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平衡定数の温度依存性|ファントホッフの式とアレニウスの式は何が違うか

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困っている人
困っている人

ファントホッフとアレニウス、式の形がそっくりで区別がつかない。

「温度を上げれば反応が進む」と思っていたら、収率が下がった。

そんな悩みを解決します。

この記事の内容

ファントホッフは平衡(どこまで)、アレニウスは速度(どれだけ速く)

発熱反応は温度を上げると平衡が戻る ── 高温=有利ではない

だから最適温度が存在する。アンモニア合成の500℃はここから

触媒は Ea を下げるが ΔH は変えない

反応器の運転温度をどう決めるか。速度と平衡の綱引きを、2つの式で理解します。

現場で、この違いはどこに効くか

場面何を判断するか
反応温度の決定速度と平衡のどちらが制約か
収率が上がらない遅いのか、平衡で頭打ちなのか
触媒の効果速くはなるが、収率の上限は変わらない
多段反応器の温度プロファイル入口は高温、出口は低温にする理由
省エネ検討温度を下げても成立するか

「反応が進まない」と言われたとき、原因が速度か平衡かで対策がまったく違います。

対策の方向が逆になる

速度が足りない → 温度を上げる/触媒を替える/滞留時間を延ばす

平衡で頭打ち温度を下げる(発熱反応なら)/圧力を変える/生成物を抜く

平衡律速なのに温度を上げると、かえって悪化します。

2つの式 ── 形は同じ、中身が違う

アレニウスの式(速度)

k = A exp(−Ea / RT)

2点間:ln(k₂/k₁) = −(Ea/R)(1/T₂ − 1/T₁)

ファントホッフの式(平衡)

d(ln K)/d(1/T) = −ΔH° / R

2点間:ln(K₂/K₁) = −(ΔH°/R)(1/T₂ − 1/T₁)

アレニウスファントホッフ
対象速度定数 k平衡定数 K
指数部−Ea/R−ΔH°/R
意味どれだけ速く進むかどこまで進むか
Ea・ΔHの符号Ea は必ず正ΔH° は正にも負にもなる
温度上昇の効果必ず速くなるΔH° の符号による

最大の違いは「Ea は必ず正、ΔH° は正にも負にもなる」という点です。

だから温度上昇の効果が違う

温度を上げると
速度 k必ず速くなる(Ea > 0 だから)
平衡 K(発熱反応、ΔH°<0)小さくなる(反応が戻る)
平衡 K(吸熱反応、ΔH°>0)大きくなる(反応が進む)

これがル・シャトリエの原理の数式表現です。

Ea と ΔH° は何が違うのか ── エネルギー図で

反応のエネルギー図

Ea(活性化エネルギー):反応物から山の頂上までの高さ

ΔH°(反応エンタルピー):反応物と生成物の高さの差

Ea は「途中の山」、ΔH° は「始点と終点の段差」。 まったく別のものです。

だから

触媒は Ea を下げる(低い峠道を作る)

触媒は ΔH° を変えない(山の向こう側の高さは同じ)

触媒で速くはなるが、平衡の位置は動かない

「触媒を入れても収率が上がらない」のは、平衡律速だからです。

活性化エネルギーと触媒アレニウスの式

数値で確かめる ── アンモニア合成

N₂ + 3H₂ ⇄ 2NH₃ ΔH° = −92 kJ/mol(発熱)

平衡は低温が有利

ファントホッフで計算

ln(K₂/K₁) = −(ΔH°/R)(1/T₂ − 1/T₁)

300℃(573 K)→ 500℃(773 K)にすると

ln(K₂/K₁) = −(−92,000/8.314)(1/773 − 1/573)

 = 11,065 × (−4.52×10⁻⁴) = −5.00

K₂/K₁ = e^(−5.00) = 0.0067

200℃上げると、平衡定数が150分の1になります。 収率は激減する。

温度アンモニア平衡濃度(20 MPa、概算)
300℃約70%
400℃約48%
500℃約27%
600℃約14%

速度は高温が有利

アレニウスで計算(Ea ≒ 100 kJ/mol)

300℃ → 500℃

ln(k₂/k₁) = −(100,000/8.314)(1/773 − 1/573)

 = −12,028 × (−4.52×10⁻⁴) = 5.44

k₂/k₁ = e^5.44 = 230倍

200℃上げると230倍速くなります。

だから最適温度がある

綱引きの結果

低温:平衡は有利だが遅すぎて実用にならない

高温:速いが平衡が悪くて収率が出ない

中間に最適点がある

アンモニア合成の実用条件は400〜500℃、20〜30 MPa。この綱引きの結果です。

圧力を上げるのは平衡を有利にするためです(4 mol → 2 mol なので加圧で進む)。

ハーバー・ボッシュ法が「高温高圧」なのには、それぞれ別の理由があります。 高温は速度、高圧は平衡。

多段反応器の温度プロファイル

実際のアンモニア合成塔

入口:高温(速度を稼ぐ。平衡から遠いので、まだ余裕がある)

出口:低温(平衡に近づくので、平衡を有利にする)

段間で冷却する

これが多段+段間冷却の理由です。単に除熱のためではありません。

各段で「最適温度線」に沿うように運転するのが理想です。

速度律速か平衡律速か ── 現場での見分け方

現象速度律速平衡律速
滞留時間を延ばす転化率が上がる変わらない
触媒を増やす転化率が上がる変わらない
温度を上げる転化率が上がる発熱なら下がる
生成物を抜く変わらない転化率が上がる
圧力を変えるあまり効かないモル数変化があれば効く

「滞留時間を延ばしても転化率が上がらない」なら平衡律速です。これが最も簡単な判定法。

平衡律速のときの打ち手

平衡をずらす4つの方法

① 温度を変える(発熱反応なら下げる)

② 圧力を変える(モル数が減る反応なら加圧)

③ 生成物を抜く(反応蒸留・膜反応器)

④ 原料を過剰にする(安いほうを過剰に)

③が最も強力です。生成物を抜き続ければ、平衡制約を実質的に外せます。

実例

エステル化:水を抜きながら反応させる(反応蒸留)

メタノール合成:メタノールを凝縮させて抜き、未反応ガスを循環

アンモニア合成:NH₃ を凝縮分離して循環

「循環(リサイクル)」は、平衡制約への標準的な対処法です。

ただし不純物が濃縮するので、パージ(一部抜き出し)が必要になります。これが原料ロスになる。

実務での失敗例

失敗例①:発熱反応で温度を上げて収率を落とす

何が起きるか

「転化率が足りない」→ 温度を上げる

→ 速度は上がるが平衡が悪化

→ 平衡律速の領域ではかえって転化率が下がる

しかも副反応も加速します。 選択率まで落ちる。

まず「速度律速か平衡律速か」を判定してから、温度を動かしてください。

失敗例②:触媒で収率が上がると期待する

触媒は ΔH° を変えないので、平衡の位置は動きません。

触媒が効くこと触媒が効かないこと
反応が速くなる平衡転化率が上がる
低温で反応できる反応熱が変わる
選択率が上がる(目的反応だけ加速)──

ただし「低温で反応できる」ことで、結果的に平衡が有利になることはあります。

これが触媒開発の本当の価値です。より低温で使える触媒 = より高い平衡転化率。

選択率の改善も重要です。目的反応の Ea だけ下げれば、副反応との差が広がります。

失敗例③:ΔH° を温度によらず一定と仮定する

ファントホッフの2点式は、ΔH° が一定という前提です。

実際には

ΔH° は温度で変わる(キルヒホッフの式:dΔH/dT = ΔCp)

温度範囲が狭ければ(100 K程度)一定とみなしてよい

数百 K に及ぶなら、ΔCp を考慮する

試験では「この温度範囲では一定とみなす」と明記されます。 実務では確認が必要です。

失敗例④:Kp と Kc を混同する

定義使う場面
Kp分圧で表した平衡定数気相反応
Kc濃度で表した平衡定数液相反応・気相でも可
Ka活量で表した平衡定数厳密な扱い(無次元)
関係

Kp = Kc (RT)^Δn(Δn = 生成物のモル数 − 反応物のモル数)

Δn = 0 なら Kp = Kc

ΔG° = −RT ln K の K は、活量で定義された Ka(無次元)です。

分圧そのままの Kp には単位が付くので、対数を取るには標準圧力で割る必要があります。

フガシティーと活量

ΔG° との関係 ── どこから K が出てくるか

基本の関係

ΔG° = −RT ln K

ΔG° = ΔH° − TΔS°

2つを組み合わせると

−RT ln K = ΔH° − TΔS°

ln K = −ΔH°/(RT) + ΔS°/R

これを 1/T で微分すると、ファントホッフの式が出ます。

ln K を 1/T に対してプロットすると直線になります(ΔH° が一定なら)。

直線から読めること

傾き = −ΔH°/R

切片 = ΔS°/R

実験で K を数点測れば、ΔH° と ΔS° の両方が求まります。 これがファントホッフプロットです。

アレニウスプロット(ln k 対 1/T)とまったく同じ形です。傾きから Ea が出る。

符号で意味を読む

ΔG°K反応は
K > 1生成物側に偏る
0K = 1半々
K < 1反応物側に偏る

ΔG° = ΔH° − TΔS° なので、温度が上がると TΔS° の項が効いてきます。

だから

ΔS° > 0(乱雑さが増える) → 高温ほど ΔG° が負になりやすい → 高温で進む

ΔS° < 0(分子数が減る) → 低温のほうが有利

アンモニア合成は 4 mol → 2 mol なので ΔS° < 0。だから低温が有利で、加圧が効く。

ギブズエネルギーと自発性

甲種化学ではこう出ます

学識の型6(化学平衡)型7(反応速度)の両方にまたがります。

年度・問内容
R4 検定 問3圧平衡定数・ファントホッフ型6
R6 検定 問3濃度平衡定数・ファントホッフ型6
R6 国試 問3メタノール合成の ΔH・ΔG・ΔS・K型6
R5 国試 問32次反応・アレニウス型7
R2 検定 問31次反応・アレニウス・ΔH型7

R2検定問3では、同じ問の中でアレニウスとΔHの両方が出ています。 混同していると解けません。

試験で押さえる点

2つの式の形は同じ(指数部が Ea か ΔH° か)

Ea は必ず正、ΔH° は符号が変わる

K が温度上昇で小さくなる=発熱反応(検算に使える)

ln x = 2.303 log x で対数表を使う

解き方と過去問は学識・型6|化学平衡学識・型7|反応速度とアレニウス式にまとめています。

まとめ

  • ファントホッフは平衡(どこまで)、アレニウスは速度(どれだけ速く)
  • 式の形は同じ。指数部が −ΔH°/R−Ea/R
  • Ea は必ず正(温度を上げれば必ず速くなる)
  • ΔH° は符号が変わる(発熱反応は温度を上げると平衡が戻る)
  • Ea は途中の山、ΔH° は始点と終点の段差
  • 触媒は Ea を下げるが ΔH° を変えない → 平衡の位置は動かない
  • 速度と平衡の綱引きで最適温度が決まる(アンモニア合成の400〜500℃)
  • 滞留時間を延ばしても転化率が上がらないなら平衡律速
  • 平衡律速の打ち手は温度・圧力・生成物の除去・原料過剰
  • ln K 対 1/T の直線から ΔH° と ΔS° が求まる

反応速度の側は反応速度式の積分、反応熱はヘスの法則と生成エンタルピーへ。

ギブズエネルギーはギブズエネルギーと自発性、活量とフガシティーは実在気体を参照してください。