カネカは、企業研究をすると2回おどろく会社です。
1回目は事業構成。樹脂・素材、発泡材と電子材料、医療機器と医薬、そしてサプリメントと食品。4つの事業がほぼ横並びで、どれが本業とも言いにくい。
2回目は利益の使い道。4事業が稼いだ714億円のうち、392億円が全社の基礎研究開発費に消えます。営業利益は329億円。売上の4.8%を、どの事業にも紐づかない研究に投じている会社です。
私は化学メーカーの生産技術者として12年働いています。この記事では決算短信と募集要項だけをもとに、「何で稼ぎ、どこで働くのか」を整理します。難易度や口コミは扱いません。
化学業界そのものが曖昧な人は先に「化学業界とは」(→化学業界とは)へ。29社の比較は→化学メーカー大手29社の違いへ。
一言でいうと|4つの事業を横並びで持つ会社
カネカは「Solutions Vehicle」という10の事業単位を、4つの「Solutions Unit(SU)」にまとめた組織を採っています。就活で聞き慣れない言葉ですが、要は4つの事業ドメインだと思ってください。
| 項目 | 数字(出典・基準日) |
|---|---|
| 売上高 | 8,116億円(2026年3月期。前期比+0.5%) |
| 営業利益 | 329億円(同。前期比▲17.9%) |
| 経常利益 | 289億円(同。前期比▲12.1%) |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 310億円(同。前期比+22.4%) |
| 売上高営業利益率 | 4.1% |
| 自己資本比率 | 52.0%(2026年3月31日現在) |
| 自己資本利益率(ROE) | 6.4% |
| 本社 | 東京(港区赤坂)と大阪(北区中之島)の2本社 |
| 代表者 | 代表取締役社長 藤井一彦 |
就活生が押さえるべき性格は3つです。
- 営業利益率4.1%は29社の中では低い水準(→化学メーカー大手29社の違い)。ただしこれは稼げていないという意味ではなく、後で見るように利益の半分近くを基礎研究に回しているためです
- 経常利益(289億円)より当期純利益(310億円)が大きい:特別利益があったためで、純利益は前期比+22.4%と伸びています
- 化学メーカーらしくない事業を持つ:医療機器(血液浄化・血管治療)、サプリメント、食品。就活で「化学メーカー」の枠だけで見ると、この会社は理解できません
事業の中身|4つのSolutions Unitを売上と利益で見る

| Solutions Unit | 扱うもの | 売上高 | セグメント利益 |
|---|---|---|---|
| Material | 社会インフラ・モビリティを支える素材、生分解性バイオポリマーなどの先端素材 | 3,272億円 | 249億円 |
| Nutrition | サプリメント、食品 | 2,060億円 | 137億円 |
| Quality of Life | 住宅・生活インフラの省エネ材(発泡樹脂)、電子材料、太陽電池、繊維 | 1,943億円 | 180億円 |
| Health Care | 医療機器(血液浄化・血管治療)と医薬の融合領域 | 830億円 | 148億円 |
| 4事業の計 | 8,105億円 | 714億円 | |
| 連結(全社の基礎研究費▲392億円などを反映) | 8,116億円 | 営業利益329億円 |
※ 出典:2026年3月期 決算短信。売上は外部顧客への売上高。ほかに「その他」11億円(利益6億円)。
読み方のポイント:
- 4つがほぼ横並び。売上で最大のMaterialでも全体の40%です。1つの事業が利益の9割を占めるレゾナック(→レゾナックの企業研究)やクラレ(→クラレの企業研究)とは対照的で、どれかが崩れても会社は倒れにくい構成です
- 利益率が最も高いのはHealth Care(売上830億円に対し利益148億円=17.9%)。医療機器は開発と承認の壁が高く、利益率が上がりやすい分野です
- Nutritionは売上2,060億円で利益137億円(6.7%)。サプリと食品は化学メーカーの中では珍しい事業です
- Materialは前期の売上3,429億円から3,272億円へ減収、利益も310億円から249億円へ減益。素材の市況を受けています
利益の半分が、どの事業にも属さない研究に消える

この会社を理解する上でいちばん大事な数字が、全社費用392億円です。決算短信の注記にこう書かれています。
> 全社費用は主に特定の報告セグメントに帰属しない基礎的研究開発費であります。
つまり、どの事業のものとも決めずに、会社まるごとで持っている研究費が392億円ある。4事業が稼いだ714億円のうち、55%がここに使われています。
売上に対する比率で他社と比べると、この大きさが分かります。
※ 各社の決算短信で「セグメントに配分していない全社費用」と注記されている金額から算出しました。研究開発費の総額ではありません。
- 研究職を志す人にとっては、これは強い材料です。事業部の外に、事業に紐づかない研究の場が大きく確保されている。カネカの採用でも「目的基礎研究」という職種が最初に挙がります(→院卒で研究開発職に就く)
- 一方で、営業利益率は4.1%に見えます。数字だけ見て「儲かっていない会社」と判断すると、この会社の設計を読み違えます
- 研究の成果がどこに出ているかは、生分解性バイオポリマー(Green Planet)、太陽電池、再生・細胞医療といった新しい事業を見ると分かります
化学業界の川(→化学業界とは)で言えば、カネカは塩ビ・発泡樹脂などの素材から、医療機器・サプリという最終製品に近い川下まで持つ会社です。
工場と研究所|どこで働くか

| 拠点 | 所在地 |
|---|---|
| 東京本社 | 東京都港区 |
| 大阪本社 | 大阪市北区 |
| 名古屋営業所 | 名古屋市東区 |
| 高砂工業所(生産技術研究所・バイオファルマ研究所など研究所4つ以上が同じ敷地) | 兵庫県高砂市 |
| 大阪工場(エレクトロニクス研究所・太陽電池・薄膜研究所など研究所5つ以上が同じ敷地) | 大阪府摂津市 |
| 滋賀工場(電子材料) | 滋賀県大津市 |
| 鹿島工場(合成樹脂) | 茨城県神栖市 |
| 苫東工場 | 北海道苫小牧市 |
| 再生・細胞医療研究所 | 神戸市中央区 |
| アグリバイオリサーチセンター | 静岡県磐田市 |
現役として補足すると、この配置の特徴は2つです。
1つは、研究所のほとんどが工場の敷地内にあること。高砂工業所内に4つ以上、大阪工場内に5つ以上の研究所が置かれています。作ったものをすぐ試せる環境は、研究職・生産技術職の双方にとって意味があります(→生産技術エンジニアの仕事内容、→院卒で研究開発職に就く)。
もう1つは、関西に重心があること。高砂(兵庫)、大阪(摂津)、滋賀(大津)と、主要な生産と研究が関西に集まっています。関東は鹿島工場、北は苫東工場(北海道)です(→化学メーカーの選び方)。
職種・初任給|募集要項を読む
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 技術系の職種 | 研究職(目的基礎研究/応用開発研究/生産技術研究)、エンジニアリング職、製造技術職、ITエンジニア職 |
| 対象 | 理系学部出身者 |
| 初任給(2026年4月支給実績) | 学部卒 283,000円/修士卒 305,400円/博士卒 337,400円(年齢加算金を含む) |
| 平均年間給与(有報・単体) | 8,242,752円(平均年齢41.3歳・平均勤続16.8年・単体3,485名、2026年3月31日現在) |
| 賞与 | 年2回(7月・12月)/昇給 年1回(4月) |
| 勤務時間 | 本社・営業所・一部研究所 9:00〜17:40/研究所・工場 8:30〜17:10/埼玉研究所 8:50〜17:30 |
| 休日 | 年間休日121〜125日(完全週休2日制) |
| 勤務地 | 本社(東京・大阪)、営業所(名古屋)、研究所(兵庫・大阪・静岡・埼玉)、工場(兵庫・大阪・滋賀・茨城・北海道) |
| 採用実績(技術系) | 2025年度38名/2024年度29名/2023年度28名 |
| 諸手当 | 住宅手当、通勤手当、子ども手当、超過労働手当 ほか |
※ 平均年間給与は有価証券報告書(2026年06月24日提出、EDINET S100YIFD)の「従業員の状況」による。単体の全従業員の平均で、賞与・基準外賃金を含む。新卒の初任給とは別の数字。29社の並びは→化学メーカー29社の平均年収ランキングへ。
読み方:
- 研究職が「目的基礎研究/応用開発研究/生産技術研究」の3つに分かれているのは珍しい設計です。全社の基礎研究費392億円という数字と合わせて読むと、基礎研究の場が本当にあることが分かります
- 賞与が7月・12月。6月・12月の会社が多い中では少しずれています
- 初任給は修士卒305,400円。全産業平均(大学卒26.2万円、→化学メーカーの初任給と年収カーブ)を上回りますが、29社の中では中位です(→化学メーカーの初任給の読み方)
- 技術系の採用は年30〜40名。規模の割に絞られており、1人あたりの受け持ちは広くなります
公開資料の読み方|この会社を自分で追いかけるには
| 資料 | 見るところ |
|---|---|
| 決算短信の「差異調整に関する事項」 | この会社はここがいちばん面白い。全社費用=基礎研究費がいくらか、毎期見てください |
| 決算説明資料(IR) | 4つのSUそれぞれの見通し。Health Careをどこまで伸ばすか |
| セグメント情報ページ(IR) | SU別・地域別の推移がグラフで見られます |
面接では「4事業の利益714億円のうち392億円が全社の基礎研究費ですね」と言えると、決算を読み込んだ学生だと伝わります。営業利益率だけを見て語る学生とはっきり差がつきます(→化学メーカーの面接で聞かれること)。
どんな人に向くか
- 基礎研究をやりたい人:事業部に紐づかない研究費が売上の4.8%あります。「目的基礎研究」という職種が用意されている会社は多くありません(→院卒で研究開発職に就く)
- 化学の枠に収まりたくない人:医療機器、サプリメント、太陽電池、生分解性プラスチック。化学メーカーの標準的な事業構成とは違います
- 関西で働きたい人:高砂・大阪・滋賀に生産と研究が集まっています(→化学メーカーの選び方)
志望動機の③会社の層(→化学メーカーの志望動機の書き方)では、「4つの事業を横並びで持ち、利益の半分を基礎研究に回す会社」という理解を軸に語ると、他社と差がつきます。
この記事の使い方と注意
- 数字は2026年3月期決算と、執筆時点の採用情報に基づきます(最終更新:2026年8月)
- 全社費用392億円は「基礎的研究開発費が主」と注記されているもので、研究開発費の総額ではありません。事業部が持つ研究費は各セグメントの中に入っています
- 営業利益率4.1%という数字は、この全社費用を引いた後の値です
- 就職難易度・採用大学・口コミは扱いません。決算短信・有価証券報告書・募集要項と現場の感覚だけを書いています
カネカは素材・発泡と電子材料・医療・サプリの4事業をほぼ横並びで持つ会社です。4事業が稼いだ714億円のうち392億円が、どの事業にも属さない基礎研究費に使われ、営業利益は329億円。売上の4.8%を全社の基礎研究に投じています。研究所の多くは高砂工業所と大阪工場の敷地内。29社の比較は化学メーカー大手29社の違いへ。
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