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ここまでの計算で出てくるのは理論段です。「その段で気液が完全に平衡に達する」という理想の段。しかし実際のトレイでは、液と蒸気が接触する時間は限られ、平衡には届きません。
理論段13段と計算されたとき、実際の塔は何段になるのか。この橋渡しが段効率です。そして充填塔ではHETPという別の物差しを使います。
この記事は蒸留シリーズ「蒸留計算」の1本です。全体像は蒸留の完全ガイドにまとめています。
この記事の結論
- 実務で使うのは総括塔効率 ET = 理論段数 ÷ 実段数。塔全体を1つの数字で見る
- 段効率には点効率・マーフリー段効率・総括塔効率の3種類がある。混同しないこと
- 目安は(相対揮発度α)×(液粘度)で決まる。この積が大きいほど効率は下がる
- 充填塔ではHETP=理論段1段に相当する充填高さ。段数ではなく高さで考える
- 効率の予測は当てにならない。便覧自身が「実用的に信頼できる方法は確立されていない」と書いている
1. 3種類の効率を区別する

「段効率」と一口に言っても中身は3つあり、定義が違います。文献やメーカー資料でどれを指しているか取り違えると、段数が合わなくなります。
| 種類 | 見ている範囲 | 使いどころ |
| 点効率 EOG | トレイ上の1点(無限小の区間) | 理論的な検討。物質移動から積み上げる |
| マーフリー段効率 EMV | トレイ1段の全体 | 段ごとの性能。液の混合度合いが加味される |
| 総括塔効率 ET | 塔全体 | 実務の主役。段数の割り増しに直接使う |
設計で使うのはほぼ総括塔効率です。定義は極めて単純です。
ET = 理論段数 nt / 実段数 na
つまり実段数 = 理論段数 ÷ ET。先ほどの13段(リボイラ1段を除くと塔内12段)で ET = 0.6 なら、実段数は 12 ÷ 0.6 = 20段。ここで塔の高さが決まります。
なお点効率とマーフリー効率、総括塔効率のあいだには、平衡曲線を直線とみなせる場合に換算式がありますが、実務で使う機会は多くありません。まずETだけ押さえれば十分です。
2. 効率の目安|αと粘度の積で決まる

総括塔効率を見積もる古典的な方法がO’Connellの相関です。横軸に(限界成分の相対揮発度) × (供給液の粘度[Pa·s])を取り、効率を読みます。
| α × 粘度 [Pa·s] | 総括塔効率の目安 |
| 10−4 | 約85% |
| 10−3 | 約50% |
| 5×10−3 | 約35% |
| 10−2 | 約28% |
読み取れる傾向は2つです。
- 粘度が高いと効率が落ちる:液が粘ると物質移動が鈍り、平衡に近づけない
- αが大きいと効率が落ちる:意外に思えますが、1段で稼ぐ幅が大きいほど平衡までの距離が遠く、届きにくい
後者は直感に反しますが、実務上は重要です。分離しやすい系ほど段効率は低めに出るので、αが大きいからと段数を削りすぎると足りなくなります。
3. 充填塔ではHETPを使う
充填塔には段がありません。連続的に気液が接触するので「効率何%」という言い方ができない。代わりに使うのがHETP(Height Equivalent to a Theoretical Plate)=理論段1段に相当する充填高さです。
必要な充填高さ = 理論段数 × HETP
HETPが小さいほど高性能です。値は充填物の種類・サイズ・液負荷で変わり、規則充填では不規則充填より小さくなる傾向があります。実際の値はメーカーのデータに依存するので、選定段階でメーカーに提示させる数字です。
ここで効いてくるのが液分散です。充填層内で液が偏って流れると(チャネリング)、接触しない充填物ができてHETPが悪化します。だから充填塔では分配器の設計と、一定高さごとの再分配が性能を左右します。
4. 効率は「予測するもの」ではなく「確認するもの」
ここが実務で最も大事な感覚です。化学工学便覧は段効率の推定についてこう書いています。「多岐にわたる因子の影響がきわめて複雑であるため実用的に信頼できる方法は確立されていない」。
つまり、O’Connellのような相関はあくまで目安です。効率を精度よく当てる方法は、ないのです。
ユーザー側エンジニアの現実的な打ち手は次の3つです。
- 類似設備の実績値を使う:自社に同じ系の塔があれば、それが最良のデータ。運転データから逆算した ET は、どんな相関より信頼できる
- メーカーの保証値を取る:段効率やHETPは、メーカーが自社データで持っている領域。仕様書で保証を求める
- 余裕を段数で持つ:効率が読み切れない以上、段数に余裕を見るのが定石。還流比で後から補える幅も残しておく
既設塔の効率を知りたいときは、運転データ(塔頂・塔底組成、還流比、フィード条件)からMcCabe-Thiele作図で理論段数を逆算し、実段数で割るのが実務的な方法です。性能低下の診断にもそのまま使えます。
まとめ
総括塔効率 ET は理論段数と実段数の比で、実段数 = 理論段数 ÷ ET として塔の高さを決めます。目安はα×粘度から読めますが、便覧自身が信頼できる推定法は確立されていないと明言しています。実績値・メーカー保証・段数の余裕——この3つで受けるのが現実的な設計です。充填塔ではHETPを使い、必要高さ=理論段数×HETPで考えます。
次の記事:多成分系蒸留の考え方|キー成分とUnderwood式
参考文献
- 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』丸善, 第9章「蒸留」9・11・6 棚段の効率(3種類の効率の定義、ET=nt/na、O’Connellによる総括塔効率、推定法についての記述) 最新版をAmazonで見る
- O’Connell, H. E.: Trans. Am. Inst. Chem. Eng., 42, 741 (1946)
- 『プロセス設計シリーズ3 分解・加熱・蒸留を中心とする設計』化学工業社
※ 効率の目安は文献のグラフからの読み取り値です。設計にはメーカーデータまたは実績値を用いてください。
化学プラント大全 
