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熱交換器の性能が落ちたときの診断手順【汚れと決めつける前に】

熱交換器の性能が落ちたときの診断手順【汚れと決めつける前に】

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困っている人
困っている人

熱交換器の能力が落ちてきた

汚れなのか、他の原因なのか分からない

そんな悩みを解決します。

この記事の内容

・実測Uの求め方と、汚れ抵抗の逆算

・原因を切り分ける6ステップの診断フロー

・洗浄時期をデータで判断する方法

私の仕事は化学プラントの設計です。
現場で使える切り分けの順序を整理しました。

「最近この熱交換器の効きが悪い」という声は、どの工場でも上がります。しかし原因は汚れとは限りません

計測がずれているだけかもしれない。流量が設計どおり流れていないかもしれない。不凝縮ガスが溜まっているかもしれない。内部で漏れているかもしれない。

洗浄してみたが回復しなかった、という徒労を避けるために、切り分けの順序を持っておくことが大切です。

この記事の結論

・最初にやるのは実測 U を求めること。感覚ではなく数字で捉えます。

・診断は計測 → 流量 → 不凝縮ガス → 汚れ → バイパス → 内部漏れの順に切り分けます。

安いものから、可逆なものから確認するのが原則です。

・汚れ抵抗を運転時間に対してプロットすれば、洗浄時期を根拠を持って決められます。

・洗浄の経済性は「性能低下による損失」と「洗浄費用+停止損失」の比較で判断します。

まず実測 U を求める

「効きが悪い」を数字にします。運転データから実測の総括伝熱係数を逆算します。

手順

1. 両流体の入口・出口温度と流量を記録する

2. 熱収支から Q を計算する(両側で計算して一致を確認

3. 温度から ΔTlm と F を計算し、ΔTm を求める

4. U実測 = Q /(A・ΔTm) を計算する

$$U_{実測}=\frac{Q}{AΔT_m}  r_{汚れ}=\frac{1}{U_{実測}}−\frac{1}{U_{清浄}}$$

2番の「両側で計算して一致を確認」が診断の第一歩です。高温側から計算した Q と低温側から計算した Q が合わなければ、その時点で計測かバイパスに問題があります。

熱収支が合わないときに疑うこと

ずれ方疑うべきこと
高温側の Q が大きい放熱(保温不良)。または低温側流量計の誤差
低温側の Q が大きい外部から熱が入っている。または高温側流量計の誤差
日によってばらつく計測の問題。温度計の位置、流量計の校正
常に一定の比率でずれる流量計の系統誤差、または熱損失

診断フロー ― 6ステップ

安いものから、可逆なものから確認していきます。

Step 1:計測は正しいか

・温度計の位置は適切か(配管の代表温度を測れているか、伝熱の影響を受けていないか)

・温度計・流量計の校正はいつか

・圧力計は生きているか

・DCSの表示と現場計器は一致しているか

意外に多いのがこれです。「能力低下」と思っていたら温度計のドリフトだった、というケースは珍しくありません。停止も費用も要らないので最初に確認します。

Step 2:流量は設計どおりか

・両流体の流量は設計値か。減っていないか

・ポンプの吐出圧は正常か(インペラ摩耗、キャビテーション)

・上流のストレーナが詰まっていないか

・弁の開度は適切か(絞りすぎていないか)

流量が落ちれば h が落ち、U が落ちます。熱交換器は正常なのに、上流のストレーナが詰まっていたというのもよくある話です。

Step 3:不凝縮ガスは溜まっていないか(凝縮器の場合)

凝縮器なら、ここが最も費用対効果の高い確認です。ベント弁を開けてみるだけで済みます。

数分で能力が回復するなら、不凝縮ガスが原因です。ベント経路の閉塞、ベント量の不足、あるいは外部からの空気漏れ込みを調べます。

不凝縮ガスが凝縮器を殺す理由【1%の混入で性能が半減する】 不凝縮ガスが凝縮器を殺す理由【1%の混入で性能が半減する】

Step 4:汚れか

実測 U から汚れ抵抗を逆算し、それが妥当な大きさかを見ます。

汚れ抵抗の大きさ判断
設計汚れ係数と同程度想定内。まだ洗浄不要かもしれない
設計値の1.5〜2倍洗浄を検討する段階
設計値の3倍以上汚れ以外の原因も疑う。閉塞かもしれない

汚れ抵抗が異常に大きい場合、「均一に汚れている」のではなく「一部のチューブが完全に閉塞している」可能性があります。閉塞したチューブは伝熱に寄与しないので、実効的な伝熱面積が減っているのと同じです。

Step 5:バイパス・ショートパスはないか

流体が伝熱面をきちんと通らずに近道している状態です。原因は主に構造の劣化です。

現象原因
チャンネル内のショートパス仕切板(パーティションプレート)のガスケット劣化。流体がパスを飛ばして出口へ
シェル側のバイパスバッフルとシェルの隙間拡大、バッフルの腐食
F型シェルのリーク縦仕切板のシール部劣化

仕切板ガスケットの劣化は、外からは見えないのに性能が大きく落ちる厄介な故障です。分解して初めて分かります。「洗浄したのに回復しない」ときの有力な候補です。

Step 6:内部漏れはないか

チューブの破孔や管板の拡管部の緩みにより、両流体が混ざっている状態です。

熱収支が合わない、片方の流体の組成や導電率が変化する、圧力の高いほうの流量が説明できないほど多い、といった兆候が出ます。

内部漏れは性能問題ではなく安全・品質問題です。冷却水にプロセス液が混入すれば環境問題に、逆なら製品汚染になります。疑いがあれば速やかに停止して確認してください。

このツールで確かめる

実測 U と汚れ抵抗の逆算は、運転データを入れれば自動でできます。まず熱収支の不一致を見るという診断の第一歩も、このツールが最初に判定します。経過データを入れれば、汚れの進み方と洗浄時期の目安まで出ます。

汚れ抵抗の逆算とトレンド判定

運転データから実測の総括伝熱係数を逆算し、いまの汚れ抵抗を出します。経過データを入れると、汚れの進み方(漸近型・直線型・加速型)と洗浄時期の目安も分かります。

機器

いまの運転データ

熱収支の不一致
交換熱量 Q
ΔTm
U 実測
汚れ抵抗 r
設計汚れ係数に対して

経過データ(任意)

汚れ抵抗の推移

初期に急で後半ゆるむのが漸近型。直線のまま増えるなら流速不足を疑う。途中から速まるのは閉塞のサイン。

経過日数U 実測汚れ抵抗 r設計比

まず熱収支の不一致を見てください。高温側と低温側で計算した Q が合わないなら、汚れの前に計測か流量、あるいはバイパスを疑う段階です。5%を超えたら要確認です。

清浄時 Uc は、洗浄直後に実測した値を使うのが最も確かです。設計値しかない場合は、設計 U に設計汚れ係数を足し戻して求めます。

外挿はあくまで直近の傾きによる目安です。加速型が出ている場合、外挿より早く悪化します。

既定値は設計点に近い状態です。低温側の流量を 75 → 60 t/h に変えてみてください。熱収支が20%ずれ、汚れを論じる前に計測・流量・バイパスを疑うべき状態だと判定されます。

汚れの進行を記録する

汚れ抵抗を定期的に計算し、洗浄からの経過時間に対してプロットします。これが最も価値のあるデータです。

典型的な2つのパターン

パターン意味対応
漸近型初期に急増し、やがて頭打ち付着と剥離が釣り合う。流速が確保されている洗浄周期を長く取れる
直線型一定の速度で増え続ける剥離が起きていない。流速不足の可能性洗浄周期を決める必要。流速改善も検討
加速型途中から増加が速まる閉塞が始まっている可能性早めに開放点検

加速型が出たら要注意です。汚れが汚れを呼ぶ状態に入っており、放置すると急激に悪化します。

洗浄時期をどう決めるか

経済的には、次の2つを比較します。

洗浄しない損失:能力低下による生産量の減少、または用役(蒸気・冷却水)の余分な消費

洗浄する費用:洗浄作業費+停止に伴う生産損失

性能低下が緩やかなうちは洗浄しないほうが得ですが、ある時点で逆転します。汚れの進行カーブがあれば、この逆転点を予測できます。

実務では定修に合わせるのが一般的ですが、定修まで持たないと分かった時点で計画を見直せることが、データを取る価値です。

洗浄方法の選択

方法対象注意点
化学洗浄(CIP)スケール、油分、生物汚れ薬液の適合性、材質への影響、廃液処理
機械清掃(ブラシ・スクレーパ)硬い付着物、チューブ内直管でないとできない(U字管は不可)
高圧水洗浄広範囲開放が必要。管束引抜きスペースが要る
オンライン洗浄(スポンジボール等)冷却水系のチューブ内設備が必要。運転を止めずに済む

清掃方法は機器を選んだ時点で決まっています。U字管を選んでしまえば、チューブ内の機械清掃という選択肢は永久にありません。だから設計段階で清掃方法を想定しておくことが重要なのです。

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記録しておくべきこと

・運転データ(両流体の流量・入口出口温度)── できれば日次

・そこから計算した U実測 と汚れ抵抗

・洗浄の実施日と方法、洗浄直後の U(=その機器の実質的な清浄時 U)

・開放点検時の所見(どこがどう汚れていたか、写真)

・チューブの閉塞・栓止め本数

洗浄直後の U は貴重なデータです。設計値の Uc より低ければ、その差は洗浄で落としきれない恒久的な汚れか、あるいは設計時の想定が甘かったことを意味します。次の設計に活かせます。

まとめ

・まず実測 U を求めて数字にします。熱収支を両側で計算し、一致を確認するところから始めます。

・診断は 計測 → 流量 → 不凝縮ガス → 汚れ → バイパス → 内部漏れ の順。安いものから確認します。

・凝縮器なら「ベント弁を開けてみる」が最も費用対効果の高い確認です。

・汚れ抵抗が設計値の3倍以上なら、均一な汚れではなく閉塞を疑います。

・「洗浄したのに回復しない」なら、仕切板ガスケットの劣化によるショートパスが有力候補です。

・汚れ抵抗を経時プロットすれば、洗浄時期を根拠を持って決められます。加速型が出たら早めに開放点検を。

・内部漏れは性能問題ではなく安全・品質問題です。疑いがあれば速やかに停止します。

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参考文献

  • 吉田邦夫・吉田英生 監修『熱交換器ハンドブック』省エネルギーセンター、2005年、IV編 設備保全 1「水管理・洗浄」、3「検査」、4「寿命予測とトラブル事例」4.2 トラブル事例 Amazonで見る
  • 尾花英朗『熱交換器設計ハンドブック(増訂版)』工学図書、1974年(1994年 2版6刷)、第2部 伝熱概論 第9章「汚れ係数」 Amazonで見る