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ルーツポンプ(メカニカルブースター)は、真空槽と粗引きポンプの間に設置し、中間圧力域の排気速度を高める容積移送式真空ポンプです。
よく「単独では使えない」と説明されます。その主な理由は、一般的なルーツポンプを高い圧力域で運転すると、移送するガス量が増えて吸込側と吐出側の差圧が大きくなりやすく、電動機が過負荷になりやすいからです。
この記事では、現場オペレーターと化学メーカーのエンジニア向けに、ルーツポンプの構造、作動原理、粗引きポンプとの組合せ、起動・停止、日常点検を整理します。
この記事の結論
- ルーツポンプは通常、真空槽と粗引きポンプの間に直列で設置します。
- 一般的な機種は、粗引きポンプで起動条件まで圧力を下げてから起動します。判断基準はメーカーの起動圧力と許容差圧です。
- 二つのロータは互いにもケーシングにも接触せず、気体を中央ではなく外周へ運びます。
- 「非接触」「ポンプ室に油を使わない」は、無保守という意味ではありません。ギヤ・軸受の潤滑、冷却、付着物を管理します。
- 内蔵バイパスや可変速制御で大気圧から起動できる機種もあるため、「全機種が単独運転不可」と一般化しません。
1. ルーツポンプは中間圧力域の排気速度を高めるブースター
真空ポンプの排気速度は、すべての圧力域で一定ではありません。油回転ポンプなどの粗引きポンプは、大気圧から排気を始められますが、圧力が低くなると必要な排気速度を得にくい場合があります。
その高真空側へルーツポンプを追加し、真空槽側の気体を大量に下流へ送るのがメカニカルブースターです。化学プラントでは、真空乾燥、脱気、減圧反応、真空蒸留などで排気時間の短縮や処理量の確保に使われます。
この記事では、ルーツポンプの吐出側に置くポンプを「粗引きポンプ」と呼びます。資料やメーカーによっては「補助ポンプ」「バックポンプ」「フォアポンプ」と呼ぶことがあります。
名前ではなく、真空槽→ルーツポンプ→粗引きポンプ→排気という系統上の位置で確認してください。
2. ルーツブロワーとの違い
ルーツブロワーと真空用ルーツポンプは、二葉または多葉のロータを非接触で同期回転させ、気体を外周へ運ぶ原理が共通します。違うのは、主にシステムで担う役割です。
| 比較 | ルーツブロワー | 真空用ルーツポンプ |
| 主な役割 | 大気側から吸い、下流へ送風・昇圧する | 真空槽側から吸い、下流の粗引きポンプへ送る |
| 系統上の位置 | 送風・曝気・空気輸送などの単独機または並列機 | 真空槽と粗引きポンプの間のブースター |
| 運転管理 | 吐出圧力、風量、温度、軸動力、安全弁 | 吸込・吐出の絶対圧力、差圧、起動圧力、粗引き能力 |
| 共通点 | 非接触ロータ、タイミングギヤ、微小すきま | 非接触ロータ、タイミングギヤ、微小すきま |
ロータ形状が同じでも、ブロワーの風量・圧力・安全弁の条件を真空ポンプへそのまま当てはめてはいけません。
送風用途のルーツを含む機種比較は、関連記事「送風機の種類と特徴」で扱います。
3. 二葉ロータ・タイミングギヤ・すきまの構造
代表的な二葉形では、まゆ形断面のロータを2本並べ、互いに90度位相をずらして逆方向へ回転させます。軸端のタイミングギヤが回転を同期させるため、ロータ同士は接触しません。

ロータとケーシングの間にも小さなすきまがあります。このため、ポンプ室へ潤滑油を供給せずに運転できる構造があります。一方、軸受、タイミングギヤ、軸封には潤滑油やグリースを使う機種があります。
「ポンプ室がオイルフリー」と「機械全体が無給油」は別です。油量・油質の点検箇所は取扱説明書で確認します。
微小すきまは、漏れを抑えて排気性能を得るために必要です。しかし粉体、結晶、重合物、凝縮液が付着するとすきまが減り、ロータ接触や回転不能の原因になります。
4. 気体を外周へ運ぶ作動原理
ルーツポンプは、吸込側の気体をロータとケーシングで囲まれた空間へ取り込み、その空間を外周に沿って吐出側へ移動させます。

作動は次の3段階で理解できます。
- 吸込側の気体をロータとケーシングの間へ取り込む
- ロータの回転で閉じた気体室を外周へ運ぶ
- 気体室が吐出側へ開き、下流側の気体と混ざって吐出される
一般的なルーツポンプは、ピストンのように閉じた室の容積を内部で連続的に小さくして圧縮する機械ではありません。気体室が吐出側へ開くと、圧力の高い吐出側ガスが短時間逆流し、移送された気体と混ざって圧縮されます。
気体は二つのロータの中央を通るのではなく、ケーシング外周を通って吐出側へ運ばれます。
5. 単独運転を避ける理由は差圧と電動機負荷
ルーツポンプの理論排気速度を一定とみなすと、軸動力は概略として吸込側と吐出側の圧力差が大きいほど増えます。高い圧力域でルーツポンプを運転すると、移送するガス量が増え、粗引きポンプが処理しきれずに吐出側圧力と差圧が上がるおそれがあります。

その結果、次の異常につながります。
- 電動機の過電流・過負荷
- ポンプ本体や吐出ガスの温度上昇
- ロータ、ケーシング、軸の熱膨張によるすきま減少
- ロータ接触、異音、振動、焼付き
したがって、一般的な起動は次の考え方になります。
- 粗引きポンプを起動する
- ルーツポンプを迂回して真空槽を粗引きする
- 吸込圧力とルーツポンプ前後の差圧がメーカー条件を満たしたことを確認する
- バイパス弁を所定状態にし、ルーツポンプを起動する
- 電流、温度、音、振動、吸込・吐出圧力を確認する
起動圧力だけでなく、許容差圧と電動機電流を確認します。起動圧力は機種、回転速度、ガス温度、粗引きポンプ能力で変わります。
内蔵差圧バイパスや可変速制御を備え、大気圧から連続運転できる機種もあります。その場合も、メーカーが定める差圧、回転速度、温度、バイパス動作を守ります。
6. 粗引きポンプとの標準的な組合せ
ルーツポンプは、真空槽と粗引きポンプの間に直列で配置します。初期排気ではバイパス配管を通して粗引きポンプだけで排気し、条件成立後にルーツポンプを投入する構成があります。

粗引きポンプには、油回転ポンプ、液封式真空ポンプ、ドライポンプなどを使います。
| 粗引きポンプ | 向く条件 | 主な注意 |
| 油回転ポンプ | 油との相性がよく、比較的清浄なガス | 水分、溶剤、腐食、油の乳化・劣化、逆拡散 |
| 液封式真空ポンプ | 水蒸気や凝縮性ガスを含む用途 | 封液温度、到達圧力、排水・排ガス処理、腐食 |
| ドライポンプ | プロセス側への油汚染を避けたい用途 | 凝縮、反応生成物、粉体、窒素パージ、冷却 |
ルーツポンプだけでなく、粗引きポンプ、前段トラップ・コンデンサー、配管コンダクタンス、排気処理を一つの真空システムとして選定します。
7. 起動・停止とバイパス制御
バイパスには、少なくとも二つの意味があります。
- ルーツポンプの外側に配管を設け、初期の粗引き時にルーツポンプを迂回する方式
- ポンプ本体の吸込・吐出間に差圧弁を内蔵し、過大な差圧を逃がす方式
名称が同じでも、弁の位置と目的が違います。P&ID、メーカー断面図、シーケンス表で確認してください。
起動時
- 冷却水、潤滑油、封止ガス、排気処理設備を確認する
- 粗引きポンプを先に起動する
- 真空槽側のリーク弁・主弁・バイパス弁を現場SOPどおりにする
- 真空スイッチまたは圧力計で起動条件を確認する
- ルーツポンプ起動後、電流・差圧・温度が安定するまで監視する
停止時
- プロセスガスを遮断し、必要なパージを行う
- ルーツポンプを停止または所定速度まで減速する
- 粗引きポンプを所定時間運転し、残留ガスを排出する
- 機種の手順に従って隔離・復圧する
- 停止後の冷却水、封止ガス、ヒータの継続時間を守る
弁の順序を記事だけで決めないでください。真空槽の保護、逆流防止、危険ガスの封じ込めを含む現場SOPを優先します。
真空スイッチの設定が高すぎるとルーツポンプを早く起動して過負荷になり、低すぎると投入が遅れて排気時間が延びます。設定変更は、メーカーの許容条件と実測差圧・電流を確認して行います。
8. 選定で確認する仕様
ルーツポンプの型式や容量は、最大排気速度だけで決めません。
- 真空槽容量と目標圧力
- 通常時・起動時・最大時のガス負荷
- ルーツポンプの排気速度と作動圧力範囲
- 最大許容差圧、起動可能圧力、電動機容量
- 粗引きポンプの排気速度と到達圧力
- 水蒸気、溶剤蒸気、腐食性・反応性ガス
- 粉体、結晶、重合物、昇華物、ミスト
- 吸込温度、吐出温度、冷却方式
- 軸封方式、シールガス、漏えい許容
- バイパス方式、回転速度制御、インターロック
- 排気処理、騒音、振動、保全スペース
真空槽で得られる実効排気速度は、ポンプ単体の排気速度より小さくなります。細い・長い配管、弁、トラップ、コンデンサーのコンダクタンスを含めて確認します。
「ルーツポンプを大きくすれば速く引ける」とは限りません。粗引きポンプ能力と配管コンダクタンスが不足すると、差圧・温度・電流だけが増えることがあります。
9. 日常点検と異常時の切り分け

| 観察した異常 | 最初に確認する項目 | 代表的な原因候補 |
| 電流が高い | 吸込・吐出圧力、差圧、バイパス、付着物 | 早すぎる起動、粗引き能力低下、弁誤操作、ロータ抵抗増大 |
| 温度が高い | 差圧、冷却水、ガス温度、潤滑 | 過負荷、冷却不足、油不足、堆積物 |
| 異音・振動 | 油量、軸受、ギヤ、ロータ接触、基礎 | 潤滑不足、位相ずれ、異物付着、軸受損傷、芯ずれ |
| 回転しない | 電流、トリップ履歴、内部付着、電源・保護回路 | 粉体・結晶・凝縮物、焼付き、電源・保護回路の異常 |
| 真空到達が遅い | 起動設定、粗引きポンプ、弁、漏れ、配管 | ルーツ投入遅れ、粗引き性能低下、バイパス漏れ、ガス負荷増加 |
| 油漏れ | 油面、シール、排気圧、温度 | 過充填、シール劣化、差圧異常、過熱 |
日常点検では、油面・油色、冷却水、電流、温度、音、振動、吸込・吐出圧力を同じ運転条件で記録します。基準値からの傾向変化を見ると、絶対値だけでは分からない劣化を捉えやすくなります。
粉体や結晶を含む系では、前段分離、配管温度、パージ、洗浄周期も記録します。保護装置が作動した機械を、原因未確認のまま再起動しないでください。
10. まとめ
ルーツポンプは、二つの非接触ロータで気体を外周へ運び、中間圧力域の排気速度を高めるメカニカルブースターです。通常は真空槽と粗引きポンプの間に設置します。
一般的な機種を高い圧力域で運転すると、移送ガス量と吐出側圧力が増えて許容差圧を超え、過電流、温度上昇、ロータ接触につながるおそれがあります。粗引き後、メーカーが定める起動圧力・許容差圧・電流条件を満たしてから起動します。
非接触構造でも、タイミングギヤ・軸受の潤滑、冷却、微小すきまへの付着物を管理する必要があります。ルーツポンプ、粗引きポンプ、前処理、配管、排気処理、制御を一つのシステムとして扱うことが、安全で安定した真空運転の基本です。
参考文献
- 真空技術基礎講習会運営委員会編『わかりやすい真空技術 第3版』第3章「真空ポンプ(I)」3.2.3「ルーツポンプ」、第5章「真空システムの構成と実際の排気」、第7章「真空装置の管理」 Amazonで見る
- 化学工学協会編『化学工学便覧 改訂五版』第5章「流動」5・6・6「真空装置」(手元は改訂五版) 最新版をAmazonで見る
- 尾形俊輔ほか『ファン・ブロワ 改訂版』1.5「二葉ブロワ(ルーツブロワ)の特性」 Amazonで見る
- 日本プラントメンテナンス協会編『ファン・コンプレッサーの本』第2章「送風機の種類と構造」2.4「二葉送風機(ルーツブロワ)の保全」 Amazonで見る
- アルバック編『真空ハンドブック 3訂版』オーム社(関連する現行書) Amazonで見る
- アルバック「メカニカルブースタポンプ MBS-053」—補助ポンプとの組合せ、大気圧からの真空排気に対応する回転速度制御の機種例
- Pfeiffer Vacuum, “OktaLine ATEX Roots Pumps”—内蔵オーバーフロー弁・周波数変換器による差圧制限と大気圧起動の機種例
化学プラント大全 
