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ポンプの軸受が片側だけ過熱したり、同じ側の軸受を繰り返し交換したりすると、「アキシャルスラストが大きいのではないか」と疑います。アキシャルスラストとは、羽根車と主軸を軸方向へ押す力です。
ただし、片側の軸受が壊れたという事実だけで、水力的な軸推力過大と決めることはできません。バランスホールや裏羽根の異常だけでなく、軸受の形式・向き・組込みすきま、潤滑、芯出し、振動、熱膨張も同じ症状を起こします。
この記事では、化学プラントの現場オペレーターと設備・保全エンジニア向けに、軸推力の発生原理、バランスホールと裏羽根の違い、軸受過熱時の確認順を図解します。
この記事の結論
- 片吸込遠心ポンプでは、羽根車前後の圧力分布差によって軸方向荷重が残る
- バランスホールは背面圧を吸込側へ逃がし、裏羽根は回転によって背面圧を下げる
- スラストの実際の向きは、ポンプ構造、吸込圧力、運転点、軸封圧力、軸推力低減装置で変わる
- 片側軸受の過熱だけで「バランスホール詰まり」と断定しない
- 運転条件、軸推力低減装置、軸受組込み、潤滑・芯出しの順に事実を集める
- バランスホール拡大や裏羽根加工は性能・シール室圧力も変えるため、現場判断で行わない
1. アキシャルスラストは軸方向に残る力
回転軸に直角な方向の荷重をラジアル荷重、回転軸に沿う方向の荷重をアキシャル荷重と呼びます。遠心ポンプでは羽根車が液へエネルギーを与えると同時に、羽根車の各面へ圧力が作用します。
羽根車の前面と背面へ全く同じ圧力が、全く同じ面積に作用すれば、軸方向の力は相殺されます。しかし片吸込羽根車は吸込口側に開口があり、前後の有効面積と圧力分布が同じではありません。その差し引きがアキシャルスラストです。
考え方を簡略化すると、軸推力は「前後の有効面積に作用する圧力の合力差」です。揚程だけでなく、圧力が作用する面積と背面圧が重要です。
2. 片吸込羽根車ではなぜ吸込側への力が生じるか

一般的な片吸込遠心ポンプでは、羽根車出口から回り込んだ高圧液が側板側と主板背面側へ作用します。吸込口の開口がある側と、主板・軸がある側では圧力を受ける有効面積が異なるため、差し引きの力が残ります。
一次資料の代表図では、羽根車を吸込口側へ押す向きの軸推力として説明されています。ただし、これをすべてのポンプへそのまま当てはめてはいけません。
高い吸込圧力を持つオーバハング形ポンプでは、軸封部の有効面積へ吸込圧力が作用し、軸継手側へ向かう成分が加わることがあります。多段ポンプや両吸込ポンプでは、羽根車配列やバランス装置も合力へ影響します。
実機のスラスト方向は、外形だけで判断せず、メーカー断面図、スラスト軸受位置、羽根車向き、均圧配管を確認します。
3. バランスホールは背面圧を吸込側へ逃がす

バランスホールは、羽根車の主板に設けた穴です。ただし、穴だけで働く装置ではありません。主板背面側にウェアリングを設けて背面室を区切り、そこへ流れ込んだ液をバランスホールから低圧の羽根車入口へ戻します。
この戻り流れによって主板背面の圧力が下がり、前面側との圧力差が小さくなって、アキシャルスラストが低減します。
確認点は次のとおりです。
- バランスホールが異物、析出物、腐食生成物で狭くなっていないか
- 主板背面側ウェアリングのすきまが設計状態から変わっていないか
- 羽根車入口へ戻る通路に気体や蒸気が滞留していないか
- 羽根車交換品の穴径、穴数、位置が元設計と一致するか
- 低流量運転で戻り液や均圧室の温度が上がっていないか
一次資料には、バランスホール総断面積を背面ウェアリングすきまの流路面積に対して十分大きくする設計関係が示されています。これはメーカーが圧力分布と内部漏れを含めて決める設計値です。閉塞対策として現場で穴を広げてはいけません。
バランスホールを通る液は吸込側へ戻る内部循環です。穴やすきまを変更すると、軸推力だけでなくポンプ性能、効率、気泡の抜け方にも影響します。
4. 裏羽根は回転で背面圧を下げる

裏羽根は、羽根車の主板背面に設けた小さな羽根です。羽根車と一体で回転し、背面側の液へ遠心作用を与えて中心側の圧力を下げます。その結果、主板背面へ作用する力が変わり、反対向きの力が加わって軸推力が低減します。
バランスホールが「低圧側へ通じる流路」で圧力を下げるのに対し、裏羽根は「背面で液を回転させる」ことで圧力分布を変えます。
裏羽根は、異物を扱うポンプやセミオープン羽根車などで採用されることがあります。一方、寸法や摩耗状態は主板背面だけでなく、スタフィングボックスやメカニカルシール室の圧力にも影響します。
裏羽根を削る、内径を変える、別形状の羽根車へ交換する行為は、軸推力・軸封圧力・性能を同時に変える設備変更です。
5. 5つの軸推力低減方式を使い分ける

軸推力を低減する代表的な方法は、次の5つです。
| 方式 | 主な対象 | 原理 | 現場で見る点 |
| 両吸込形 | 両吸込渦巻ポンプ | 左右から吸い込み、羽根車の向きで力を相殺する | 片側吸込の偏り、摩耗、変動荷重 |
| バランスホール | 小形・中形の片吸込遠心ポンプ | 主板背面を吸込側へ連通して背面圧を下げる | 穴と戻り流路、背面ウェアリング |
| 裏羽根 | セミオープン羽根車、異物を扱うポンプなど | 背面液を回転させて中心側圧力を下げる | 裏羽根摩耗、付着、軸封室圧力 |
| 羽根車の背面合わせ | 多段ポンプ | 羽根車の向きを組み合わせ、段群の推力を相殺する | 組立向き、段間差、残留推力 |
| バランスディスク | 多段高圧ポンプ | 最終段圧力と低圧室の差で反力を作る | すきま、低圧室、戻り配管、摩耗 |
どの方式も、運転中の変動を含めた軸推力を完全に消すとは限りません。軸推力低減装置(つり合い装置)があっても、残る荷重を受けるスラスト軸受と、その許容荷重の確認が必要です。
6. 運転条件が変わるとスラストも変わる
軸推力は、工場試験時に一度測れば固定される値ではありません。運転点と内部状態で変化します。
吐出し量と圧力分布
吐出し弁の絞り、配管閉塞、並列運転の切換えなどで運転点が変わると、羽根車前後の圧力分布も変わります。異常が出た時刻の流量、吸込圧力、吐出し圧力、回転数を一組で残します。
吸込圧力
押込み圧力が高い設備では、吸込圧力が軸封部の有効面積へ作用して、軸継手側への推力成分を生む場合があります。試運転水では正常でも、実液・実圧力で荷重条件が変わる可能性があります。
小流量と温度上昇
小流量運転ではポンプ内部の液温が上がります。均圧室やバランス装置内で液が蒸発すると、液による潤滑が失われるだけでなく、均圧室の圧力が上がって釣合いが崩れ、スラスト軸受を損傷する可能性があります。
軸受温度上昇を見たら、潤滑油だけでなく、最小流量、内部循環、液温、飽和条件まで確認します。
摩耗・閉塞・付着
背面ウェアリングの摩耗、バランスホールの閉塞、裏羽根への付着や摩耗、バランスディスクすきまの拡大は、設計時の圧力分布を変えます。交換部品が同一寸法か、修理加工で形状が変わっていないかも確認します。
7. 軸受が片側だけ熱いときの確認順

まず、どちらがスラスト軸受かを確認します。ポンプを外から見た「左・右」ではなく、駆動側・反駆動側、吸込側・軸継手側、軸受記号で記録します。
1. 異常の事実をそろえる
- 温度はどの測定点で、いつから、どの運転条件で上がったか
- 反対側軸受、潤滑油、軸受ハウジング、外気温との温度差はどうか
- 振動の全体値と軸方向成分、音、電流、流量、吸込・吐出し圧力はどう変化したか
- 起動直後、温度上昇後、小流量時、切換え直後のどこで発生するか
2. 水力条件を確認する
通常値から運転点が外れていないか、吸込圧力が試験時より高くないか、小流量で液温が上がっていないか、ガスを吸い込んでいないかを確認します。
3. 軸推力低減装置を確認する
バランスホール、均圧配管、戻り配管の閉塞、背面ウェアリングのすきま、裏羽根の摩耗・付着、羽根車の向きと部品番号を確認します。
4. 軸受と組立を確認する
一次資料のトラブル事例では、ラジアル軸受を同寸法の別形式へ置き換えたことで軸方向内部すきまが不足し、運転中の微小なたわみや振動で過大なアキシャル荷重が生じた例があります。
次を確認します。
- 軸受形式、精度等級、内部すきま、組合せ方向が図面どおりか
- 固定側・自由側の役割と、外輪・内輪が軸方向へ動ける範囲
- ディスタンスピース、ロックナット、軸受カバーの寸法
- はめあい、予圧、締付け、潤滑油量・粘度・汚れ
- 軸の振れ、芯ずれ、配管荷重、熱膨張を逃がす構造
部品寸法が同じでも、軸受形式が違えば軸方向の拘束条件は同じとは限りません。
8. 分解時は「壊れた側」だけ見ない
軸受を交換する前に、損傷状態を記録します。
- 内輪・外輪・玉またはころの変色、剥離、擦れの位置
- 保持器の変形、回転痕、軸方向の片当たり
- 軸受カバー、ディスタンスピース、肩部の接触痕
- 羽根車主板背面、裏羽根、バランスホール、ウェアリングの付着・摩耗
- 均圧配管と戻り配管の閉塞、液やガスの滞留
- 軸封部の接触痕と、シール室圧力の異常履歴
洗浄前に全景、部位が分かる中景、スケール付き近接の三段階で撮影します。反対側軸受と正常部品も比較用に残します。
9. 現場で勝手に穴や裏羽根を加工してはいけない
「穴を広げれば圧力が逃げる」「裏羽根を削れば抵抗が減る」という一方向の判断は危険です。
バランスホールを変えると、主板背面圧、内部循環量、ポンプ効率、気泡の抜け方が変わります。裏羽根を変えると、軸推力に加えてシール室圧力も変わります。ウェアリングすきまを広げれば、内部漏れと性能低下が増えます。
加工前にメーカーへ、変更前後の軸推力、スラスト軸受荷重、シール室圧力、性能、効率、許容運転範囲の再評価を依頼します。
10. 仕様書と試運転で残す情報
設計・調達では次を確認します。
- 正常時と最大・最小流量時の軸推力の大きさと向き
- 最大・最小吸込圧力、締切付近、小流量時の評価
- スラスト軸受の形式、向き、定格荷重、寿命、潤滑方式
- バランスホール、裏羽根、背面ウェアリング、均圧配管の仕様
- 軸封室圧力と許容範囲
- 軸方向位置または軸方向振動を監視する必要性
試運転では、流量を変えながら吸込・吐出し圧力、軸受温度、振動、電流を同じ時刻で記録します。水試験と実液運転で密度、粘度、温度、吸込圧力が違う場合は、その差を残します。
まとめ
- アキシャルスラストは、羽根車前後の圧力分布と有効面積の差から生じる
- バランスホールは背面圧を吸込側へ逃がし、裏羽根は回転で背面圧を下げる
- 両吸込、背面合わせ、バランスディスクも対象ポンプに応じて使われる
- スラスト方向は機種と運転条件で変わるため、図面で確認する
- 片側軸受過熱では、運転条件、軸推力低減装置、軸受組込み、潤滑・芯出しを順に調べる
- 穴径・裏羽根・すきまの変更はメーカー評価を受け、設備変更として管理する
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