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オリフィスで気体の流量を測るとき、流量計は「オリフィスを設計したときの温度と圧力」での気体の密度を前提にしています。運転の温度や圧力が設計と違えば、指示はそのままずれます。これを直す演算が温圧補正です。
補正の中身は、絶対圧の比と絶対温度の比を掛けて平方根を取るだけです。設計 20℃・0.3 MPa のオリフィスを 50℃・0.6 MPa で使うと、補正なしの指示は実際より約2割少なく出ます。
事故が起きるのは式ではなく設定です。この記事では、補正の式と数値例、温度と圧力のどちらが効くか、補正がどこで掛かっているか、そして補正の二重や設定忘れといった、起こりやすい失敗を説明します。
この記事の結論
- 差圧式は密度を含んだ式で流量を出すので、気体では 運転の温度・圧力が設計と違うと指示がずれる
- 補正の倍率は √(絶対圧の比 × 絶対温度の比)。計算は必ず 絶対圧(ゲージ圧+大気圧)と絶対温度(℃+273) で行う
- 設計 20℃・0.3 MPa を 50℃・0.6 MPa で使うと倍率は 1.26。補正なしの指示は約2割少ない
- 設計 0.3 MPa 付近では、圧力 0.1 MPa のずれは流量で1割強、温度 10℃ のずれは2%弱。圧力側を先に疑う
- 伝送器と DCS の両方で補正すると 二重になり過大に出る。運転条件が設計どおりのときは倍率が 1 なので、二重でも気づけない
- 設定ミスの実例は、運転条件を変えたあとの放置、大気圧の足し忘れ、仕様と違う圧力伝送器。補正をどこで、何を基準に掛けているかを1枚に書いておく
1. なぜ気体だけ補正が要るのか
差圧式流量計は、オリフィス前後の差圧から流量を求めます。流れる量は差圧だけでなく流体の密度でも決まるので、流量計は設計時の密度を固定値として使っています(差圧式流量計の記事)。
気体の密度は温度と圧力で大きく変わります。計装の教科書はボイル・シャルルの法則で、気体の体積は絶対温度に比例して増え、絶対圧に反比例して減ると説明しています。温圧補正は、この密度の変化を加味して、流量を標準状態の体積流量に換算する演算です。補正なしで質量流量を直接測る方式はコリオリ流量計で説明しています。
| 流体 | 流量の単位 | 温度・圧力の補正 |
| 気体 | Nm³/h(0℃、1013 hPa に換算) | 要る。影響が大きい |
| 液体 | m³/h | 体積がほとんど変わらないので、取引用を除いて換算しない |
| 蒸気 | kg/h | 要る。ただし飽和蒸気で圧力が一定なら省略することが多い |
気体には Sm³/h という単位もあり、基準温度が 20℃ のものと 15.6℃ のものがあります。どの基準かを、その都度確かめます。 0℃ 基準と 20℃ 基準を取り違えると、それだけで約7%(293 ÷ 273)ずれます。
2. 補正の式は1本|絶対圧と絶対温度の比
計装の教科書の演算例で考えます。オリフィスの設計基準は 20℃・0.3 MPa(ゲージ圧)、実際の運転は 50℃・0.6 MPa(ゲージ圧)。補正をしないと、指示は実際の流量より約2割少なく出ます。

式は1本です。
補正後の流量 = 補正前の流量 × √((P ÷ P₀) × (T₀ ÷ T))
P と T は運転中の絶対圧と絶対温度、P₀ と T₀ は設計時の絶対圧と絶対温度です。圧力が上がれば気体は重くなり、同じ差圧でも多く流れています。温度が上がれば軽くなり、流れている量は少なくなります。
数字を追います。
- 絶対圧に直す:0.3 + 0.101 = 0.401 MPa、0.6 + 0.101 = 0.701 MPa。比は 0.701 ÷ 0.401 = 1.748
- 絶対温度に直す:293 K と 323 K。比は設計÷運転で 293 ÷ 323 = 0.907
- 掛け合わせる:1.748 × 0.907 = 1.585(教科書の検算値と同じ)
- 開平する:√1.585 = 1.26
実際の流量が 100 のとき、補正なしの指示は 100 ÷ 1.26 ≒ 79 です。
教科書の演算器は、手順3の 1.585 を差圧の信号に掛けてから開平しています。温圧補正は開平の前、開平は後という順番です。また、演算器の補正係数は、圧力伝送器のレンジ、温度計のレンジ、設計基準の温度と圧力、大気圧から計算しています。どれか1つが変われば、係数は計算し直しです。
3. 温度より圧力が効く
同じ式で、設計 20℃・0.3 MPa のオリフィスについて、運転条件が少しずれたときに要る補正を計算しました。

圧力が 0.4 MPa になれば流量で+11.8%、0.2 MPa なら−13.3%。温度が 30℃ なら−1.7%、10℃ なら+1.8%。圧力 0.1 MPa のずれは1割強、温度 10℃ のずれは2%弱です。
理由は分母の大きさです。絶対温度は 293 K もあるので、10℃ は3%あまりの変化にすぎません。絶対圧は 0.4 MPa ほどしかないので、0.1 MPa は25%の変化になります。平方根を取って半分になっても、1割を超えます。
ここから言えることは2つです。
- 補正の狂いを疑うときは、圧力側から見る。圧力伝送器のゼロ点のずれ、レンジの設定違い、大気圧の足し忘れは1割単位で効く
- 低い圧力で使うオリフィスほど、圧力の扱いに敏感。ゲージ圧のまま計算すると、ゲージ圧がゼロに近いほど大きく狂う
温圧補正に使う圧力は、絶対圧伝送器の値か、ゲージ圧に大気圧を足した値です。基準の違いは圧力計と圧力伝送器の記事で扱っています。
4. 補正はどこで掛かっているか
温圧補正を行う場所は、プラントによって違います。
| 場所 | 中身 |
| 専用の演算器 | 差圧・圧力・温度を受けて補正し、開平して出す |
| DCS の演算機能 | 3つの信号を別々に取り込み、DCS の中で補正と開平をする |
| 補正機能付きの差圧伝送器 | 1台で差圧・圧力・温度を測り、伝送器の中で補正して流量を出す |
3つ目は、計装メーカーの実務書が、3台の伝送器と演算器の組み合わせを1台にまとめられるとして紹介しているものです。ただし、補正と開平がどこで掛かっているかが外から見えにくくなりました。伝送器の出力が「差圧」か「開平後の流量」か「補正後の流量」かは、設定を見ないと分かりません。受け取る DCS がそれを知らずに補正や開平をすると、二重になります。
5. 起こりやすい失敗|補正の二重と設定忘れ
「計装」誌に流量計のトラブルを連載したメーカー出身の技術者は、温圧補正の設定間違いは意外に多いと書いています。差圧式はプラントで多く使われているのに、正しさを検証する機会が少ないからです。原因は単純なミスのほか、計画と実際の使用条件の違いだといいます。

5.1 補正の二重
温圧補正を内蔵した伝送器が補正済みの流量を出しているのに、DCS でもう一度補正すると、倍率が2回掛かります。伝送器の中で補正できるようになった今、起こりうる失敗です。先の例なら 1.26 × 1.26 = 1.585 倍、実際 100 に対して 126 と出ます。補正係数 1.585 を開平の後の流量に掛けても、同じ 126 になります。
補正の二重は見つけにくいのが厄介です。運転条件が設計どおりなら倍率は 1 なので、何回掛けても 1 のまま。試運転では合っていたのに、運転条件を設計から離したときに初めて狂い始めます。開平を2回かける事故と同じ構図です(流量計のトラブル事例)。
5.2 運転条件を変えたのに、設定を変えていない
連載には、プラントの運転条件が変わったのに補正器の設定変更を忘れた例や、購入仕様書と違う仕様の圧力伝送器が付いていた例が載っています。オリフィスやレンジを変えたときも同じで、基準値かレンジが変わったら係数も計算し直すのが原則です。
5.3 大気圧を足していない
研究所の計測装置で、加圧空気の流量データが数十%も狂っているという報告があった例です。流量計、圧力計、温度計に異常はない。データ処理のプログラムを読むと、ゲージ圧を絶対圧に直すための大気圧の分(14.7 psi)が、補正式に入っていなかった。流量計は正常でした。
5.4 比べた側の計算が違っていた
200 気圧級の水素ラインで、オリフィスが約 10% ずれていると言われた例もあります。ユーザーは水素ボンベの重さの変化から流量を推定し、その計算に理想気体の式をそのまま使っていました。この圧力では理想気体からのずれの補正が約 12% あるので、差が出て当然でした。
連載は、新しい流量計を差圧式でチェックして合わないと、当然のように新顔が疑われる、と書いています。合わないときは、差圧式の補正と、比べた側の計算の両方を疑います。
6. 現場で見る場所
気体の流量が物質収支や別の流量計と合わないときに、確かめる順番です。
- 補正の場所:伝送器・演算器・DCS のどこか。1か所だけか
- 開平の場所:補正の後に1回だけか
- 基準値:補正の設計温度・設計圧力が、オリフィス計算書と一致しているか。オリフィスやレンジを変えた履歴はないか
- 圧力の扱い:絶対圧か、ゲージ圧に大気圧を足しているか。レンジは仕様書どおりか
- 温度計:絞りの上流に付いているか。指示は妥当か
- 今の運転条件:設計から離れているほど、補正の間違いが表に出る
- 比べた相手:同じ基準(Nm³/h か Sm³/h か、何℃基準か)で比べているか
計器そのものより、オリフィス計算書・伝送器の設定・DCS の演算の3つを並べて突き合わせるのが近道です。
7. 先輩に聞かれたら答えられる3問
- ゲージ圧 0.3 MPa を、温圧補正に使う絶対圧に直すといくらですか。
- 設計 0.3 MPa のオリフィスで、圧力 0.1 MPa のずれと温度 10℃ のずれは、どちらが流量に効きますか。
- 温圧補正が二重に掛かっていても、試運転で気づけないことがあるのはなぜですか。
答えは順に、約 0.4 MPa(大気圧 0.101 MPa を足す)/圧力(流量で1割強。温度は2%弱)/運転条件が設計どおりなら補正の倍率が 1 で、何回掛けても変わらないから、です。
まとめ
気体の密度は温度と圧力で変わるので、差圧式で気体を測るときは温圧補正が要ります。倍率は絶対圧の比と絶対温度の比を掛けて平方根を取ったもので、設計 20℃・0.3 MPa を 50℃・0.6 MPa で使えば 1.26、補正なしなら約2割少なく出ます。温度より圧力がはるかに効きます。
事故は設定で起きます。補正の二重、運転条件やレンジを変えたあとの放置、大気圧の足し忘れ、比べた側の計算違い。補正をどこで、何を基準に掛けているかを1枚にまとめ、計算書・伝送器・DCS を突き合わせてください。
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参考文献
- 川村貞夫・石川洋次郎『メーカーの技術者が書いた やさしく計装がわかる 工業計測と制御の基礎』工業技術社, 2.3.1「差圧式流量計」7)「気体流量の温度圧力補正」、【解説】ボイル・シャルルの法則、6.6.3「差圧式流量の温度圧力補正演算例」 Amazonで見る
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- 『流量計ガイド』, 3「差圧式流量計」(質量流量測定)
- 佐鳥聡夫「現場計器の”不思議な”トラブルシューティング 第2回 流量計(その1)」計装, Vol.41 No.4 (1998)
- 佐鳥聡夫「流量のお話 第2回 差圧式流量計」MS TODAY, 2001年8月号
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