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触媒粒子にガスを下から吹き込むと、ある流速から粒子層が液体のように振る舞い始めます。沸騰しているように見え、傾ければ水平になり、物を入れれば浮く。
これが流動層です。文献の表現を借りれば、固定層に対してほぼ対照的な性質をもっています。
この記事の結論
- 長所は温度が均一・触媒を出し入れできる・有効係数が大きい・爆発組成でも運転できる
- 短所はガスの吹抜け。収率が完全混合よりさらに落ちることがある
- 圧力損失は層の重さで決まり、流速を上げても変わらない
- スケールアップが難しく、安定な操作に熟練を要する
1. 流動化が始まる点

ガス流速を上げていくと、粒子層は段階的に姿を変えます。
固定層 →(umf)→ 均一相流動層 →(umb)→ 気泡流動層 → 乱流流動層 → 気流層
最初の境目が流動化開始速度 umf です。
見つけ方は簡単で、圧力損失をガス流速に対してプロットするだけ。文献の言い方では、
「傾き1の直線から u₀ 軸に平行になる折れ点」
に対応する流速が umf です。
なぜ折れ点で水平になるのか
流動化した状態では、粒子の重さが、上向きに流れる気体の抵抗力(圧力損失)と浮力の和と釣り合っています。
式で書けば、塔断面積を S、層高を L、空隙率を ε として
SΔp = S·L(1−ε)(ρs − ρg)·g
右辺に流速が入っていません。整理すれば
Δp = L(1−ε)(ρs − ρg)g = 単位断面積あたりの粒子の見かけ重量
流動層の圧力損失は、層に入っている触媒の重さで決まります。流速を2倍にしても、3倍にしても変わらない。これが「折れ点から水平」の中身です。
実務的には嬉しい性質です。固定層のように粒径を細かくすると圧損が跳ね上がる、という制約がありません。だから微粉が使える。
そして診断にも使えます。差圧計の値が層の重さから計算した値より低ければ、触媒が減っている(飛散・抜けている)ということです。
2. 触媒反応に使うのは微粉流動層
| 粗粒流動層(teeter bed) | 0.25 mm 以上 | — |
| 微粉流動層(fluid bed) | 0.05 mm 以下 | 触媒反応にはこちらが採用されている |
微粉流動層には次の特徴があります。
- ガス速度が小さいと気固間の接触状態が不良。速度を非常に大きくすると接触効率が向上する
- 摩滅による粒度分布の変化が少ない
- 触媒の流動性がよく、取扱いが容易
- 操作条件の変更に対して比較的安定
また微粉流動層では、umf の10倍程度の流速まで気泡が発生しません。この範囲では粒子が均一に膨張した状態にあり、均一相流動層と呼ばれます。
3. 4つの長所
(1) 温度がほぼ均一
粒子が激しく運動しているので、層内の温度がならされます。固定層のホットスポットと正反対です。
だから文献はこう位置づけます——炭化水素の空気酸化反応のような激しい発熱を伴い、しかも許容温度範囲の狭い反応に流動層は適している。
「発熱が大きい」と「温度の許容幅が狭い」が両立する反応は、固定層では非常に苦しい。そこが流動層の主戦場です。
(2) 触媒を出し入れできる
粒子が沸騰状態の液体のように振る舞うので、運転しながら抜き出したり足したりできます。
これが決定的に効くのが触媒がすぐ劣化する反応です。石油留分の接触分解では触媒活性が急激に低下するので、触媒を反応塔と再生塔の間で交互に移動させて連続的に操作しています。
固定層なら停止して抜き替えるしかない。触媒劣化の記事で扱いますが、コーク析出のように再生できる劣化なら、流動層は運転を止めずに回し続けられます。
(3) 有効係数が大きい
粒子径が小さいので、Thiele数 φ が小さく、η がほぼ1になります。触媒が丸ごと働く。
固定層では圧損の制約で粒径を下げられませんでしたが、流動層では圧損が層の重さで決まるのでその制約がない。「拡散律速をどう避けるか」という問題を、装置の型で解いているわけです。
(4) 爆発組成でも運転できる
これは意外に知られていない利点です。
粒子とガスが激しく混合されるため爆発の原因となるエネルギーの局部的な蓄積が抑制され、原料ガスが爆発組成に入っても安全な操作が可能になると文献は述べています。
空気酸化反応で炭化水素の濃度が高い原料を使えるということで、これは大きい。生産量が増え、しかも分離工程の負担が減ります(薄い原料を使うと未反応ガスの循環量が増えるため)。
大量の粒子が熱を吸って動き回っていることが、そのまま安全側に効いている構図です。
4. 短所|吹抜けが収率を殺す
ここが流動層の泣きどころです。文献の記述をそのまま受け止めてください。
「ガス相の吹抜けが大きく、反応収率はガス相を完全混合流れとした値よりもさらに低下する場合が少なくない。」
槽列モデルの記事で、同じ条件(kt̄ = 3.1)での反応率を並べました。
| 押出し流れ(固定層に近い) | 95.5% |
| 完全混合1槽 | 75.6% |
| 流動層 | これより下がることがある |
完全混合が下限だと思っていると、そこを割ってくる。気泡になったガスが触媒にほとんど触れずに層を通り抜けるからです。混ざっていないのではなく、触れていない。
したがって文献はこう結論します——高収率が要求される反応、あるいは逐次反応の中間生成物が希望成分であるような反応には流動層は適さない。
選択率の記事で見た A→R→S で R が欲しい系は、流動層では厳しい。この一点で選定が決まることがあります。
残り2つの短所
- スケールアップが容易でない。層内の流動が複雑なため。スケールアップの記事で見た相似則が、気泡の挙動には素直に効かない
- 良好な流動状態を保つ操作条件の範囲が狭く、安定な操作に熟練を要する。流速が低すぎれば流動化せず、高すぎれば飛散する
5. 流動不良の2つの型
「流動状態が順調に進行するとは限らない」と文献は言います。代表的な異常が2つ。
| 現象 | 中身 | 起こりやすい条件 |
| スラッギング | 気泡が大きくなって塔断面全体に広がり、粒子層がそのままの形で押し上げられ、再び落下する上下運動を繰り返す | 細い管で層高を高くした場合 |
| チャネリング | 粒子層の一部に不規則な溝ができて気体がそこを吹き抜ける | 付着性の大きい微粒子/分散板の圧力損失が小さいとき |
チャネリングは短絡そのものです。原料が触媒に触れずに抜ける。
対策として文献が示唆しているのが分散板の圧力損失です。分散板で十分な圧損を取れば、ガスが層全体に均等に配られる。圧損は損失ではなく、均一分配のための投資だと考えてください。
スラッギングのほうは形状の問題です。細長い塔は危ない。層高と塔径の比を無理に大きくしないことが予防になります。
6. 固定層と流動層の使い分け
| 固定層 | 流動層 | |
| 流れ | 押出し流れに近い | 完全混合より悪いことも |
| 温度 | ホットスポットができる | ほぼ均一 |
| 有効係数 | 圧損の制約で低め | ほぼ1 |
| 触媒交換 | 停止が必要 | 運転中にできる |
| 圧力損失 | 粒径に強く依存 | 層の重さで決まる |
| スケールアップ | 比較的素直 | 難しい |
| 向く反応 | 高収率が要る/中間生成物が目的 | 発熱が激しく温度幅が狭い/触媒がすぐ劣化する |
判断の順序としては、まず「収率が要るか」を問うのが早い。逐次反応の中間生成物が目的なら、流動層は最初に外れます。
そのうえで「除熱が成り立つか」「触媒がもつか」を見る。この2つが固定層では無理だと分かったとき、流動層が候補に上がります。
まとめ
流動層は固定層とほぼ対照的な性質をもつ装置です。圧力損失は層の見かけ重量で決まり流速によらないため、微粉が使えて有効係数がほぼ1になります。粒子が激しく動くので温度が均一になり、発熱が激しく許容温度範囲の狭い反応に適する。運転しながら触媒を出し入れでき、接触分解のように急速に劣化する系では反応塔と再生塔を循環させられます。爆発組成でも局部的なエネルギー蓄積が抑えられるため運転できる、という利点もある。一方でガスの吹抜けが大きく、収率が完全混合流れの値をさらに下回ることがあるため、高収率が要る反応や逐次反応の中間生成物が目的の反応には適しません。スラッギングは細長い塔で、チャネリングは付着性の微粒子と分散板の圧損不足で起きます。
参考文献
- 橋本健治『反応工学 改訂版』培風館, 第9章 9・4「気固触媒反応装置」(流動層の長所と短所)・9・6「流動層触媒反応装置」(流動化開始速度、式9・65、スラッギングとチャネリング) Amazonで見る
- 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』丸善, 第27章「固体触媒反応」 最新版をAmazonで見る
化学プラント大全 
