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爆発範囲(LEL・UEL)の読み方|混合ガスの計算と、上限界が100%になるガス

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可燃性ガスは、濃すぎても薄すぎても燃えません。燃えるのはある濃度範囲に入っているときだけです。この範囲を爆発範囲(燃焼範囲)といいます。

SDSに「1.1〜7.5%」のように書かれている、あの数字です。ただしこの数字を物質固有の絶対値だと思っていると、実務で足をすくわれます。測定方法で変わり、温度で変わり、圧力で変わり、不活性ガスを入れれば狭くなる。しかも混合ガスでは単純な足し算になりません。

この記事では、爆発範囲の意味と、下限界の背後にある物理、混合ガスの計算(ル・シャトリエの法則)、そして現場での使い方までを整理します。

この記事の結論

  • 爆発範囲の数値は実験装置や方法によって異なる。出典と測定条件を確認する
  • 下限界には物理的な意味がある。下限界濃度×燃焼熱 ≒ 4,600(Burgess-Wheelerの法則)
  • 混合ガスの下限界はル・シャトリエの法則で計算する。単純平均ではない
  • アセチレンや酸化エチレンは上限界が100%。酸化剤がなくても分解反応で燃える
  • 不活性ガスの混合で範囲は狭くなる。比熱の大きい気体ほど効果が大きい

1. 爆発範囲とは何か

可燃性気体と空気の混合気に着火源を与えたとき、燃焼が起こる濃度の範囲があります。

  • 燃焼(爆発)下限界 LEL:Lower Explosive Limit ── これより薄いと燃えない
  • 燃焼(爆発)上限界 UEL:Upper Explosive Limit ── これより濃いと燃えない

薄すぎると燃えないのは直感的です。では濃すぎると燃えないのはなぜか。酸素が足りないからです。燃料が多すぎれば、燃焼に必要な酸素が相対的に不足し、火炎が伝播できません。

ここで大事なのは、上限界より濃い状態は「安全」ではないということです。空気が入れば必ず範囲を通過します。タンク内が上限界より濃いから安全、という判断は、開放や換気の瞬間に崩れます。

燃焼範囲は、可燃性気体の種類、温度、圧力をはじめ、混合気中の酸化剤や不燃性気体の種類・濃度にも依存します。

2. 数値は「条件つき」である

一次資料は、はっきりこう書いています。

燃焼範囲の数値は実験により決定されるが、実験装置や方法によって数値が異なるので注意が必要である。

最も多く用いられているのは、米国鉱山局(U.S. Bureau of Mines)で開発された方法です。直径5cm・長さ150cmのガラス管の中で、混合気中を火炎が上方に伝播する限界を求めます。

「上方に伝播」という条件に注目してください。火炎は浮力によって上へ伝わりやすいので、上方伝播で測ると範囲が広めに出ます。つまり安全側の値です。文献値を比べるときは、この測定条件が揃っているかを見る必要があります。

実務では、自分が扱う条件(温度・圧力・共存ガス)での値かどうかが問われます。常温常圧の文献値をそのまま高温高圧のプロセスに当てはめると、実際の範囲より狭く見積もることになります。

3. 下限界には物理的な意味がある

ここが、この記事でいちばん面白いところです。下限界の数値は、物質ごとにバラバラに決まっているわけではありません。

ある範囲の可燃性気体(炭化水素など)については、燃焼下限界での濃度と燃焼熱の積が、ほぼ一定になることが知られています。Burgess-Wheelerの法則です。

L [vol%] × Q [kJ/mol] ≒ 4,600

L:燃焼下限界濃度  Q:可燃性ガスの燃焼熱

左辺は、おおよそ混合気が燃焼したときの発熱量にあたります。つまりこの法則は、下限界における火炎温度が、物質によらずほぼ同じになることを意味しています。

実際、炭化水素と空気の混合気の燃焼下限界における火炎温度は約1,200℃です。

この理解には実務的な意味があります。燃焼熱が大きい物質ほど、下限界は低い。少ない量でも火炎が維持できる温度に達するからです。SDSを見て「この物質は下限界が低いから危ない」と感じたとき、その裏には「1分子あたりの発熱量が大きい」という理由があるわけです。

4. 混合ガスの下限界を計算する

現場で扱うのは単一成分とは限りません。複数の可燃性ガスが混ざった場合の下限界は、ル・シャトリエの法則で推定します。

Lm = 100 ÷ Σ(Ci ÷ Li

Lm:混合ガスの燃焼下限界  Ci:成分 i の濃度[vol%](可燃性ガス中の割合)  Li:成分 i の燃焼下限界

この式は、Burgess-Wheelerの法則から導かれます。各成分に法則が成り立つなら、混合ガスでも「下限界での発熱量が一定」という関係が保たれる、という理屈です。

計算例

条件:可燃性ガスがメタン70%、プロパン30%の割合で混ざっている。メタンの下限界を5.0vol%、プロパンの下限界を2.1vol%とする(代表値)。

Σ(Ci ÷ Li) = 70 ÷ 5.0 + 30 ÷ 2.1 = 14.0 + 14.3 = 28.3

Lm = 100 ÷ 28.3 = 約3.5 vol%

ここで注目してほしいのは、単純平均(5.0×0.7+2.1×0.3=4.1%)とは明確に違うことです。ル・シャトリエ則では下限界の低い成分の影響が強く出ます。混合ガスは、危険な成分に引きずられるのです。

この法則には適用限界があります。一次資料は「Burgess-Wheelerの法則が成り立たないガス種(水素等)では正確でなくなることには注意を要する」と明記しています。水素を含む混合ガスに機械的に適用しないでください。また、上限界の推定にも同じ式を使うことがありますが、下限界ほどの精度は期待できません。

5. 上限界が100%になるガス

文献表を見ていると、上限界が100%と書かれているガスに出会います。アセチレン酸化エチレンが代表です。

これは誤植ではありません。一次資料の説明はこうです。

これらの気体は分解爆発性の気体であり、酸化剤が存在しなくても、発熱を伴う分解反応により燃焼が起こることを示している。

つまりこれらのガスには、「濃すぎて燃えない」という安全側の領域が存在しません。窒素で希釈しても、100%の純ガスでも、条件が揃えば分解爆発します。

実務上の意味は重大です。通常のガスなら「不活性化して上限界より濃くする」という発想が使えますが、分解爆発性ガスにはこの手が通用しません。アセチレンボンベに多孔質物質と溶剤を詰めるのも、酸化エチレンの取り扱いに特別な配慮が要るのも、この性質のためです。

6. 範囲は動く ― 温度・圧力・不活性ガス

不活性ガスの混合

不活性気体を混ぜると燃焼範囲は狭くなります。これが窒素パージの原理です。ただし効果は気体の種類によって大きく違います。

添加する気体効果
比熱の大きい気体(CO₂ など)効果が大きい。燃焼熱を吸収して火炎温度を下げる
比熱の小さい気体(He など)効果は相対的に小さい
化学的な燃焼抑制作用を持つ気体
(臭化エチル C₂H₅Br、四塩化炭素 CCl₄ など)
少量の添加でも燃焼範囲を狭くする効果が大きい

窒素と二酸化炭素で必要量が違うのは、この比熱の差によります。「不活性ガスならどれでも同じ」ではありません。

不活性ガスを増やしていくと、やがてどんな燃料濃度でも燃えなくなる点に達します。このときの酸素濃度が限界酸素濃度(LOC)です。三角図を使うと、この関係が視覚的に理解できます。

温度と圧力

一般的な傾向として、温度が上がると燃焼範囲は広がります(下限界が下がり、上限界が上がる)。圧力についても、上昇させると範囲が広がる傾向があり、特に上限界側が大きく動きます。

実務上の意味はこうです。常温常圧の文献値は、加熱・加圧するプロセスでは危険側にずれています。「運転濃度は下限界の半分だから余裕がある」という判断が、運転温度では成立しないことがあります。

7. 現場でどう使うか

ガス検知器の警報値

可燃性ガス検知器の表示は、多くの場合%LEL(下限界に対する百分率)です。25%LELで警報、50%LELで緊急停止、といった設定が典型です。

ここで重要なのが、検知器が想定している校正ガスと、実際に漏れるガスが同じかです。混合ガスの下限界は前章のとおりル・シャトリエ則で変わるので、校正ガスと組成が違えば指示値もずれます。

換気で濃度をどこまで下げられるか

一次資料は、漏えいが続く空間の平均濃度について、実務で使える関係を示しています。

指標関係
最終到達濃度漏えい速度 ÷(空間容積 × 換気率)
初期の濃度増加速度漏えい速度 ÷ 空間容積
濃度増加に要する時間換気率に反比例する

この関係から読み取れることが2つあります。

  • 空間容積に対する漏えい速度の比率が大きいほど、濃度が上がりやすく、到達濃度が高くなる。狭い場所での漏えいが危険なのは、このためです
  • 換気率が大きいほど、濃度が上がりにくく、到達濃度が低くなる。ただし換気率を上げると、濃度が定常に達するまでの時間は短くなります

換気は「なんとなく風を通す」ものではなく、到達濃度を下限界の何分の1に抑えられるかで設計するものだということです。

8. 現場でやりがちな失敗

失敗1:上限界より濃いから安全だと考える

空気が入れば必ず爆発範囲を通過します。開放作業、換気開始、真空引き後の復圧。「いま安全な状態」ではなく「これから通る経路」を見てください。非定常運転が危険な理由そのものです。

失敗2:混合ガスの下限界を単純平均で見積もる

§4の例では、単純平均4.1%に対しル・シャトリエ則では3.5%。単純平均は約14%も危険側にずれた(高く見積もった)値になります。そして水素を含む場合は、その式すら使えません。

失敗3:常温常圧の文献値を運転条件に当てはめる

温度が上がれば範囲は広がります。「運転温度での値」を確認するか、確認できないなら余裕を大きく取ってください。

失敗4:不活性ガスの種類を考えずに置き換える

窒素が入手しにくいから二酸化炭素で、あるいはその逆。比熱が違えば必要量が違います。置き換えは変更管理の対象です。

まとめ

  • 爆発範囲の数値は測定方法に紐づく。米国鉱山局法(上方伝播)が最も広く使われる
  • Burgess-Wheelerの法則(L×Q≒4,600)から、下限界での火炎温度は物質によらずほぼ一定(炭化水素で約1,200℃)
  • 混合ガスはル・シャトリエの法則で計算する。単純平均より危険側になる。水素を含む場合は適用外
  • アセチレン・酸化エチレンは上限界100%。不活性化で濃くしても分解爆発する
  • 不活性ガスは比熱が大きいほど効く。化学的抑制作用を持つ気体は少量で効く
  • 換気は到達濃度=漏えい速度÷(容積×換気率)で設計する

爆発範囲は、SDSに書かれた「動かない2つの数字」ではありません。温度・圧力・組成という3つの軸の上で動く領域です。自分のプロセスが、その領域のどこを、どう通っているのか。それを言えるようになることが、この数字を使うということです。

最小着火エネルギー(MIE)と、着火源のエネルギーの見積り方はこちら。

このカテゴリの全体像は、まとめ記事で解説しています。

参考文献

  • 安全工学会 監修、新井充・佐藤吉信・高木伸夫・野口和彦・若倉正英 編『実践・安全工学シリーズ1「物質安全の基礎」』化学工業日報社、2012年、第2章「可燃性気体の火災爆発危険性」5節「ガス爆発災害」pp.53-90 Amazonで見る
  • Burgess-Wheelerの法則、ル・シャトリエの法則(同書 第2章5-1節)