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ポンプ選定というと、必要流量と全揚程を計算して、性能曲線から型式を選ぶ作業だと思われがちです。しかし化学プラントでは、それだけでは不十分です。同じ流量・揚程でも、液が腐食性か、気化しやすいか、固形物を含むか、運転を止められるかによって、構造、材料、軸封、台数、保護装置が変わります。
選定の出発点はカタログではなく、プロセスと設備の条件です。液質、運転範囲、吸込設備、設置環境を整理し、その後にポンプ原理・構造、台数、駆動機を絞ります。最後にメーカー性能曲線と仕様書で、通常点だけでなく最小・最大条件も確認します。
この記事では、ポンプ選定を10段階に分け、「何を、どの順で決めるか」に絞って解説します。圧力損失・全揚程・NPSHの計算は個別記事で扱います。
この記事の結論
- ポンプは「流量・揚程」だけでなく、液質、吸込設備、運転範囲、停止影響から選ぶ
- 通常条件だけでなく、最小・最大流量、液温、槽液位、起動停止、将来条件を並べる
- 形式選定は、ポンプ原理、羽根車、横形・立形、段数、軸封を段階的に絞る
- 台数は「能力を分割するか」と「停止を許容できるか」を分けて考える
- 余裕を全揚程へ一律に上乗せせず、不確かさの中身と運転点への影響を明示する
- 最終判断はメーカーの性能曲線、必要NPSH、許容最小流量、軸動力、材料、試験条件で確認する
ポンプ選定は10段階で進める
最初から型式名を決めると、後で液質や吸込条件に合わず、選び直しになります。次の順序で、入力条件から機器仕様へ落とし込みます。図の5つのまとまりを、次の章から手順1〜10に分けて解説します。

この順序は一方向ではありません。候補ポンプの必要NPSHが大きければ据付高さや吸込配管を見直し、最小流量を下回るなら台数分割や制御方法へ戻ります。選定は、設備とポンプを往復しながら収束させる作業です。
手順1|送液目的と設備境界を決める
最初に「何を、どこから、どこへ、なぜ送るか」を一文で書きます。例えば「常圧タンクAの溶剤を、圧力を持つ反応器Bへ、仕込み時だけ送る」のように、送液元、送液先、目的、運転形態を入れます。
次に、ポンプ選定の境界を決めます。
- 送液元と送液先の圧力は、どのノズル・液面で定義するか
- 槽液位は通常だけでなく、最低・最高のどれを使うか
- 新設配管か既設配管か。既設なら実測流量・圧力・弁開度・汚れを確認できるか
- 正常運転、仕込み、払出し、洗浄、循環、待機のどのモードを対象にするか
境界が曖昧なままでは、配管損失や必要圧力を二重に足したり、逆に抜かしたりします。PFD、P&ID、機器リスト、運転説明書で同じ基準点を使います。

手順2|液質を「名前」ではなく条件で書く
「水」「溶剤」「スラリー」という液名だけでは選定できません。同じ液でも、温度、濃度、混入物、運転中の変化によって、気化、腐食、摩耗、固着のしやすさが変わります。

| 液質項目 | 選定へ与える主な影響 |
| 温度・蒸気圧 | NPSH、気化、ガス抜き、シール室の液相維持、冷却・保温 |
| 密度 | 軸動力、吐出圧力、モータ容量、計器換算 |
| 粘度 | 流量・揚程・効率の低下、軸動力、回転速度、容積式の適否 |
| 腐食性・濃度 | 接液材料、異種金属、腐食しろ、ライニング、ガスケット |
| 固形物・結晶 | 羽根車通過径、開放形状、摩耗、閉塞、フラッシュ、洗浄 |
| 溶解ガス・気泡 | 吸込性能、ガス抜き、立形・横形、羽根車入口の閉塞 |
| 毒性・可燃性 | 軸封、シールレス、防爆、漏えい検知、回収先 |
| 凝固・重合・付着 | 保温、洗浄、滞留部、シール形式、停止時処置 |
仕様書には、液名とともに組成・濃度、通常・最高・最低温度、密度、粘度、飽和蒸気圧、固形物の有無・粒径・濃度、腐食性、毒性、可燃性を書きます。値が未確定なら空欄にせず、「誰が、いつまでに確認するか」を残します。
材料は「ステンレスなら安全」のように決めません。実際の濃度、温度、不純物、すき間、流速、異種金属の組合せで腐食形態が変わるため、使用実績、腐食データ、材料メーカー・ポンプメーカーの見解を照合します。
手順3|通常・最小・最大の運転条件をそろえる
規定点一つだけでは、ポンプの運転範囲を評価できません。少なくとも次の条件を横並びにします。
| 条件 | 確認する内容 |
| 通常 | 最も長く運転する流量、槽液位、圧力、液温、弁開度 |
| 最小 | 最低生産量、循環時、末期払出し、インバータ最低速度、最小液位 |
| 最大 | 最大生産量、最大同時使用、最大液位差、将来増産 |
| 起動・停止 | 空配管充液、閉止弁、逆流、再起動、停電復帰 |
| 異常・切換え | ストレーナ汚れ、熱交換器汚れ、予備機切換え、制御弁故障 |
最小流量側では、ポンプの許容最小流量(メーカーが示す最小連続流量)、内部温度上昇、振動、再循環の要否を確認します。最大流量側では、必要NPSH、末端圧力不足、性能曲線の右端を確認し、遠心ポンプではモータ過負荷も確認します。斜流・軸流ポンプは締切・低流量側で軸動力が大きくなるため、起動時と低流量時の動力も確認します。
「将来流量が増えるかもしれない」という不確かさを、全揚程と流量へ一律に上乗せしないことも重要です。何が増えるのか、確率はどの程度か、羽根車交換・回転数変更・増設で後から対応できるかを分けて検討します。
手順4|吸込設備と設置条件を先に確認する
設備計画は、ポンプの形状と構造を大きく左右します。特に吸込側の形態を先に確認します。
- 吸込の形:液面より下に置けるか、吸い上げるか、槽内・ピット内に置くか
- 液位と圧力:槽液面の最低位置と、槽内圧力の最低条件
- 吸込配管とガス:高点・ガスだまり・ストレーナ・制御弁・細い配管がないか、ガスの発生・析出とベント先
- 設置と保全:据付スペース、分解引抜き空間、吊上げ、保全動線
- 環境とユーティリティ:屋内外・腐食雰囲気・防爆区分、冷却水・シール液・窒素・計装空気・電源
液面より低い位置へ横形ポンプを置ければ吸込条件を作りやすい一方、ピットや槽内では立形・水中・サブマージド形が候補になります。ガスを巻き込みやすい液では、ガスが抜ける姿勢、ベント配管、羽根車入口への流入状態まで考えます。

吸込条件の詳しい設計は「ポンプ吸込配管の設計」「NPSHの計算」「ポンプのベントと満液確認」で解説しています。
手順5|流量・全揚程とシステムカーブを決める
ここで初めて、水力仕様をまとめます。必要流量は物質収支、仕込み時間、循環量、同時使用条件から決めます。全揚程は、送液元と送液先の圧力差、液面差、配管・弁・機器の損失を同じ基準で合計します。
ポンプは指定した流量・揚程を常に出す装置ではありません。ポンプ性能曲線と設備側のシステムカーブが交わる点で運転します。したがって、通常・最小・最大条件ごとにシステムカーブまたは代表運転点を用意し、候補ポンプの曲線上へ重ねます。

確認したい項目は次のとおりです。
- 通常点がメーカー推奨運転範囲にあるか
- 最小流量が許容最小流量を下回らないか
- 最大流量でも、NPSHaがNPSHrを合意した余裕以上に上回り、モータ出力が軸動力に対して余裕を持つか
- 最高吸込圧力に締切揚程を加えた締切時の吐出圧力が、配管・機器の許容圧力を超えないか
- 調節弁、バイパス、インバータで必要な制御範囲を作れるか
- 液粘度を反映した補正性能を確認したか
計算方法は「全揚程と吐出圧力の違い」「圧力損失の計算」「性能曲線と運転点」を参照してください。
手順6|ポンプ原理と構造形式を段階的に絞る
水力仕様が決まったら、ポンプ原理と構造を絞ります。流量・揚程だけで形式一覧表から一つに決めず、液質、吸込条件、設置、保全まで重ねます。既設ポンプと同じ型式から始めると、流量・液性・制御方法の変化による不適合を引き継ぐため、要求仕様を作ってから標準化の利点を比べます。
遠心式か容積式か
遠心式は、連続した液移送で広く使われ、性能曲線とシステムの交点で流量が決まります。容積式は、粘度が高い液、比較的小流量・高圧、定量性を重視する用途などで候補になりますが、吐出側を閉止すると圧力が上がるため、逃し経路と保護が必要です。
用途だけで決めず、脈動、固形物、粘度変化、空運転、せん断、漏えい、洗浄性も比較します。
羽根車・段数・据付形式
| 選定軸 | 主な候補 | 判断する条件 |
| 羽根車 | 密閉、セミオープン、オープン、特殊通過形 | 清浄度、固形物、効率、摩耗、すき間調整 |
| 流れ形式 | 遠心、斜流、軸流 | 比速度(流量・揚程・回転速度から決まり、大きいほど遠心→斜流→軸流)、吸込性能 |
| 段数 | 単段、多段 | 必要揚程、回転速度、保全性、軸方向推力 |
| 据付 | 横形、立形、槽内・水中 | 吸込設備、NPSH、設置面積、引抜き空間 |
| 軸封 | パッキン、メカニカルシール、シールレス | 漏えい許容、液性、補助系、保全能力 |
化学プラント用ポンプは、特殊な用途を除き、標準化された形式から使用条件に合うものを選びます。どの形式でも、長時間の連続運転ができること、故障時は予備機へ切り換えて操業を続けながら短時間で修理できること、運転条件の多少の変動に耐えることが求められます。
液質・吸込条件・漏れの許容を重ねて形式を絞る作業は、iPhoneアプリポンプ 3D図鑑の簡易選定でも試せます。質問に1問ずつ答えると収録した10形式がおすすめ順に並び、外れた形式には何問目のどの回答で外れたかが出ます(紹介ページ)。
手順7|台数は「能力」と「継続性」を分けて決める
台数を決める質問は二つあります。一つは、必要流量を何台へ分けるか。もう一つは、1台が停止したときも送液を続ける必要があるかです。

| 構成例 | 向いている考え方 | 注意点 |
| 1台で全量 | 設備が単純、停止を許容、予備品や復旧手段がある | 故障・点検時に送液できない |
| 複数台で能力分割 | 流量変動が大きい、低負荷効率や運転範囲を改善したい | 1台停止時の残存能力、並列運転の安定性、切換え手順 |
| 常用機+予備機 | 少しの時間も停止できない、復旧に時間がかかる | 初期費用、設置面積、予備機の固着・劣化、共通原因 |
「2台あるから冗長」とは限りません。共通の吸込ストレーナ、電源、冷却水、制御盤、吐出ヘッダが止まれば、2台とも使えません。予備機を置く場合は、定期切換え、手回し、満液、弁・補助系のラインアップ、保全中表示を決めます。
予備機の要否は、次の条件を合わせて判断します。
- 停止が安全・品質・生産へ与える影響
- 許容停止時間と、予備機へ切り換えるまでの時間
- 故障部品の在庫、メーカー支援、復旧所要時間
- 代替経路、貯槽容量、バッチ延期など運転側の回避策
- 低流量運転、並列運転、将来増産への対応
- 共通原因故障と、点検・試運転を続けられる保全体制
1台あたりの容量(100%×2台、50%×3台など)は一律に決めず、各運転モードで必要な流量と、1台停止時に残すべき能力から決めます。
手順8・9|材料・軸封・駆動機・保護を決める
ポンプ形式の決定と並行して、材料、軸封、駆動機、カップリング、ガスケット、補助配管、保護装置を選びます。
手順8|材料と軸封を決める
- 接液部、羽根車、軸、軸スリーブ、ボルト、ガスケットの材料を区別する
- 腐食だけでなく、浸食、キャビテーション、かじり、熱膨張、樹脂の剛性を確認する
- 軸封は漏えい許容、毒性・可燃性、固形物、気化、フラッシュの成立性から選ぶ
- シールレスでも、内部循環、軸受潤滑、空運転、ガス巻込みへの配慮は必要
軸封の選び方は「グランドパッキン・メカニカルシール・シールレスの比較」で詳しく解説しています。
手順9|駆動機・制御・保護を決める
- 電圧、周波数、極数、回転速度
- 屋内・屋外、周囲温度、湿度、腐食雰囲気、防爆区分
- 連続・間欠、起動頻度、始動トルク、加速時間
- 規定点だけでなく、最大流量・最大密度での軸動力
- インバータ最低・最高速度、モータ冷却、危険速度、補助系の成立性
- 回転方向、逆転防止、停電復帰時の再起動方針
保護装置は重要度と故障モードに合わせます。吸込圧力低下、吐出圧力異常、モータ過電流、軸受温度、振動、シール漏れ、満液、冷却・フラッシュ流量などから、警報・停止・予備機切換えを決めます。

手順10|メーカー性能曲線と仕様書で最終確認する
ユーザー側が決めるのは、プロセス条件と要求です。メーカーには、その条件を満たす具体的な羽根車径、回転速度、構造、材料、軸封、モータ、許容運転範囲を提示してもらいます。
見積り・発注前には、規定・最小・最大点の性能、液質、構造、部品別材料と軸封、駆動機、試験と提出図書を、メーカーの提示と照合します。項目は末尾のチェックリストにまとめています。
メーカーの選定結果に例外や前提がある場合は、仕様書の余白やメールだけに残さず、偏差表・クラリフィケーションへまとめます。「ポンプの仕様書に何を書くか」では、データシートの各欄と、ユーザー・メーカーの分担を詳しく解説します。
選定チェックリストと現場への引渡し
選定で決めた運転可能範囲は、現場へ伝わらなければ守れません。通常・最小・最大流量、許容最小流量、NPSHaを確保するための最低液位・最高液温と停止条件、正常な電流・振動・温度、警報・トリップの設定根拠は、試運転・引渡し時に運転標準へ落とします。引き渡す項目の詳細は「ポンプの引合い・見積り比較・発注・検査」で解説しています。
| 区分 | 確認 |
| 目的 | 送液元・送液先・運転目的・設備境界を一文で説明できる |
| 液質 | 組成、温度、密度、粘度、蒸気圧、固形物、腐食性、危険性がある |
| 運転 | 通常・最小・最大、連続・間欠、起動停止、将来条件がある |
| 設備 | 槽圧力・液位、配管、吸込方式、設置、保全空間、ユーティリティがある |
| 水力 | 流量、全揚程、システムカーブ、NPSHaの基準が一致している |
| 形式 | 原理、羽根車、段数、横・立、軸封を選んだ理由が説明できる |
| 台数 | 能力分割と予備機の要否を別々に評価した |
| 構成 | 部品別材料、軸封補助系、駆動機、制御、保護を確認した |
| 性能 | 最小・規定・最大点、NPSH、軸動力、締切、許容最小流量を確認した |
| 引渡し | 運転範囲、正常値、警報停止、切換え手順を現場へ渡した |
まとめ
ポンプ選定は、流量と全揚程からカタログ型式を選ぶだけの作業ではありません。液質、運転範囲、吸込設備、設置条件を先に整理し、通常点だけでなく最小・最大条件までメーカー性能曲線と仕様書で確認してください。
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計算と選定の結果は構想段階の概算で、保証計算ではありません。必要NPSHの概算や比速度からの羽根車の形は目安です。3Dは代表構造の教育用モデルで、特定の機種の寸法・形状とは一致しません。実機の選定・発注・安全判断は、メーカーの性能曲線と仕様書、適用規格で確認してください。
参考文献
- 松村正夫『入門 新ポンプ技術』第3章「ポンプの最適な選び方」 Amazonで見る
- 外山幸雄『絵とき「ポンプ」基礎のきそ』第3章「ポンプの仕様」・第7章「ポンプの保守点検」 Amazonで見る
- 外山幸雄『ポンプの選定とトラブル対策』第2章「知っておきたいポンプの技術」2-17「保護装置」 Amazonで見る
- 化学工学協会編『化学装置便覧 改訂二版』第18章「ポンプ、圧縮機、冷凍機」
- 化学工学協会関東支部編『プロセス機器構造設計シリーズ6 化学プラント用ポンプ・圧縮機』第2章「化学プラント用ポンプ」
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