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反応器の計算がややこしく見えるのは、成分がたくさんあるからです。原料が2つ、生成物が2つ、それに不活性ガス。5つの物質量を同時に追いかけるのは大変です。
ところが実際には、追いかける変数は1つで足ります。反応率です。
この記事の結論
- 限定反応成分を1つ決めると、全成分の量が反応率 xA だけで書ける
- 回分と流通で反応率の式は同じ形。物質量が流量に変わるだけ
- 気相で分子数が変わると体積が変わる。その度合いがεA
- εA は希釈すると小さくなる。不活性ガスを入れれば体積変化は抑えられる
1. 量論式は係数1に直してから使う

反応工学では、量論式を必ずある1成分の係数が1になる形に書き直します。
aA + bB → cC + dD の両辺を a で割って、
A + (b/a)B → (c/a)C + (d/a)D
こうする理由は単純です。「Aが1 mol反応したとき、他の成分がどれだけ増減するか」が式を見た瞬間に分かるから。
たとえばアンモニア合成 N2 + 3H2 → 2NH3 を水素基準に直すと、
H2 + (1/3)N2 → (2/3)NH3
「水素が1 mol消えると窒素が1/3 mol消えてアンモニアが2/3 mol出る」と読めます。この基準に選んだ成分を限定反応成分と呼びます。
どれを限定反応成分にするか
量論比に対していちばん足りない成分を選びます。それが先に無くなるので、反応の進み具合を代表できるからです。
判定は簡単で、仕込んだモル比を量論比と比べるだけです。A + (1/2)B の反応にAを1 mol、Bを2.5 mol入れたなら、Bは必要量(0.5 mol)の5倍あるので過剰。Aが限定反応成分です。
実務では、高価な原料や回収したくない原料を限定反応成分にすることが多い。もう一方を過剰に入れれば、その転化率を上げられるからです。ただし過剰分は後で分離しなければならないので、反応の都合と分離の都合のトレードオフになります。
2. 反応率の定義は回分も流通も同じ形
| 回分反応器 | xA = (nA0 − nA) / nA0 | 物質量 [mol] で書く |
| 流通反応器 | xA = (FA0 − FA) / FA0 | 物質量流量 [mol/s] で書く |
n が F に変わっただけで、式の形は同じです。これは偶然ではなく、設計方程式が1本の物質収支から出るのと同じ理由です。回分は「時間で追う」、流通は「位置で追う」だけの違い。
反応率を使うと、全成分が xA ひとつで書けます。
| 成分A(限定) | nA = nA0(1 − xA) |
| 成分B(もう一方の原料) | nB = nA0[θB − (b/a)xA] |
| 成分C(生成物) | nC = nA0[θC + (c/a)xA] |
| 不活性成分I | nI = nA0θI(変わらない) |
ここで θB = nB0/nA0、つまり仕込みのモル比です。
この表が意味しているのは、反応器の中の状態を決める変数は「仕込み比 θ」と「どこまで進んだか xA」の2種類しかないということです。5成分の系でも変数は増えません。
3. 気相では体積が変わる|εA
ここからが液相と気相の分かれ目です。
反応の前後で分子の数が変われば、気相では体積が変わります。全物質量は
nt = nt0(1 + εA xA)
と書けます。この εA が体積変化の度合いです。中身は2つの積です。
| δA = (−a−b+c+d)/a | 量論式だけで決まる。Aが1 mol反応したときの正味のモル数変化 |
| yA0 | 反応開始時の成分Aのモル分率。つまり原料の濃さ |
| εA = δA · yA0 | この2つの積 |
εA の物理的な意味ははっきりしています。
εA = 反応完了時の全物質量の増加 ÷ 反応開始時の全物質量
物質量が増える反応では正、減る反応では負になります。
希釈すると εA は小さくなる
ここが実務でいちばん効く点です。
δA は反応式で決まってしまうので動かせません。しかし yA0 は自分で決められる。不活性ガスで薄めれば yA0 が下がり、εA も比例して下がります。
例で見てみます。ジメチルエーテルの熱分解 (CH3)2O → CH4 + H2 + CO は 1分子が3分子になるので δA = 2 です。
| 原料の濃さ | yA0 | εA | 完全反応したときの体積 |
| 純物質 | 1.0 | 2.0 | 3倍 |
| 50%希釈 | 0.5 | 1.0 | 2倍 |
| 10%希釈 | 0.1 | 0.2 | 1.2倍 |
純物質で流すと管の中で流速が3倍になり、滞留時間が入口と出口でまったく違ってきます。10%に薄めれば1.2倍で済む。
希釈は「濃度を下げて反応を遅くする」だけの操作ではありません。体積変化を抑え、断熱温度上昇も下げる。同じ1つの操作が3つの効き方をします。
4. 定容系か非定容系か
反応混合物の体積(あるいは密度)が反応の進行で変わらない系を定容系といいます。
| 定容系 | 密閉容器での気相反応(分子数が変わっても容器の体積は変わらない) |
| 多くの液相反応(溶媒が多量にあるので混合物全体の体積変化は小さい) | |
| 分子数が変わらない気相反応(水性ガスシフト CO + H2O ⇌ CO2 + H2 など) | |
| 非定容系 | 分子数が変わる気相反応を管型・連続槽型で行なうとき |
| 容積が変化する回分反応器で気相反応を行なうとき |
「気相だから非定容」ではありません。密閉した容器で気相反応をすれば定容系です。ここを取り違えると式の選び方を間違えます。
そして実務上ありがたいことに、非定容系でも圧力は一定に保たれていることが多く、定圧系として扱えます。上の εA を使った式はこの定圧の仮定の上に立っています。
液相でも定容とは限らない
例外として文献が名指ししているのが液相の重合反応です。反応混合物の密度が重合の進行に伴ってかなり大きく変化する。
これは反応暴走の統計で重合が36%と突出していたことと無関係ではありません。密度が変わる=粘度も変わる=撹拌と伝熱が効かなくなる。量論の話が、そのまま除熱の話につながっています。
5. 使いどころ|量論だけで検算できる
εA が分かると、反応が本当に想定どおり進んでいるかを圧力だけで検算できます。
定容の容器で気相反応をすると、圧力が変わります。完全に反応すれば
Pt,∞ = (1 + εA) Pt0
になるはずです。先ほどのジメチルエーテル(εA = 2)を初圧 41.6 kPa で仕込むと、終圧は 124.8 kPa になる計算。文献の実測値は 124.1 kPa——99.4%まで一致します。
もし実測が大きくずれたら、想定した反応式が違うか、副反応が起きています。組成分析をしなくても、圧力計1つで異変が分かる。
この関係を逆に使って反応率を求める手法が全圧追跡法で、次の記事で扱います。
まとめ
限定反応成分を1つ決めて量論式を係数1の形に直すと、全成分の量が反応率 xA ひとつで書けます。回分と流通で反応率の定義は同じ形で、物質量が流量に変わるだけ。気相で分子数が変わる系では体積が変化し、その度合いは εA = δA·yA0 で決まります。δA は反応式で決まって動かせませんが、yA0 は希釈で下げられるので、不活性ガスを入れれば体積変化を抑えられます。定容か非定容かは「気相か液相か」ではなく「密閉か流通か」で決まり、液相でも重合は定容として扱えません。そして完全反応時の圧力 (1+εA)Pt0 は、量論式が正しいかどうかの検算に使えます。
次の記事:反応次数の見分け方|積分法・微分法・全圧追跡法・半減期法
参考文献
- 橋本健治『反応工学 改訂版』培風館, 第3章 3・1「量論関係」(限定反応成分、反応率の定義、モル分率、定容系と非定容系) Amazonで見る
- 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』丸善, 第3章「化学反応速度」 最新版をAmazonで見る
化学プラント大全 
