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ポンプの材料選定で最も危険なのは、「水だから鋳鉄」「海水だからステンレス」「酸だから高級合金」と、液名から材料名を一つだけ選ぶことです。
実際の腐食や摩耗は、液の組成だけでなく、濃度、温度、不純物、溶存ガス、流速、停滞、固形物、起動停止、洗浄液、部品にかかる応力によって変わります。同じ材質でも、ケーシングでは使えて軸スリーブでは寿命が足りないことがあります。
この記事では、化学メーカーの設備・プロセス・保全エンジニアと現場オペレーター向けに、ポンプ材料を決める順序、水・海水・化学液・スラリーで確認すべき条件、部品別の仕様書の書き方、トラブルを防ぐ検証方法を整理します。
この記事の結論
- 材料は液名ではなく、組成・濃度・温度・不純物・流動・固形物・運転状態をそろえて選ぶ
- 腐食表は候補の一次選別に使い、実機実績、実液試験、メーカー協議で確定する
- 「ポンプ材質」と一括せず、ケーシング、羽根車、主軸、軸スリーブ、リング、軸封を部品別に指定する
- 海水では塩化物だけでなく、温度、停滞、流速、異種金属接触、砂の混入を確認する
- 化学液では主成分だけでなく、微量不純物、溶媒、洗浄液、濃縮・析出条件を確認する
- スラリーでは硬い材料を選ぶだけでなく、流路、羽根車形式、回転数、軸封保護を一体で検討する
- 腐食とキャビテーション浸食が重なる場合は、材料変更だけでなく吸込・流動条件も直す
1. 材料選定は液名ではなく使用条件から始める

材料選定は、次の順序で進めます。
- 使用条件をそろえる
- 起こり得る損傷機構を分ける
- 部品ごとの役割と応力を確認する
- 材料候補と構造・運転上の対策を組み合わせる
- 使用実績、試験、製作性、保全性、費用を評価して確定する
最初に必要なのは材料名ではなく、液の仕様です。液名、全成分と濃度、pH、最低・通常・最高温度、固形物、粘度、蒸気圧、溶存ガス、酸化還元性、電気伝導度、運転時間、停止中の状態、洗浄・置換条件を整理します。
特に微量の塩化物、硫化水素、酸素などは、主成分が同じでも局部腐食や応力腐食割れの可能性を変えます。バッチ運転では、反応途中だけ現れる高濃度域や、停止・冷却時の結晶析出も見落とせません。
仕様書に「腐食性液」とだけ書いても材料は選べません。腐食へ影響する成分と、その最小・通常・最大条件を数値または範囲で示します。
2. 腐食表だけで決めてはいけない
腐食データ集や材料メーカーの耐食表は、候補を絞るために有用です。しかし、多くのデータは一定濃度・一定温度の静置液へ試験片を浸した結果です。
ポンプ内部では、羽根車による高速流れ、圧力変化、隙間、気泡、固形物衝突、繰返し応力があります。静置液中で保護皮膜ができる材料でも、高速流れや粒子で皮膜が剥がれれば腐食が続きます。反対に、実液に含まれる成分が腐食を抑えることもあります。
材料候補は次の優先順で裏付けます。
- 同じプラント・同じ液・同じ温度・同じ流動条件での使用実績
- 類似設備とポンプメーカーの実績
- 公表された腐食データと材料メーカー資料
- 実液または実環境を模擬した浸漬・ループ・クーポン試験
- 必要に応じたパイロット運転と計画的な開放点検
実績を使うときも、「液名が同じ」だけでは不十分です。濃度、温度、流速、溶存酸素、不純物、停止条件、寿命、肉厚、表面状態が同等かを確認します。
腐食表の○印は、実機寿命の保証ではありません。選定条件と試験条件の差を記録してから採否を決めます。
3. 接液部は部品別に指定する

ポンプは圧力を保持する機器であると同時に、回転機械です。接液部には耐食性・耐摩耗性だけでなく、耐圧強度、疲労強度、靱性、かじりにくさ、加工性、鋳造性、溶接性も必要です。
主な接液部は次のとおりです。
- ケーシング、ケーシングカバー:圧力を保持し、流路を形成する
- 羽根車:高速で回転し、流体力、遠心力、キャビテーション、粒子衝突を受ける
- 主軸、軸スリーブ:トルクと曲げを受け、軸封付近では液やフラッシング液へ触れる
- ウェアリング、インペラリング、スロートブッシュ:狭い隙間で高速流れとかじりの影響を受ける
- メカニカルシール接液部、Oリング、ガスケット:液適合性に加え、摺動、膨潤、浸透、温度へ耐える
一方、軸受ハウジング、軸受カバー、ベースなどの非接液部は、取扱液の耐食性よりも機械強度、剛性、潤滑、外気・洗浄水・塩害への防食が中心です。
仕様書の材料欄は「接液部SUS」と一行で済ませず、最低でもケーシング、羽根車、主軸/軸スリーブ、リング、軸封接液部、ガスケットを分けます。
軸スリーブやリングを交換可能にすると、高価な主軸やケーシング本体を守り、摩耗部だけを更新できる場合があります。ただし異種金属の組合せは、電位差腐食とかじり、熱膨張差も確認します。
4. 水用ポンプでも水質と温度を確認する
清水・工業用水では、鋳鉄、炭素鋼、青銅系材料などが候補になります。ただし「水」は一種類ではありません。
- 温度と圧力
- pH、溶存酸素、塩化物、導電率
- 薬注成分と濃度変動
- 補給水、復水、冷却水などの系統差
- 砂、錆、スケールの混入
- 連続運転か、長期停止を繰り返すか
- 要求寿命と腐食代、塗装、更新方針
高温水では、材料強度、熱膨張、かじり、シール材の温度限界も問題になります。水質が設計前提から外れると、ポンプと配管が腐食し、腐食生成物が吸込ストレーナを閉塞し、吸込圧力低下からキャビテーションへ進むこともあります。
「水だから腐食性なし」と扱わず、水処理条件と逸脱時の組成まで仕様へ入れます。
5. 海水は塩化物・停滞・流速・異種金属をセットで見る
海水用には、鋳鉄と塗装、銅合金、ステンレス鋼、二相ステンレス鋼、高ニッケル合金、チタン、樹脂やライニングなど多くの選択肢があります。これは万能材が一つに決まらないことの裏返しです。
海水では次を確認します。
- 海水温度と地域・季節差
- 塩化物濃度、溶存酸素、生物付着、薬注
- 連続流動部と停止・滞留部
- 隙間、ガスケット下、付着物下の局部環境
- 砂や貝殻などの固形物
- 異種金属の接触と面積比
- 犠牲陽極、電気防食、塗装・ライニングの設計
ステンレス鋼は不動態皮膜により耐食性を示しますが、塩化物と隙間、停滞、温度上昇が重なると局部腐食を起こす可能性があります。高価な材料へ一律変更しても、異種金属接触や隙間構造が残れば別の部位へ腐食が集中します。
また、海水取水ポンプで硬化肉盛層を軸へ直接施工した結果、母材との境界が腐食し、硬化層がはく離した事例があります。硬さと耐海水性は別の評価項目です。
海水では「材質名」だけでなく、接触する全金属、被覆範囲、欠陥時の挙動、交換部品、電気防食まで一つの系として確認します。
6. 化学液は主成分より実際の運転組成を見る
化学液は成分が明確に見えても、運転中の組成は一定とは限りません。
- 原料と生成物、副生成物
- 最小/通常/最大濃度
- 微量の塩化物、硫化物、金属イオン、水分
- 空気・窒素との接触、酸化性・還元性
- 加熱、冷却、蒸発、濃縮、析出
- スタートアップ、停止、洗浄、スチーミング時の液
- 異常反応時に入り得る物質
非金属材料も有力な候補ですが、樹脂、ゴム、FRP、カーボン、セラミックスには、温度、圧力、浸透、膨潤、割れ、熱衝撃、機械衝撃、接着・含浸材の劣化、補修性など固有の限界があります。
ライニングは母材の強度と耐食層を分担できる一方、ピンホール、割れ、端部、フランジ面、補修部から母材へ液が達する可能性があります。欠陥検査方法と補修手順まで含めて採用します。
主プロセス液に適合していても、洗浄液や停止中の凝縮液に不適合なら安全な材料とはいえません。全運転モードを材料選定表へ並べます。
7. スラリーは材料・構造・速度・軸封を一体で選ぶ

スラリーでは、粒子の粒径、形状、硬さ、濃度、密度、沈降性、腐食性を確認します。同じ濃度でも、丸い軟質粒子と角張った硬質粒子では摩耗のしかたが違います。
材料対策には、硬質材料、ゴムなどの弾性材料、交換式ライナ、表面処理などがあります。しかし、硬い材料ほど常に優れるわけではありません。衝撃、腐食、熱、加工・補修、硬化層と母材の界面も評価します。
構造と運転では次を組み合わせます。
- 接液流路をできるだけ単純にし、急な方向転換と局部高速部を減らす
- 固形物を通せる通路面積と羽根車形式を選ぶ
- 必要以上に回転数と流速を上げない
- ウェアリング、ライナ、スロートブッシュなどを交換可能にする
- スラリーを軸封へ入れないフラッシングまたはシール方式を選ぶ
- 停止中の沈降、固化、結晶析出へ洗浄・排出で備える
スラリーポンプの寿命は材質記号だけでは決まりません。粒子条件、流速、流路形状、回転数、軸封、洗浄手順を同時に仕様化します。
8. 腐食と浸食が重なると損傷が加速する

「腐食」は化学・電気化学反応による材料損失、「浸食」は流れ、気泡崩壊、粒子衝突などによる機械的損傷です。現場では両者が同時に起こります。
たとえば、酸性液で羽根車表面が腐食すると、表面が弱くなります。そこへキャビテーション気泡の崩壊や固形物衝突が加わると、保護皮膜と母材が剥がれます。新しく露出した面が再び腐食し、損傷が加速します。
この場合、材料を耐食材へ変えるだけでは不十分です。吸込液位、吸込損失、液温、流量、NPSHaとNPSHrの余裕、羽根入口条件を見直し、キャビテーションを抑える必要があります。スラリーなら流速と粒子衝突部も直します。
損傷面を見たら、全面腐食、孔食・隙間腐食、電位差腐食、キャビテーション浸食、粒子摩耗、かじりを分け、複数要因の重なりを疑います。
9. 仕様書には材料名だけでなく選定条件を書く
液と運転条件
- 全成分、濃度、pH、不純物、溶存ガス
- 最低/通常/最高温度と圧力
- 連続/間欠、起動停止頻度、停止中の状態
- 洗浄液、置換液、スチーム、異常時に接触する液
- 固形物の粒径、形状、硬さ、濃度、沈降・析出性
- 通常/最小/最大流量と予想流速
部品別材料
- ケーシング、カバー、羽根車
- 主軸、軸スリーブ、インペラナット
- ウェアリング、インペラリング、スロートブッシュ、ライナ
- メカニカルシール金属部、摺動材、二次シール
- ガスケット、Oリング、ボルト、ドレン・ベント部品
- コーティング、ライニング、表面処理の材質・厚さ・検査・補修
検証と品質保証
- 採用根拠となる類似実績の条件と使用年数
- 腐食データの液組成、温度、試験時間、静置/流動条件
- 実液試験、クーポン試験、硬さ・浸透探傷などの要求
- 材料証明書、識別表示、必要に応じたPMI
- 鋳造、溶接、熱処理、肉盛、ライニング施工の品質要求
- 予備品、交換周期、開放点検、許容減肉・摩耗量
材料記号だけでなく、「なぜその材料を選んだか」と「どの条件まで有効か」を仕様書へ残します。
10. 変更時は材料変更管理を行う
廃番、納期、コスト削減、共通予備品化を理由に、似た材質へ置き換えることがあります。しかし、JIS記号が近い、硬さが同じ、ステンレス同士という理由だけでは互換性を判断できません。
変更時は少なくとも次を確認します。
- 化学成分、熱処理、組織、機械的性質
- 腐食、局部腐食、応力腐食割れ、電位差腐食
- 硬さ、かじり、摩耗、相手材との組合せ
- 鋳造、溶接、機械加工、補修性
- 寸法、公差、熱膨張、回転体の質量とバランス
- シール材、ガスケット、コーティングとの適合
- 運転・点検・予備品・教育への影響
材料変更は単なる購買代替ではなく、設備変更として技術審査し、承認根拠と受入検査結果を残します。
11. 現場点検では損傷の場所と形を記録する
材料選定の精度は、現場の記録で上がります。開放点検では「腐食あり」だけで終わらせず、部位、面積、深さ、方向、運転時間を残します。
- 全面が均一に薄いか、点状・隙間・付着物下に集中しているか
- 羽根入口、出口、ケーシング舌部、リング隙間など特定位置に偏るか
- 流れ方向に筋があるか、気泡崩壊らしい蜂の巣状か
- 肉盛・溶射・ライニングの界面や端部から剥がれていないか
- 異種金属の近くで片側だけ損傷していないか
- 硬さ、肉厚、粗さ、振動、吸込圧力、液分析に変化がないか
写真は全景、位置が分かる中景、スケール付き近接の三段階で撮ります。液分析、運転履歴、交換部品のロット、材料証明書と紐付ければ、次回の材料選定に使える実績データになります。
まとめ
- ポンプ材料は液名ではなく、液条件・流動・固形物・運転状態から選ぶ
- 腐食表は一次選別であり、実績と実液条件の確認を優先する
- 接液部を部品別に分け、腐食・摩耗・強度・製作性・保全性を確認する
- 水は水質と温度、海水は塩化物・停滞・異種金属、化学液は不純物と全運転モード、スラリーは粒子と流速が重要
- 腐食と浸食が重なる損傷には、材料と運転条件の両方を直す
- 材料変更と受入検査の記録を残し、現場の損傷データを次の選定へ戻す
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