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起動手順書のいちばん上に、たいてい「ベント弁を開けて空気を抜く」と書いてあります。液が出てきたら閉める。それだけの作業ですが、これを飛ばすとポンプは分解できない状態まで壊れることがあります。
理由は単純です。ポンプは液体機械だからです。この記事では、なぜ空気を抜かなければならないのか、そして吸込側の配置(吸上げか押込みか)によって方法が4通りに分かれることを整理します。
この記事の結論
- ポンプは液体機械(真空ポンプを除く)。空気が残ったまま回すと内部が「かじり」を起こし、主軸を折損して分解不可能な状態になる
- モータの低電流検知だけでは守れない。起動前の空気抜きを手順で確実に行う
- 方法は吸込側の配置で分かれる。液面がポンプ軸中心より低い=吸上げ、高い=押込み
- 吸上げは①真空ポンプ+満液検知器(大形・自動運転)②呼水漏斗+フート弁(小形・水)
- 押込みは③そのまま流し込む(セルフベント構造のとき)④最上部にもう1つ空気抜き弁を足す
- 抜けた合図は「空気抜き弁から液が出ること」。時間や勘で判断しない
1. なぜ空気を抜くのか
流体機械は、液体を扱うポンプと、気体を扱う送風機・圧縮機に分かれます。正確に言えば真空ポンプを除いて、ポンプは液体機械です。液体で満たされている前提で設計されています。
空気が残ったまま運転するとどうなるか。液が入っていない部分では、
- 摺動部に液膜ができず、「かじり」(金属同士の焼き付き)が起きる
- 液が冷却も潤滑もしないので、軸封部・ライナリング部が過熱する
- 最悪、主軸を折損して分解不可能な状態になる
ベント弁を開ける数十秒の作業を飛ばすと、修理ではなく交換になることがあります。
電気で守れないかという発想は自然ですが、教科書ははっきり書いています。モータの低電流(空運転すると軸動力が下がるので電流が下がる)を検知して停止する方法はあるものの、ほとんどの場合この方法は役に立ちません。 低電流検知だけに頼らず、起動前の空気抜きを手順で確実に行います。
2. 吸上げか押込みか|まずここで分かれる
空気抜きの方法は、吸込側の液面がポンプ軸中心より低いか高いかで分かれます。
- 吸上げ:液面がポンプ軸中心より低い。ポンプの中を負圧にしないと液が上がってこない
- 押込み:液面がポンプ軸中心より高い。弁を開ければ液が自分で入ってくる
自分のポンプがどちらかは、タンクの液面とポンプの据付高さを見れば分かります。同じプラントでも、地下ピットから汲むポンプは吸上げ、塔の底から抜くポンプは押込み、と混在します。手順書が違うのはこのためです。
3. 吸上げの空気抜き|2つの方法
① 真空ポンプ+満液検知器
ポンプのできるだけ上部、または吐出し管から枝管を出し、その先のポンプより高い位置に満液検知器を、さらにその先に真空ポンプをつなぎます。
手順は、吐出し弁を全閉、バイパス弁(ポンプから満液検知器へ出した枝管の弁)を全開にして、真空ポンプを運転します。ポンプ内を真空にしながら、吸込タンクから液を吸い上げます。ポンプ内が液で満たされたことを満液検知器が検知したら完了です。
主に水を扱う大形のポンプ、および自動運転されるポンプに使われます。自動化しやすいのが利点で、吸上げで無人起動するポンプではこの方式がよく使われます。
② 呼水漏斗+フート弁
同じくポンプ上部または吐出し管から枝管を出し、ポンプより高い位置に呼水漏斗(じょうご)をつなぎます。そして吸込配管の最下端にフート弁(逆止弁)を設けます。
手順は、吐出し弁を全閉、バイパス弁を全開、空気抜き弁を全開にして、呼水漏斗から取扱液を注ぎ込みます。フート弁があるので注いだ液は下に落ちず、ポンプと吸込配管を満たしていきます。空気抜き弁から液が漏れてきたら、空気が抜けた合図です。
主に水を扱う小形のポンプに使われます。「呼び水」という言葉はここから来ています。

フート弁が漏れていると、停止中に液が落ちてしまい、起動のたびに呼び水が必要になります。「毎回呼び水しないと起動しない」ポンプは、フート弁を疑ってください。
4. 押込みの空気抜き|2つの方法
③ そのまま流し込む(セルフベント構造)
吐出し弁を全閉、吸込弁と空気抜き弁を全開にして、ポンプ内に液を流し込みます。空気抜き弁から液が漏れてきたら完了です。吸上げより単純です。
ただし条件があります。ポンプがセルフベント構造であること。 セルフベントとは、液がポンプに入ってきて液面がどんどん上昇していくと、自動的にポンプ内の空気が抜ける構造のことです。ケーシングの上部が吐出し側へ向かって連続的に上がっていて、空気の逃げ道が塞がれていない形です。主に水以外の液を扱うポンプに適用されます。
④ 空気抜き弁を1つ足す(セルフベントでない構造)
セルフベントでない構造では、液面が上がってもケーシングの上部に空気だまりが残ります。 逃げ道が上に向かっていないからです。

この場合は、空気が溜まる最上部にもう1つ空気抜き弁が必要になります。手順は同じで、吐出し弁を全閉、吸込弁と2つの空気抜き弁を全開にして液を流し込み、両方の弁から液が出たら完了です。
自分のポンプがセルフベントかどうかは、ケーシングの形と空気抜き弁の数を見れば分かります。空気抜き弁が2つあるポンプは、片方だけ開けても抜けません。
5. 4つの方法を並べる
| 配置 | 方法 | 弁の状態 | 完了の合図 | 主な適用 |
| 吸上げ | ① 真空ポンプ+満液検知器 | 吐出し弁全閉、バイパス弁全開 | 満液検知器の検知 | 水・大形・自動運転 |
| 吸上げ | ② 呼水漏斗+フート弁 | 吐出し弁全閉、バイパス弁全開、空気抜き弁全開 | 空気抜き弁から液 | 水・小形 |
| 押込み | ③ そのまま流し込む | 吐出し弁全閉、吸込弁・空気抜き弁全開 | 空気抜き弁から液 | セルフベント構造 |
| 押込み | ④ 空気抜き弁を1つ足す | 吐出し弁全閉、吸込弁・2つの空気抜き弁全開 | 両方の弁から液 | セルフベントでない構造 |
4通りに共通するのは2つです。
- 吐出し弁は全閉。 空気を抜いている間に流れを作らない
- 完了の判定は「液が出ること」。 時間でも、勘でもない
6. 現場でよくある落とし穴
- 液が出る前に閉めてしまう。 泡混じりの液が少し出た段階で「出た」と判断すると、まだ空気が残っています。連続した液になるまで開けておく
- 空気抜き弁が1つだと思い込む。 セルフベントでない構造では2つあります。ポンプの最上部を見て確認する
- フート弁の漏れを放置する。 毎回の呼び水は異常のサインです
- バイパス弁を開け忘れる。 吸上げの①②では、ポンプ上部から満液検知器や呼水漏斗へつなぐ枝管の弁(バイパス弁)を全開にします。閉じたままでは、真空ポンプで引くことも、呼水漏斗から液を入れることもできません
- 危険物・毒性液のベント。 空気抜き弁から出るのは取扱液そのものです。開放系のベントでよいか、クローズドドレンへ導くか、液の性状で決まります。 手順書がどちらを指示しているか確かめてから開ける
- 抜いた直後に起動しないまま放置する。 時間が経つとまた空気が入ることがあります(フート弁漏れ、吸込配管の空気だまり)。空気抜きは起動直前に行う
最後の点は、「ポンプまわりの配管レイアウト」で扱った「吸込配管に上に凸を作らない」につながります。配管に空気だまりがあると、抜いても抜いても再発します。 空気抜きは対症療法で、配管のルートが根治です。
まとめ
- 共通するのは吐出し弁全閉と、完了の合図は「空気抜き弁から液が出ること」
- 毎回呼び水が要るならフート弁の漏れ。抜いても再発するなら吸込配管の空気だまり
吸込側でいちばん厳しい飽和液・高温液・液化ガスについては、「飽和液・高温液・液化ガスのポンプ」で、自液の蒸気で満たされたタンクでは、加熱して圧力を上げてもNPSHaが増えない理由を説明しています。
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参考文献
- 外山幸雄『ポンプの選定とトラブル対策』日刊工業新聞社, 2・11「横軸ポンプ始動前の空気抜き」(空気抜きの必要性、吸上げ・押込みの各方法、セルフベント構造) Amazonで見る
- 外山幸雄『絵とき「ポンプ」基礎のきそ』日刊工業新聞社, 第5章「ポンプの据付けと試運転」(始動前の空気抜き、始動のタイプ別手順)、第2章「空気抜き」 Amazonで見る
- 化学工学協会関東支部編『プロセス機器構造設計シリーズ6 化学プラント用ポンプ・圧縮機』丸善, 5・2「ポンプの運転」(運転準備・点検、運転操作)
- 小岩井隆『絵とき「バルブ」基礎のきそ』日刊工業新聞社, 空気抜き弁(エア抜き弁)と鳥居配管(Amazonリンク未発行)
- 松村正夫『入門 新ポンプ技術』丸善, 5.4「ポンプ運転の注意事項」(ドライ運転) Amazonで見る
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