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ポンプのモータの電流計は、運転員がいちばん頻繁に見る計器の1つです。電流が上がった、下がった、2台で値が違う——そのとき電流計は何を教えてくれているのでしょうか。
答えを先に言えば、電流計が見ているのは「密度 × 流量 × 揚程 ÷ 効率」です。この4つのどれが変わっても電流は動きます。この記事では、水動力から軸動力、モータ出力までの積み上げを数値で追い、電流の変化を「4つのうちどれか」に翻訳できるようにします。
この記事の結論
- 水動力 Pw = ρ g Q H。液に実際に渡ったエネルギーで、密度・流量・揚程の掛け算
- 軸動力 P = Pw ÷ ポンプ効率 η。モータはさらにモータ効率分だけ余計に電気を食う
- 原動機の出力は軸動力に余裕率(小形ほど大きく、1.1〜1.25程度)を掛けて決める。電流計の100%はこの原動機出力で決まっている
- 遠心ポンプの軸動力は流量と一緒に増える。電流が上がったら、流しすぎ・液が重い・液が粘い・こすれている、のどれか
- 効率は比速度(流量と揚程の組み合わせ)で決まる。小流量・高揚程のポンプほど効率が低いのは設計が悪いからではない
1. 水動力|液に渡ったエネルギー
ポンプが1秒間に液に渡すエネルギー、つまり液側から見た「仕事の速さ」が水動力です。
Pw [W] = ρ g Q H (ρ:密度 kg/m³、Q:流量 m³/s、H:全揚程 m)
現場単位に直すと、水(ρ=1000)で流量 Q[m³/h]、揚程 H[m]のとき、おおよそ Pw[kW] ≒ Q × H ÷ 367 です。60 m³/h を 50 m 上げるなら、60×50/367 = 8.2 kW。
この式は「何が動力を決めるか」をそのまま言っています。密度・流量・揚程の3つの掛け算で、ここにポンプの種類は出てきません。同じ流量・揚程なら、どんなポンプでも液に渡すエネルギーは同じです。違うのは、その水動力を出すために軸にどれだけ力を入れるか——つまり効率です。
2. 軸動力と効率|ポンプの中で失われる分

軸動力 P はモータがポンプの軸に与える動力で、水動力を効率で割ったものです。
P = Pw ÷ η
η はポンプ効率で、ポンプの中の損失(羽根車の摩擦・衝突などの水力損失、ライナリングのすき間から戻る漏れ損失、羽根車の円板摩擦損失、軸受・軸封の機械損失)をすべて含んだ総合効率です。上の例で η = 0.68 なら、軸動力は 8.2/0.68 = 12.0 kW。液に渡ったのは8.2 kWで、残り3.8 kWはポンプの中で熱になります。
モータ側にも損失があります。モータ効率 0.91 とすると、モータへの入力は 12.0/0.91 = 13.2 kW。入力を100%とすると、モータで9%、ポンプで29%が失われ、液に届くのは62%——電気の6割しか液に渡っていない計算です。このモータ入力の棒グラフが、電流計が見ているものです。
3. 原動機出力と余裕率|電流計の100%はどう決まっているか
モータの定格出力は、軸動力に余裕率を掛けて決めます。
Pm = fs × ft × P
- fs:原動機余裕率。小形ほど大きく、目安として 19 kW 以下で 1.25、19〜50 kW で 1.15、75 kW 以上で 1.10(API 610 旧版の値)
- ft:伝達効率。直結 1.00、Vベルト 0.93〜0.95、歯車 0.97 程度
上の例なら 12.0×1.25 = 15.0 kW → 15 kW か、一つ上の標準出力のモータが付きます。電流計の定格(100%)は、この「余裕を含んだモータ出力」に対応しています。 だから正常運転で電流が70〜85%くらいを指しているのは普通で、100%近くまで上がっていたら軸動力が設計の1.2倍以上になっている、と読めます。
4. 電流が上がった|4つのどれが変わったか
水動力の式に戻ると、電流(軸動力)を動かすのは密度・流量・揚程・効率の4つです。遠心ポンプで電流が上がったときの候補を並べます。
| 変わったもの | 何が起きたか | 現場での手がかり |
| 流量が増えた | 遠心ポンプの軸動力は流量と一緒に増える(右上がり)。吐出側の抵抗が減って運転点が右へ動いた | 流量計が増、吐出圧力が低下。下流の弁が開いた、タンク液面が下がった、配管が破れた |
| 密度が増えた | 水動力は密度に比例。比重1.2の液なら同じ流量・揚程で1.2倍 | 液の組成・温度変化。水で試運転して問題なかったポンプが本液で過負荷、はこの典型 |
| 粘度が増えた | 効率が下がり、同じ水動力を出すのに軸動力が増える | 冬場、保温の不良、組成変化 |
| こすれている | 機械損失が増えた。ライナリングの接触、軸受の損傷、異物のかみ込み、芯出し不良 | 振動・異音・軸受温度の上昇を伴う |
逆に電流が下がったときは、流量が減った(弁が閉まった、詰まった、吸込側の不足、空気を吸った)か、液が軽くなった、を疑います。電流計は単独では読まず、流量計と吐出圧力計と一緒に読む。 吐出圧力の記事で書いたのと同じ作法です。
軸流ポンプは逆で、流量が減るほど軸動力が増えます。形式によって「電流が上がる方向」が逆になるので、自分のポンプの軸動力曲線がどちら向きかは、性能曲線で一度確かめておいてください。
5. 効率は何で決まるか|小さいポンプほど低いのは普通
「このポンプは効率が60%しかない、悪いポンプだ」という評価は、たいてい的外れです。ポンプの効率は、流量と揚程の組み合わせ(比速度)でおおむね決まっています。
- 損失のうち、漏れ損失と円板摩擦損失は比速度が小さいほど(小流量・高揚程ほど)大きい。水力損失と機械損失はほぼ一定
- だから小流量・高揚程のポンプほど効率が低い。JISの規定効率も、吐出し量 0.1 m³/min 級で40%前後、1 m³/min 級で60%台、10 m³/min 級で70%台と、流量で段階的に決まっている
- 同じ流量でも比速度で効率は変わる。比速度100前後の高揚程ポンプと、300〜400のポンプでは10ポイント違うことがある
効率の評価は「このポンプの比速度ならどのくらいが相場か」と比べて初めて意味を持ちます。また、カタログの効率は最高効率点の値です。実際の運転点がBEPから外れていれば、効率はそれより低く、軸動力はその分大きくなります。見積りの段階で軸動力を計算するときは、最高効率を2〜3%割り引いて使うのが実務の作法です。
6. 電流から軸動力を逆算する
三相モータの電流 I[A]、電圧 V[V]、力率 cosφ、モータ効率 ηm から、軸動力は
P ≒ √3 × V × I × cosφ × ηm ÷ 1000 [kW]
で概算できます。力率とモータ効率は銘板か試験成績書の値を使います。負荷が軽いと力率も効率も下がるので、50%負荷以下では誤差が大きくなりますが、「電流が設計より何割高いか」を軸動力の割合に翻訳するには十分です。
こうして出した軸動力を性能曲線の軸動力曲線と比べれば、今の流量でその軸動力が妥当か、それとも「こすれている分」が乗っているかが見えます。性能曲線の記事と、吐出圧力から全揚程を出す記事と、この記事の3つを合わせると、流量計・圧力計2つ・電流計の4つの計器で、ポンプの状態はかなり診断できます。
まとめ
- 水動力 = 密度×g×流量×揚程。現場単位では Pw[kW] ≒ Q[m³/h]×H[m]÷367(水)
- 軸動力 = 水動力÷ポンプ効率。モータ入力はさらにモータ効率で割る。電気の6割前後しか液に渡らない
- モータ出力は軸動力×余裕率(1.1〜1.25)。電流計の100%はこの値で決まっている
- 電流上昇の候補は流しすぎ・液が重い・液が粘い・こすれている。流量計・吐出圧力計・振動と合わせて切り分ける
- 効率は比速度で相場が決まる。小流量・高揚程ほど低いのは普通。軸動力の見積りは最高効率を2〜3%割り引く
本文の数値例(60 m³/h・50 m・効率0.68・モータ効率0.91)は参考文献の式を使って筆者が計算したものです。余裕率・伝達効率の値は化学装置便覧に引用された旧API 610の目安で、現行規格や各社の基準とは異なることがあります。
参考文献
- 高橋徹『流体のエネルギーと流体機械』理工学社, 2章「ポンプ」4. ポンプ動力と効率(水動力・軸動力・JISによるポンプ効率) Amazonで見る
- 化学工学協会編『化学装置便覧 改訂二版』丸善, 第18章 18・1・2 ポンプの型式選定(原動機出力、余裕率 表18・3、伝達効率 表18・4、図18・1 吐出し量とポンプ効率。手元は改訂二版) Amazonで見る
- 外山幸雄『絵とき「ポンプ」基礎のきそ』日刊工業新聞社, 1-10「ポンプの効率」(予想効率、効率を決める要因、ポンプ効率とモータ入力との関係) Amazonで見る
- 高圧ガス保安協会『高圧ガス保安技術』学識編 11.5「圧縮機とポンプ」動力(式11.36)、運転中のトラブル「原動機の過負荷」
- 松村正夫『入門 新ポンプ技術』丸善, 第2章「ポンプ性能」 Amazonで見る
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