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ポンプの軸受温度が上がると、「油が足りない」と考えて油を足しがちです。しかし、油の入れ過ぎによる撹拌発熱、オイルリング不調、ベント閉塞、芯ずれ、過荷重、軸受内部すきま不足でも温度は上がります。原因を確認せず給油すると、かえって悪化させることがあります。
この記事では、潤滑方式ごとの油面の見方と、軸受が過熱したときの切り分け方を整理します。
この記事の結論
- 軸受はラジアル荷重とアキシャル荷重を支え、軸と羽根車の位置を保つ
- 潤滑油は摩擦低減だけでなく、冷却、異物排出、防錆の役割を持つ
- 油面は低過ぎても高過ぎても異常になる。機種の基準位置と運転中の油面変化を見る
- コンスタントレベルオイラは漏れた分を補給する装置で、油を循環させる装置ではない
- 軸受過熱は油不足だけでなく、油過多、油種、泡・水、ベント、芯ずれ、荷重、すきま、損傷を疑う
- 絶対温度だけでなく、上昇速度、左右差、振動、音、油の状態、運転点を組み合わせる
1. ポンプの軸受は何を支えるか
羽根車と主軸には、回転体の重量、アンバランスによる動的荷重、水力による半径方向・軸方向の力が作用します。軸受ハウジングは軸受を所定位置へ保持し、主軸の回転中心と羽根車の位置を維持します。
- ラジアル荷重:軸に直角な方向の荷重。配管荷重、羽根車の水力アンバランス、回転体の不釣合いなどが関係する
- アキシャル荷重:軸方向の荷重。羽根車前後の圧力差などで生じる
軸受形式は、支える荷重方向、回転数、剛性、内部すきま、熱膨張、組立方法に合わせて選びます。深溝玉軸受、円筒ころ軸受、アンギュラ玉軸受の組合せなどは、同じ外形寸法でも軸方向の拘束条件が異なります。
2. 潤滑剤の役割
潤滑剤は接触面に膜を作り、摩擦と摩耗を減らします。それだけでなく、次の役割があります。
- 軸受で発生した熱をハウジングへ運ぶ
- 摩耗粉や微細な異物を接触部から遠ざける
- 水分や腐食性雰囲気から表面を守る
- 転動体と軌道の金属接触を防ぎ、異音や振動の増加を抑える
必要なのは「多い油」ではなく、指定された油種・粘度の清浄な潤滑剤を、適切な量と方法で供給することです。
3. 主な潤滑方式

| 方式 | 油・グリースの供給 | 管理の要点 | 主な注意 |
| グリース密封 | 軸受内部に封入 | 交換寿命、温度、シール健全性 | むやみに追加しない |
| グリース給脂 | ハウジングへ給脂 | 種類、量、間隔、排出経路 | 過剰給脂で撹拌発熱 |
| 油浴 | 軸受下部を油へ浸す | 油面、油質、泡、漏れ | 油面過高・過低 |
| オイルフリンガ | 軸付き円板が油を掻き上げる | 回転方向、油面、円板状態 | 緩み、破損、油面不適 |
| オイルリング | 軸に掛けたリングが油を運ぶ | リングの自由回転、油面、水平 | 偏り、引っ掛かり、摩耗 |
| オイルミスト | 霧状油を供給 | 供給圧、ミスト品質、排気 | 油だまりを前提にしない方式がある |
| 強制給油 | ポンプで圧送・循環 | 圧力、流量、温度、フィルタ | 補機停止が重大故障へ直結 |
設備ごとに設計方式が異なります。外観が似ていても、純ミスト、パージミスト、油浴併用などの違いがあるため、潤滑系統図とメーカー取扱説明書で確認します。
4. 油浴潤滑と油面
油浴潤滑では、軸受下部が油へ触れ、回転で油が軸受内部へ運ばれます。油面が低過ぎると油が届かず、油膜不足と温度上昇が起こります。高過ぎると軸受や回転部が大量の油を撹拌し、発熱、泡立ち、漏れ、酸化を起こします。
油浴の油面の目安は、停止時に油面計の中心印が、軸受の最下部の玉(転動体)の中心にくる高さです。オイルリング式では油面を玉軸受より下にし、リングだけを油に浸けます。最終的な基準は機種ごとに異なるため、軸受形式、オイルリングの有無、サイトグラス位置、メーカー指定を確認します。

停止中と運転中で油面は変わる
主軸が回ると油は回転方向へ掻き上げられ、ハウジング内の液面が傾きます。片側のサイトグラスは停止時より高く、反対側は低く見える場合があります。停止中の1点だけで「適量」と判断せず、次を確認します。
- 左右にサイトグラスがある場合は両方を見る
- 回転方向と油の偏りを確認する
- 停止時と定常運転時の通常値を記録する
- サイトグラスの中心印と実際の基準位置を照合する
経験上、2極モータで運転すると、一方の油面が停止時より約3mm高く、反対側が約3mm低くなります。ただし、これは普遍的な設定値ではありません。自機の基準を使います。
5. オイルリング
オイルリングは主軸へ緩く掛けたリングで、下部を油へ浸し、軸の回転に伴って油を掻き上げます。油浴だけより油面を低くでき、軸受・回転部が油を直接撹拌する発熱を抑えられます。
正常に働くには、リングが自由に回り、軸上を大きく横移動せず、油面へ適切に浸かる必要があります。
異常要因は次のとおりです。
- ポンプ据付けの水平不良
- リングの変形、摩耗、継ぎ部の引っ掛かり
- 軸表面の汚れ、バリ、傷
- 油面低下でリングが油へ届かない
- 油面過高で撹拌が増える
- 回転方向や軸振動でリングの動きが不安定
油面が正常でもリングが油を運んでいなければ、軸受は潤滑不足になります。点検窓や温度・振動傾向から働きを確認します。
6. コンスタントレベルオイラ
コンスタントレベルオイラは、軸受ハウジングから漏れなどで減った油を自動補給し、設定した静的油面を保つ装置です。ボトル内の油が常に流れ続ける装置でも、油を冷却循環する装置でもありません。
原理
ハウジング内油面が設定口より下がると空気がボトルへ入り、油が流れ出ます。油面が設定口をふさぐと空気が入らず、補給が止まります。

取付方向に注意
運転中は油が回転方向へ掻き揚げられ、左右の油面に差がつきます。オイラを油面が下がる側へ付けると、十分な油があっても補給を続けて過充填になります。オイラは、運転中に油面が上がる側へ取り付けます。取付側と高さは機器メーカーの指定に従います。
ベントとの関係
ハウジング内圧が大気圧と一致しなければ、オイラの液面制御は狂います。ベントの詰まり、ミストやパージの圧力、オイルシールのリップが回転で油や空気を送り込む作用を確認します。
7. オイルミスト
オイルミスト潤滑は、空気中へ微細な油滴を分散させ、配管で軸受へ供給します。油だまりを持たない純ミスト方式では、油浴のような撹拌発熱がありません。装置全体で安定した供給と清浄な環境を作れる利点があります。
一方で、供給装置停止、圧力低下、配管内凝縮、軸受の直前でミストを油滴に戻すノズル(リクラシファイア)の詰まり、排気不良が複数機器へ同時影響する可能性があります。
巡回では、ミスト発生器の油面・油温・空気圧、配管の勾配と凝縮油の排出、軸受ハウジングへの供給と排気を確かめます。霧の見え方に頼らず圧力・流量で監視し、停電・空気喪失時のバックアップを決めておきます。
8. グリース潤滑
グリースは油を増ちょう剤に保持した潤滑剤です。シール性があり、設備を簡素にできますが、入れ過ぎると軸受内部で撹拌され、温度が上がります。
管理項目は次のとおりです。
- 指定グリースの種類と混和性
- 1回量と給脂間隔
- 古いグリースの排出経路
- 給脂直後の一時的温度変化
- 異物・水分の混入防止
- 密封軸受へ追加給脂しないこと
異なる増ちょう剤のグリースを混ぜると、軟化・硬化・油分離を起こす場合があります。色が似ていても互換とは限りません。
9. 油面が下がる・油が漏れる原因
- オイルシール、ラビリンス、カバー合わせ面、ドレンプラグ、サイトグラス、配管継手からの漏れ
- オイルシールの向き・損傷・リップ硬化、軸表面の傷・偏心・振れ、デフレクタや油戻し穴の不良
- ベント閉塞によるハウジング内圧上昇、オイルミスト・パージ圧の過大、ミスト・ベントからの持出し
- 回転による油の偏りと飛散
油を足す前に、どこへ消えたかを確認します。漏れを放置して補給だけ続けると、床面汚染や火災危険、軸受内部への異物侵入を見逃します。オイルシールを交換するだけでなく、内部圧力と油戻し経路も確認します。シールは漏れの結果が現れる場所で、原因が別にあることが多いからです。

10. 軸受が過熱したら何を疑うか

1)まず運転継続の可否を判断する
設備の警報・トリップ基準、温度上昇速度、振動、異音、煙、油漏れを確認します。急上昇、激しい振動、金属音、焦げ臭がある場合は、SOPに従って安全に停止します。
止めずに調べてよい場合は、次の順で原因を絞ります。
| 順 | 見る所 | 主な確認 |
| 2) | 油量と油の状態 | 油面の過不足、泡・白濁・水分・変色・金属粉、油種と粘度、オイルリング・フリンガの働き |
| 3) | 放熱と圧力 | ベントの詰まり、冷却ファン・冷却水・外面の汚れ、周囲温度と液温、オイルシールの過接触 |
| 4) | 荷重と据付け | 運転点(低流量・締切・キャビテーション)、芯ずれ・ソフトフット・配管荷重、羽根車の付着・損傷 |
| 5) | 軸受そのもの | はめあい・温度による内部すきま不足、軸方向の逃げ(両側拘束)、過大な与圧、転動面・保持器の損傷 |
円筒ころ軸受を同じ寸法の深溝玉軸受に替えたら、軸方向に逃げられなくなり短時間で過熱した事例があります。固いはめあいでラジアル内部すきまが減り、運転とともに発熱した事例もあります(「ポンプの事故・トラブル事例」)。軸受番号が合っても、固定・自由端の機能とすきまが合うとは限りません。
11. 温度の見方と日常の記録
軸受温度は、荷重、回転数、油粘度、周囲温度、測定位置で変わります。一般的な温度値をそのまま停止基準にせず、メーカー基準と設備の通常値を使います。
有効な見方は次のとおりです。
- 始動後に何分で安定するか(通常は遅くとも2時間ほどで一定になる)
- 通常より上昇が速いか、安定せず上がり続けるか
- 駆動側・反駆動側、左右で差が広がったか
- 温度上昇と同時に振動・音・電流が変わったか
- 給油、整備、運転点変更の直後か
絶対値が警報未満でも、上昇傾向が明らかなら早めに原因を調べます。反対に、負荷や周囲温度の変化による正常な上昇を故障と決めつけないため、基準データを残します。

巡回では、温度と同じ時刻に次も記録します。「温度だけ」「油面だけ」の巡回にしないことが重要です。同時に記録すると、原因を絞りやすくなります。
- 振動値と音の変化
- サイトグラス・オイラの油面(運転中と停止中)、オイラの補給頻度、オイルリングの動き
- 油の泡、濁り、色、臭い、沈殿物
- ベント、ラビリンス、オイルシールからの漏れ
- 冷却水・オイルミスト・強制給油の圧力と流量、モータ電流と運転点
12. 給油・油交換の注意
- 容器・給油器具を清浄にし、開封日・保管期限を管理する
- 排油の色、臭い、水分、金属粉を記録する
- 油交換後は漏れ、油面、温度、振動を追跡する
交換周期だけでなく、状態の変化を使います。水分混入や異常摩耗がある油を、周期まで使い続けてはいけません。
まとめ
- 油を足す前に、どこへ消えたかを確かめる
- オイラは、運転中に油面が上がる側へ取り付ける
- 軸受温度は通常2時間ほどで一定になる。上がり続けるなら原因を調べる
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参考文献
- 外山幸雄『絵とき「ポンプ」基礎のきそ』日刊工業新聞社, 2-9〜2-14「軸受ハウジング」〜「空気抜き」 Amazonで見る
- 外山幸雄『ポンプの選定とトラブル対策』日刊工業新聞社, 第6章「軸受のトラブル」 Amazonで見る
- 化学工学協会関東支部編『プロセス機器構造設計シリーズ6 化学プラント用ポンプ・圧縮機』丸善, 5.3.1「点検・検査」、5.3.2「分解組立と各部の保守」
- 公益社団法人日本プラントメンテナンス協会『自主保全士テキスト 第5単位 設備保全の基礎』「軸受・潤滑」
- 松村正夫『入門 新ポンプ技術』丸善, 第5章「ポンプの使用方法」 Amazonで見る
設備技術は、回転機械・静機器・配管・計装・設備信頼性の12の記事マップで案内しています。
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