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メカニカルシールの細い配管を見て、すべて「冷却水」と呼んでいないでしょうか。実際には、ポンプ吐出し液を戻すライン、シール室内の液をクーラーへ循環するライン、外部の清浄液を注入するラインなどがあり、閉めたときの影響も異なります。
メカニカルシールを理解する近道は、まず固定環と回転環の摺動面を知り、次に「液がどこから来て、何を通り、どこへ戻るか」を追うことです。
この記事の結論
- 回転環と固定環の端面を接触させ、薄い液膜で潤滑・冷却しながら漏れを小さくする
- フラッシングの目的は、発生熱の除去、液相維持、異物排除、シール室環境の安定化
- Plan番号は暗記せず、出発点・駆動差圧・通過機器・戻り先で読む
- Plan 11は吐出し側からシール室、Plan 23はシール室循環とクーラー、Plan 32は外部清浄液の注入
- 細管やオリフィスが閉塞すると、配管が付いていてもフラッシュは成立しない
- インバータ低速、締切付近、予備機待機でも圧力差・流量・冷却が成立するか確認する
1. メカニカルシールの構造

代表的なシングルメカニカルシールは、次の部品で構成されます。
- 回転環:軸またはスリーブに固定され、軸と一緒に回る
- 固定環:シールカバー側に固定され、回転しない
- 摺動面:回転環と固定環が向かい合う平滑な端面
- ばね:停止時や低圧時にも端面を押し合わせる
- 二次シール:Oリングやガスケットなど、環と軸・カバーの間を封じる
- スリーブ・グランド:シール部品を保持し、ポンプへ取り付ける
回転環と固定環は、主軸に直角な端面で摺動します。グランドパッキンが軸の円筒面を締めるのに対し、メカニカルシールは端面を使う点が大きな違いです。
2. 漏れを小さくできる仕組み
摺動面は完全に乾いた状態で押し付けているのではありません。シール室の液がごく薄い液膜を作り、面を潤滑・冷却します。液膜の一部は高圧側から低圧側へ移動するため、物理的には微少な漏れが存在します。摺動面のすき間は数μmに保たれ、国際規格(ISO 21049・API 682)の許容漏れ量は5.6 g/hです。
液膜が厚過ぎれば漏れが増え、薄過ぎれば面が接触して発熱・摩耗します。次の条件が崩れると液膜を維持できません。
- シール室に液が満たされていない
- 液が摺動面で気化する
- 固形分、結晶、重合物が面へ入る
- フラッシュが止まり熱を持ち去れない
- 振動、軸振れ、芯ずれで面が開く
- 二次シールが固着し、面が追従できない
「漏れが見えないから良好」とは限りません。シール室温度、フラッシュ流量、振動、ドレンやベントの状態も確認します。
3. バランス形とアンバランス形

シール面を閉じる方向には、ばね力と液圧が作用します。液圧による押付けが過大になると摩擦と発熱が増えるため、高圧条件では液圧の有効面積を小さくしたバランス形が使われます。
アンバランス形は構造が比較的単純ですが、適用圧力や液性に制約があります。バランス形は面圧を抑えやすい一方、段付きスリーブなど構造が増えます。現場で外観だけから判断せず、シール断面図・型式・データシートを確認します。
4. シングルとダブル

シングルシールは摺動面が1組です。ダブルシールは2組のシール面を持ち、その間にバッファ液またはバリア液を設けます。
- プロセス側より低い圧力の液を使う考え方では、プロセス液が中間系へ漏れる可能性を監視する
- プロセス側より高い圧力のバリア液を使う考え方では、清浄なバリア液がプロセス側へ入る可能性を管理する
- 液面、圧力、温度、漏れ量の監視が必要
二重化すれば自動的に安全になるわけではありません。バリア液喪失、圧力逆転、クーラー停止、計器故障を含めた保護が必要です。
5. フラッシングは何をしているか

フラッシングとは、シール室または摺動面へ液を流し、シールが働ける環境を作ることです。主な目的は次のとおりです。
- 摺動面で発生した摩擦熱を持ち去る
- シール室の液温を下げ、液相を保つ
- 固形分や析出物をシール面から遠ざける
- シール室の圧力を保ち、外気吸込みや気化を防ぐ
- 清浄で潤滑性のある液をシール面へ供給する
フラッシング、クーリング、クエンチは似ていますが、液を入れる場所が違います。フラッシングはシール室内の液を流して熱と異物を除く方法で、冷却効果が最も高い方法です。クーリングは固定環の外周に冷却水を通す方法で、冷却水と取扱液はOリングで分けられています。クエンチは摺動面の大気側へ水などを流す方法で、漏れ出た液の冷却や結晶化・付着の防止に使います。
6. フラッシングプランの読み方
Plan番号より先に、次の順で線を追います。
- 液の出発点は、ポンプ吐出し、シール室、外部源のどこか
- 流れを作る差圧またはポンピングリングは何か
- オリフィス、ストレーナ、サイクロン、クーラー、計器を通るか
- シール室のどのポートへ入り、どこへ戻るか
- 停止時、低速時、締切時にも流れが成立するか
7. Plan 11|吐出し側からシール室へ

Plan 11は、ポンプ吐出し側から液を取り出し、オリフィスなどで流量を制限してシール室へ送る代表的な再循環です。
流れ:吐出し側 → オリフィス → シール室
目的
- 吐出し圧力を利用してシール室へ流れを作る
- シール面の熱を持ち去る
- シール室を液で満たし、液相を保つ
注意点
- 取扱液が汚れていれば、その液をシール室へ送ることになる
- オリフィス、細管、取出し口が閉塞しやすい
- 吐出し圧力とシール室圧力の差が小さい運転点では流量が減る
- インバータで減速すると差圧が下がるので、最低速度でもオリフィスを通る流量が足りるか確認する
Plan 11は単純で広く使われますが、「吐出し側につながっているから必ず流れる」とは限りません。
8. Plan 23|シール室循環とクーラー

Plan 23は、シール室の液だけをポンピングリングで回し、外部クーラーで冷やして戻す閉じた循環です。ポンプ本体の熱い液とはほとんど入れ替わりません。
流れ:シール室 → ポンピングリング → クーラー → シール室
目的
- シール室の液だけを効率よく冷却する
- 高温液で摺動面付近の液相を保つ
- ポンプ本体の熱い液と混ざりにくくし、シール室だけを低い温度に保つ
注意点
- ポンピングリングの向き、回転方向、クリアランスが不適切だと循環しない
- 循環量はポンピングリングの回転で決まるため、インバータで減速すると循環が足りなくなりやすい
- 配管にガスだまり・液だまりができると流れを妨げる
- クーラー冷却水停止や汚れで除熱できなくなる
- 循環液の温度差・流れが小さいと異常を見逃しやすい
9. Plan 32|外部清浄液を注入

Plan 32は、外部の清浄な液を適切な圧力でシール室へ注入します。
流れ:外部液源 → ストレーナ・流量調整・圧力計 → シール室
目的
- スラリーや汚れたプロセス液をシール面から遠ざける
- 潤滑性・冷却性のある清浄液を供給する
- シール室を外部液で置換または希釈する
注意点
- 外部液はプロセスへ混入する。品質、反応、物質収支、排水負荷を確認する
- シール室圧力より十分高い供給圧が必要だが、過大注入も避ける
- 外部液喪失、低圧、流量低下を監視する
- 逆流防止と、停止時のラインアップを決める
Plan 32の注入液を単なるユーティリティ水と考えないでください。プロセスへ入る原料・不純物の一つとして管理します。
10. そのほかのプラン(01・02・12・13・14・31)
| Plan | 液の流れ | 注意 |
| 01 | 羽根車の側板側→ポンプ内部の流路→シール室 | 発熱・気化・異物の条件が厳しくない液向け |
| 02 | 外部循環なし(ポートはプラグ止め) | 同上。減速運転では熱がこもりやすい |
| 12 | 吐出し側→ストレーナ→オリフィス→シール室 | ストレーナの目詰まりが新たな故障モードになる |
| 13 | シール室→オリフィス→吸込側 | 吸込側へ戻して流れを作る |
| 14 | 吐出し側→シール室→吸込側(11と13の組合せ) | オリフィスが2か所あり、どちらの閉塞でも流れが落ちる |
| 31 | 吐出し側→サイクロンセパレータ→シール室(分離した固形分は吸込側へ) | 粒子条件、差圧、戻り先が成立しないと分離できない |
代表的な3プラン以外も、液の出発点と戻り先で読めば区別できます。
11. 現場点検と異常時の切り分け
シール漏れや温度上昇が出たら、設備SOPに従って安全を確保し、次の順で確かめます。
- 配管のつながり:P&IDとシール配管図で出発点・戻り先・途中の機器・弁の通常位置を確認する
- 流れの有無:入口と出口の圧力差・温度差、サイトフロー、ガスだまりや閉塞(配管に触れて温度を見るのは、作業規則で許される場合だけ)
- シール室圧力が液の蒸気圧に対して十分か
- 運転点、回転数、液温、液性が直前に変わっていないか
- 振動、芯ずれ、軸受異常、配管荷重が同時に出ていないか
- シールの状態:漏れの増加・噴霧・結晶付着・焦げ、大気側ドレン・クエンチの流れ、バッファ・バリア液の液面・圧力・汚れ
増えた漏れを止めるために、補助配管を閉じるのは逆効果になり得ます。漏れ経路と補助系の目的を確認してから操作します。
よくある誤操作
- 細管の弁を閉めたまま戻し忘れると、配管が付いていてもフラッシュはゼロです。重要弁は通常位置表示、施錠・封印、復旧チェックを決めます。
- ストレーナを清掃したら、閉塞物の出どころ(腐食生成物、結晶、シール面破片、配管スケール)も確かめます。取出し口やオリフィスも点検します。
- インバータで減速すると、定格速度で十分なフラッシュも不足することがあります。運転範囲全体で確認します。
- 冷やすと粘度上昇・結晶化・析出が起きる液もあります。シール室の目標は、液相・潤滑性・清浄性が安定する温度です。
まとめ
- 補助配管は「どこから来て、何を通り、どこへ戻るか」を追い、閉めたときの影響を知ってから操作する
- 流れの有無は圧力差・温度差・サイトフローで確かめる。配管があることは流れている証拠ではない
- 漏れや温度上昇が出ても、補助配管を閉じて止めようとしない
グランドパッキンの締め方と漏らし方では、グランドパッキンを「漏れゼロ」にしない理由と、左右均等な増し締め、温度と漏れの見方を解説します。
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参考文献
- 外山幸雄『絵とき「ポンプ」基礎のきそ』日刊工業新聞社, 2-7「軸封(シール)」・第6章「ポンプの運転」 Amazonで見る
- 外山幸雄『ポンプの選定とトラブル対策』日刊工業新聞社, 第6章「軸封のトラブル」 Amazonで見る
- 化学工学協会関東支部編『プロセス機器構造設計シリーズ6 化学プラント用ポンプ・圧縮機』丸善, 2.2.11「メカニカルシールの構造と種類」、5.3.2「分解組立と各部の保守」
- 化学工学協会編『化学装置便覧 改訂二版』丸善, 第18章「ポンプ・圧縮機・冷凍機」
- 松村正夫『入門 新ポンプ技術』丸善, 第3章「ポンプの選定」 Amazonで見る
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