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反応器の仕様書に書くこと|メーカーが持っていない情報を渡す

メーカーに渡せない情報がある

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熱交換器やポンプは、条件を書いて渡せば設計してもらえます。

流量、温度、圧力、物性値。メーカーはその条件で伝熱面積を決め、羽根車を選ぶ。設計法が確立しているので、仕様書は「条件の一覧」で足ります。

反応器だけが違います。

この記事は反応器シリーズ「仕様と運転」の1本です。全体像は反応器と反応工学の全体像にまとめています。

この記事の結論

  • 反応器は特別発注になる。標準品の選定とは仕事が違う
  • メーカーが持っていないのは反応そのものの情報
  • 仕様の数字には机上で出せるものと、実物を作らないと出ないものがある
  • 余裕値はタダではない。上に振ると下が使えなくなる

1. スケルトンという書類

まず、反応器の仕様がどんな形で書かれるかを見ておきます。

文献はこう書いています——反応器・塔・槽など圧力容器類はスケルトンと称する概要図にまとめる。

スケルトンに記入されるのは次のようなものです。

  • 形状・寸法・材質
  • ノズルやマンホールのサイズ・レーティング
  • 適用法規・規格
  • 設計圧力・温度

他の機器の仕様書と比べると、性格の違いが見えます。

熱交換器・加熱炉形式・材質のほか、熱負荷・流量・密度・温度・圧力・蒸発量・凝縮量・物性値・汚れ係数
ポンプ形式・材質のほか、流量・温度・圧力・比重・組成、そして粘度とNPSH
コンプレッサー同上に加えて圧縮比と断熱係数
反応器形状そのものを決めて渡す

熱交換器は「熱負荷と流量」を渡せば面積が決まります。反応器は「形状・寸法」を書いて渡す。つまり設計はこちら側の仕事です。

なお蒸発・凝縮を伴う熱交換器では、温度対蒸発(凝縮)量・気液各相の組成や分子量・熱負荷を示してやらないと正しい設計ができないとされています。相変化があるものは、条件が一段細かくなるということです。

2. なぜ反応器だけ特別発注なのか

装置選定の原則は、実ははっきりしています。

装置・機械の選択は、極力広く各種のプロセスで使用実績のある標準的な形式を利用すべきである。設計法が確立しており、プロセスに使用可否の判断がつけやすく、納期・価格の点でも特別仕様よりも有利だからです。

ところが同じ文献が、反応器についてはこう書きます。

反応器は反応上の要求を満たすためにそれぞれのプロセスにおいて特有な形状をし、細部にわたってち密な設計が施される。だから——技術導入の場合にも、反応器は特殊機器として、特別発注の対象となることが多い。

プロセスを他社から導入するときですら、反応器だけは特別扱いになる。ここに反応器の設計の性格が出ています。

仕様が書けないこともある

さらに正直な但し書きが続きます。

反応の変化が複雑で、これらが機器仕様として明確にできない場合は、メーカー指定など、そのプロセスの使用実績に従って機器を選定することになる。

数字で書き切れないときは、「あの会社のあの装置」という実績で指定する。設計の教科書にこれが書いてあるのは重要です。書けないことがある、というのが前提になっている。

3. その数字はどこから来るのか

その数字は、どこから来るか

では仕様に書く数字は、どこから持ってくるのか。

流動層のオキシクロリネーション反応器の設計例に、「設計因子」と「データの所在」を対応させた表が載っています。これがそのまま答えになっています。

設計因子データの出どころ
物性文献値または推算法。ただし腐食性と爆発限界は実験で確認
反応条件触媒と反応器構造によるのでパイロットプラントのデータ
触媒性状比重・粒径分布。工業用触媒の製造段階で物性が変わることがある
ガス分散・サイクロン構造はパイロットで決定。圧力損失は計算値
材質エロージョン・コロージョンはパイロットでの長期テストが必要

読み取れるのは、3つの層に分かれているということです。

机上で出せる一般物性、圧力損失の計算値文献・推算
実験しないと出ない腐食性、爆発限界小実験
実物を作らないと出ない反応条件、内部構造、材質の寿命パイロットプラント

そしていちばん下の層が、メーカーの手元にない情報です。伝熱面積の計算はメーカーができる。その触媒がその構造の中でどう振る舞うかは、こちらしか知らない。

だから仕様書に書くべきは、反応そのものについて自分たちが持っている情報です。反応熱と断熱温度上昇許容できる滞留時間分布触媒の劣化速度——これを渡さずに図面だけ渡すと、正しく作れて動かない装置ができます。

4. 余裕値はタダではない

同じ資料に、設計の勘所が短く書かれています。

空間速度(W.H.S.V.)については、スケールアップ効果を考慮して、パイロットプラントの実験データに余裕値を持たせなければならない。ここまでは想像がつきます。問題は続きです。

余裕を持ち過ぎて最低操業幅を困難にする恐れもでてくる。

装置を大きく作れば、上には余裕ができます。ところが下が使えなくなる。減産運転や立ち上げのときに、流速が足りない・混合が効かない・温度が保てない、という形で出てきます。

とくに反応器では効きます。

  • 流動層は流速が下がると流動化しなくなる
  • 撹拌槽は液面が下がると翼が液に届かない
  • 固定層は流量が減ると偏流が出やすくなる

「大は小を兼ねる」が成り立たない装置だということです。仕様書には最大能力だけでなく、最低どこまで絞る運転があるのかを書く必要があります。

伝熱についても同じ扱いが指示されています。工業装置に引き直す段階で除熱方式あるいは内部構造を異にする場合があるので、伝熱係数も空間速度の場合と同様に余裕値をもっておく。参考までに、工業規模のオキシクロリネーション反応器の総括伝熱係数は 350〜750 kcal/m²·h·℃ と示されています。

5. パイロットと実機で最適温度がずれる理由

もう一つ、意外な指摘があります。

反応温度もパイロットプラントと工業装置で最適温度が異なる場合がある。ここまではスケールアップの話として自然です。ところが原因の説明が違いました。

この反応温度の変化は装置のスケールアップによるというよりも、この段階で触媒が工業的規模で生産されて、その物理的・化学的性状も若干変化があることに起因すると考える、と。

装置が大きくなったからではなく、触媒が量産品に変わったから。

言われてみれば当然です。実験室の触媒は少量の試作品で、実機用は工場で作る。粒径分布も細孔構造も、まったく同じにはならない。そしてThiele数で見た通り、細孔構造が変われば有効係数が変わり、見掛けの活性が変わります。

実務的な含意は明確です。

  • 触媒の仕様は、実機で使う製造ロットで押さえる
  • パイロットの最適温度をそのまま実機の設定値にしない
  • 立ち上げ時に温度を振れる余地を残しておく

3つめは前の節と繋がります。余裕値を大きく取りすぎた装置は、この「振れる余地」を潰します。

まとめ

反応器・塔・槽の仕様はスケルトンという概要図にまとめられ、形状・寸法・材質からノズルのレーティング、適用法規、設計圧力・温度まで書き込まれます。熱交換器やポンプが「条件を渡せば設計してもらえる」のに対し、反応器はプロセスごとに特有な形状になるため特殊機器として特別発注になり、形状そのものを決めて渡すことになります。仕様の数字には、文献や推算で出せるもの、小実験が要るもの、パイロットプラントを作らないと出ないものの3層があり、いちばん下の層——反応条件、内部構造、材質の寿命——がメーカーの手元にない情報です。そして余裕値はタダではありません。空間速度に余裕を持ちすぎると最低操業幅が困難になる。パイロットと実機で最適温度がずれるのも、装置が大きくなったからではなく触媒が量産品に変わったからで、そのぶん振れる余地を残しておく必要があります。

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参考文献

  • 『プロセス設計シリーズ1 プロセス設計概論』化学工業社, 第3章「プロセスの設計」(スケルトン、機器設計に渡す条件)
  • 『プロセス設計シリーズ4 反応・吸収を中心とする設計』化学工業社, 第8章(表8・2 設計因子とデータとの関連、空間速度と伝熱の余裕値)
  • 化学工学会編『化学装置便覧 改訂二版』丸善, 総論「化学プラント設計と装置」(標準形式の優先、反応器の特別発注) Amazonで見る