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ガス吸収の基礎|吸収塔はどんな時に使うか【抵抗は足し算】

SP-01 gas-absorption

※本記事の参考文献には、Amazonアソシエイトのリンク(アフィリエイト広告)を含みます。

排ガス中のSO2が1%。これを150 ppm以下にしたい——蒸留では手も足も出ません。相手が気体で、しかも取りたい成分が希薄だからです。

こういうときに使うのがガス吸収。液に溶かして取る操作です。設計の考え方は、実は熱交換器と同じ形をしています。

この記事は分離工学シリーズの1本です。蒸留との関係は蒸留の完全ガイドにまとめています。

この記事の結論

  • 吸収は希薄なガスから取るのが得意。蒸留の守備範囲の外側
  • 抵抗はガス側と液側の足し算。1/KG = 1/kG + H/kL
  • 溶解度の大きい系はガス側抵抗支配。どちらが律速かで装置が変わる
  • 反応を組み合わせると吸収速度が跳ね上がる。反応吸収が実務の主役

1. 吸収はどこで使うのか

分離操作を「何をものさしにして分けるか」で並べると、吸収の位置がはっきりします。

ものさし操作
相の変化蒸留・吸収晶析/昇華
相間の分配抽出吸着/クロマトグラフィー
形状の違い沈降・ろ過/遠心//分子ふるい・包接化
解離性の違いイオン交換/電気泳動

吸収は蒸留と同じ「相の変化」の仲間です。違うのは入口が気体で、しかも取りたい成分が薄いこと。

蒸留は液を全部蒸発させて分けるので、薄い成分を取るために大量の熱を払うことになります。1%の成分のために99%を蒸発させるのは、どう考えても合いません。吸収は溶かすだけなので、その無駄がない

典型的な使いどころは3つです。

  • 排ガスの浄化:SO2、H2S、HCl、NH3などを除く
  • 有価成分の回収:溶剤蒸気を回収する、CO2を分離する
  • 製品ガスの精製:合成ガスから不純物を取り除く

2. 抵抗は足し算になる|熱交換器と同じ形

2つの関門を続けて通る

ここが吸収の設計の中心です。熱交換器を設計したことがあるなら、ほとんど同じ形をしていることに気づくはずです。

ガス中の成分が液に溶けるまでには、2つの関門を通ります。

  • ガス側:ガスの本体から気液界面まで移動する
  • 液側:界面から液の本体へ移動する

界面そのものにも抵抗はありますが、一般には小さな値で、主な抵抗は気・液両相を移動する際の抵抗とされています。だから2つで考えてよい。

それぞれの移動速度は「濃度の差 × 物質移動係数」で書けます。

N = kG(p0 − pi) = kL(Ci − C0)

ところが界面の濃度 pi・Ci は測れません。そこで、測れる本体の値だけで書けるように総括物質移動係数 K を導入します。

N = KG(p0 − p*) = KL(C* − C0)

そして K と k の関係が、こうなります。

1/KG = 1/kG + H/kL   1/KL = 1/kL + 1/(H kG)

(H はヘンリー定数)。抵抗の逆数が足し算になる——熱交換器の総括伝熱係数

1/U = 1/hi + 汚れ + 管壁 + 1/ho

とまったく同じ構造です。伝熱で「シェル側が律速だから邪魔板を増やす」と考えるのと同じように、吸収ではガス側と液側のどちらが律速かを見て、装置と運転を決めます

3. どちらが律速かで設計が変わる

どちらが律速かで設計が変わる

文献にはっきり書かれている指針があります。

物質移動の主抵抗がガス側にあるか液側にあるかによって、吸収装置の選択と設計に差異をもたらす。一般には、溶解度の大きい系ではガス側抵抗支配の傾向が見られる。

式を見れば理由が分かります。溶解度が大きい=Hが小さい系では、1/KG = 1/kG + H/kL の第2項が小さくなる。液側の抵抗が消えて、ガス側だけが残る

ガス側律速液側律速
どんな系か溶解度が大きい(HClの水吸収、NH3の水吸収など)溶解度が小さい(CO2やO2の水吸収など)
効かせるべきはガス側の流動を良くする液側の更新を良くする
設計の向きガス流速を上げる。気液の接触面積を稼ぐ液量を増やす。液膜を更新する構造にする

律速側を見誤ると、効かない対策に投資することになります。液側律速の系でガス流速を上げても、抵抗の小さいほうを削っているだけで全体はほとんど改善しません。伝熱でシェル側律速なのに管内流速を上げるのと同じ構図です。

「ほとんど改善しない」がどれくらいかは、下のツールで確かめられます。ヘンリー定数Hを動かすと律速側が入れ替わり、ガス側を2倍にした場合と液側を2倍にした場合で、KGの改善率がまるで違うことが出ます。ガス側律速の系では、液量を倍にしても1割も改善しません。

吸収の律速はどちら側か

1/KG = 1/kG + H/kL の内訳を見ます。ヘンリー定数Hを動かすと律速側が入れ替わり、どちらを2倍にすればKGが効くかが変わります。熱交換器の「総括伝熱係数Uの内訳」とまったく同じ構造です。

※ kG・kL・H は同じ単位系でそろえた値を入れてください。このツールは絶対値ではなく内訳の比を示します(単位系に依存しないため)。kG・kL の推算は系と装置ごとの相関によります。「2倍にする」は流動を改善した場合の感度を見るためのもので、何をすれば2倍になるかは別の話です。

境膜とは何か。濃度がどこで落ちているのかを絵にすると、律速側の意味がはっきりします。

ガス境膜と液境膜の濃度プロファイルと律速側の見分け方

4. 境膜という考え方と、その限界

kG や kL は、どこから来るのか。最初に出た説明が二重境膜説(境膜説)です。

考え方はこうです。界面のすぐそばの気相・液相に、分子拡散だけで物質が移動する薄い層(境膜)があり、その外側は大いに乱れていて濃度が一様になっている。すると物質移動係数は

kL = DL/BL  kG = DG/BG (B は境膜の厚さ)

と書けます。境膜の厚さは、主にガスまたは液の流動状態によって決まる。つまりこの説は、境膜の厚さというパラメータを介して物質移動係数を系の流動状態に結びつけたわけです。「流速を上げれば境膜が薄くなって効く」という現場の実感が、これで説明できる。

ただし境膜説は定常状態を前提にしています。充填塔や濡れ壁塔のように接触時間が短くて定常に達しない場合には合わない。そこで出てきたのが浸透理論で、接触してτ時間後の物質移動係数を

kL = √(D/πτ)

と与えます。接触時間が長くなるほど kL は小さくなる——液膜が新鮮なうちほどよく吸うということです。表面更新説や境膜浸透説なども同じ方向の理論です。

ここで文献が率直に書いている限界を引いておきます。

これらの理論によって得られた吸収速度式には、いずれの場合にも、二重境膜説における境膜の厚さに相当する「実験的に求めなければならないパラメータ」が含まれており、そこにこの種の理論の限界がある。

これは蒸留の段効率が計算では出ないのとまったく同じ構図です。物質移動の世界では、最後の一歩は実験データが埋める。だから吸収塔の設計でも、メーカーの持っている実績データが決定的になります。

5. 反応吸収|速度を跳ね上げる

実務で使われる吸収の多くは、ただ溶かすだけの物理吸収ではなく、液の中で反応させる反応吸収(化学吸収)です。

なぜ速くなるのか。吸収された溶質が反応で消えるので、界面付近の濃度勾配が急になるからです。濃度差が推進力なので、勾配が急になれば速度が上がる。

促進の度合いは反応係数(八田数)βで表され、物理吸収の物質移動係数 KL に対して

N = KL·β(C* − C0)

となります。βの中身は反応の種類によって違い、どの吸収理論で解析するかによっても変わります。

実務的な意味は2つあります。

  • 塔が小さくて済む:同じ処理量なら接触面積が少なくてよい
  • 平衡の壁を越えられる:物理吸収はヘンリー則の平衡で頭打ちになるが、反応で消費すれば溶解度以上に取り込める

代償は再生です。反応で捕まえた成分を吸収液から追い出して液を循環させる工程が要る。吸収塔と再生塔はセットで、しかも再生側にエネルギーがかかります。「吸収は蒸留より省エネ」と単純には言えないのはこのためです。

6. 実例|SO2を1%から150 ppmへ

手元の資料にある設計例を追ってみます。燃焼廃ガス中のSO2を、アンモニアとの反応吸収で選択的に除去するプロセスです。

項目内容
入口SO21%強含む洗浄冷却された廃ガス
出口SO2 150 ppm以下
吸収液亜硫安 (NH4)2SO3、酸性亜硫安 NH4HSO3、アンモニアを含む水溶液
接触廃ガスは塔の下部から入り、吸収液と向流で接触して塔頂から出る
硫黄の回収吸収液の一部を塔底から抜き、硫黄回収工程で単体硫黄として回収

1%=10,000 ppmを150 ppmまで、およそ1/67に落とす操作です。

面白いのは硫黄の回収側です。SO2とH2Sを反応させるクラウス反応を約150℃という比較的低温で、アンモニアの触媒作用を利用して行い、そこで触媒として働いたアンモニアが再び吸収塔へ戻る。吸収と回収が1つの循環になっている設計です。

そして文献はプロセス選定の観点をこう挙げています。プラントの立地条件、廃ガスの条件、そして「除去硫黄の回収形態」。回収形態には硫酸・石膏・ボウ硝・単体硫黄などがあり、何として売れるか(あるいは捨てるか)で吸収プロセスそのものが変わる

ここが排ガス処理の設計らしいところです。分離性能だけでは決まらず、出口の物質の行き先まで含めて選ぶ

7. 塔そのものは蒸留塔と同じ道具で設計する

最後に実務的な話を。吸収塔の機械的な設計は、蒸留塔とほとんど同じ道具立てです。

違うのは設計の推進力が「気液平衡+物質移動」であることです。蒸留は理論段で数えますが、吸収では総括物質移動容量係数(KGa)と塔高さの積で必要な性能を出す考え方も広く使われます。

つまり蒸留塔を設計できる人は、吸収塔もほとんど設計できる。押さえ直すのは平衡関係(ヘンリー則)と、律速側がどちらかという判断だけです。

まとめ

ガス吸収は、希薄な成分を気体から取るという蒸留の守備範囲の外側を担当します。設計の中心は総括物質移動係数で、1/KG = 1/kG + H/kL という抵抗の足し算は熱交換器の総括伝熱係数と同じ形。溶解度の大きい系はガス側抵抗支配になり、律速側を見誤ると効かない対策に投資することになります。境膜説や浸透理論は流動状態と物質移動を結びつけますが、最後は実験パラメータが要る——段効率と同じ構図です。実務の主役は反応吸収で、その代償は吸収液の再生工程です。

次の記事:液液抽出の基礎|蒸留で分けられないとき

参考文献

  • 『プロセス設計シリーズ4 反応・吸収を中心とする設計』化学工業社 第9章「総論」(吸収速度式、二重境膜説、総括物質移動係数と抵抗の加成性、溶解度の大きい系はガス側抵抗支配、浸透理論、反応を伴う場合の反応係数)、第10章「亜硫酸ガスの吸収」(SO2 1%強→150 ppm以下、アンモニアによる反応吸収と硫黄回収)
  • 相良紘『分離精製技術入門 ―原理と実際―』日刊工業新聞社(分離技術の分類) Amazonで見る
  • 『プロセス設計シリーズ1 プロセス設計概論』化学工業社(吸収塔の設計例)