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ポンプの材料選定|水・海水・化学液・スラリーで何が違うか

ポンプの材料選定を解説するPU-29のアイキャッチ

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ポンプの材料選定で最も危険なのは、「水だから鋳鉄」「海水だからステンレス」「酸だから高級合金」と、液名から材料名を一つだけ選ぶことです。

実際の腐食や摩耗は、液の組成だけでなく、濃度、温度、不純物、溶存ガス、流速、停滞、固形物、起動停止、洗浄液、部品にかかる応力によって変わります。同じ材質でも、ケーシングでは使えて軸スリーブでは寿命が足りないことがあります。

この記事では、化学メーカーの設備・プロセス・保全エンジニアと現場オペレーター向けに、ポンプ材料を決める順序、水・海水・化学液・スラリーで確認すべき条件、部品別の仕様書の書き方、トラブルを防ぐ検証方法を整理します。

この記事の結論

  • 材料は液名ではなく、組成・濃度・温度・不純物・流動・固形物・運転状態をそろえて選ぶ
  • 腐食表は候補の一次選別に使い、実機実績、実液試験、メーカー協議で確定する
  • 「ポンプ材質」と一括せず、ケーシング、羽根車、主軸、軸スリーブ、リング、軸封を部品別に指定する
  • 海水では塩化物だけでなく、温度、停滞、流速、異種金属接触、砂の混入を確認する
  • 化学液では主成分だけでなく、微量不純物、溶媒、洗浄液、濃縮・析出条件を確認する
  • スラリーでは硬い材料を選ぶだけでなく、流路、羽根車形式、回転数、軸封保護を一体で検討する
  • 腐食とキャビテーション浸食が重なる場合は、材料変更だけでなく吸込・流動条件も直す

1. 材料選定は液名ではなく使用条件から始める

ポンプ材料を使用条件、損傷機構、部品、候補対策、実機実績と試験の順に選定する5段階フロー
(一次資料を参考に当サイト作成)

材料選定は、次の順序で進めます。

  1. 使用条件をそろえる
  2. 起こり得る損傷機構を分ける
  3. 部品ごとの役割と応力を確認する
  4. 材料候補と構造・運転上の対策を組み合わせる
  5. 使用実績、試験、製作性、保全性、費用を評価して確定する

最初に必要なのは材料名ではなく、液の仕様です。液名、全成分と濃度、pH、最低・通常・最高温度、固形物、粘度、蒸気圧、溶存ガス、酸化還元性、電気伝導度、運転時間、停止中の状態、洗浄・置換条件を整理します。

特に微量の塩化物、硫化水素、酸素などは、主成分が同じでも局部腐食や応力腐食割れの可能性を変えます。バッチ運転では、反応途中だけ現れる高濃度域や、停止・冷却時の結晶析出も見落とせません。

仕様書に「腐食性液」とだけ書いても材料は選べません。腐食へ影響する成分と、その最小・通常・最大条件を数値または範囲で示します。

2. 腐食表だけで決めてはいけない

腐食データ集や材料メーカーの耐食表は、候補を絞るために有用です。しかし、多くのデータは一定濃度・一定温度の静置液へ試験片を浸した結果です。

ポンプ内部では、羽根車による高速流れ、圧力変化、隙間、気泡、固形物衝突、繰返し応力があります。静置液中で保護皮膜ができる材料でも、高速流れや粒子で皮膜が剥がれれば腐食が続きます。反対に、実液に含まれる成分が腐食を抑えることもあります。

材料候補は次の優先順で裏付けます。

  1. 同じプラント・同じ液・同じ温度・同じ流動条件での使用実績
  2. 類似設備とポンプメーカーの実績
  3. 公表された腐食データと材料メーカー資料
  4. 実液または実環境を模擬した浸漬・ループ・クーポン試験
  5. 必要に応じたパイロット運転と計画的な開放点検

実績を使うときも、「液名が同じ」だけでは不十分です。濃度、温度、流速、溶存酸素、不純物、停止条件、寿命、肉厚、表面状態が同等かを確認します。

腐食表の○印は、実機寿命の保証ではありません。選定条件と試験条件の差を記録してから採否を決めます。

3. 接液部は部品別に指定する

横軸単段遠心ポンプの断面で、ケーシング、羽根車、軸スリーブ、ウェアリングなどの接液部と非接液部を区分した図
(一次資料を参考に当サイト作成)

ポンプは圧力を保持する機器であると同時に、回転機械です。接液部には耐食性・耐摩耗性だけでなく、耐圧強度、疲労強度、靱性、かじりにくさ、加工性、鋳造性、溶接性も必要です。

主な接液部は次のとおりです。

  • ケーシング、ケーシングカバー:圧力を保持し、流路を形成する
  • 羽根車:高速で回転し、流体力、遠心力、キャビテーション、粒子衝突を受ける
  • 主軸、軸スリーブ:トルクと曲げを受け、軸封付近では液やフラッシング液へ触れる
  • ウェアリング、インペラリング、スロートブッシュ:狭い隙間で高速流れとかじりの影響を受ける
  • メカニカルシール接液部、Oリング、ガスケット:液適合性に加え、摺動、膨潤、浸透、温度へ耐える

一方、軸受ハウジング、軸受カバー、ベースなどの非接液部は、取扱液の耐食性よりも機械強度、剛性、潤滑、外気・洗浄水・塩害への防食が中心です。

仕様書の材料欄は「接液部SUS」と一行で済ませず、最低でもケーシング、羽根車、主軸/軸スリーブ、リング、軸封接液部、ガスケットを分けます。

軸スリーブやリングを交換可能にすると、高価な主軸やケーシング本体を守り、摩耗部だけを更新できる場合があります。ただし異種金属の組合せは、電位差腐食とかじり、熱膨張差も確認します。

4. 水用ポンプでも水質と温度を確認する

清水・工業用水では、鋳鉄、炭素鋼、青銅系材料などが候補になります。ただし「水」は一種類ではありません。

  • 温度と圧力
  • pH、溶存酸素、塩化物、導電率
  • 薬注成分と濃度変動
  • 補給水、復水、冷却水などの系統差
  • 砂、錆、スケールの混入
  • 連続運転か、長期停止を繰り返すか
  • 要求寿命と腐食代、塗装、更新方針

高温水では、材料強度、熱膨張、かじり、シール材の温度限界も問題になります。水質が設計前提から外れると、ポンプと配管が腐食し、腐食生成物が吸込ストレーナを閉塞し、吸込圧力低下からキャビテーションへ進むこともあります。

「水だから腐食性なし」と扱わず、水処理条件と逸脱時の組成まで仕様へ入れます。

5. 海水は塩化物・停滞・流速・異種金属をセットで見る

海水用には、鋳鉄と塗装、銅合金、ステンレス鋼、二相ステンレス鋼、高ニッケル合金、チタン、樹脂やライニングなど多くの選択肢があります。これは万能材が一つに決まらないことの裏返しです。

海水では次を確認します。

  • 海水温度と地域・季節差
  • 塩化物濃度、溶存酸素、生物付着、薬注
  • 連続流動部と停止・滞留部
  • 隙間、ガスケット下、付着物下の局部環境
  • 砂や貝殻などの固形物
  • 異種金属の接触と面積比
  • 犠牲陽極、電気防食、塗装・ライニングの設計

ステンレス鋼は不動態皮膜により耐食性を示しますが、塩化物と隙間、停滞、温度上昇が重なると局部腐食を起こす可能性があります。高価な材料へ一律変更しても、異種金属接触や隙間構造が残れば別の部位へ腐食が集中します。

また、海水取水ポンプで硬化肉盛層を軸へ直接施工した結果、母材との境界が腐食し、硬化層がはく離した事例があります。硬さと耐海水性は別の評価項目です。

海水では「材質名」だけでなく、接触する全金属、被覆範囲、欠陥時の挙動、交換部品、電気防食まで一つの系として確認します。

6. 化学液は主成分より実際の運転組成を見る

化学液は成分が明確に見えても、運転中の組成は一定とは限りません。

  • 原料と生成物、副生成物
  • 最小/通常/最大濃度
  • 微量の塩化物、硫化物、金属イオン、水分
  • 空気・窒素との接触、酸化性・還元性
  • 加熱、冷却、蒸発、濃縮、析出
  • スタートアップ、停止、洗浄、スチーミング時の液
  • 異常反応時に入り得る物質

非金属材料も有力な候補ですが、樹脂、ゴム、FRP、カーボン、セラミックスには、温度、圧力、浸透、膨潤、割れ、熱衝撃、機械衝撃、接着・含浸材の劣化、補修性など固有の限界があります。

ライニングは母材の強度と耐食層を分担できる一方、ピンホール、割れ、端部、フランジ面、補修部から母材へ液が達する可能性があります。欠陥検査方法と補修手順まで含めて採用します。

主プロセス液に適合していても、洗浄液や停止中の凝縮液に不適合なら安全な材料とはいえません。全運転モードを材料選定表へ並べます。

7. スラリーは材料・構造・速度・軸封を一体で選ぶ

水、海水、化学液、スラリーについて材料選定時の確認条件、主な損傷、対策を比較した図
(一次資料を参考に当サイト作成)

スラリーでは、粒子の粒径、形状、硬さ、濃度、密度、沈降性、腐食性を確認します。同じ濃度でも、丸い軟質粒子と角張った硬質粒子では摩耗のしかたが違います。

材料対策には、硬質材料、ゴムなどの弾性材料、交換式ライナ、表面処理などがあります。しかし、硬い材料ほど常に優れるわけではありません。衝撃、腐食、熱、加工・補修、硬化層と母材の界面も評価します。

構造と運転では次を組み合わせます。

  • 接液流路をできるだけ単純にし、急な方向転換と局部高速部を減らす
  • 固形物を通せる通路面積と羽根車形式を選ぶ
  • 必要以上に回転数と流速を上げない
  • ウェアリング、ライナ、スロートブッシュなどを交換可能にする
  • スラリーを軸封へ入れないフラッシングまたはシール方式を選ぶ
  • 停止中の沈降、固化、結晶析出へ洗浄・排出で備える

スラリーポンプの寿命は材質記号だけでは決まりません。粒子条件、流速、流路形状、回転数、軸封、洗浄手順を同時に仕様化します。

8. 腐食と浸食が重なると損傷が加速する

羽根車入口で腐食により弱った表面が気泡崩壊や粒子衝突で浸食され、再腐食して損傷が加速する流れ
(一次資料を参考に当サイト作成)

「腐食」は化学・電気化学反応による材料損失、「浸食」は流れ、気泡崩壊、粒子衝突などによる機械的損傷です。現場では両者が同時に起こります。

たとえば、酸性液で羽根車表面が腐食すると、表面が弱くなります。そこへキャビテーション気泡の崩壊や固形物衝突が加わると、保護皮膜と母材が剥がれます。新しく露出した面が再び腐食し、損傷が加速します。

この場合、材料を耐食材へ変えるだけでは不十分です。吸込液位、吸込損失、液温、流量、NPSHaとNPSHrの余裕、羽根入口条件を見直し、キャビテーションを抑える必要があります。スラリーなら流速と粒子衝突部も直します。

損傷面を見たら、全面腐食、孔食・隙間腐食、電位差腐食、キャビテーション浸食、粒子摩耗、かじりを分け、複数要因の重なりを疑います。

9. 仕様書には材料名だけでなく選定条件を書く

液と運転条件

  • 全成分、濃度、pH、不純物、溶存ガス
  • 最低/通常/最高温度と圧力
  • 連続/間欠、起動停止頻度、停止中の状態
  • 洗浄液、置換液、スチーム、異常時に接触する液
  • 固形物の粒径、形状、硬さ、濃度、沈降・析出性
  • 通常/最小/最大流量と予想流速

部品別材料

  • ケーシング、カバー、羽根車
  • 主軸、軸スリーブ、インペラナット
  • ウェアリング、インペラリング、スロートブッシュ、ライナ
  • メカニカルシール金属部、摺動材、二次シール
  • ガスケット、Oリング、ボルト、ドレン・ベント部品
  • コーティング、ライニング、表面処理の材質・厚さ・検査・補修

検証と品質保証

  • 採用根拠となる類似実績の条件と使用年数
  • 腐食データの液組成、温度、試験時間、静置/流動条件
  • 実液試験、クーポン試験、硬さ・浸透探傷などの要求
  • 材料証明書、識別表示、必要に応じたPMI
  • 鋳造、溶接、熱処理、肉盛、ライニング施工の品質要求
  • 予備品、交換周期、開放点検、許容減肉・摩耗量

材料記号だけでなく、「なぜその材料を選んだか」と「どの条件まで有効か」を仕様書へ残します。

10. 変更時は材料変更管理を行う

廃番、納期、コスト削減、共通予備品化を理由に、似た材質へ置き換えることがあります。しかし、JIS記号が近い、硬さが同じ、ステンレス同士という理由だけでは互換性を判断できません。

変更時は少なくとも次を確認します。

  1. 化学成分、熱処理、組織、機械的性質
  2. 腐食、局部腐食、応力腐食割れ、電位差腐食
  3. 硬さ、かじり、摩耗、相手材との組合せ
  4. 鋳造、溶接、機械加工、補修性
  5. 寸法、公差、熱膨張、回転体の質量とバランス
  6. シール材、ガスケット、コーティングとの適合
  7. 運転・点検・予備品・教育への影響

材料変更は単なる購買代替ではなく、設備変更として技術審査し、承認根拠と受入検査結果を残します。

11. 現場点検では損傷の場所と形を記録する

材料選定の精度は、現場の記録で上がります。開放点検では「腐食あり」だけで終わらせず、部位、面積、深さ、方向、運転時間を残します。

  • 全面が均一に薄いか、点状・隙間・付着物下に集中しているか
  • 羽根入口、出口、ケーシング舌部、リング隙間など特定位置に偏るか
  • 流れ方向に筋があるか、気泡崩壊らしい蜂の巣状か
  • 肉盛・溶射・ライニングの界面や端部から剥がれていないか
  • 異種金属の近くで片側だけ損傷していないか
  • 硬さ、肉厚、粗さ、振動、吸込圧力、液分析に変化がないか

写真は全景、位置が分かる中景、スケール付き近接の三段階で撮ります。液分析、運転履歴、交換部品のロット、材料証明書と紐付ければ、次回の材料選定に使える実績データになります。

まとめ

  • ポンプ材料は液名ではなく、液条件・流動・固形物・運転状態から選ぶ
  • 腐食表は一次選別であり、実績と実液条件の確認を優先する
  • 接液部を部品別に分け、腐食・摩耗・強度・製作性・保全性を確認する
  • 水は水質と温度、海水は塩化物・停滞・異種金属、化学液は不純物と全運転モード、スラリーは粒子と流速が重要
  • 腐食と浸食が重なる損傷には、材料と運転条件の両方を直す
  • 材料変更と受入検査の記録を残し、現場の損傷データを次の選定へ戻す

参考文献

  • 外山幸雄『絵とき「ポンプ」基礎のきそ―選定・運転・保守点検』第3章「ポンプの仕様」、第4章「ポンプの材料」  Amazonで見る
  • 外山幸雄『ポンプの選定とトラブル対策』第3章、第6章「トラブル事例、その原因と対処法」  Amazonで見る
  • 化学工学会編『化学装置便覧 改訂二版』「材料選択」〔参照版:改訂二版/Amazonリンク先:1970年版〕  Amazonで見る
  • 化学工学会編『プロセス機器構造設計シリーズ6 化学プラント用ポンプ・圧縮機』「スラリー用うず巻ポンプ」「腐食性液用のうず巻ポンプ」
  • 高圧ガス保安協会『高圧ガス保安技術』「高圧装置用材料」