ファン、ブロワー、圧縮機は、まったく別の原理の機械ではありません。いずれも気体へエネルギーを与える機械で、主にどこまで圧力を上げるかによって呼び名が変わります。構造は連続しており、遠心ブロワーと遠心圧縮機のように境界付近で呼称が重なることもあります。
実務で大切なのは機械名だけではなく、吸込・吐出しの絶対圧力、実風量か基準状態流量か、WETかDRYかをそろえて読むことです。この記事では、現場オペレーターが計器と仕様書を照合するとき、化学メーカーのエンジニアがメーカーへ条件を提示するときに必要な判断基準を整理します。
この記事の結論
- ファン・ブロワー・圧縮機の境界は、圧力比1.1と2.0、または大気吸込み時の圧力上昇約10 kPaと100 kPaが一般的な目安です。
- 圧力比は必ず絶対圧力で計算します。ゲージ圧同士を割ってはいけません。
- m³/hとNm³/hは同じガス量でも数値が変わります。温度、絶対圧力、WET/DRYを併記します。
- 圧縮機という呼称の約100 kPaと、高圧ガス保安法上の一般圧縮ガスの1 MPaを混同しません。
1. ファン・ブロワー・圧縮機は圧力上昇の程度で呼び分ける
一般的な呼称の目安は次のとおりです。ここでいう圧力上昇は、大気圧付近から吸い込む場合の概略値です。
| 呼称 | 圧力比の目安 | 圧力上昇の目安 | 実務上の見方 |
| ファン | 1.1未満 | 約10 kPa以下 | 気体の密度変化が比較的小さく、換気・通風・排気などで使う |
| ブロワー | 1.1以上2未満 | 約10~100 kPa | 気体の圧縮性を無視しにくくなり、曝気・空気輸送・燃焼空気などで使う |
| 圧縮機 | 2以上 | 約100 kPa以上 | 圧縮による温度上昇が大きくなり、冷却や段数を含めた検討が必要になる |

この境界は呼称を整理するための目安であり、規格、メーカー、用途によって重なります。機器を選定するときは「ブロワーと書いてあるから適用できる」と判断せず、必要風量、吸込・吐出し圧力、ガス性状、性能曲線、許容運転範囲で比較します。
また、ファンとブロワーをまとめて「送風機」と呼ぶことがあります。一方、ターボ形・容積形、遠心・軸流・ルーツといった言葉は作動原理や構造の分類です。圧力による呼称と構造分類を混ぜないことが、最初のポイントです。
2. 圧力比はゲージ圧ではなく絶対圧で求める
圧力比は次の関係で求めます。
圧力比 = 吐出し絶対圧力 ÷ 吸込絶対圧力
現場の圧力計は、多くの場合、大気圧を0としたゲージ圧を示します。絶対圧力へ直す基本関係は次のとおりです。
絶対圧力 = ゲージ圧力 + 現地の大気圧
大気開放の配管ではゲージ圧が0 kPaでも、絶対圧力は0ではありません。したがって、ゲージ圧同士を割ると圧力比を正しく求められません。吸込側が負圧なら、その負圧分を大気圧から差し引いて絶対圧力にします。
たとえば現地大気圧を101.3 kPa、吸込圧力を-5 kPaG、吐出し圧力を+60 kPaGとすると、吸込絶対圧力は96.3 kPa abs、吐出し絶対圧力は161.3 kPa absです。圧力比は161.3÷96.3=約1.67となり、一般的な呼称ではブロワー領域です。
大気圧は天候と標高で変わります。厳密な設計・性能換算では、固定の101.3 kPaではなく、仕様で定めた大気圧または現地測定値を使います。
3. 圧力の種類と測定位置をそろえる
送風機の仕様では、静圧、動圧、全圧が使われます。吸込側と吐出し側で静圧と全圧を混ぜたり、配管径や測定位置が違う値をそのまま引いたりすると、必要圧力を誤ります。
現場で比較するときは、次の3点をそろえます。
- 吸込・吐出しともにゲージ圧か絶対圧か
- 静圧か全圧か
- 圧力計・測定口の位置と運転状態
圧力比の計算には絶対圧力を使い、装置の圧力損失や送風機の圧力上昇を比較するときは、メーカー仕様と同じ静圧/全圧の基準にそろえます。
4. m³/hとNm³/hは「体積を測る状態」が違う
気体の体積は、温度と絶対圧力によって変わります。同じ質量の空気でも、温度が高いほど、また圧力が低いほど体積は大きくなります。そのため、風量の数値だけを比較してはいけません。
| 表示 | 意味 | 必ず確認する条件 |
| m³/h | 指定された実状態での体積流量。送風機では一般に吸込状態で扱う | 吸込温度、吸込絶対圧力、湿度・組成 |
| Nm³/h | 所定の基準状態へ換算した体積流量 | 基準温度、基準絶対圧力、WET/DRY |
| kg/h | 質量流量 | ガス組成、平均分子量、水分を含むか |

「N」はNormalの略として使われますが、Nだけでは条件が確定しません。0℃か20℃か、絶対圧力は101.325 kPaか、乾きガスか湿りガスかを仕様書に書きます。「標準状態」「基準状態」という日本語も、会社、規格、文献で指す条件が違うことがあります。
メーカーへは、たとえば「1,000 Nm³/h、0℃、101.325 kPa abs、DRY」のように、数値と状態を一組で提示します。実風量と基準状態流量の詳しい換算、ガス密度、軸動力への影響は、BL-05へ統合する風量・圧力・軸動力の記事で扱います。
5. WETとDRYは水蒸気を含むかどうか
WETは水蒸気を含んだ湿りガス全体、DRYは水分を除いた乾きガス成分を基準にした表示です。湿度の高い空気やプロセスガスでは、同じ「1,000 Nm³/h」でもWETとDRYで乾きガスの物質量が変わります。
特に次の条件では、WET/DRYの未定義が選定誤差につながります。
- スクラバー出口や冷却器出口で水分を多く含む
- 吸込温度の変化で凝縮する可能性がある
- 反応・燃焼計算で乾きガス量を使う
- 水蒸気以外の溶剤蒸気を含む
「DRYなら水分は完全にゼロ」と思い込まず、分析値の基準、露点、凝縮液の有無も確認します。
6. 仕様書と現場計器はこの順で照合する
仕様書、データシート、現場計器の値が合わないときは、機械の異常を疑う前に表示条件をそろえます。
- ガス組成と水分基準を確認する
- 風量が実状態か基準状態換算か確認する
- 基準温度、基準絶対圧力、WET/DRYを確認する
- 吸込・吐出し圧力がゲージ圧か絶対圧か確認する
- 静圧か全圧か、測定位置はどこか確認する
- 最小・通常・最大条件を同じ基準へ換算して比較する
この順で確認すると、「設計風量に届かない」「メーカー曲線と合わない」という問題が、単位・基準の取り違えなのか、実際の性能低下なのかを切り分けやすくなります。
7. 圧縮機の呼称と高圧ガス保安法は別の基準
圧力上昇が約100 kPa以上という「圧縮機」の呼称は、機械分類の目安です。高圧ガス保安法上の「高圧ガス」の判定線ではありません。
一般の圧縮ガスは、常用の温度で圧力が1 MPa以上かつ現に1 MPa以上、または35℃で1 MPa以上となるもの等が高圧ガスに該当します。圧縮アセチレンや液化ガスには別の条件があります。つまり、約100 kPaの圧力上昇で圧縮機と呼ばれても、それだけで直ちに一般圧縮ガスの1 MPa条件へ達するとは限りません。
法令の適用は、ガスの状態、温度、圧力、設備の範囲、除外規定を含めて個別に判断します。設計・変更時は、e-Gov法令検索の高圧ガス保安法と関係政省令の最新版を確認し、社内の保安担当部門と照合してください。
8. まとめ
ファン、ブロワー、圧縮機は連続した気体機械であり、主に圧力比と圧力上昇の程度で呼び分けます。呼称の境界は目安なので、機器選定には必要風量、絶対圧力、ガス性状、運転範囲が必要です。
現場で数字を読むときは、圧力比を絶対圧力で求め、風量には温度・絶対圧力・WET/DRYを添えます。この基準をそろえるだけで、仕様書、メーカー曲線、現場計器の食い違いを大幅に減らせます。送風機記事群の全体像は、送風機・ブロワー完全ガイドから確認できます。
参考文献
- 高橋徹『流体のエネルギーと流体機械』第3章、PDF p.123, 125, 129
- 日本プラントメンテナンス協会『ファン・コンプレッサーの本』第1章、PDF p.14–19
- 尾形俊輔ほか『ファン・ブロワ 改訂版』PDF p.23–24
- J.H. Perryほか『化学工学の基礎と計算』第1章、PDF p.34–37
- 経済産業省『第2編 総論(高圧ガス保安法)』
化学プラント大全 
