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気固反応と未反応核モデル|触媒と違い、粒子そのものが変わっていく

触媒と違い粒子が変わっていく

※本記事の参考文献には、Amazonアソシエイトのリンク(アフィリエイト広告)を含みます。

ここまで扱ってきた反応では、固体は触媒でした。反応を助けるだけで、自分は変わらない。

この記事の主役は違います。固体そのものが原料で、反応が進むと減っていく。鉱石の還元、石灰石の焼成、活性炭の賦活、燃焼——工業的に重要な反応が並びます。

この記事は反応器シリーズ「その他の不均一系と特殊反応器」の1本です。全体像は反応器と反応工学の全体像にまとめています。

この記事の結論

  • 空隙率の小さい固体では、反応界面が外から内へ移動していく
  • 過程はガス境膜内拡散・生成物層内拡散・未反応核表面での反応の3つの直列
  • 触媒との決定的な違いは生成物層が育つこと。進むほど遅くなる
  • どれが律速かで完全反応までの時間の粒径依存性が変わる

1. 反応界面が内側へ移動していく

反応界面が内側へ移動していく

扱うのはこういう反応です。

A(g) + bB(s) → cC(g) + dD(s)

気体Aが固体Bを食べ、気体Cと固体Dが残ります。

ここで固体の空隙率が効きます。スカスカな固体なら反応ガスが内部まで入り込み、粒子全体で反応が進む。しかし空隙率が非常に小さい場合はそうなりません。

反応ガスが粒子内部まで浸透していかず、反応が外表面近傍でまず起こり、その反応界面がしだいに粒子内部に向かって移動していく。

これが目に見える形で確かめられます。文献はこう書いています——反応が進行中の固体粒子を取り出して切断面を観察すると、生成物層と未反応固体層の明瞭な界面が認められることがある。

粒子を割ると、外側の色が変わった層と、中心の未反応の芯が、はっきりした境界で分かれている。この芯を未反応核と呼び、モデルの名前になっています。

このモデルは矢木・国井が1953年に提出したもので、文献は「気固反応の簡単でかつ有効なモデル」と位置づけています。日本発のモデルが教科書の標準になっている例です。

2. 3つの直列過程

反応ガスAが未反応核の表面にたどり着くまでに、3つの関門があります。

(1) ガス境膜内拡散粒子の外側の境膜を横切る物理過程
(2) 生成物層内拡散できた生成物層を通り抜ける物理過程
(3) 未反応核表面での反応芯の表面で反応する化学過程

固体触媒反応の7つの過程と似た構図ですが、(2)がまったく違います。

触媒粒子では細孔の構造が変わらないので、拡散の抵抗は最初から最後まで一定です。ところが気固反応では、反応が進むほど生成物層が厚くなる。拡散距離が伸び続けます。

この反応は、進むほど遅くなるようにできている。

なぜ3つを直列につなげるのか

3つの過程が同時に進むのに、なぜ単純に足し算できるのか。擬定常状態の近似が効いているからです。

固体粒子の中の濃度分布は、反応の進行とともに変化しています。しかし気固反応ではその変化速度が小さく、比較的短い時間内ではあたかも定常的な濃度分布が成立しているとみなせる。物質収支式でいえば蓄積速度項が他の項に比べて無視できるということです。

この近似を採ると3つの過程の速度を等しいとおけるので、数学的な取扱いが一気に簡単になります。

考え方は定常状態近似と同じです。「速く変わるものはゼロと置く」——反応工学が繰り返し使う道具です。

3. どれが律速かで、時間の伸び方が変わる

3つのうちどれが遅いかで、反応の進み方がまったく違う形になります。

まず完全反応までの時間 t* の粒径依存性です。

律速している過程t*粒径を2倍にすると
ガス境膜内拡散R に比例2倍
生成物層内拡散R2 に比例4倍
未反応核表面での反応R に比例2倍

生成物層内拡散が律速のときだけ2乗になります。拡散距離が伸びることと、面積が減ることの両方が効くからです。

曲線の「形」でも見分けられる

粒径を変えなくても、反応率と時間のグラフの形だけで当たりが付きます。文献の式を計算してみました。

無次元時間 t/t*ガス境膜内拡散表面反応生成物層内拡散
0.110.0%27.1%48.0%
0.220.0%48.8%63.8%
0.440.0%78.4%81.8%
0.660.0%93.6%91.9%
0.880.0%99.2%97.6%

読みどころが2つあります。

ガス境膜内拡散律速だけが直線です。t/t* = xB という単純な関係で、他の2つは上に反った曲線になる。グラフが直線に乗ったら境膜律速を疑う——これは目で見て分かります。

そして意外なのが序盤の速さです。t/t* = 0.1 の時点で、生成物層内拡散律速がいちばん進んでいる(48.0%)。層がまだ薄いから速い。後半で逆転され、最後に時間を食います。

最後の1割に全時間の45%

「進むほど遅くなる」を数字にすると、こうなります。反応率90%から100%までに、全体の何%の時間を使うか。

ガス境膜内拡散律速10.0%直線なので当然
表面反応律速46.4%
生成物層内拡散律速44.6%

最後の1割に、全時間のおよそ半分を使う。これは境膜律速以外の2つに共通します。

設計の意味は明快です。反応率100%を狙うと装置が倍になる。90%で切り上げて未反応分を戻すほうが、たいてい安く付きます。

ここが実務の判定に使えます。拡散律速か反応律速かの記事と同じ発想で、粒径を変えて完全反応までの時間がどう変わるかを見る。

  • 2倍で4倍になった → 生成物層内拡散が律速。粒径を下げるのが最も効く
  • 2倍で2倍になった → 反応か境膜。流速を変えて動くかで切り分ける

流速を上げて速くなれば境膜律速、変わらなければ反応律速です。触媒のときと同じ切り分け方が、そのまま使えます。

4. モデルが当てはまらない場合

未反応核モデルは万能ではありません。文献も限界を明記しています。

前提は「未反応固体の空隙率が非常に小さい」こと。スカスカな固体では、ガスが内部まで入って粒子全域で反応が進行してしまいます。

文献が挙げている例が分かりやすい。多孔性の炭化物と水蒸気の反応で活性炭を製造する気固反応では、粒子内全域で反応が進行すると同時に粒子径も減少する。2つの様式が同時に起きているわけです。

だから使う前に確かめてください。反応途中の粒子を割って、明瞭な界面が見えるか。見えればこのモデルでよく、見えなければ別のモデルが要ります。

粒子を割って断面を見る——拡散律速の判定でも同じことを勧めました。気固系では、これが最も確実な観察です。

5. 設計で効いてくること

固体が減る反応器から固体を出し入れする機構が要る。回分か、移動層か、流動層
粒径分布がある大きい粒ほど遅い。全部を完全反応させるには最大粒径に合わせた時間が要る
生成物層が壊れることがある剥がれれば拡散抵抗が消えて速くなる。逆に焼結すれば遅くなる
進むほど遅い最後の数%に時間がかかる。どこで打ち切るかが設計判断になる

2つ目が地味に重い。粒径分布があると、小さい粒はとっくに反応が終わっているのに、大きい粒がまだ残っている。平均粒径で設計すると未反応分が残ります。

4つ目は経済の話です。生成物層内拡散が律速なら、反応率90%から99%へ進めるのにそれまでの何倍もの時間がかかる。逐次反応で収率に最大値があったのとは違う理由で、「どこでやめるか」が問われます。

まとめ

固体そのものが原料になる気固反応では、空隙率が小さい場合に反応界面が外から内へ移動していきます。粒子を割ると生成物層と未反応核の明瞭な境界が見える——これが未反応核モデルで、矢木・国井が1953年に提出した日本発のモデルです。過程はガス境膜内拡散・生成物層内拡散・未反応核表面での反応の3つの直列で、擬定常状態の近似によって3つの速度を等しいとおけます。触媒との決定的な違いは生成物層が反応の進行とともに厚くなることで、この反応は進むほど遅くなるようにできています。生成物層内拡散が律速なら完全反応までの時間が粒径の2乗に比例するので、粒径を変えれば律速が判定できます。ただし多孔質の固体では粒子全域で反応が進むため、このモデルは当てはまりません。

次の記事:気液反応|反応があると吸収が速くなる

参考文献

  • 橋本健治『反応工学 改訂版』培風館, 第10章 10・2「未反応核モデル」(式10・1、3つの直列過程、擬定常状態の近似) Amazonで見る
  • 矢木栄・国井大蔵, 工業化学雑誌 56, 131 (1953)
  • 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』丸善, 第26章「固体反応」 最新版をAmazonで見る