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短絡と死容積を見つける|平均滞留時間では短絡が見つからない理由

短絡は平均では見つからない

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反応率が設計より低い。触媒は新品、温度も流量も指示どおり。それでも出ない。

こういうとき、疑うべきものの1つが流れです。原料の一部が反応器を素通りしているか、容積の一部が使われていないか。どちらも装置を開けずに、RTD曲線から見つけられます。

この記事の結論

  • t̄ / τ がそのまま有効容積率。0.7 なら容積の30%が死んでいる
  • 短絡は t̄ を変えない。平均だけ見ていても見つからない
  • 短絡は曲線の形に出る。早い時刻の鋭い立ち上がり
  • 短絡20%+死容積30%で、反応率は健全時の76%まで落ちる

1. 2つの異常

短絡は平均滞留時間を変えない
短絡(バイパス)原料の一部が反応せずに素通りする入口と出口が近い/撹拌の流れが直結している/充填層にチャネリングができた
死容積装置の一部に流れが行き渡らず、液が滞留している槽の隅/バッフルの裏/閉塞した管/沈降した固体の下

反応工学の教科書では、この2つを組合せモデルとして扱います。反応器の中身を完全混合流れ部・押出し流れ部・流体停滞部(dead space)に仮想的に分割し、それらをバイパス・リサイクル・十字流・交換流れで結んで実際の混合状態を表そうとするものです。

ここでは最小の構成——短絡する分と、完全混合する分と、死んでいる容積——で考えます。それだけで実務の診断には足ります。

2. 死容積は平均で分かる

まず死容積のほうが簡単です。

公称の空間時間は τ = V/v。図面の容積と流量計から出る値です。一方、RTD曲線の重心から実測の平均滞留時間 t̄ が出ます。

この2つの比が、そのまま答えになります。

t̄ / τ = 有効容積 ÷ 全容積

理屈は単純で、死んでいる容積には液が流れ込まないので、平均滞留時間の計算に入らないから。実測が公称の0.7倍なら、容積の30%は無いのと同じです。

装置を開けずに、これだけの情報が取れる。RTD測定のいちばん分かりやすい価値です。

3. 短絡は平均では分からない

ところが短絡は、そう簡単ではありません。

公称 τ = 100 s、1次反応で kτ = 2 の系を計算してみます。

状態実測 t̄t̄/τ反応率健全時比
健全100 s1.0066.7%100%
死容積 30% のみ70 s0.7058.3%87%
短絡 20% のみ100 s1.0057.1%86%
短絡20% + 死容積30%70 s0.7050.9%76%
死容積 50%50 s0.5050.0%75%

3行目を見てください。短絡が20%あるのに、実測の t̄ は公称と同じ100秒です。

素通りした分は滞留時間ゼロで平均を下げますが、残りの流量が減るぶん残った液は長く留まる。この2つが打ち消し合って、平均は動きません。

それでも反応率は 66.7% から 57.1% に落ちている。平均滞留時間だけを見ていると、性能が落ちているのに数字が正常に見える。これがこの記事でいちばん伝えたい点です。

4. 短絡は曲線の形に出る

では何を見るか。曲線の立ち上がりです。

短絡があると、トレーサーを入れた直後に鋭いスパイクが出ます。素通りした分がそのまま出てくるからです。そのあとに、本来の山なりの曲線が続く。

RTD曲線の異常疑うもの
ごく早い時刻に鋭いピーク、そのあと別の山短絡。ピークの面積が短絡の割合
山の位置は正常だが全体が左に寄る(t̄ が小さい)死容積。t̄/τ が有効容積率
裾が長く尾を引くゆっくり交換している滞留部。完全な死容積ではない
山が2つある流路が2系統に分かれている(並列の偏流)

3行目に注意してください。前の記事で「裾を切ってはいけない」と書いたのはこのためです。濃度が下がって測定をやめたあたりに、滞留部からゆっくり出てくる分が残っている。そこを切ると、死容積を見逃したうえに面積の規格化まで狂います。

5. 見つけたらどうするか

原因打ち手
撹拌槽で入口と出口が近いノズル位置を変える/入口を槽底、出口を液面付近にする
撹拌槽の隅が死んでいる邪魔板を入れる/翼の位置・段数を変える/底の形状を見直す
充填層のチャネリング充填のやり直し/分配器の見直し/流速を上げる
固体の沈降で下部が死んでいる撹拌強化/底抜きの運転/スラリー濃度の見直し
閉塞洗浄。再発するなら運転条件が原因

撹拌槽の死容積に対する第一手は邪魔板です。撹拌の設計で扱いますが、邪魔板が無いと液全体が一緒に回るだけで上下方向に混ざらず、槽の一部が取り残されます。

スケールアップ後にこそ測る

短絡も死容積も、大きい装置ほど出やすい。ラボの1リットルフラスコでは混ざりきっていたものが、10 m³ の槽では隅まで届かない。

スケールアップの記事で見るとおり、相似のまま大きくすると単位体積あたりの動力は必ずどこかで妥協することになります。「ラボと同じ反応なのに実機で出ない」の原因が、反応ではなく流れにあることは珍しくありません。

だから試運転のときにRTDを1回測っておく価値があります。健全なときのデータがあれば、あとで性能が落ちたときに比較できる。汚れや閉塞が進んだかどうかを、装置を開けずに判定できるようになります。

まとめ

反応器の性能低下は、反応ではなく流れが原因のことがあります。死容積はRTD曲線の重心から出る実測 t̄ を公称 τ で割るだけで分かり、その比がそのまま有効容積率になります。ところが短絡は平均滞留時間を変えないことがあり、20%が素通りしていても t̄ は公称どおりのまま、反応率だけが 66.7% から 57.1% に落ちます。短絡を見つけるには曲線の形——早い時刻の鋭いスパイク——を見る必要があります。裾を早く打ち切ると滞留部を見逃し、面積の規格化まで狂うので注意してください。撹拌槽の死容積への第一手は邪魔板です。そして試運転時に健全なRTDを取っておけば、後年の劣化を装置を開けずに判定できます。

次の記事:混合拡散モデルと槽列モデル|非理想流れを数字にする

参考文献

  • 橋本健治『反応工学 改訂版』培風館, 第8章 8・1「滞留時間分布関数」・8・5「組合せモデル」(完全混合流れ部・押出し流れ部・流体停滞部の結合) Amazonで見る
  • 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』丸善, 第20章「撹拌・捏和」・第23章「反応装置」 最新版をAmazonで見る