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PFRとCSTRは正反対の性格を持っています。片方は混ざらない、片方は完全に混ざる。
その中間が欲しいとき、管型反応器の出口を入口に戻すという手があります。戻す量を変えるだけで、PFRからCSTRまで連続的に性格を変えられる。循環比という1つのノブで。
この記事の結論
- 循環比 γ = 戻す量 ÷ 系外に出す量
- γ=0 でPFR、γ→∞ でCSTRに近づく。中間を連続的に作れる
- 循環すると反応器の入口反応率が上がる=入口が薄まる
- 「未反応原料の循環」とは別物。混同しやすいので分けて考える
1. 循環比という1つのノブ

リサイクル反応器は、管型反応器の出口の一部を入口に戻す構成です。定義はこうなります。
循環比 γ = 反応器入口に循環される反応混合物の体積流量 ÷ 系外に取り出される反応混合物の体積流量
分母が「系外に取り出す量」であることに注意してください。原料の供給量ではありません(定常なら量としては釣り合いますが、定義の書き方として押さえておく)。
| 循環比 γ | 反応器の性格 |
| 0 | 循環なし = そのままPFR |
| 小さい(0.5〜2) | PFR寄り。少し混合が入る |
| 大きい(10〜) | CSTR寄り。器内がほぼ均一になる |
| ∞ | 完全混合 = CSTR |
なぜ γ を大きくすると混合が進むのか。1回通っただけでは少ししか反応しない状態で、何度も回すからです。回るたびに新しい原料と混ざるので、器内の組成差が小さくなる。
2. 入口反応率が上がる

この構成を「等価な管型反応器」に置き換えて考えると、性格がはっきりします。
循環流れを含む系を、仮想的に「入口反応率がすでにいくらか進んだ状態のPFR」と見なすと、その入口反応率は
xA1 = γ xAf /(1 + γ)
と書けます(xAf は系外に出る最終反応率)。この式が全部を語っています。
| γ | 入口反応率 xA1 | 意味 |
| 0 | 0 | 新品の原料が入る=PFR |
| 1 | 0.5 xAf | 半分まで進んだ状態から始まる |
| 9 | 0.9 xAf | ほぼ出口の状態から始まる |
| ∞ | xAf | 入口=出口=CSTR |
入口反応率が上がるということは、入口の反応物濃度が薄いということです。だから普通の反応(濃いほど速い)では、循環は不利に働きます。同じ反応率に必要な体積が増える。
それでも循環させる理由が3つあります。
3. なぜ、わざわざ薄めるのか
理由1:発熱を抑える
いちばん大きい理由です。反応物が濃いほど反応が速く、発熱も集中します。PFRの入口付近に発熱が集中してホットスポットができるのはこのため。
循環させると入口が薄まるので、発熱が管の長さ方向に分散します。しかも循環流量ぶん流速が上がるので、管壁側の伝熱係数も上がって除熱しやすくなる。体積を犠牲にして温度制御性を買っている構図です。
理由2:自触媒反応では有利になる
前々回で見た自触媒反応——生成物が触媒として働き、反応速度が途中で極大を持つ系です。
この場合、入口に生成物がないと反応が始まらない(遅い)。循環は生成物を入口に持ち込むので、いきなり速い領域から始められる。薄めることが有利に働く珍しいケースです。
微生物培養で種菌を戻す、という操作も同じ発想です。
理由3:流速を確保する
装置側の都合です。原料の流量が少ないと、管内が層流になったり、触媒層で偏流が起きたり、伝熱係数が落ちたりする。循環で見かけの流量を稼いで、装置を成立させる。
実験室の循環式の微分反応器(反応速度データを取るための装置)も、この原理です。循環比を非常に大きくすると器内が均一になるので、1点の濃度での反応速度を直接測れる。
4. 「未反応原料の循環」とは別物
混同されやすいので、はっきり分けておきます。
| リサイクル反応器 | 未反応原料の循環 | |
| 何を戻すか | 反応混合物をそのまま(生成物ごと) | 分離して取り出した未反応原料だけ |
| 戻す場所 | 反応器の入口 | 反応器の入口(分離工程を経由) |
| 目的 | 反応器の混合特性を変える | 原料の総括収率を上げる |
| 入口の状態 | 生成物が入って薄まる | 原料が濃いまま(生成物は分離済み) |
| 必要な設備 | 循環ポンプ・ブロワだけ | 分離工程(蒸留塔など)が要る |
後者はプラント全体の話です。1回通しの反応率が低くても、未反応分を分離して戻せば、原料の総括収率は100%近くまで上げられる。
アンモニア合成が典型例です。1回通しの転化率は十数%しかありませんが、生成したアンモニアを凝縮分離して未反応の窒素・水素を戻すことで、原料をほぼ全量使い切ります。
ここで効いてくるのが「1回通しの反応率をどこに置くか」という設計判断です。
- 1回通しの反応率を上げる → 反応器は大きくなるが、循環量と分離工程が小さくなる
- 1回通しの反応率を下げる → 反応器は小さいが、循環量が増えて分離とコンプレッサの負荷が増える
反応器だけを最適化しても意味がないということです。プロセス全体で見て、反応器・分離・循環動力の合計が最小になる点を探す。蒸留の還流比が建設費と運転費を交換するノブだったのと、まったく同じ構図です。
5. 循環系で気をつけること
- 不活性成分の蓄積:原料に含まれる不純物や副生する不活性ガスが循環系に溜まる。パージ(一部を系外に捨てる)が必要になり、その分だけ原料をロスする
- 循環動力:気相系ではコンプレッサ、液相系ではポンプ。循環量に比例して動力費がかかる
- 応答が遅くなる:循環があると外乱が系内を回り続けるので、定常に落ち着くまで時間がかかる。立ち上げが長い
- 制御が難しい:出口の変化が入口に戻ってくるので、正のフィードバックになる場合がある
1つ目のパージが実務では効きます。循環系は「閉じているようで閉じていない」——必ずどこかで抜かないと、不活性成分が濃縮して反応が止まります。パージ率は原料ロスと不活性成分濃度のトレードオフで決まります。
まとめ
リサイクル反応器は、循環比 γ という1つのノブでPFR(γ=0)からCSTR(γ→∞)まで連続的に性格を変えられる構成です。循環すると入口反応率が γxAf/(1+γ) まで上がる——つまり入口が薄まるので、普通の反応では体積の面で不利になります。それでも使うのは、発熱を分散させたい、自触媒反応で速い領域から始めたい、流速を確保したいという理由から。そして「未反応原料の循環」は別物で、こちらは反応器と分離工程を合わせた全体最適の話になります。
次の記事:半回分操作|滴下で何を制御しているか
参考文献
- 橋本健治『反応工学 改訂版』培風館, 第5章 5・4「循環流れを伴う反応器」(循環比の定義、リサイクル反応器と等価な管型反応器、入口反応率 γxAf/(1+γ)、未反応原料の循環)、5・5「自触媒反応の最適操作」 Amazonで見る
- 『プロセス設計シリーズ4 反応・吸収を中心とする設計』化学工業社(アンモニア等の反応器設計)
- 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』丸善 最新版をAmazonで見る
化学プラント大全 
