溶けにくいガスほど HA が大きく、液側の抵抗が効いてくる。

よく溶けるガス(HA小)液側の抵抗が小さいガス側律速。ガス流速を上げる
溶けにくいガス(HA大)液側の抵抗が大きい液側律速。反応で稼ぐ余地が大きい

化学吸収が効くのは、もともと液側律速だった系です。溶けにくいガスを無理に吸わせたいときに、反応が液側の抵抗を消してくれる。

逆に、もともとよく溶けるガスに高い反応剤を使っても、消せる抵抗がそもそも小さいので効果が薄い。どちら側が律速かを先に見る——第5章の触媒反応と同じ順序です。

5. 装置をどう選ぶか

反応面がどこにあるかで、装置に求めるものが変わります。

反応が遅い(液本体で反応)液のホールドアップが要る気泡塔、撹拌槽
反応が速い(界面付近で反応)界面積が要る。液量は少なくていい充填塔、スプレー塔

反応が液本体で起きるなら、液がたくさん滞留する装置がいる。界面で起きるなら、液は薄く広く広がっていればよく、量は要らない。

界面積を稼ぐという意味では、撹拌の記事で見た放射流型の翼が効きます。気泡を細かくちぎって界面積を増やす——「まぜる」ではなく「ちぎる」仕事です。

まとめ

液の中で反応させると、溶けた分子が消費されて濃度勾配が急になり、吸収が速くなります。その倍率が反応係数 β で、物理吸収の計算に掛けるだけで使えます。β を決めているのは反応面の位置で、反応が速いほど気液界面に近づく。液の反応成分を濃くしていくと反応面が界面に張り付き、そこから先はガス側の抵抗だけになるので吸収速度が頭打ちになります。その臨界濃度が (CBL)c で、これを越えて液を濃くするのは薬品代の無駄です。総括係数は 1/KG = 1/kG + HA/kL という抵抗の直列で、化学吸収が効くのはもともと液側律速だった系——溶けにくいガスを吸わせたいときです。

次の記事:重合反応器|分子量分布をつくる装置

参考文献

  • 橋本健治『反応工学 改訂版』培風館, 第11章「気液反応と気液固触媒反応」(反応係数の定義、式11・9〜11・12) Amazonで見る
  • 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』丸善, 第10章「吸収」・第25章「気液・液液反応」 最新版をAmazonで見る
  • 『プロセス設計シリーズ4 反応・吸収を中心とする設計』化学工業社(吸収塔設計の実例)