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Thiele数と有効係数|触媒の9割が働いていないことがある

触媒の9割が遊んでいる

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高価な触媒を買って充填し、反応させる。ところがその触媒の9割が、反応に何も寄与していないことがあります。

反応が粒子の表面近くだけで終わっていて、内側まで原料が届いていないからです。どれだけ働いているかを表す数字が有効係数 η です。

この記事の結論

  • 有効係数 η=実際の反応速度 ÷ 粒内に濃度差が無いとしたときの理想速度
  • η はThiele数 φ だけの関数。φ は「反応の速さ ÷ 拡散の速さ」
  • φ < 0.1 なら η ≒ 1(反応律速)、φ > 5 なら η ≒ 1/φ(拡散律速)
  • φ = 10 では η = 0.097。触媒の9割が遊んでいる

1. 測れるのは「見掛けの速度」だけ

触媒は、内側まで働いているとは限らない

律速段階の記事で見たとおり、固体触媒反応は7つの過程を通ります。そのうち(2)と(6)の細孔内拡散が、この記事の主題です。

触媒粒子は多孔質で、表面積のほとんどは細孔の内壁にあります。原料はそこまで拡散していかなければ反応できません。

反応が速く、拡散が遅ければ、原料は粒子の入口付近で使い果たされます。中心部の濃度はほぼゼロ。そこにある触媒は何もしていない。

問題は、粒子の中の濃度分布を実測できないことです。我々が測れるのは、粒子1個から出てくる見掛けの反応速度だけ。

そこで比を取ります。

η = (触媒粒子1個当りの実際の反応速度)÷(粒子内部でも外表面と同一の濃度・温度だとしたときの理想的な反応速度)

これが有効係数(effectiveness factor)です。分母は「拡散が無限に速かったら出せたはずの速度」。η は触媒の稼働率だと思ってください。

2. Thiele数|反応と拡散の速さ比べ

η を決めるのは何か。答えはThiele数 φ ただ1つです。

φ の中身は、おおまかに言えば

φ ∝ 粒子半径 × √(反応速度定数 ÷ 有効拡散係数)

つまり「反応の速さ」と「拡散の速さ」の比を、粒子の大きさで重み付けしたものです。

φ を大きくするもの粒子が大きい/反応が速い(高温・高活性触媒)/拡散が遅い(細孔が細い、分子が大きい、高圧)
φ を小さくするもの粒子が小さい/反応が遅い(低温)/拡散が速い(細孔が太い)

球形粒子で1次反応のとき、η と φ の関係は式で書けます。

η = (1/φ)[ 1/tanh(3φ) − 1/(3φ) ]

形は複雑ですが、使うのは両端だけです。

3. 両極限だけ覚えればいい

文献は判定の目安をこう置いています。

反応律速φ < 0.1η ≒ 1粒子内部の濃度は外表面とほぼ同じ
拡散律速φ > 5η ≒ 1/φ反応が進むのは外表面に近接した狭い範囲だけ

この目安がどれくらい正確か、実際に式を計算して確かめました。

φη(厳密式)1/φ領域
0.050.9985反応律速
0.100.9941境目
0.300.9499遷移
1.000.67161.000遷移
5.000.18670.200境目
10.00.09670.100拡散律速
50.00.01990.020拡散律速

φ < 0.1 では η が1の4%以内、φ > 5 では 1/φ の8%以内。文献の目安は数値どおりです。

そしてφ = 10 の行が、この記事の主題です。η = 0.097。

買った触媒が本来出せる性能の1割しか出ていない。残りの9割は、粒子の内側で原料が来るのを待ったまま何もしていません。

4. 拡散律速だと何が起きるか

η が小さいことの影響は、単に「遅い」だけでは済みません。

効く対策が変わる

打ち手反応律速のとき拡散律速のとき
温度を上げるよく効く効きが鈍い
活性の高い触媒に変えるよく効くほとんど効かない
粒径を小さくする効かないよく効く
細孔を太くする効かない効く(ただし表面積は減る)

2行目が痛い。拡散律速の系で高活性触媒に交換しても、性能はほとんど上がりません。k が上がれば φ も上がり、η がその分下がって打ち消してしまうからです。

「良い触媒を入れたのに変わらない」という現場の経験は、たいていこれです。

見掛けの活性化エネルギーが半分になる

拡散律速では η ≒ 1/φ で、φ は √k に比例します。したがって見掛けの速度は

η × k ∝ (1/√k) × k = √k

つまり真の速度定数の平方根にしか比例しません。アレニウスプロットを描くと、見掛けの活性化エネルギーが真の値のおよそ半分に出ます。

これは診断に使えます。文献値より活性化エネルギーが小さく出たら、拡散律速を疑ってください。

選択率が落ちる

粒子の内側に原料が届かないということは、粒子の中では生成物の濃度が高いということです。

逐次反応 A→R→S で R が欲しい場合、粒子の中で R が滞留すれば S に進んでしまう。拡散律速は選択率を下げる方向に働きます。

粒径を小さくすることは、速度だけでなく選択率のためでもある——ここが実務の判断につながります。

5. では粒径を小さくすればいいのか

φ ∝ R なので、粒径を小さくすれば η は上がります。しかし小さくできない理由があります。

圧力損失固定層の圧損は粒径の2乗に反比例して増える。ここが最大の制約
粉の飛散細かすぎると触媒が飛ぶ、目詰まりする
強度小さい成型体は割れやすい

だから実際には形で稼ぐ手が使われます。リング状、三葉形、車輪形——外表面積を増やしつつ、拡散距離だけを短くする形状です。中空にすれば圧損を上げずに η を上げられる。

もう1つの解が流動層です。粒子径 0.05 mm 以下の微粉を使うので有効係数が大きい。圧損の制約を、固定層とはまったく違う方法で回避しています。

そして担持触媒——活性成分を粒子の外殻だけに担持する(エッグシェル型)——という手もあります。どうせ内側が働かないなら、内側に高い金属を置かない。拡散律速を前提とした割り切りです。

まとめ

触媒粒子の中では、原料が細孔を拡散しながら反応します。拡散が追いつかなければ内側に原料が届かず、触媒が遊びます。その稼働率が有効係数 η で、Thiele数 φ(反応の速さ ÷ 拡散の速さ、粒径で重み付け)だけで決まります。φ < 0.1 なら η ≒ 1 の反応律速、φ > 5 なら η ≒ 1/φ の拡散律速で、この目安は式を計算すると数%の精度で成り立ちます。φ = 10 では η = 0.097——触媒の9割が働いていません。拡散律速では高活性触媒に変えても効かず、見掛けの活性化エネルギーが真の値の半分に出て、選択率も下がります。粒径を小さくするのが直接的な対策ですが圧損が制約になるため、実務ではリング状などの形状、流動層、外殻だけに担持するエッグシェル型で回避します。

次の記事:拡散律速か反応律速か|粒径を変えれば分かる

参考文献

  • 橋本健治『反応工学 改訂版』培風館, 第9章 9・3「固体触媒内での反応」(有効係数の定義 式9・41、球形触媒粒子の有効係数 式9・45、両極限 式9・46・9・47) Amazonで見る
  • 小宮山宏『反応工学 反応装置から地球まで』(Thieleモジュラス、拡散律速か反応律速かの見極め) Amazonで見る
  • 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』丸善, 第27章「固体触媒反応」 最新版をAmazonで見る