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ポンプの空運転と保護装置|満液・流量・圧力・温度をどう監視するか

ポンプの空運転と保護装置

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ポンプの空運転は、「液がまったく入っていない状態」だけではありません。吸込タンクの低液面、ベント不足、吸込弁の閉止、ストレーナ目詰まり、液のフラッシュ、ガス巻込みによって、ポンプ内部の一部が液を失う状態も含めて考える必要があります。

空運転で失うのは送液能力だけではありません。取扱液が担っていた冷却・潤滑・液膜・軸封を同時に失います。保護は低電流リレー1個では足りません。異常の原因と進展段階に合わせて、液面、満液、吸込圧力、流量、温度、振動、補助流体を組み合わせます。

この記事の結論

  • 空運転は、ポンプ内部の必要箇所へ液が届かず、冷却・潤滑・液膜を失う状態
  • 損傷は軸封、ウェアリング部、すべり軸受、マグネットポンプ・キャンドポンプ内部などで急速に進むことがある
  • 低電流だけでは検出できない。空気混入や部分的な液切れでは電流差が小さく、停止前に損傷することがある
  • 原因側は低液面・満液・吸込圧力、結果側は低流量・温度・振動・シール漏れで見る
  • 保護は、予防、起動許可、警報、トリップ、機械的保護、点検・試験の層で作る
  • インターロックは危険までの時間が短く、運転員対応が間に合わない場合に使う。バイパス管理と定期試験までが保護装置

1. 空運転と、似た現象を分ける

現場では「空運転」「空引き」「エア噛み」「キャビテーション」が混同されます。症状は似ますが、起点が違います。

現象起点主な状態
空運転液が来ない・液を失うポンプ内部が液で満たされず、冷却・潤滑を失う
空気・ガス巻込み吸込口の渦、漏入、ベント不足液中へ気体が入り、流量・揚程が不安定になる
キャビテーション局所圧力が飽和蒸気圧以下液そのものが蒸発し、気泡が発生・崩壊する
締切運転吐出し流量がゼロ液はあるが循環せず、内部発熱から空運転へ進み得る

実際には連鎖します。締切で液温が上がり、液が蒸発して空運転へ近づく。低液面で空気を巻き込み、揚程が下がって液を送れなくなる。原因を分けつつ、複合状態として判断します。

2. なぜ空運転で壊れるのか

取扱液は、単に運ばれる対象ではありません。ポンプの中で次の役割を持っています。

低液面、吸込閉止・目詰まり、ベント不足からポンプ内部の液を失い、冷却・潤滑喪失を経て部品損傷に至る因果図
出典:外山幸雄『ポンプの選定とトラブル対策』、『化学装置便覧』をもとに再構成
  • ウェアリング部・ブッシュ・すべり軸受の潤滑と液膜形成
  • メカニカルシール摺動面の冷却と潤滑
  • モータ内蔵形やシールレスポンプ内部の冷却
  • 摩擦熱を外へ運ぶ熱媒体
  • ロータを支持・安定させる水力条件

液を失うと、狭いクリアランス部で金属・セラミックス・カーボンが直接接触し、摩擦熱が急増します。熱膨張でクリアランスがさらに小さくなり、かじり・焼付き・割れへ進みます。

特に、取扱液で内部軸受やモータを冷却するマグネットポンプ、キャンドモータポンプ、立形ポンプの液潤滑軸受は注意が必要です。「シールレスだから漏れない」は、空運転に強いという意味ではありません。

3. 空運転の原因

吸込源に液がない

  • タンク・ドラムの低液面
  • 液面計・制御弁の故障で抜きすぎた
  • バッチ切替、タンク切替のタイミングずれ
  • サイフォン切れ、フート弁漏れ

ポンプまで液が届かない

  • 吸込弁が閉じている、または開度不足
  • ストレーナ目詰まり
  • 吸込配管の閉塞、固化、凍結
  • 吸込配管やフランジから空気が漏入
  • 上部に空気だまりが残る

液が途中で気体になる

  • 高温液・飽和液のフラッシュ
  • 吸込圧力低下によるキャビテーション
  • 締切運転による内部温度上昇
  • 低温液化ガスへの入熱

補助液を失う

  • メカニカルシールのフラッシング停止
  • 冷却水・クエンチ停止
  • バリア液・バッファ液の低液面、低圧
  • 潤滑油圧低下

本体に取扱液があっても、軸封や軸受の補助流体を失えば局所的なドライ運転になります。

4. 何を測れば検出できるか

単一の計器ですべての空運転を検出することはできません。原因に近い計測ほど早く、結果に近い計測ほど故障モードを広く拾います。

検出手段主に分かること限界・注意
吸込タンク低液面液切れの原因を早期検出液面計故障、泡・界面、局所渦を考慮
満液検知起動前にポンプが液で満たされたか検出位置以外の空気だまりを見逃すことがある
吸込圧力低弁閉止、目詰まり、液面低下、NPSH悪化加圧タンクや変動運転では設定値が難しい
流量低送液不成立、締切、空気混入ミニマムフローをどこで測るかに注意
モータ電流・電力低負荷低下部分的な空気混入では変化が小さい。機械接触で逆に上がることもある
温度高軸受・軸封・取扱液の発熱応答が遅い場合がある。検出時には損傷が進んでいることもある
振動高キャビテーション、接触、不安定流れ原因を一意に決められない
シール漏れ軸封損傷すでに封止機能が失われた結果側の検出
フラッシュ・冷却水低流量補助系の停止フロースイッチの固着・バイパス流れを点検する

低電流は補助的な指標です。空気が少し入っただけなら電流低下が小さく、しきい値へ達する前にシール面が損傷することがあります。反対に内部接触が始まれば電流が上がります。「空運転=低電流」と一対一で結ばないでください。

5. 保護を層で考える

低液面や満液不足などの原因側センサーと、低流量・温度・振動などの結果側センサーを保護層で組み合わせる図
出典:外山幸雄『ポンプの選定とトラブル対策』、『化学装置便覧』、『プロセス安全の基礎』をもとに再構成

第1層:異常を起こさない

  • 吸込タンク最低液面とポンプNPSHを正しく設定する
  • 吸込配管の空気だまり、漏入、過大損失をなくす
  • ミニマムフローラインを設ける
  • ベント、呼び水、暖機・冷却を手順化する
  • ストレーナ差圧、フート弁、逆止弁を保全する

原因を除く層が最も強い保護です。

第2層:起動させない

起動前に満液、吸込液面、吸込弁、補助油圧、冷却水・シール液流量などを確認し、条件未成立なら起動できない起動許可(パーミッシブ)を設けます。

これは運転中の異常停止とは目的が違います。誤った初期状態でポンプを回さないためのフールプルーフです。

第3層:異常を知らせる

低液面、低吸込圧、低流量、高温、高振動などで警報を出し、運転員が対応します。警報にするか自動停止にするかは、損傷・危険事象までの時間と操作の複雑さで決めます。

警報から損傷まで十分な時間があり、原因確認と安全操作が単純なら運転対応が使えます。短時間で軸封が損傷する、漏えいが重大事故へ進む、といった場合は警報だけでは不十分です。

第4層:自動停止する

危険までの時間が短い場合、低低液面、低低流量、低吸込圧、高高温、高高振動などでポンプをトリップさせます。必要に応じて上流・下流弁、予備機起動、原料供給停止なども連動します。

ただし、ポンプを止めることが常にプロセス全体を安全にするとは限りません。冷却水ポンプ停止が反応暴走につながる、潤滑油ポンプ停止が圧縮機損傷につながるなど、停止後の影響も評価します。予備機自動起動や安全側の流路確保を含めて設計します。

第5層:機械的に守る

容積式ポンプの逃し弁、必要流量を確保する固定バイパス、軸封補助系、適切な材料・クリアランスなど、電気信号に頼らない保護を組み合わせます。

6. 警報とインターロックの違い

警報は異常を人へ知らせ、判断と操作を運転員へ委ねます。インターロックは条件が成立すると、起動禁止、停止、弁作動、予備機起動などを自動で行います。

インターロックが必要かは、次の順で考えます。

  1. どの故障・誤操作から、どの危険事象へ進むか
  2. 危険事象まで何秒・何分あるか
  3. 運転員が異常を確実に認識できるか
  4. 必要な操作が時間内に、現実的な複雑さでできるか
  5. 機械的・物理的な安全対策が十分か
  6. どのパラメータをどこで測り、何を最終的に動かすか

「重要ポンプだから計器を全部付ける」ではなく、危険の進み方から必要な機能を決めます。

7. 保護装置は、付けた後が重要

センサー、ロジック、最終要素のどれかが故障すれば、必要時に止まらない不動作が起こります。反対に、ノイズ、断線、接点不良、設定不良で不要停止する誤動作もあります。

管理する項目は次のとおりです。

  • センサーの校正、導圧配管・取出し口の閉塞、フロースイッチ固着
  • 設定値と時間遅れ。通常変動で誤動作せず、損傷前に作動するか
  • 電源・計装空気喪失時に安全側へ動くか
  • センサー、ロジック、トリップリレー、遮断器・弁までの全ループ試験
  • 予備機自動起動と、予備機が実際に流量を出せることの確認
  • バイパス・強制解除の権限、期限、表示、引継ぎ、復旧確認
  • トリップ後の原因記録と、勝手な再起動防止

保護装置をバイパスしたまま運転するなら、保護は存在しないのと同じです。バイパス中の代替監視、運転期限、承認者を明確にします。

8. 空運転を疑ったときの対応

設備SOPが最優先ですが、判断の軸は共通です。

  • 異音・振動、流量低下、吸込圧低下、電流変化、高温を組み合わせて確認する
  • 損傷が進む設備では、停止基準に従って速やかに停止する
  • 液がないまま再起動しない
  • 吸込液面、弁ラインアップ、ベント、ストレーナ差圧、補助流体を確認する
  • 高温・危険物では、ベントや開放点検を安易に行わない
  • 再起動前に満液を回復し、シール・軸受・内部接触の損傷有無を確認する
  • トリップをリセットするだけで終わらせず、最初の原因を特定する

一度空運転したポンプは、流量が戻ってもシール面や軸受に損傷が残ることがあります。停止後の漏れ、振動、温度の変化を監視します。

まとめ

  • 空運転は液が必要箇所へ届かず、冷却・潤滑・液膜を失う状態
  • 空気巻込み、キャビテーション、締切は別現象だが、空運転へ連鎖することがある
  • 検出は原因側の液面・満液・吸込圧力と、結果側の流量・温度・振動・漏れを組み合わせる
  • 低電流だけでは不十分。部分的な液切れを見逃し、接触時には電流が上がる場合もある
  • 保護は予防、起動許可、警報、自動停止、機械的保護、定期試験の層で作る
  • インターロックは危険までの時間と運転員対応可能性で決め、バイパス管理と全ループ試験まで行う

ここまでで、吐出し側と運転操作の基礎——締切、流量調節、並列・直列、始動・切換え、水撃、空運転保護——がつながりました。次の章では、軸封とシールレスポンプへ進みます。

参考文献

  • 外山幸雄『ポンプの選定とトラブル対策』日刊工業新聞社, 2・17「保護装置」  Amazonで見る
  • 化学工学会編『プロセス機器構造設計シリーズ6 化学プラント用ポンプ・圧縮機』丸善, 5・2・7「ポンプの空運転」
  • 化学工学会編『化学装置便覧 改訂二版』丸善, 26・1・6「計装とインターロック」
  • 安全工学会編『実践・安全工学シリーズ2 プロセス安全の基礎』第3章「プロセス安全設計の基礎」
  • CCPS『若い技術者のためのプロセス安全入門』丸善, 5.2.1「流体移送機器」
  • 松村正夫『入門 新ポンプ技術』丸善, 第5章「ポンプの使用方法」  Amazonで見る