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SUS304と316、Lが付くもの付かないもの。何を基準に選べばいいのか分からない。
「ステンレスなら錆びない」と思っていたら、穴があいた。
そんな悩みを解決します。
Mo=耐孔食(316)/低炭素=耐粒界腐食(L材)
鋭敏化のメカニズムと、それが起きる温度域(500〜800℃)
塩化物応力腐食割れ(SCC)はオーステナイト系の最大の弱点
PRENで耐孔食性を数値で比べる

ステンレスは「錆びない鋼」ではなく「不動態皮膜で守られた鋼」です。皮膜が壊れれば腐食します。
現場で、ステンレスの選定はどこで迷うか
| 場面 | 迷う点 |
|---|---|
| 配管の材質選定 | 304で足りるか、316が要るか |
| 海に近い設備 | 外面の塩化物SCCをどう防ぐか |
| 溶接部の仕様 | L材にすべきか、安定化材にすべきか |
| 補修時の材質 | 手持ちの材料で代用してよいか |
| 保温材の下 | CUI(保温材下腐食)のリスク |
| トラブル解析 | なぜここだけ穴があいたのか |
ステンレスは環境を選びます。 塩化物・高温・すきま ── これらがあると、炭素鋼より早く壊れることすらある。
ステンレスが錆びない仕組み ── 不動態皮膜
表面に厚さ数nmのCr酸化物(Cr₂O₃)の膜ができる
→ 緻密でイオンを通さない
→ 内部の金属が守られる
→ 傷ついても酸素があれば自己修復する
Cr量11%以上が条件
Crが11〜12%以上あって初めて連続した不動態皮膜ができます。 これがステンレス鋼の定義。
Crを増やすほど耐食性は上がります。 SUS304で18%、SUS310Sで25%。
不動態皮膜が壊れる条件 ── これが弱点
| 条件 | 何が起きるか |
|---|---|
| 塩化物イオン | 皮膜を局所的に破る → 孔食・SCC |
| 酸素の欠乏 | 自己修復できない → すきま腐食 |
| 強い還元性の酸 | 皮膜が溶解 → 全面腐食(塩酸・希硫酸) |
| Cr欠乏 | 皮膜が作れない → 粒界腐食(鋭敏化) |
この4つが、ステンレスのすべての腐食トラブルの原因です。
4つの系統 ── まず組織で分ける
| 系統 | 組織 | 磁性 | 代表鋼種 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| オーステナイト系 | FCC | 非磁性 | SUS304・316 | 最も汎用/低温可/加工性良/塩化物SCCに弱い |
| フェライト系 | BCC | 磁性あり | SUS430・444 | 塩化物SCCに強い/安価(Ni不使用)/低温脆性あり |
| マルテンサイト系 | 体心正方 | 磁性あり | SUS410・420 | 焼入れで硬化/刃物・軸/耐食性は低い |
| 二相系 | FCC+BCC | 磁性あり | SUS329J・2205 | 強度が高い/SCCに強い/溶接に注意 |
なぜフェライト系はSCCに強いのか
塩化物SCCは、オーステナイト組織で起きやすいという経験則があります。
海岸・塩化物環境の外面 → フェライト系や二相系を検討
低温・高延性が必要 → オーステナイト系
強度も耐SCCも必要 → 二相ステンレス
二相ステンレス(デュプレックス)は近年よく使われます。強度が304の2倍で、SCCにも強い。
ただし溶接時のフェライト/オーステナイト比の管理が難しいのが難点です。
475℃脆化・σ相脆化があるので、使用温度の上限(約300℃)にも注意。
鋼種の使い分け ── Moと炭素で決まる
| 鋼種 | 組成の特徴 | 強くなるのは | 用途 |
|---|---|---|---|
| SUS304 | 18Cr-8Ni(基本) | ── | 汎用 |
| SUS304L | C ≦ 0.03% | 耐粒界腐食 | 溶接部 |
| SUS316 | Mo 2〜3%添加+Ni増量 | 耐孔食・耐酸 | 塩化物環境・薬品 |
| SUS316L | Mo+低炭素 | 両方 | 溶接する耐食部 |
| SUS317 | Mo 3〜4%(増量) | 耐孔食(316より上) | より厳しい環境 |
| SUS321 | Ti添加(安定化) | 耐粒界腐食(高温可) | 高温+溶接 |
| SUS347 | Nb添加(安定化) | 同上 | 同上 |
| SUS310S | 25Cr-20Ni | 耐酸化性(高温) | 加熱炉部品 |

L材と安定化材の使い分け
| L材(304L・316L) | 安定化材(321・347) | |
|---|---|---|
| 方法 | 炭素を減らす | Ti・Nbで炭素を先取り |
| 常温〜中温 | 有効 | 有効 |
| 高温での長時間使用 | 不利(徐々に鋭敏化) | 有効 |
| 強度 | やや低い(Cが少ない) | 同等 |
| コスト | やや高い | 高い |
500℃を超える環境で長時間使うなら安定化材です。L材でも時間をかければ鋭敏化します。
加熱炉の管、高温反応器のライニングなどは321・347を使います。
鋭敏化 ── 溶接部が腐食する仕組み
500〜800℃に加熱される(溶接の熱影響部)
→ 炭素とCrが結合して Cr₂₃C₆(Cr炭化物)が粒界に析出
→ 粒界の周りだけCrが欠乏する(Cr欠乏層)
→ Crが11%を下回ると不動態皮膜が作れない
→ 粒界だけが選択的に腐食する

なぜ500〜800℃なのか
800℃超:炭素が固溶して析出しない
500〜800℃:拡散が速く、かつ析出が安定 → 最も起きやすい
500℃未満:拡散が遅くて析出しない
溶接部の熱影響部(HAZ)が、ちょうどこの温度域を通過します。
溶接ビードそのものではなく、その少し外側が鋭敏化します。
対策は3つ
| 対策 | 方法 | 適用 |
|---|---|---|
| ① 低炭素化 | C ≦ 0.03%(L材) | 最も一般的 |
| ② 安定化 | Ti・Nb添加(321・347) | 高温長時間 |
| ③ 固溶化熱処理 | 1,050℃前後から急冷 | 溶接後に実施可能なら |
③は「炭化物を再固溶させて、析出する前に急冷する」という直接的な対策です。
ただし大型の機器では実施が難しいので、①か②を選ぶのが実務です。
ナイフラインアタック ── 安定化材の落とし穴
安定化材(321・347)でも、溶接直近の狭い帯だけが腐食することがあります。
溶接直近は1,200℃以上まで加熱される
→ TiC・NbC も固溶してしまう
→ その後の冷却中に500〜800℃を通過
→ TiC・NbCより先にCr炭化物が析出
→ 溶接線に沿った細い帯だけ鋭敏化
対策は安定化熱処理(900℃前後で保持してTiC・NbCを析出させる)。
孔食と PREN ── 数値で比べる
① 塩化物イオンが不動態皮膜を局所的に破る
② その部分がアノードになって溶ける
③ 金属イオンが加水分解して穴の中が酸性化
④ 塩化物イオンが穴の中に引き寄せられる(電気的中性)
⑤ ますます溶ける → 止まらない
表面はほとんど無傷なのに、内部で大きく空洞化することがあります。目視では分かりにくい。
PREN(耐孔食指数)
PREN = %Cr + 3.3 × %Mo + 16 × %N
| 鋼種 | Cr | Mo | N | PREN |
|---|---|---|---|---|
| SUS304 | 18 | 0 | 0 | 約18 |
| SUS316 | 17 | 2.5 | 0 | 約25 |
| SUS317 | 18 | 3.5 | 0 | 約30 |
| 二相2205 | 22 | 3 | 0.17 | 約35 |
| スーパー二相2507 | 25 | 4 | 0.28 | 約42 |
PREN 32以上が「海水に使える」目安とされています。
Moの係数が3.3、Nが16と大きいのは、それだけ効果が高いということです。
窒素(N)が効くのは比較的新しい知見で、二相系はこれを活用しています。
すきま腐食 ── 孔食より起きやすい
ガスケット下・堆積物下・重ね継手のすきま
→ 酸素が届かない
→ 不動態皮膜が修復できない
→ すきまの中が酸性化・塩化物濃縮
→ 孔食と同じ機構で進行
すきま腐食は孔食より低い塩化物濃度・低い温度で起きます。
フランジのガスケット、配管サポートとの接触部、タンク底板が要注意箇所。
塩化物応力腐食割れ ── 最大の弱点
① オーステナイト系ステンレス鋼
② 塩化物
③ 引張応力
典型的には60℃以上で起きやすくなります(低温でも長期間なら起きる)。
最も多いのは保温材下(CUI)
雨水・結露水が保温材に染み込む
→ 乾かない → 常に湿った状態
→ 保温材に含まれる塩化物や、海塩粒子が濃縮する
→ 運転温度で加熱される
→ SCCの3条件がそろう
| 対策 | 内容 |
|---|---|
| 防水 | 外装板のシール/水切り/貫通部の処理 |
| 塗装 | 保温下塗装(シリコン系・エポキシ系) |
| 低塩化物の保温材 | 塩化物含有量を規定した保温材を使う |
| 材質変更 | フェライト系・二相系に替える |
| 検査 | 保温材を剥がして目視・PT |
CUIは検査が難しいのが問題です。保温材を剥がさないと見えない。
RBIで優先順位をつけて、計画的に剥がして検査するのが実務のやり方です。
応力側の対策
PWHT(応力除去焼なまし):残留応力を除く
ショットピーニング:表面に圧縮残留応力を与える
設計の見直し:拘束を減らす
ただしオーステナイト系のPWHTは難しい(鋭敏化のリスク)ので、実務では材質変更が現実的なことが多い。
酸に対する挙動 ── 濃度で逆転する
| 酸 | 薄い | 濃い | 理由 |
|---|---|---|---|
| 硫酸 | 腐食する | 腐食しにくい | 濃硫酸は酸化性で不動態化させる |
| 硝酸 | 腐食しにくい | 腐食しにくい | 酸化性の酸(ステンレスの得意分野) |
| 塩酸 | 腐食する | 腐食する | 塩化物イオンが皮膜を破る |
| りん酸 | 比較的良好 | 比較的良好 | ── |
| 有機酸(酢酸等) | 良好 | 良好 | ── |
塩酸はどの濃度でもダメです。ハステロイ・チタン・樹脂ライニングを使います。
希硫酸も苦手です。ここを「ステンレスだから大丈夫」と判断すると穴があきます。
だから濃度管理が重要になる
濃硫酸のタンクに水が入る → 希釈されて腐食が始まる
→ しかも希釈熱で高温になる → さらに加速
→ 短時間で穴があく
「濃硫酸タンクの雨水混入」は実際に事故を起こしています。
実務での失敗例
失敗例①:SUS304を海岸で外面無処理のまま使う
数年で外面SCCが発生します。特に保温材があると早い。
塗装するか、保温材を低塩化物品にするか、材質を変えるのが対策。
失敗例②:溶接後の焼け取りをしない
溶接の熱で厚い酸化スケールができる
→ その下はCr欠乏層になっている
→ 不動態皮膜より耐食性が低い
→ そこから腐食が始まる
| 処理 | 方法 | 効果 |
|---|---|---|
| 酸洗い | 硝ふっ酸で溶かす | 最も確実 |
| 電解研磨 | 電気化学的に除去 | 確実・仕上がりが良い |
| 機械研磨 | ブラシ・ペーパー | 鉄粉の付着に注意 |
| 不動態化処理 | 硝酸に浸ける | 皮膜の再生 |
工具・砥石はステンレス専用にするのが鉄則です。
失敗例③:炭素鋼と接触させる
ステンレスは貴、炭素鋼は卑なので、接触すると炭素鋼が優先的に腐食します。
ステンレス配管に炭素鋼のボルト → ボルトが集中的に腐食(面積比が最悪)
ステンレスの配管サポート下の炭素鋼 → 接触部が腐食
絶縁ガスケット・絶縁ブッシュで電気的に切り離すのが対策です。
→ 異種金属接触腐食
失敗例④:「SUS」だけで発注する
「SUS」はステンレス鋼の総称です。304か316かで耐食性がまったく違います。
鋼種(SUS304・316・316L…)
製品形状の規格(板:G4304/管:G3459 など)
表面仕上げ(2B・BA・#400 など)
ミルシートの提出
ミルシートでC量を確認してください。304と304Lは見た目では区別できません。
簡易的にはフェライトメーター・成分分析器(XRF)で現場確認もできます。
甲種化学ではこう出ます
技術検定の問3(材料)と、国試の問3・検定の問4(腐食)で出ます。
SUS316(Mo=耐孔食)と304L(低C=耐粒界腐食)の入れ替え(2回)
粒界腐食の対策は低炭素化(2回、正しい記述として)
オーステナイト系は塩化物SCCに弱く、フェライト系は起こりにくい
孔食は塩化物イオンが不動態皮膜を局所的に破る
濃硫酸では不動態化して腐食しない
オーステナイト系は面心立方で低温脆性を示さない
解き方と過去問は保安管理技術|材料と熱処理・保安管理技術|腐食と防食にまとめています。
材料の基礎は金属材料の基礎を参照してください。
まとめ
- ステンレスは不動態皮膜(Cr₂O₃)で守られている。Cr 11%以上が条件
- 皮膜が壊れるのは塩化物・酸素欠乏・還元性の酸・Cr欠乏の4条件
- Mo=耐孔食(316)/低炭素・Ti・Nb=耐粒界腐食(304L・321・347)
- 鋭敏化は500〜800℃でCr炭化物が粒界に析出することによる
- 高温長時間なら安定化材(321・347)。L材でも時間をかければ鋭敏化する
- PREN = Cr + 3.3Mo + 16N。32以上で海水可(316は25で不足)
- すきま腐食は孔食より起きやすい。設計ですきまを作らない
- 塩化物SCCの多くは保温材下(CUI)。外面から割れる
- 濃硫酸には強く、希硫酸・塩酸には弱い
- 溶接焼けは必ず除去(酸洗い・電解研磨)
- 炭素鋼との接触で炭素鋼側が腐食する
材料の基礎は金属材料の基礎、検査は非破壊検査の使い分けへ。
化学プラント大全 
