「流量計がおかしい」と言われたとき、流量計そのものが壊れていることは、実はまれです。流量計メーカーで長く開発と販売に携わった技術者は、トラブルの原因をセンサの異常(設計製造、使用環境)とセンサ正常(システム側)の3タイプに分け、製品が成熟した今日、最も繰り返し起きるのは「センサは正常で、システム側に思い違いやうっかりミスがある」タイプだと書いています。
だから切り分けは、流量計を疑う前に、配管・関連機器・設定・検証方法を疑うところから始めます。
この記事では、トラブルの3タイプ、症状別の主な原因、連載記事に載った実例(異物、磨耗、設置環境、関連機器、仕様不適合、誤差検証の誤り)、そして現場での切り分け手順をまとめます。
この記事の結論
- トラブルは タイプⅠ センサの設計製造不良(今日はまれ)、タイプⅡ 使用環境(水素の浸透など)、タイプⅢ センサ正常でシステム側(温圧補正ミス、バイパス弁の漏れ) の3つ
- 次第に信号が低下=管路の異物堆積、次第に誤差が大きく=異物堆積か内部部品の磨耗、当初から誤差が大きい=設置環境・関連機器・仕様不適合・検証方法の間違い
- 開平の二重、温圧補正器やパルススケーラの設定間違い、バイパス弁の漏れ(マイナス誤差) は関連機器側の典型
- 新しい流量計を既設の流量計やレベル計と比べて「合わない」と言うが、既設のほうが狂っていることは珍しくない
- センサが正常だと証明しても解決にならない。ユーザーが納得できる説明(原因の特定)まで行く
- 切り分けは、症状の分類 → 配管と設置 → 関連機器と設定 → 検証方法 → 最後にセンサ
1. トラブルの3タイプ
「計装」誌の連載の第1回は、トラブルの原因を次の表に分類しています。
| タイプ | センサ | 原因 | 具体例 |
| Ⅰ | 異常 | 設計・製造のミス | 製品不良。製品の信頼性が向上した今日、極めてまれ |
| Ⅱ | 異常 | 開発時に想定しなかった使用環境 | 差圧伝送器のように枯れた製品でも、封液に水素ガスが浸透する |
| Ⅲ | 正常 | システム | 温圧補正器の設定間違い、バイパス弁の漏洩 |
タイプⅠとⅡはメーカーが対応し、原因と対策が確立すれば再発しません。タイプⅢは、思い違いやうっかりミスという人間的な要素が絡むので、製品が成熟しても繰り返し起こります。 この解明には、製品以外の広範な知識と現場の経験、推理能力が要ります。
記事はもう1つ大事なことを書いています。ユーザーから見ればシステムのどこが悪くても「指示が狂っている」であり、まず「狂っている」センサのメーカーが呼ばれる。しかしセンサが正常であると証明しても何ら問題は解決しない。ユーザーが納得できる説明が必要なのだ、と。製造部員の側から見れば、「計器屋を呼んで正常と言われた」で終わらせず、では何が原因かを一緒に探すのが仕事です。
2. 症状別の主な原因
連載記事の最終回の表です。
| 症状 | 主な原因 |
| 次第に信号が低下する | 管路に異物が堆積 |
| 次第に誤差が大きくなる | 異物堆積、内部部品の磨耗 |
| 当初から誤差が大きい | 設置環境、関連機器、仕様不適合、誤差検証方法の間違い、誤解 |
「次第に」か「当初から」かで、疑う場所が変わります。
3. 実例|異物・磨耗・設置環境
管路中の異物:流体中の重い成分の分離、塩類の析出、樹脂など粘着性物質の付着で管壁が覆われる。地熱発電所の差圧式流量計では、蒸気に含まれる不純物が管内壁に厚い層として付着し、オリフィスの孔をほとんど覆い隠していた。電磁流量計は電極が絶縁物で覆われると動作しない。プラント建設が盛んだった時代は、工事中に置き忘れたボルト・ナットや手袋が配管内を流れてくる事故がよくあった。
部品の磨耗:可動部より、オリフィス孔のエッジや渦発生体のエッジなど、精度に直接影響する部分の磨耗が問題。研磨性粒子を含むスラリーに使った渦流量計を分解すると、エッジだけでなく渦の当たる管内壁が深く抉られていた。
設置環境:電子回路を内蔵する流量計は、電磁リレー、ソレノイドコイル、インバータの電気ノイズに注意。流速分布の影響を受ける流量計は直管部が重要で、二平面にまたがるエルボは強い旋回流を作る。気泡の溜まる配管、ゴミの溜まる配管(設置の記事)。
4. 実例|関連機器と設定
流量計と組み合わせる関連機器も、往々にしてトラブルの原因になります。


- 開平の二重:オリフィスに開平演算機能付きの差圧伝送器を使っているのに、受信計器側でまた開平する。ある研究所では、PD メータで渦流量計をチェックしたら流量が下がるにつれて指示が大幅に狂った。PD メータのアナログ信号を積算していた積算器が、開平機能付きだった
- 温圧補正器やパルススケーラの設定間違い:200 気圧級の水素ラインで、圧縮係数の補正が 12% あるのに理想気体の式で計算していた。プラントの運転条件が変わったのに補正器の設定変更を忘れた。購入仕様書と異なる仕様の圧力伝送器が付いていた(差圧式流量計の温圧補正)
- バイパス弁の漏れ:保守点検用のバイパス弁が漏れると、流れの一部が分流し、流量計には当然マイナス誤差が生じる
「温圧補正の設定間違いは意外に多い」と記事は書いています。差圧式流量計はプラントの中で多く使われていますが、その正しさを検証する機会は少ないのです。
5. 実例|仕様不適合と、誤差検証の誤り
仕様不適合:仕様決定時に想定した流体条件が実際と大きく違う。液体の粘度・密度、気体の温度・圧力を再確認する。将来の需要拡大を見込んで大容量の流量計を選び、使用開始時の流量が少なすぎる例もある。水素ガスは低密度・高熱伝達率という性質があり、面積式では加圧、熱式では流速制限が要る(面積式・容積式・タービン・熱式流量計)。
誤差検証方法の誤り:これが最も見落とされます。新しい流量計が入ると、それまで使っていた流量計やレベル計と比較することが多いのですが、実はそちらのほうが狂っているケースは珍しくありません。「計装」誌の第2回には、新しく入れた渦流量計が「大幅に狂っている」と報告され、調べると研究員が自作した処理ソフトの大気圧換算が間違っていた例が載っています。新規流量計を差圧式でチェックし、合わないと新顔が疑われる、と記事は書いています。
現場で正確な校正を行うのは、基準器の選定からして難しいものです。臨時に寄せ集めた機器のどれかが不具合だったり、基準器の精度が足りなかったりします。上下水道のベンチュリメータ 200 台以上を調べた海外誌の報告では、誤差が 2% 以下から 30% 以上まで分布していたそうです。
6. 現場での切り分け手順
- 症状を分類する:指示ゼロか、振れるか、ゆっくりずれる(ドリフト)か、積算が合わないか。「次第に」か「当初から」か
- 配管と設置を見る:直管部、エルボ、上流の弁の開度、気泡やゴミの溜まる位置、脈動源、振動、ノイズ源
- 関連機器と設定を見る:開平が二重になっていないか、温圧補正の設定値が今の運転条件と合っているか、パルススケーラ、バイパス弁の全閉と漏れ
- 検証方法を疑う:比較相手の流量計やレベル計は信用できるか。物質収支(タンクの液面変化、原料の消費量、ポンプの作動数)と合うか
- 流体の条件を疑う:粘度・密度・温度・圧力・導電率が仕様と違わないか。気化や固形物の沈殿はないか
- 最後にセンサ:ここまでで原因が見つからなければ、計装担当と一緒にセンサを点検する
流量計は「罪もないのに責められることが多い」と連載記事は書いています。責める前に、ループの外側を順に疑ってください。

7. 先輩に聞かれたら答えられる3問
- トラブルの3タイプのうち、製品が成熟しても繰り返し起きるのはどれですか。
- 流量計の指示が「次第に低下する」ときの主な原因は何ですか。
- 新しい流量計を既設の流量計と比べて合わないとき、まず何を疑いますか。
答えは順に、タイプⅢ(センサ正常でシステム側)/管路の異物堆積/既設の流量計のほうが狂っている可能性と、比較方法そのもの、です。
まとめ
流量計のトラブルは、センサの製造不良、使用環境、センサ正常でシステム側、の3タイプに分かれ、繰り返し起きるのはシステム側の思い違いやうっかりミスです。症状が「次第に」なら異物堆積や磨耗、「当初から」なら設置環境・関連機器・仕様不適合・検証方法を疑います。
開平の二重、温圧補正の設定、バイパス弁の漏れは関連機器側の典型で、既設の流量計との比較は既設のほうが狂っていることも珍しくありません。切り分けは症状の分類、配管と設置、関連機器と設定、検証方法、流体条件の順に進め、センサは最後に疑ってください。
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参考文献
- 佐鳥聡夫「現場計器の”不思議な”トラブルシューティング 第1回 トラブルはなぜ起こる?」計装, Vol.41 No.3 (1998)
- 佐鳥聡夫「現場計器の”不思議な”トラブルシューティング 第2回〜第4回 流量計(その1〜3)」計装, Vol.41 No.4〜6 (1998)
- 佐鳥聡夫「流量のお話 第12回 流量計のトラブル」MS TODAY, 2002年6月号
- 横河電機編『計装メーカが書いた フィールド機器・虎の巻』工業技術社, Ⅱ 7「差圧・圧力伝送器のトラブル事例と対策」、Ⅲ 11「代表的トラブルと対策」
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