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真空設備では、Pa、kPa、Torr、mbar、mmHg、ゲージ圧、真空度%など、複数の表し方が使われます。同じ状態でも数値と符号が変わるため、基準を確認せずに読み替えると、運転条件や機器仕様を取り違えます。
特に注意したいのが、「−80 kPa」と「真空度80%」です。標準大気圧を基準にすると近い値ですが、同じ圧力ではありません。また、「真空度が高い」は圧力の数値が小さい状態を意味するため、日常語の感覚とも逆になります。
この記事では、現場オペレーターと化学メーカーのエンジニア向けに、真空圧力の読み方、単位換算、圧力領域、平均自由行程と流れ方の関係を整理します。
この記事の結論
- 真空設備の運転条件と仕様は、絶対圧力を基準に確認します。
- 標準大気圧では、1 atm = 101.325 kPa、1 Torr ≒ 1 mmHg ≒ 133.322 Pa、1 mbar = 100 Paです。
- ゲージ圧から絶対圧への換算は、絶対圧力 = その場所の大気圧 + ゲージ圧力です。
- 真空度80%は20.265 kPa(abs)、−80 kPaGは21.325 kPa(abs)であり、同じではありません。
- 低・中・高真空という名称だけで流れ方は決まりません。配管内径などの代表長さと平均自由行程からKn数を確認します。
1. 真空は「吸う力」ではなく低い絶対圧力
真空とは、通常の大気圧より低い圧力に保たれた気体空間です。真空ポンプは容器から気体を排出し、容器内の気体分子数を減らすことで圧力を下げます。
真空設備で基準にするのは、完全真空をゼロとする絶対圧力です。表記はPa(abs)、kPa(abs)、baraなどとします。絶対圧力はゼロ未満になりません。
一方、圧力計が周囲の大気圧との差を示す場合はゲージ圧です。大気開放時をゼロとし、真空側では負の値になります。表記はkPaG、MPaG、bargなどです。
| 表し方 | ゼロの基準 | 真空側の表示例 | 主な用途 |
| 絶対圧力 | 完全真空 | 21.3 kPa(abs) | 真空設備の仕様、蒸気圧、計算 |
| ゲージ圧力 | その場所の大気圧 | −80 kPaG | 現場圧力計、運転監視 |
| 真空度% | 大気圧から完全真空までを100%とする | 約79% | 吸着・搬送機器などの簡易表示 |
図面、計器、メーカー資料で数値を見るときは、単位だけでなくabs・G・vacの基準まで確認してください。
2. 絶対圧・ゲージ圧・真空度%の関係
絶対圧力とゲージ圧力の関係は次式です。
絶対圧力 = 大気圧力 + ゲージ圧力
標準大気圧101.325 kPaで、圧力計が−80 kPaGを示す場合は次のとおりです。
21.325 kPa(abs) = 101.325 kPa + (−80 kPa)
真空度V[%]は、次式で表せます。
V = (大気圧力 − 絶対圧力) ÷ 大気圧力 × 100
−80 kPaGを真空度へ換算すると、標準大気圧では約79.0%です。一方、真空度80%の絶対圧力は20.265 kPa(abs)、ゲージ圧力は約−81.1 kPaGです。

この差は小さく見えますが、沸点計算、機器保証値、制御設定値では無視できません。さらに実際の大気圧は標高や天候で変わるため、ゲージ圧や真空度%から換算するときは、その場所・時点の大気圧を使います。
現場での注意
- 「−80 kPa」だけでは絶対圧かゲージ圧か分かりません。
- 「真空度80%」は大気圧を基準にした相対値です。
- 圧力スイッチや伝送器では、機器の測定方式と設定値の基準を確認します。
3. Pa・Torr・mbar・mmHgの換算
SI単位の圧力はPa(パスカル)です。1 Paは、1 m²あたり1 Nの力が作用する圧力です。
真空分野では、歴史的な経緯や機器仕様によってTorr、mbar、mmHgも使われます。標準大気圧を基準とする代表的な関係は次のとおりです。
| 単位 | Paへの換算 | 現場での読み替え |
| 1 Pa | 1 Pa | SI単位 |
| 1 kPa | 1,000 Pa | 低真空設備でよく使う |
| 1 bar | 100,000 Pa | 1 bar = 100 kPa |
| 1 mbar | 100 Pa | 1 hPaと同じ大きさ |
| 1 Torr | 約133.322 Pa | 760 Torr = 1 atm |
| 1 mmHg | 約133.322 Pa | 実用上Torrとほぼ同じ |
| 1 atm | 101,325 Pa | 101.325 kPa |
よく使う換算式は次のとおりです。
- Pa ÷ 133.322 = Torr
- Torr × 133.322 = Pa
- Pa ÷ 100 = mbar
- mbar × 100 = Pa
例えば2.0 kPa(abs)は2,000 Paなので、約15.0 Torr、20 mbarです。
仕様書では一つの単位に統一し、元の単位を括弧内へ残すと転記ミスを減らせます。例:2.0 kPa(abs)[15.0 Torr]。
4. 「真空度が高い」と圧力の数値は逆
真空分野では、圧力が低いほど「真空度が高い」と表現します。
- 80 kPa(abs):圧力は高く、真空度は低い
- 1 kPa(abs):圧力は低く、真空度は高い
- 0.001 Pa(abs):さらに高い真空
この言い方は誤解を招きやすいため、操作指示では「真空度を上げる」だけで済ませず、目標絶対圧力を数値と単位で示すのが安全です。
悪い例:真空をもっと上げる
よい例:槽内圧力を20 kPa(abs)まで下げる
5. 低・中・高真空の圧力領域
一次資料で用いられている代表的な区分は次のとおりです。
| 圧力領域 | 絶対圧力の目安 |
| 低真空 | 10⁵〜10² Pa |
| 中真空 | 10²〜10⁻¹ Pa |
| 高真空 | 10⁻¹〜10⁻⁵ Pa |
| 超高真空 | 10⁻⁵〜10⁻⁹ Pa |
| 極高真空 | 10⁻⁹ Pa未満 |

化学プラントで多い減圧蒸留、乾燥、ろ過、脱気、吸引搬送は、主に低真空領域で扱われます。一方、短行程蒸留や分子蒸留では、より低い圧力が必要になることがあります。
ただし、圧力領域の境界値は文献・規格・用途によって表現が異なる場合があります。 設備を選ぶときは名称だけで判断せず、必要な絶対圧力、ガス負荷、排気速度、使用する真空計を数値で指定してください。
6. 圧力が下がると平均自由行程が長くなる
気体分子は、他の分子と衝突しながら移動しています。分子が次の衝突までに進む平均距離を平均自由行程λと呼びます。
平均自由行程は、分子径と温度が一定なら圧力に反比例します。
λ = kT ÷ (√2 πd²p)
ここで、kはボルツマン定数、Tは絶対温度、dは分子径、pは絶対圧力です。
20℃の空気では、1 Paでの平均自由行程は約6.6 mmです。圧力が10分の1になると、平均自由行程は約10倍になります。

| 圧力 | 20℃空気の平均自由行程の目安 |
| 10⁵ Pa | 約66 nm |
| 10² Pa | 約66 µm |
| 1 Pa | 約6.6 mm |
| 10⁻¹ Pa | 約6.6 cm |
| 10⁻⁵ Pa | 約660 m |

圧力が低くなるほど、気体は連続した流体というより、個々の分子が壁面と衝突しながら移動する性質が強くなります。 この変化が、真空配管の流れ方、コンダクタンス、ポンプや真空計の選び方に影響します。
7. 流れ方は圧力だけでなくKn数で判断する
低真空は粘性流、高真空は分子流と説明されることがあります。しかし、実際の流れ方は圧力だけでは決まりません。同じ圧力でも、太い配管と細い隙間では壁面の影響が異なります。
判断には、平均自由行程λと配管内径などの代表長さDの比であるKnudsen数を使います。
Kn = λ ÷ D
一次資料では、次を目安としています。
| Kn数 | 流れの区分 | 特徴 |
| Kn < 0.1 | 粘性流 | 分子同士の衝突が支配的 |
| 0.1 < Kn < 10 | 中間流 | 粘性流と分子流の両方が影響 |
| Kn > 10 | 分子流 | 分子と壁面の衝突が支配的 |
例えば1 Pa、20℃の空気ではλは約6.6 mmです。内径100 mmの配管ならKnは約0.066で粘性流側ですが、内径1 mmの細孔ならKnは約6.6で中間流です。
「何Paだから分子流」と決めつけず、対象となる配管径や隙間寸法と組み合わせて判断します。
配管コンダクタンスの計算は、既存の配管コンダクタンスの求め方をVP-09として再確認・統合改稿する計画です。
8. 現場オペレーターの読み取り手順
圧力表示を見たら、次の順に確認します。
- 絶対圧、ゲージ圧、真空度%のどれか
- Pa、kPa、Torr、mbar、mmHgのどの単位か
- 指示値が測定器の有効レンジ内か
- 大気圧補正が必要な表示か
- 目標値と警報・インターロック設定が同じ基準か
- 過去のトレンドと比較するときに単位や計器が変わっていないか
真空計には測定原理ごとの適用範囲があります。表示桁が多くても、その圧力領域で正確とは限りません。計器の測定原理、レンジ、校正状態、取付位置を含めて値を判断します。
真空計の選び方は、後続のVP-10「真空計の種類と選び方」で詳しく扱います。
9. エンジニアの仕様書ルール
真空設備の仕様書、P&ID、計算書、運転要領では、次の表記を統一します。
- 運転圧力、設計圧力、到達圧力を分ける
- 圧力は原則として絶対圧力で指定する
- 数値の直後に単位とabs・Gを付ける
- 真空度%を使う場合は基準大気圧を明記する
- 複数単位を併記する場合は主単位を一つ決める
- 圧力領域名だけでなく数値範囲を記載する
- 温度、ガス種、ガス負荷、測定位置を明記する
- 真空計と圧力伝送器の測定原理・レンジを確認する
良い記載例:通常運転圧力 20 kPa(abs)、設計到達圧力 10 kPa(abs)、測定位置 V-101上部。
「真空度80%」「−80 kPa」「20 kPa」のように基準を省略した記載は避けます。
10. よくある間違い
−100 kPaGを完全真空と決める
標準大気圧では完全真空に相当するゲージ圧は−101.325 kPaGです。実際の大気圧は変動するため、−100 kPaGを固定的な完全真空と考えません。
TorrとPaを同じ桁で扱う
1 Torrは約133.322 Paです。10 Torrは10 Paではなく、約1.33 kPaです。
mbarとbarを取り違える
1 barは100,000 Pa、1 mbarは100 Paです。接頭語mの見落としは1,000倍の誤差になります。
真空度80%と−80 kPaGを同じとする
標準大気圧では、それぞれ20.265 kPa(abs)と21.325 kPa(abs)です。近似で済む用途か、正確な換算が必要かを分けます。
低真空なら必ず粘性流とする
流れの区分は、圧力と代表寸法の両方で変わります。細孔、狭い隙間、長い細管ではKn数を確認します。
11. 関連記事
- 真空ポンプ完全ガイド
- 真空ポンプの排気速度と配管径の求め方(VP-08へ統合改稿予定)
- 配管コンダクタンスの求め方(VP-09へ統合改稿予定)
12. まとめ
真空設備の圧力は、完全真空をゼロとする絶対圧力を基準に確認します。ゲージ圧と真空度%は大気圧を基準とするため、標高や天候の影響を受けます。
1 atm = 101.325 kPa、1 Torr ≒ 1 mmHg ≒ 133.322 Pa、1 mbar = 100 Paを基本として、仕様書では単位とabs・Gを省略しないでください。
圧力が下がると平均自由行程は長くなり、気体の流れは粘性流から中間流、分子流へ移ります。ただし、流れ方は圧力領域名だけでなく、平均自由行程と代表寸法の比であるKn数で判断します。
実際の運転・設計では、メーカー取扱説明書、真空計の仕様、P&ID、現場SOPを優先し、測定位置と圧力基準をそろえてください。
参考文献
- 日本真空協会関西支部編『わかりやすい真空技術 第3版』第1章「真空の基礎」、表1.1・表1.4(関連する現行書は『真空ハンドブック 3訂版』) Amazonで見る
- 吉田文武監修『化学工学の基礎と計算』第1章「工学計算序論」
- 化学工学協会編『化学装置便覧 改訂二版 5/8』第17章「真空装置」、表17・2(関連する現行便覧は『化学工学便覧 改訂七版』) 最新版をAmazonで見る
- P. Atkins・J. de Paula『アトキンス物理化学 上 第8版』第1章「気体の性質」(関連する現行版は『アトキンス物理化学 上 第12版』) 最新版をAmazonで見る
化学プラント大全 
