動画解説はこちら|YouTube

化学平衡と最適温度|発熱可逆反応は入口を高温、出口を低温にする

速度をとるか平衡をとるか

※本記事の参考文献には、Amazonアソシエイトのリンク(アフィリエイト広告)を含みます。

発熱可逆反応には、設計者を悩ませるジレンマがあります。

温度を上げれば速いが、平衡が不利になる。温度を下げれば平衡は有利だが、遅くて終わらない。アンモニア合成もメタノール合成もSO2酸化も、全部この形をしています。

この記事の結論

  • 発熱反応では温度を上げると平衡転化率が下がる(ファントホッフの式)
  • 速度は温度で上がる(アレニウス)。2つがぶつかるので最適温度が存在する
  • 最適解は「入口は高温で速く、出口は低温で平衡を稼ぐ」という温度プロファイル
  • 実装は多段+段間冷却。連続的な温度制御は現実には難しい

1. 2つの温度依存性がぶつかる

階段で平衡線を這い上がる|多段+段間冷却

反応器の中では、温度が2つの別々のものを動かします。

支配する式温度を上げると
反応速度アレニウスの式速くなる(指数関数的に)
平衡転化率ファントホッフの式発熱反応では下がる

この2つは形がよく似ています。どちらも指数の中に「エネルギー ÷ RT」が入っている。しかし中身がまったく違います

  • アレニウスの式に入るのは活性化エネルギー E。反応が越えるべき山の高さ
  • ファントホッフの式に入るのは反応エンタルピー ΔH。始点と終点のエネルギー差

この違いは平衡定数の温度依存性の記事で詳しく扱っています。ここでは「どちらも温度で動くが、向きが逆になる」という点だけ押さえてください。

2. 平衡が天井をつくる

可逆反応では、反応率にはその温度での上限があります。平衡転化率です。

横軸に温度、縦軸に反応率をとった図を考えてください。平衡転化率の線は、発熱反応では右下がりになります。温度が高いほど到達できる反応率が低い。

この線が天井です。どんなに触媒を良くしても、どんなに反応器を大きくしても、この線は越えられません。

一方で、低温側では天井は高いが、そこに届くまでの時間が足りない。反応が遅すぎて、現実的な滞留時間では平衡のはるか手前で出口に着いてしまう。

だから実際の運転線は、

  • 高温側:平衡の天井にすぐ届くが、天井そのものが低い
  • 低温側:天井は高いが、届かない

という板挟みになります。どこかに最適点があるのは、この構図から必然です。

3. 最適温度は「一定」ではない

ここが実務的にいちばん大事な点です。

反応率ごとに、そのときの反応速度を最大にする温度が違います。文献では最適温度分布と呼ばれる考え方です。

反応の段階状況最適な温度
入口付近反応物が濃く、生成物が少ない。平衡から遠い高温(速度で稼ぐ)
中盤平衡に近づいてくる徐々に下げる
出口付近平衡の天井が効いてくる低温(天井を上げる)

つまり理想は「入口で高温、出口へ向かって下げていく」という温度プロファイルです。

ところが発熱反応では、放っておくと逆のことが起きます。反応が進むほど熱が出て温度が上がるので、入口が低く出口が高い——最適とは正反対のプロファイルになる。

だから発熱可逆反応では、途中で冷やさなければならない。除熱は安全のためだけでなく、収率のためでもあります。

4. 実装|多段+段間冷却

理想の温度プロファイルを連続的に実現するのは、実際にはほぼ不可能です。管の各点で温度を狙いどおりに制御することはできない。

そこで実務では階段で近似します。

  1. 第1段:高温で入れる。断熱で反応させる(温度が上がる、平衡に近づく)
  2. 段間冷却:熱交換器で冷やす。反応率は変わらず温度だけ下がる=平衡の天井が上がる
  3. 第2段:また断熱で反応させる。新しい天井に向かって進む
  4. これを3〜4段繰り返す

図で言えば、ギザギザの階段が平衡線に沿って這い上がっていく形になります。SO2酸化(硫酸製造)の4段転化器や、アンモニア合成の多段反応器が、まさにこの形です。

冷やし方は2通りあります。

方式やり方特徴
間接冷却段の間に熱交換器を置く組成が変わらない。熱回収できる
クエンチ(冷ガス吹込み)低温の原料を段間に直接入れる装置が単純。反応率が薄まるぶん不利

クエンチは多段CSTRの分割投入と同じ発想です。装置は単純になりますが、原料を後から入れるので反応率の定義に注意が要ります。

5. 平衡から離す、という別の手

温度以外にも、平衡の天井を上げる手があります。

  • 圧力を上げる:モル数が減る反応(アンモニア合成など)では平衡が生成側に寄る。アンモニア合成が高圧なのはこのため
  • 生成物を抜く:反応と分離を同時に行う。半回分の抜出し型や反応蒸留がこれ
  • 反応物を過剰にする:片方を大過剰にすれば、もう片方の転化率は上がる。ただし分離の負荷が増える

2つ目が特に強力です。生成物を系外に出せば、平衡はいくらでも右に寄せられる。ルシャトリエの原理そのものですが、装置としては「反応器と分離器を1つにする」という設計判断になります。

そして未反応原料の循環という手もあります。1回通しの転化率が平衡で頭打ちでも、未反応分を戻せば原料の総括収率は上げられる。アンモニア合成の1回通し転化率が十数%でも成立するのは、この構成があるからです。

6. 吸熱反応では話が逆になる

ここまでは発熱可逆反応の話でした。吸熱反応では符号がすべて反転します。

発熱可逆吸熱可逆
温度を上げると平衡転化率は下がる上がる
最適な温度プロファイル入口高温 → 出口低温とにかく高温(ジレンマがない)
熱の設計除熱(ホットスポット対策)加熱(温度が下がるのを防ぐ)
暴走のリスクあるない(反応が進むと冷えて止まる)

吸熱反応には最適温度のジレンマがありません。速度も平衡も高温が有利なので、materials の限界まで上げればよい。だから吸熱反応の設計は「いかに熱を入れるか」の一点になります。

そして吸熱反応は暴走しません。反応が進むと温度が下がり、温度が下がると反応が遅くなる——負のフィードバックが自然にかかる。多重定常状態の問題も起きません。

反応器の設計が難しいのは、ほとんどの場合発熱反応なのです。

まとめ

発熱可逆反応では、温度を上げると速度は上がるが平衡転化率が下がるというジレンマが生じます。反応率ごとに最適温度が違うため、理想は「入口で高温、出口へ向かって下げる」プロファイルですが、放っておくと発熱で逆になる。だから除熱は安全だけでなく収率のためでもあります。実装は多段+段間冷却で階段状に近似し、間接冷却かクエンチを選ぶ。平衡の天井を上げる手には、加圧・生成物の抜き出し・原料の過剰もあります。吸熱反応にはこのジレンマがなく、暴走もしません。

次の記事:除熱の方法|ジャケット・コイル・外部循環・還流冷却

参考文献

  • 橋本健治『反応工学 改訂版』培風館, 第7章 7・2「化学平衡」・7・3「非等温反応装置の設計」、第9章 9・5「固定層触媒反応装置の設計」(最適温度分布) Amazonで見る
  • 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』丸善, 第27章(発熱可逆反応のT-xA線図と理想反応操作線) 最新版をAmazonで見る
  • 『プロセス設計シリーズ4 反応・吸収を中心とする設計』化学工業社